第81話 Dランク冒険者8、ひとり2


 父さん母さんが旅行でうちを留守にしているので、俺は夕食にファミレスのカウンター席で熱々のハンバーグを食べていた。

 そしたら隣の冒険者風の女性客が俺を何度もチラ見する。

 俺がそっちを向いたら慌てて前を向く。


 その女性冒険者は20歳前後。

 生きてきた年数26年の俺の方がかなり上だ。

 俺と同じような防刃ジャケットを着ており、エリからのぞいた水色のネックストラップからAランク冒険者ということが分かる。


 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人や氷川はダンジョンセンターの更衣室を利用して着替えて帰るようだが、その冒険者は俺のように着替えないようだ。

 家が近いのか、気にかけないタイプか。


 ひとりで食事しているのでソロプレーヤーなのだろう。

 1階層のモンスター相手なら女性でもソロプレーヤーでやっていける。


 チラ見されてた俺の方がチラ見しててはマズいので俺も食事に集中することにした。


 俺が食べ終わる前に隣の女性冒険者が荷物を持って席を立ったので席が空いた。


 俺はドリンクバーにいってホットコーヒーをカップに入れて席に戻ったら、店の人が隣の席の後片付けをするのを待って新しく客が座った。


 今度の客もやはり冒険者に見えた。

 年のころは30前後。

 ごつい体つきの男性でエリからのぞいたネックストラップの色は青だった。


 ふと気になってファミレスの中を見回したところ、防刃ジャケットを着たままの明らかな冒険者のエリからのぞくネックストラップの色は青いネックストラップが数人いるがほとんど水色だった。


 俺のエリからのぞいているネックストラップはもちろん銀色。

 それでさっきの女性冒険者は俺のことをチラ見していたのか。

 妙に納得したと同時に、DランクはいいとしてCランクの冒険者でさえファミレスを利用しないのかと思った。

 確かにファミレスは1日数十万円稼ぐCランクの冒険者から見ると安かろう悪かろうという感覚が働くのかもしれない。


 俺の場合は、向うの世界で苦労してもいたし、こっちでは高校生で両親に養ってもらっている身なのでいくら1日千万単位で稼ごうとリーズナブルで手ごろな店と思って利用してるんだけどな。


 人それぞれではあるけれど、いつまでも冒険者を続けることはできないのだから、特に専業冒険者は無駄遣いはしない方がいいよな。


 食事しながらそこまで考えたところで、そもそもCランクの冒険者の絶対数が少ないことを思い出してしまった。

 俺の考察自体無意味だった。


 フライドチキンも食べ終えすっかりごちそうさまの俺は最後にコーヒーを飲み干してリュックを持って席を立った。

 支払いはもちろん冒険者証でワンタッチだ。


 リュックを背負って店を出た時はまだ外は明るかったが、人通りは少なかったので周囲を見回して、適当なところでうちの玄関前に転移した。

 ドアの鍵を開けて家の中に入ったら、外はまだ明るかったけど真っ暗だった。


 靴を脱いで2階に上がり電気を点けてそのままパジャマ兼用の部屋着に着替えてから、リュックに入っていた今日の賞状と記念品は机の上に置いた。

 記念品はスプーンということなので母さんが旅行から帰ってきたら渡そう。


 タマちゃんは俺が部屋に戻ってリュックを床に置いたらすぐに這い出ていったん自分の段ボールのおうちで四角くなって寛いだものの俺の着替えが終わったら、防具類をクリーニングしてくれた。

 フィオナは俺の肩から飛び立って一通り部屋の中を探るように飛び回ったら安心したのか自分のおうちのふかふかベッドの上で横になった。


 3連休のために宿題がいくつか出ていたけれど昨日の夜全部終わっているので、やらなければならないことは何も残っていない。

 来週後半には中間テストだが、1学期同様、特別な勉強をしなくても何とかなるだろう。

 見たいテレビはなにもないし、暇だなー。


 仕方ないので風呂にでも入ろうと、1階に下りていき、軽く風呂掃除をして湯を入れ始めた。

 湯舟にお湯が溜まるまで20分近くかかるので、その間2階に戻ってベッドに横になって待機した。



 しばらく目を閉じてベッドの上で横になっていたらすぐにお風呂が沸いたと給湯器の知らせが聞こえてきた。

 知らぬ間に寝ていたようだ。

 着替えを持って1階に下りて、裸になって風呂に入った。

 フー、生き返る。


 家の中も静かだし、湯舟の中で肩までお湯に浸かり、これからのことを少し考えた。

 Sランクには次の夏休み中に成れるだろう。

 その後なにを目指そうか?


 攻略チームに伍して下の階層を目指す?

 冒険者はしばらく休業して、何か別のことを始める?

 今の成績を維持していけばいい大学、いい就職口にありつけるのだろう。


 向こうの世界にいた時はそんな悩みは一切なかったのに、こっちの世界では悩み事がやけに多い。

 生きること自体大変な世界にいれば考える必要すらないようなことをこちらの世界では悩むことになる。

 悩みというのは相対的なものだということがよくわかる。


 湯舟から上がって体と頭を洗って、また湯舟に入り肩まで浸かった。


 捕らぬ狸とも言うが、Sランクになれば俺にも『はやて』みたいにスポンサーが付くのだろうか?

 そうなってくると逆に面倒ではあるな。

 Sランク=10億円儲けているわけだし、Dランクの今でさえ1日潜れば1千万から2千万円稼げてしまう。スポンサーからお金を貰う必要なんか何もないな。


 有名になった時本名はさすがに嫌だから、なにかチーム名とかいわゆる芸名、ペンネームを考えたい。

 かっこかわいい系が良さそうな気がする。

 イチローだとまんま大野球選手と被るので、一郎の「一」を漢数字から算用数字に代え1ロウくんならどうだ?

 何だか大学1浪っぽいというかそのまんまだ。

 うーん。

 いっそ開き直ってサイタマの星はどうだ?

 なかなかいいんじゃないか?

 サイタマの星が良さそうに感じる感覚こそ埼玉県人が埼玉県人たるゆえんだろう。

 だってさいたまだもん。


 この関係のことを最近よく考えるのだが、結局不毛な思考だと気付くんだよな。

 そろそろ風呂からあがるとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る