第75話 Dランク冒険者2、秋ヶ瀬ウォリアーズ6


 10時過ぎから2時間ほど駆け巡って、8回モンスターと戦った。

 戦果は、核の数にして75個。

 1個8万円としても、600万円。

 たったの2時間で600万円だ。

 おいしすぎる。

 時給300万円としてSランクのライン10億円までの残り9億円を稼ぐには、300時間。

 1日7時間労働として、42、3日。

 土日、祝祭日、冬休み、春休み。

 2年生の夏休み前にはSランクも見えてくる。

 悪くても2年生の夏休み中にはSランクだ。

 デヘヘヘ。


 坑道の壁に寄りかかるように座っておむすびを頬ばりながらデヘヘ笑いをしている男子高校生は第3者的に見れば相当来ているだろうことに気づいた俺は顔をキリリと引き締めた。

 そこで、そういったことが何の意味もないことに気づいた男子高校生は再び表情筋が緩むに任せた。

 でへへへ。


 確かに、一般冒険者がこの階層を単身で挑むのは自殺行為のような気もする。

 それに、この階層なら6人チームでも結構な実入りになる。

 クローラーキャリアを借りて持ってくればモンスターの死骸もかなりの量回収できるわけだからさらに収入アップだ。


 30分ほどの昼休憩の後片付けを終え、準備を整えた俺は午後からのモンスターハンティングを始めた。


 10階層に来てまだ3時間も経ってないので一概には言えないが、他の冒険者に出会っていないので人口密度がかなり低いようだ。実にありがたい。

 10階層万歳だ!


 午後からも順調で、一度クマにも遭遇した。

 遭遇したというとたまたま感があるが、実際はディテクターのアタリに向かって俺が突っ込んでいっただけだ。


 で、そのクマだが、事前情報通り1匹だった。

 核の大きさが他のモンスターと比べて若干大きいため核の買い取り価格が10階層の他のモンスターの3倍の30万円。

 それはいいのだが1匹では効率が悪い。

 10万円10匹に比べるべくもない。

 クロを一閃してクマの脳天から股間まで縦に両断してそのうっ憤を晴らしてやった。

 タマちゃんが回収してくれたクマの核が半分になっていなくてよかった。


 大剣での斬殺は核を破壊するリスクがある。

 たいていのモンスターの核は胸にあるわけだから頭部を重点的に攻撃すればまず核を壊すことはないので、次回からはカッとならずちゃんと頭部中心に斬撃を放とう。


 こういったことを普通のというか俺以外の冒険者も考えるのだろうか?

 まず考えないだろうなー。

 だけど、よほどの変人でない限り、経済的動機でダンジョンに潜っているはず。

 なら、俺のような思考をしている可能性は高い。

 ただ、俺くらい余裕が無いと難しいだろうなー。


 午後からクマも含めて10回モンスターに遭遇して、82個の核を手に入れた。

 核の数は午前の75個を加えて156個+クマの核1個となった。

 付け加えると午後からも他の冒険者に遭わなかった。


 いつものように3時半にお仕事を終えて10階層から撤収を始めた。

 Cランクの時と比べ手順が1つ増えただけなので、センターの買い取り所に到着するのに35分ほどで済んだ。


 買い取り所の個室に入り「お願いしまーす」と言って冒険者証を係のおじさんに渡し、それからトレイに売店のレジ袋に入れた156個の核を空けて、最後にクマの核を1つ置いた。


「長谷川さん、これをたったひとりで、しかもDランクに昇格した当日に!?」

 係の人は相当驚いたようだ。


 今日の買い取り総額は1512万円。

 累計買い取り額は1億2444万7500円+1512万円=1億3956万7500円となった。


 冷静に考えて、1500万円って高校1年生が1日で稼いでいい金額じゃないよな。


 係の人に礼を言って部屋を出て、エスカレーターで2階に上り武器預かり所に武器を返してその日は終了した。


 いやー、今日は稼いだ。



 うちに帰ってもニヤニヤが止まらなかったようで、夕食時に母さんに何かいいことがあったのかと聞かれたしまった。

「特にはなかった。かな?」

 とか言って適当にごまかしておいた。


「一郎、お前休みの日には必ずダンジョンに行ってるが、友達と遊ばなくていいのか?」

「ダンジョンが楽しいから」

「まさか一郎、クラス全員から無視されてるとかいじめに遭ってるってことはないよな?」

「ないない」

「それならいいんだが」

 父さんに心配かけてしまった。



 翌日。(9月28日)

 今日は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人との1階層でのグレートハンティングだ。

 1階層だからグレートは言い過ぎカモ?

 いつものようにフィオナはお留守番。

 タマちゃんだけがリュックに入っている。

 彼女たちとダンジョンに潜る時だけはフィギュア男ではなくなる。


 この日はあいにくの雨だった。

 小雨だったので防刃ジャケットは防水ではないが簡単に水を通すようなものではないし、リュックは防水だ。

 ヘルメットを被れば何ともないだろうと思って傘も持たずに玄関先のひさしでヘルメットを被り、そこからダンジョンセンターの近くに転移した。


 そこから走ってダンジョンセンターの売店に駆け込んだ。

 いつもの買い物を済ませてから武器預かり所にいき、そこでクロは残してメイス2本とナイフを受け取って約束の改札前に向かった。

 改札前に到着した時刻は8時50分、約束の9時の10分前なのだが、秋ヶ瀬ウォリアーズの3人がもう揃っていた。


「おはよう」

「「おはよう」」

「ねえ、長谷川くん」

「なに?」

「長谷川くんのヘルメットなんだけど、1階層の中は天気もいいし、長谷川くんがヘルメットが必要なほどのモンスターって出てこないんじゃない?」

「じゃあ取っておくか」

 俺はその場でフルフェイスヘルメットを外しリュックの中に入れた。

「その方がいいよ」


 これからは秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と1階層に潜る時はヘルメットなしでいいか。

 俺のことフィギュア男ということで身バレしてるみたいだし。

 逆に秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と1階層に潜るときはフィオナがいないから、いつのもヘルメットを被っていなければフィギュア男とは思われないかもしれないし。


 4人で改札を通りその先の渦を抜けた。

 1階層に太陽はないものの相変わらず青空の広がるいい天気。

「いい天気だなー」

「夏だろうと冬だろうと春みたいだからホントにいいところだよね」

「ここに住めたら冷暖房不要だからいいよね」

「でもネットも使えないし、テレビも映らないよ」

「ネットは大問題だけど、テレビは適当なメディアを持ち込めば十分じゃない?」

「それもそうか。

 おばあちゃんになったら、そんなものもいらなくなるから、こういったところに住みたいよね」

「そうか! 老人ホームを造ればいいんだ!」

「老人は夜も早いから電気もあんまり使わないでしょ? ならここで十分暮らせるんじゃない?」

「確かに」

「でも周りがわたしたちみたいな冒険者ばかりだと落ち着かないよ」

「確かに」

「結局今のままで十分って事よ」

「だね」

 俺が一言「いい天気だなー」と言っただけでここまで話が広がってしまった。

 女子恐るべし!


 今日の予定をどうするか3人に聞いた。

「さて、今日はどうする?」


「あれ?

 長谷川くん、ネックストラップの色、銀色に見えるんだけど」

「あっ! ほんとだ!」

「ということは、Dランク。1億円プレーヤーだ!」


「ちょうど昨日、昇格したんだ」

「うそ! いやホントだけど。ビックリだよ」

「さすがは、わたしの長谷川くん」

 いつの間にか俺は日高さんの物になっていた。


「長谷川くんは、わたしのだよ」

 と、今度は中川さん。

 これっていわゆるハーレムなのだろうか?

 そんな感じは残念ながら全くないな。


「2人ともそれはいいから。

 それで今日はどうする?」と、斉藤さんが話を戻してくれた。


「そうだねー。

 確かに外は雨だったのにこう天気がいいとピクニックの気分だよね」

「だね」

「最近そのパターン多くない?」

「とは言っても、長谷川くんについていけば適当にモンスターに遭遇するし、良いんじゃない」

「うん。

 昼近くまで歩いて適当なところでお昼にすれば立派なピクニックだよ。

 今日もちゃんとお菓子持ってきてるし」

「わたしもー」

「わたしもだけどね」


 そういうことで昼まで適当にモンスターをたおしながら移動することになった。


 心の中でディテクター!

 さすがに人の出入りが多い渦の近くでは反応がなかった。


 目当てはないので徘徊モードに移行して3人を連れて移動始めた。

 見ようによっては美少女3人を連れての練り歩きだ。


 ディテクターを発動しながら練り歩いていたら、俺たちの後ろをついてきていると思われる一団があった。

 良からぬ予感がする。

 俺はその連中を回避するため方向転換したところ、その一団も方向転換した。

 明らかに俺たちが目当てだ。

 いや、俺たちの中に俺が入っているかどうかはまだ不明だ。


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