第80話 Dランク冒険者7、ひとり


 賞状と記念品を貰った俺はダンジョンに潜る準備を整えて渦を越えた。

 少し引っかかるところもあったので、今回は1時間ほどかけて10階層に下り立った。

 時刻は9時半。

 少々出遅れてしまったが、仕方ない。



 出足は悪かったが10階層に到着してすぐにディテクターを発動したところ、最初からアタリがあった。

 ターゲットに向かって駆けて行ったところ、ターゲットはスライムだった。

 もちろん1階層のスライムなどよりよほど大きい上に、逃げられないほどではないが動きも早い。

 そして何より固い。

 おそらく秋ヶ瀬ウォリアーズの3人が滅多打ちしたとしてもたおすことができないと思う。

 さらに10階層のスライムは酸の粘液を吐き出す。

 射程は2メートルほど。

 スライムといえどもかなり厄介なモンスターである。

 そのため戦うつもりがあるなら長柄の武器かクロスボウなどの飛び道具を用意し、さらに酸の中和用にアルカリ溶液を持参するそうだ。

 ただ、そこまでして戦う必要はないので、大抵の冒険者はスライムに遭遇した場合はそのまま逃げだすそうだ。


 俺にとっては10階層のスライムも酸を吐く前にたおしきればいいだけなので、ほかのモンスター同様いいお客さまだ。

 ただ、クロがスライムの酸で傷むかどうかわからないが、もし傷んではもったいないので、人目もないことだし、ファイヤーアローで片付けてやった。


 ファイヤーアローがスライムに命中するとジュッと音がして潰れていき、核を残して液体になり坑道の路面に広がる。


 酸で濡れた核を手で持ちたくはないのでタマちゃんに拾ってもらい一舐めしてもらってからレジ袋に入れた。


 そう言えば10階層には11階層に下りる階段があるが改札は置いていないそうだ。

 維持できないということがその主な理由だという。

 Sランクでもないのに11階層以降に潜るのは自殺行為かつ自己責任であるという考えもあるらしい。


 そういうことなので、その気になればSランクでなくても11階層以降の階層に潜れるし、11階層以降で手に入れた成果でも買い取り所で買い取ってくれるそうだ。


 今の調子でいけば今年中にはSランクに上がれそうなので、そこまでするつもりはない。

 変なことをしてこれ以上悪目立ちしたくないというのが本音だ。



 へたな考えはそれくらいにして次だ、次。

 ディテクター!

 おっと、またアタリがあった。

 10階層のモンスターが濃くなってきたか?

 そうならうれしいなー。


 俺はアタリに向かって駆けだした。

 次のターゲットはカブトムシだった。

 カブトムシの攻撃は突進だけだが、宙を飛んでの突進もある。

 なによりも硬い外骨格に覆われているため貫通性の高い武器以外ほとんど通用しないうえ、打撃にも高い耐性がある。


 俺のメイスだと叩きつければメイスの方が壊れそうなカブトムシなのだが、大剣クロにかかれば簡単に切り飛ばせる。

 ただ、刃のないクロなので、水平切りや切り上げをしてしまうとクロがカブトムシの体の3分の1くらいまで食い込むもののそこから先は文字通りカブトムシが飛ばされて、障害物がなければ坑道の壁やら天井にぶつかり潰れてしまう。

 それでもいいのだが、上から振り下ろすとカブトムシが飛んでいくこともなくきれいに切断できる。

 その際、坑道の路面にクロが当たらないように切るのがコツだ。


 しかし、10匹もいると、横からいでも隣のカブトムシがいい障害になって切り飛ばしたカブトムシをそのカブトムシに叩きつけることができるようになる。

 さらに飛んでくるカブトムシはバッティングのつもりで切り飛ばし、適当なカブトムシに叩きつけることもできる。


 10匹のカブトムシに対してクロを5回横薙ぎにしてバッティングを2回、最後に1回振り下ろして片付けてやった。


「タマちゃん、処分頼む」

 リュックから金色の偽足が伸びてカブトムシの残骸はきれいに片付き、10個の核が手に入った。


「次行くぞー!」


 ……


 スタート時刻は遅れたものの、午前中は快調にモンスターに遭遇でき、実に120個の核を手に入れていた。

 概算1200万円。


 いつものように坑道の壁にもたれて座り込んでおむすびパックからおむすびを取り出して頬張る。

 フィオナにはご飯つぶ。

 タマちゃんにはタマちゃん用のおむすびセットだ。


 昼食後12時半までゆっくりして、腰を上げた。

 あと3時間がんばるぞ!

 今日はうちに帰ってもひとりだから、やっぱり4時間、4時半までがんばろっと。

 帰りにファミレスで夕飯食べればちょうどいいや。


 午後からも快調にモンスターを見つけることができた。

 サーチアンドデストロイ。


 前回10階層で他の冒険者を見たきり、ほかの冒険者を10階層で見ていない。

 これはもう10階層は俺の貸し切りと考えていいんじゃないか?


 自然と頬が緩んでしまうぞ。


 調子に乗って一度ファイヤーボールをオオカミの一群の真ん中に打ち込んだら、一群そっくりそのままバラバラになって吹き飛んでしまい肉片が俺のヘルメットやジャケットにも飛んできてしまった。

 飛んでくる肉片を何とか避けようとしたが無駄だった。

 魔術の威力が上がったような気がしないでもない。


 俺ってこっちの世界に帰ってきて、諸々のアイテムも武器も防具も無くなったし、最初のうちはスペック自体も相当落ちてると思っていたけど、スペックはむしろ上がってきているんじゃないだろうか?


 最終的にはタマちゃんが俺のヘルメットやジャケットに着いた肉片も含めてほとんどの残骸を処理してくれて8個の核を手に入れたけど、爆発はあかん。

 よほどの強敵以外に使ってはならない。


 4時半まで粘って午前120個、午後113個、合計233個の核を手に入れた。

 大漁である。


 そこから40分ほどかけて買い取り所に到着した。


 ヘルメットと手袋をリュックにいれて個室に入りコンビニ袋にいっぱいに入った核をトレイの上に空けた。


 買い取り所の係りの人は何も言わずトレイの上の核を淡々と査定用の機械の中に放り込んで査定を進めてくれた。

 今日の買い取り総額は233個の核で2271万円となった。

 累計買い取り額は、1億5488万6700円+2271万円=1億7759万6700円となった。


 武器類を預かり所に返した俺は軽い足取りでダンジョンセンターを出て、すぐ近くのファミレスに入った。

「いらっしゃいませ。

 お一人さまですか?」

「はい」

「カウンター席でよろしいですか?」

「構いません」

「では、こちらにどうぞ」


 夕食時というにはまだ早いと思ったけれど、土曜日だったせいか店内は結構混んでいた。

 客はほとんど冒険者のようだ。

 冒険者に縁のない一般客だとやっぱり入りづらいよな。

 フィオナが肩に止まったままだったせいか、カウンター席に案内される間、客から注目されてしまった。

 あれがあのフィギュア男だぜ、とか言ってるのだろうか?


 案内されたカウンター席で、リュックを足の前に置きメニューを見ながら注文した。

 ハンバーグ定食と鶏のから揚げを頼んだ。

 あと、サラダバーとドリンクバー。

 タマちゃん用にポテトか何か頼もうと思ったが、そもそもタマちゃん今日は沢山食べているのでやめておいた。


 俺は席を立ってまずはドリンクバーにいき温かい緑茶と炭酸水を持って席に帰り、こんどはサラダバーに行ってボウルにトマトとレタスとベビーコーンを入れて席に戻った。再度サラダバーに行ってポテトサラダをボウルに入れて席に戻った。


 料理が来る間、サラダをムシャムシャ食べていたら、料理がやってきた。

 ハンバーグ定食は鉄製のプレートてっぱんに載ったハンバーグに目玉焼きと温野菜が添えられている。

 あと皿に盛られた白飯にコンソメスープ。

 唐揚げはレモンが添えられた普通のから揚げだった。

 メニューと比べて若干見劣りしないでもないが許容範囲だろう。


 鉄板の上のハンバーグはまだジュージュー音を立てている。

 ほっほー。

 さっそくナイフとフォークでハンバーグを切り分けたら肉汁が染み出て、それがまた鉄板の上でじゅーじゅー音を立てた。

 うまそー。


 俺の隣に座った客が俺の方を何度もチラ見してくる。

 そんなにハンバーグが食べたいなら、自分で注文しろよな!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る