第78話 Dランク冒険者5、救助


 週が明け、水曜日から冬服になった。

 だからどうってことはないのだが、来週11日の土曜から日曜、祝日の月曜と3日間、父さんと母さんが2泊3日で旅行するそうだ。


 

 土曜の授業も無事終わり、今日は10月最初の日曜日。

 7時にうちを出て、7時50分には10階層にたどり着いていた。

 さーて、今日もバンバン行くぞー!


 ディテクター発動!

 アタリあり。幸先良し!


 アタリはディテクターの探査範囲ギリギリだった。

 俺はターゲットアタリに向けて駆けていった。


 目に入ったターゲットはカマキリだった。

 カマキリは初顔合わせだ。

 俺の背丈ほどもあるカマキリが10匹、威嚇するようにカマを上げて向かってきた。

 どうでもいいことだが、カマキリは昆虫なので頭・胸・腹の三つに分かれていてカマを含めた手足6本は全部胸についている。

 カマキリの逆三角形の小さな頭がその細長い胸の上についているのだが、頭がすぐ取れそうに見える。


 俺は半分笑いながらクロを振り、カマキリの頭を刈り取っていった。

 カマがどれくらいの強度があるのか分からないが、クロが一閃すると簡単にカマごとカマキリの頭部が胸部から外れてボトリと坑道の路面に落っこちる。

 こいつら脆すぎ。


 現れた10匹のカマキリの頭を3秒ほどで切り飛ばした。

 切り口から体液が漏れ出るのだが量がそれほどでもなかったので坑道はきれいなものだ。

 とは言ってもそこらにカマキリの頭と頭のない死骸、そしてカマなどが散乱している。


 すぐにタマちゃんがカマキリの残骸を処理して俺は10個の核を受け取った。

 やはり核の大きさはクマを除く他の10階層のモンスターと同じだった。


 そこから30分ほどでもう一度モンスターを狩って8個の核を手に入れた。

 そのあと、ディテクターでのアタリがないまま適当に坑道内を移動していたら、前方にライトの白い明かりがわずかに見えた。

 10階層で冒険者に出会うのは初めてだ。


 ディテクターを発動したところ、冒険者はただ坑道を移動しているわけではなくモンスターと対峙しているようだ。

 俺はキャップランプの明かりを絞って冒険者の方に向かったところ、そのうち彼らの怒鳴り声も聞こえてきた。


 キャップランプの明かりの数は6個。

 6人の冒険者だ。

 彼らが相手にしているのはオオカミだった。

 何匹かたおされているかもしれないが、少なくとも6匹は健在のようだ。


 6対6なら簡単だろうと、さらに近づいて様子を見た。

 どうも、数的には6対6なのだが、明らかにオオカミの方が連携が取れていて、冒険者側の6人のうち2人は遊兵になっている。


 それで苦戦して、時間を取っているようだ。

 そしてとうとう、冒険者のひとりがどこかを負傷したようで脱落してしまった。

 残りの5人はその冒険者をかばうため、完全な劣勢に陥ってしまった。


 うーん。

 この連中、10階層にはまだ早かったのではないか?

 見ていたら、さらにもうひとりの冒険者が負傷してしまった。

『マズい』

『どうする?』

『相手はオオカミだ。

 負傷者もいるし戦うしかない』

 なんだか、切羽せっぱ詰まっている?


 そろそろ飽きてきたので、道を空けてもらおうと一声かけてみた。

「あのう、助けましょうか?」

 断られたら引き返すしかない。


『加勢してくれるのか?』

 負傷して後ろに下がっていた冒険者から返事があった。


「加勢というか、よければ普通にオオカミ全部たおしちゃいますよ」

 そう話している間にもまたけが人が出てしまったようだ。

 オオカミの方は6匹のままで減っていない。


『わかった。

 とにかく手を貸してくれ』


 了解が取れたところで俺は2本のメイスを手にして現場に突っ込んでいった。

 クロちゃんを振り回すと冒険者たちが怖がると思ったからだ。


 立っているオオカミは6匹。

 その中で血を流しているオオカミが数匹。

 その他に地面に2匹のオオカミがボロボロになって転がっていた。

 急所への有効な攻撃ができないと、こういった死骸ができ上がる。


 周囲を意識しながらも左右のメイスを3回ずつ振って6匹のオオカミの頭蓋を砕いてやった。

 別にメイスの先が血で汚れているわけではなかったが、血振りっぽくメイスを一度振ってから腰に下げた。


 冒険者たちを振り返ると健全な者が3名。

 かなりひどく血を流している者が1名。それでも腕や足が食いちぎられているわけではないようなので完治はするだろう。

 2名が腕に血をにじませていた。

 応急手当をしたら撤退だろうな。

 俺のヒールである程度は治るのだろうが生き死にがかかっているわけでもないし治癒関係の魔術は赤の他人には見せたくはない。そもそもそこまでしてやる義理もない。

 途中でモンスターに遭遇すると厳しいかもしれないがそれは仕方ない。


「その肩のフィギュア!

 待ってくれ。

 礼をしなくちゃ」

 肩で息をしているひとりが俺に声をかけたが、俺は彼らの相手をするのも面倒だったのでそのまま立ち去ることにした。

「別に礼はいいし、核もあんたらの物でいいから、それじゃ」


 俺が立ち去ったあと、後ろの方で何やら騒いでいたが無視してキャップランプの明るさを元に戻してから駆けだした。


 たまたま俺が通りがかったから良かったものの、戦いが長引きすぎると他のモンスターも現れたかもしれない。

 そしたら全滅の可能性が高まる。

 俺には全く実感はないが、冒険者の仕事は死と隣り合わせということだ。

 氷川にも一度言ったが、たいていの冒険者は正確さと一撃の重さが足りない。

 全てがこれだ。

 一撃でたおせないから、少しずつ戦いの回りが悪くなってじり貧になっていく。


 専業冒険者だと生活が懸かっているから難しいのかもしれないが、ある程度武器の扱いを訓練した方がいいんじゃないか?


 俺がとやかく言う話ではないが、ケガをして戦線離脱したら本末転倒というか元も子もないだろうに。

 


 冒険者とは? とか適当に考えながら進んでいたら、すぐに次の反応があった。

 しかも俺の方にかなりの速さで近づいてきてる。

 

 さっきの連中があのままオオカミを相手にしていたら、いま俺の方に近づいてきているモンスターに襲われていたかもしれない。


 坑道の曲がりから現れたのは、大トカゲだった。

 数は8匹。

 10階層の大トカゲは大きさにして5階層で現れる大トカゲの2倍近くある。

 体重にすれば3倍から4倍は優にあるだろう。

 ワニほど口やアゴは発達していないようだが、十分狂暴そうな口を持っている。

 もちろん俺にはその程度脅威でもなんでもない。


 俺は大剣クロを背中の鞘から抜き放ち、迫ってきた大トカゲを切り飛ばしていった。

 爬虫類系統は生命力が強いので、少々のダメージでは動きが鈍くならず、しつこく食い下がってくる。

 とはいえ、一撃で致命傷を与えてしまえばなんてことはない。

 頭蓋を叩き割る。

 頭を切り飛ばす。

 胴体を両断する。

 どれか一つで十分なのだが。


 坑道に散らかった残骸をタマちゃんに片付けてもらい、8個の核を手に入れた。


 どんどん行くぞー。


 ……。


 午前中84個の核を手に入れ、午後から72個の核を手に入れた。

 合計156個。

 前回と比べてちょうどクマの核1個分少なくなった。


 買い取り所の個室に入り、いつものようにレジ袋からゴロゴロとトレイの上に核を出した。

「今日もまた大変な量ですね」

 買い取り所の係りの人は前回と同じ人だった。


 今日の買い取り総額は1528万8千円。

 実際大変な量というか金額だ。

 これで、累計買い取り額は1億3959万8700円+1528万8千円=1億5488万6700円となった。


 買い取り所から武器の預かり所に回って武器を返し、エスカレーターで1階に下りていたらホールでたむろしている冒険者たちの話声が聞こえてきた。

『きょう10階層でケガ人が出たそうだ』

『最近珍しいというか、10階層って相当ヤバいところなんだろ?』

『Dランクと言えども厳しい階層らしい。

 そこで活躍できるようになればSランクでも通用すると聞いたな』


 俺が今日加勢した連中のことだな。

 ケガ人と言っているくらいだから、うまく撤退できて大事には至らなかったようだ。


『なんでも、フィギュア男が助けたらしい』

『フィギュア男ってCランクだろ?』

『10階層にいたんだからDランクだろ』

『フィギュア男って高校生だって話だぞ、いくら何でもDランクはないだろうし、それにアイツってソロだろ?

 Dランクだったとしてもソロで10階層を回るのは無謀を通り越して狂気だぞ』

 いやいや、俺は正気だから。

 しかし、フィギュア男はどうにかならんものかな?

 Sランクに昇格した時、フィギュア男ではしまらない。

 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人ではないが、今日みたいに何か他の冒険者と絡んだ時、立ち去り際にさりげなくカッコいい名前を自称してやろう。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る