第76話 Dランク冒険者3、ハンターズ


 俺たちに向かって冒険者の一団が向かってきた。

 その一団は女ひとりに男が3人。

 年齢は4人とも20歳前後。

 女の背中には大型ハンマーとリュック。

 男たちはリュックに丸盾を付けて背負い、武器はそれぞれメイス、短槍、氷川が持っていたような鋼棒だった。


 男たち3人のガタイは確かにいいが、お世辞にも美男には見えない。

 3人の美少女を連れて見た目だけはハーレム状態の俺に対抗しているアピールなのか?

 明らかに負けてるぞ。

 ということは逆ハーレム自慢ではないハズ。

 では、一体何がしたいんだ?


「そこの冒険者、ちょっと待ちな」

 上から目線で女から声をかけられてしまった。

 女は明らかに俺を見ている。ってことは俺に用事?

 まさか俺に自分の逆ハーレムに入れとスカウトに来たんじゃあるまいな?


「何か用か?」

 俺は斉藤さんたちをかばうよう一歩前に出て女に用件を聞いた。

「ああ。

 あんた、今日は肩に妖精フィギュア付けてないようだがフィギュア男だよな?」

「そう呼ばれているようだな。

 用件はそれだけか?」

「それだけだ」

 ホントにそれだけだったよ。

 何なんだよ。


 それだけかと思ったら女の話はまだ終わっていなかった。

「あんた、16歳でCランク。

 すごいじゃないか。

 おれはDランクチーム、ハンターズのリーダーあきもとはるこ、いずれダンジョン王になる女だ。

 そのことだけは覚えておいてくれ」

 そう言って女はきびすを返し、3人の男を連れて去っていった。

 濃い女だったなー。


 きつい顔ではあったが美人ではあった。

 まっ、俺と同じDランクとは言え、極端に人口密度の低い10階層で出会うことはまずないだろう。

 


 4人が去ってしばらくして後ろにいた斉藤さんたちが、さっきの変わった女のことを批評し始めた。

「長谷川くんの銀色のネックストラップが見えなかったのかな?

 それに今時オレっだって。

 誰とく?」

「さっきの人、名まえ『あきもとはるこ』って言ってたけど、まさか『はるこ』の『はる』ってサンズイに台の『治める』で亀有出身じゃないよね?』

 それにチーム名のハンターズって紙おむつみたいだし」

「ダンジョン王とか。

 あんなイタイ人にはなりたくないよねー」

 3人の辛辣なお言葉だった。


「それに女なんだから成るんだったらダンジョン王じゃなくてダンジョン女王でしょうに」

 最後の中川さんの言葉でズッコケた。


 フィギュアについて何も話が出なかったところを見ると、その辺りは3人には聞こえていなかったようだ。なんにせよ、説明面倒だから助かった。



 そこから5分ばかり歩いたところでディテクターに反応があったのでそっちに向けて方向転換。

 200メートルほど歩いたところに茂みがあり、その茂みの中にカナブンがいた。

 飛び立とうとするところを俺が右手ではたいて地面に叩き落してやった。

 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人のいいストレス発散となったカナブンの運命は推して知るべし。

 俺がグチャグチャのカナブンの残骸から取り出した核は斉藤さんのウェットティッシュと交換した。


 行く当てのない徘徊モードなので、茂みから出てそのまま真っ直ぐ歩いていき、適当なところでディテクターを発動。

 空振りしたらまた適当に歩いていきディテクターを発動する。

 ヒット。

 俺は3人を引き連れてその方向に歩いていく。



 そんなこんなで、11時過ぎまで練り歩き、俺たちは12個の核を手に入れていた。

「ここらで、シート広げてお昼にしようよ」

 斉藤さんはそう言うとリュックを下ろし、中からいつものレジャーシートを取り出して地面に敷いた。


 周囲というほどではないが他の冒険者たちがこっちを見ているが今さらだ。

 すぐにリュックをほどいた俺たちは中からそれぞれの弁当を取り出し食べ始めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 おれの名まえは秋本治子あきもとはるこ

 第1ダンジョン高等学校、通称トウキョウダンジョン高校または1高の3期生。

 1高を卒業して3年半になる。

 卒業と同時に同期の3人と冒険者チームハンターズを作り、そのリーダーを務めている。

 おれたちハンターズの4人は1年半でCランクを卒業し現在はDランクの冒険者だ。

 自分でいうのもアレだが、おれは自分のことを天才冒険者だと思っている。


 先月、16歳のBランクの冒険者がいることをダンジョン管理庁のホームページで知った。

 そして先日、16歳のBランクの冒険者がいなくなり16歳のCランクの冒険者がいることを知った。

 その冒険者は1カ月でBランクからCランクに昇格したということだ。

 16歳でBランクも異常だが、1カ月でCランクはさらに異常だ。


 チームの連中が調べたところ、そいつはおれたちと同じくサイタマダンジョンをホームベースにしている冒険者で肩に妖精のフィギュアを付けた男性冒険者だという。

 防具は黒いフルフェイスヘルメット、濃い灰色の防刃ジャケット、手袋や靴は黒。

 武器はメイス。



 今日渦に入ったら、高校生くらいの冒険者が目に入った。

 そこでおれの勘がビンビン鳴った。


 肩に妖精のフィギュアは付けていなかったし、ヘルメットも被っていなかったが、濃い灰色の防刃ジャケットを着て手袋や靴は黒だった。

 それだけでは今年の春ごろから一気に増えたただの高校生冒険者だが、身のこなしがただものじゃなかった。

 横顔だけだがその目も普通じゃなかった。死線を何度も潜り抜けてきたどこまでも暗い男の目だった。


 体格はそれほどでもなかったが、防刃ジャケットを着ていても引き締まった鋼のような肉体が想像できた。

 変な意味で男の体を想像したわけじゃないぞ。

 でも裸体を想像したのは確かではあるな。

 ウォホン。


 その冒険者は3人の高校生らしき女子冒険者を引き連れて歩いていったので後を追った。

 自分でも何で後を追ったのかは定かではないが、確かに後を追った。

 そして、男を呼び止めフィギュア男かどうか聞いていた。


 おれの問いに対して男はそうだと肯定した。

 おれは自分の名を名乗ってその場を去り、仲間を引き連れて階段小屋に向かった。

 確かにあの男はただものじゃない。

 おれの勘がビンビン鳴っている。

 だが、ダンジョン王に成るのはこのおれだ!


 今日から2泊3日で10階層だ。

 頑張って稼ぐぞ!


 おれの名まえは秋本治子あきもとはるこ

 いずれダンジョン王になる女だ!

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