第79話 Dランク冒険者6。掲示板7


 フィギュア男ではあまりにもかわいそうなので、これからは機会があるたびにカッコいい名まえを自称することにした。


 うちに帰ってからカッコいい名まえをいろいろ考えたがなかなかいい名まえを思いつけなかった。

 氷川は赤い稲妻だったから、俺だと黒い何々と付けたいところだ。

 しかし、冷静になって考えてみたのだが、仮に俺が氷川だったとして自分のことを他人の前で『赤い稲妻』だ。と、言えるか?

 とてもじゃないが顔から火が出るほど恥ずかしいだろ!?

 止めた。妙なことを考えても仕方ない。



 今週学校は土曜が休みで、あくる月曜が祝日の3連休。

 3連休の間父さんと母さんは夫婦旅行で留守。

 行き先は京都だそうだ。

 2人で2泊3日、京都の旅となると俺の渡した10万円の旅行券では足が出るかも知れない。というか、確実に足が出るな。

 来年はもう少し奮発しよう。


 俺もせっかくの3連休なので、2泊3日でダンジョンツアーを実施したかったが、祝日は氷川と約束があるのでできない。




 週が明けて月、火と学校に通って水曜日。


 学校から帰ったら、スマホにサイタマダンジョンセンターからメールが届いていた。

 先週の日曜日に10階層で冒険者を助けたことで感謝状を贈呈するので土曜日ないし日曜日にダンジョンセンター管理棟に来てほしいとのことだった。

 面倒だが、仕方ない。

『土曜の午前中うかがいます』と、返信しておいた。

 しかし、俺が助けたかどうかなんて、証拠なんか何もないのによくわかったものだ。

 ある程度弱っていたとはいえ6匹のオオカミをひとりで瞬殺したわけだから、センターの職員なら俺だと分かるか。



 そして土曜日が訪れた。

 父さんと母さんは8時にうちを出るということだったので、3人で早めの朝食をとった。

 俺は父さんと母さんを見送り、戸締りをしてダンジョンセンターに向かった。


 行き先は本棟の隣りの管理棟だ。

 管理棟の入り口にも改札があったので、冒険者証をかざしたところ『このカードでは入場できません』と出てしまった。

 これって、どうすりゃいいの?

 そもそも俺って管理棟のどこに行けばいいの?


 スマホのメールを確かめたら、電話番号が書いてあった。

 おそらく電話すれば迎えが来るのだろうと思って電話したところ、すぐに迎えに来るとのことだった。


 3分ほどで奥のエレベーターホールから女性の職員がやってきて自分の身分証で改札を抜けて俺の前にやってきた。

「長谷川さんですね」

「はい」

 女性が改札機の横にあった機械を操作して、紙製のカードを渡してくれた。

 見るとカードにはQRコードのようなものが印刷されていた。

「このカードをかざしていただきますと改札を通れます。

 どうぞこちらに」


 女性の後について改札を抜け、エレベーターホールに案内された。

 1階で待っていたエレベーターに乗って上の方に行き、そこからまた歩いてとある部屋に通された。

 俺の格好はヘルメットと手袋は外していたが背中に大剣用のホルダーを付け、その上にリュックを背負ったそのまんま冒険者だ。

 さすがにリュックはないと思ったので部屋に入る前にリュックは下ろして手で持った。


 部屋に入ったら初老のおじさんが迎えてくれた。

「サイタマダンジョンセンター、センター長の矢部と申します」

「長谷川です」

「先日、10階層で冒険者チームの危機を救っていただきありがとうございます。

 儀式的なものはありませんが、これが感謝状で、そしてこれが記念品です。

 たしか銀製のスプーンセットだったと思います」

「ありがとうございます」

「長谷川さんには一度お会いしたかったもので。

 全国でただひとりの16歳Bランク冒険者が当センターで生まれたかと思えばあれよあれよという間にDランク。

 10階層はDランクの中でも上位のチームが狩場としていますがそれをソロで。

 先日は6匹のオオカミを瞬殺されたとか」

「たまたま通りがかったもので」

「それで瞬殺できるわけですからソロで10階層ということなんでしょうなー」

「はあ」


「そういえば、長谷川さんのダンジョン内の改札の通過時間を調べた者がおりましてね」

「はあ」

「1階層から3階層、3階層から5階層、その逆もそうなんですが異常なほど短時間なのでみんな驚いているんですよ」

 やっちまったー。

 とはいえ、ペナルティーがあるような話ではないハズ。

「ダンジョン内を全力疾走できる体力と平衡感覚。うらやましい限りです」

 うそかどうかはわからないけれど、形式的にも自己完結してくれて助かった。

「これからのますますの活躍を期待しています」


 それだけで話は終わったようだ。

 と思ったら、最後におまけで、

「長谷川さんが肩に付けていらっしゃるそのフィギュアですが、実に精巧なものですね。

 センター内でも話題になっています」

 と、一言があった。

 どこで手に入れたのか聞かれたら面倒だったけれど、セーフだった。


「それでは失礼します」

 俺は賞状を丸めて小箱に入った記念品と一緒にリュックに突っ込んだ。

 部屋を出たところで先ほどの女性が待っていてくれ、賞状をいれる筒をくれた。

 そのあと管理棟の1階まで見送ってくれた。



 管理棟を出た俺は売店で昼食用のおむすびセットと緑茶のペットボトルを買い、本棟に入って武器の預かり所に行った。

 預かり所で武器一式を払い出し、武器はその場で装備し、預かり所の外に出てからヘルメットを装備した。



 センターでは俺の改札記録から『転移』までは疑ってはいないと思うが、安易に転移を使うと少しマズいかもしれない。

 いまさらだし、やっぱり転移は便利なので利用制限はできないな。

 別にやましいことをしているわけでもないんだし。

 もし公になれば、世間が大騒動になるだろうし、俺自身に面倒ごとが大量に降ってくる。

 とは思うが、それだけだ。


 将来俺以外の人間の手で魔法が発見され、転移も発見されたらありがたいんだけどなー。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1.名無し


サイタマダンジョンCランク冒険者用情報スレその2(28)。マナー厳守。


次スレは>>950を踏んだ人。


20XX年9月30日 21:20


……


635.名無し


ダンジョン庁のHP三鷹?


20XX年10月6日 20:15


636.名無し


>>635.三田


20XX年10月6日 20:15


637.名無し


16歳のCランク冒険者の数が0になって、16歳のDランク冒険者の数が1になってた


20XX年10月6日 20:16


638.名無し


なんだってー!!!


20XX年10月6日 20:16


639.名無し


ということは?


20XX年10月6日 20:17


640.名無し


>>639.フィギュア男がDランクってこと


20XX年10月6日 20:18


641.名無し


>>640.ウソだろ?


20XX年10月6日 20:19


642.名無し


>>641フィギュア男以外の可能性は微レ存だが……


20XX年10月6日 20:20


……


678.名無し


10階層でDランクチームがオオカミの一群と戦って複数負傷したらしい。その時フィギュア男が現れて、文字通り一瞬で6匹のオオカミをたおしたらしい


20XX年10月6日 20:35


679.名無し


10階層ってたしか6名以上のチーム推奨だったんじゃないか?


20XX年10月6日 20:36


680.名無し


>>679.そのハズ。ひとりで10階層に挑むのは自殺行為。ただし、フィギュア男を除く


20XX年10月6日 20:38


681.名無し


>>680.小さな家


20XX年10月6日 20:39


682.名無し


>>681.何それ?


20XX年10月6日 20:40


683.名無し


>>682.大草原不可避


20XX年10月6日 20:40


……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る