第77話 Dランク冒険者4、秋ヶ瀬ウォリアーズ7


 斉藤さんたち秋ヶ瀬ウォリアーズの3人とお天気の1階層でピクニックだ!

 ワーイ!


 俺たち4人は斉藤さんの敷いたカラフルなレジャーシートの上に座って昼食中だ。

 いつものように俺のリュックだけレジャーシートの真ん中に置かれている。

 そこから金色の偽足ホースが3本、それぞれ3人の手元まで伸びている。


 いい天気だなー。

 天気予報を見ていなかったから外の天気は分からないけれどここの天気はいつも快晴。


「ねえ、長谷川くん」

「なに?」

「いつも長谷川くんはおむすびだけど、それだけだと栄養が偏るというか、必要なものが足りないよ」

「いつも坑道の壁に寄りかかるようにして路面に座って食べてるから、おむすびが食べやすいんだよねー。

 それにうちではちゃんと食べてるし」

「それならいいけど、今度はわたしがお弁当作ってこようか?」

「そんなの悪いから、いいよ」


「斉藤ずるい!

 長谷川くんのお弁当はわたしが作る」

「わたしも作る」


「中川はどうか知らないけど、日高、家庭科全然だめじゃない」

「お母さんに作ってもらうから」

 いやいやそれはダメだろう。

 それでなくても重いのに、さらに重くなってしまう。


「じゃんけんって言いたいところだけど、3人で作ってどれが一番おいしいか長谷川くんに決めてもらおうよ」

「その勝負受けた!」

「わたしも頑張る!」

「日高も自分で作るのよ」

「……」


 これで3人の好意に甘えるしかなくなってしまったな。

 そもそも、タマちゃんはいつも3人に甘えているし。


 昼食を食べ終え、しばらくレジャーシートの上で寛いでいた。

「長谷川くん、まだ1日みたいだけど、Dランクの階層はどう?」

 ここでようやく冒険者らしい会話が始まった。


「Cランクの時と比べて、一度に出てくるモンスターの数がずいぶん多くなった。

 その分稼げるからありがたいよ」

「さすがは長谷川くんだよね。

 今は6階層なの?」

「いや、10階層にいった。

 深いところの核の方が単価が高いし、一度に出てくるモンスターの数が多いから」

「さすがはわたしの長谷川くんだわ」

 いや、俺は日高さんのものじゃないから。


「でもDランクの6階層から10階層って5、6人のチーム推奨だったよね」

「そうみたいだけど、たいしたモンスターはいないから。

 それにひとりで潜ってるから総取りだし」

「さすがは長谷川くん。

 わたしが見込んだ男だ」

 俺は中川さんに見込まれているようだから、これからもがんばらねば。


「さて、そろそろ午後のモンスター狩を始めようか」

「そうだね」

「うん」

「午後からもがんばろー」



 みんなが立ち上がり、レジャーシートを片付けたあと、防具を整えて午後からのモンスター狩を始めた。

 ディテクター。

 ヒットなし。

 しかし、天気がいいなー。


 午後からも徘徊モードで移動を開始して、5分おき程度にディテクターを発動。

 これまで通りアタリがあればアタリに向けて移動し、ターゲットをぼこぼこにして俺が核を回収する。

 アタリがなければ適当に方向を変えて移動を続ける。


 3時まで徘徊モードを続けた結果午後からも12個の核を手に入れた。

 1日の合計は24個。

 これを4等分だからかなり金額は少なくなるが、美少女たちとピクニックしたと思えば大儲けだ。


 30分ほどかけて核の買い取り所に戻った。

 その間も2個核を手に入れたので、全部で26個の核を手に入れた。


 26個の核は12万4800円で買い取られた。

 その4分の1、3万1200円を受け取り、累計買い取り額は1億3956万7500円

+3万1200円=1億3959万8700円となった。


 買い取り所を出て武器預かり所に回り、今日もセンター本棟の出入り口前で待ち合わせる約束をして3人と別れた。


 俺は1階に下りて、彼女たちを待つために出口に向かったところ、外は本格的な雨だった。

 人目を忍んで転移すればなんてことないが、秋ヶ瀬ウォリアーズの3人といつものようにハンバーガーショップに行くとなると、行くまでに濡れてしまう。


 売店で傘を売っていると思うがちょっと面倒だ。

 どうしよう。

 しかし、俺が傘を持ってないと3人のうちの誰かが傘に入れてくれそうだ。

 それもまた、なんだかマズそうなので、俺は売店で傘を買うことにした。


 それで、売店で傘を探したんだが見つからなかった。

 店の人に聞いたら売り切れと言われた。

 仕方ない。

 そうだ!

 一度うちに帰って傘を持ってくればいいじゃないか。


 俺は売店内のトイレに駆け込み、個室に入って鍵を閉めないままうちの玄関先に転移した。

「ただいまー」

『おかえりなさい。今日はちょっとだけ早いのね』

「用事があっていったん帰ってきたけど、また出るから。

 帰る時間はいつもと変わらない」


 俺は母さんにそう答えて傘を持って玄関を出てそこで傘を差してからセンター近くに転移した。

 そのままセンター前まで行ったら3人が俺を待っていた。


「長谷川くん、一体何してたの?」

 普通本棟前のひさしの下で待つよな。

「いや、ちょっと雨の中を歩いてみようかなと」

「そうだったんだ。

 長谷川くんくらいになると、ほかの人とは違う考え方なんかになるんだね」

 斉藤さんに妙なフォローをされてしまった。

「さすがは長谷川くん」

「だね」

 さらに追い打ちをかけられてしまった。


 それから、いつものようにハンバーガーショップに行っていつものハンバーガーセットでポテトの大を頼み、トレーを持って2階の4人席に座った。

 ビニール袋の中に入れているけど濡れた傘が何気に邪魔だ。


 リュックを足元に置いて食べ始め、食べながらリュックの中にポテトを突っ込む。

 俺ひとりではなく3人がポテトを俺のリュックに突っ込むという実に奇妙な風景が展開されている。

 他人のリュックにポテトを投げ入れるというのは、ある種のいじめに見えるかもしれない。

 リュックの持ち主も同じことをしているのでそれはないか。



「……。

 だけど、今日のあの女の人おかしかったよね?」

「そうだねー」

「ああは成りたくないよね」

 散々な言われ方であるが、俺も同意する。


「チーム名がハンターズって、わたしたちの秋ヶ瀬ウォリアーズの方が100万倍カッコいいよね!」

「その通り」

「だよね」

 俺はそれについてはノーコメントだ。

 そもそも100万倍ってどうやって測るんだ?


「そう言えば長谷川くんは普段ひとりでダンジョンに入っているけど、ひとりだってチーム名つけていいんじゃない」

「悪くはないだろうな」

「長谷川くんのチーム名考えてあげようよ」

「さんせいー」

「スゴイの考えてあげるからね」

 3人で俺のチーム名を考えてくれるようだ。


「特徴を掴んだ方がいいよね」

「「うん」」

「長谷川くんって筋肉質じゃない」

「あの感触は忘れられない」

「わたしも忘れられない」

 何だかあらぬ方向に話がズレてきてないか?


「さすがに長谷川きんに〇んはないよね」

「それはないよー」

「かわいそうだよー」

 俺もそう思う。


「じゃあ、ふっきん割れ男くんはどう?」

「ちょっといいんじゃないかな」

「だいぶ良くなったけど、それだと胸の筋肉を忘れてるよ」

 全然よくないよ。


「やっぱり、実物見ながらじゃないといい案でないなー」

「やっぱり、触りながらじゃないといい案でないなー」

「やっぱり、なでながらじゃないといい案でないなー」

 3人が3人ともしゃべりながら俺の顔をチラ見してくる。

 何なんだよー!


 俺にとって運のいいことに俺のチーム名は結局決まらなかった。

 最後に、次に一緒に潜るのは10月最後の日曜日ということを決め、ハンバーガーショップを出てそこでバスで帰る彼女たちと別れた。


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