第74話 Dランク冒険者


 売店を出た俺はサイタマダンジョンセンターの玄関ホールの脇に置いてある椅子に座って時間を潰すことにした。

 何もすることがないので、センターを出入りする冒険者をぼーと眺めていた。

 ごつい体つきの冒険者もいれば、華奢な女性冒険者もいる。

 たいていは数人のグループで出入りしていたので、ほとんどの冒険者はチームを組んでいるんだろう。


 安全を求めるなら当然チームだが、収益を考えればソロが圧倒的に有利だ。

 しかし、Bランクまでなら現れるモンスターは普通1匹なのでソロでも何とかなるが、Cランクになると複数モンスターを相手取ることになり途端に難易度が上がる。

 氷川でさえ、特異な存在なのだ。

 俺はさらに上を行くけどな。




 9時20分前。

 俺は免許センターの玄関前で、免許センターが開くのを待った。

 俺の他にセンターが開くのを待っている者は見当たらなかった。

 9時15分前。

 俺の後ろに人が集まり始めた。

 5分前。

 シャッターが上がり始め、9時ちょうど、玄関の自動扉が開いた。

 俺は昇級手続き窓口に駆け込んだ。

 当然1番だ。


「お願いしまーす」

 窓口の人に緑色のカードを差し出した。

「CランクからDランクへの昇格ですね?」

「はい」

 窓口の係の人は俺が差し出した冒険者証に記載されていた俺の名まえを見てひとこと。

「ああ、長谷川さん。

 16歳で1億円を達成した冒険者として、サイタマダンジョンセンターだけでなく、ダンジョン管理庁内でも話題になっています。

 わたしが担当できて光栄です」

 ちょっと照れるなー。

 しかし、ダンジョン管理庁のなかでも話題になるってちょっと気になるが、ここは日本。

 無茶なことにはならないはず。

 だよな?

「ただ、Dランクに解放されている6階層から10階層、特に10階層は6人チーム推奨となっています。

 長谷川さんは今後もソロで活動されるおつもりですか?」

「そのつもりです」

「そうですか。

 くれぐれも無理をなさらないよう、ご活躍ください」


 Cランクの冒険者証とネックストラップを返し、顔写真を新しく撮ってもらった俺はDランクの冒険者証とネックストラップを貰った。

 今度はシルバー、銀色だ。

 ニヤニヤが止まらない。

 俺は係の人に礼を言って、免許センターからウキウキで隣のダンジョンセンターに向かった。


 エスカレーターを駆けのぼり2階の武器預かり所で、いつものメイス2本とナイフに加え、久しぶりに大剣クロを払いだしてもらった。


 預かり所の前で装備を整えた俺は、1階に下りて改札を通りその先の渦を抜けた。



 5階層から6階層に下りる階段前には例のごとく改札がある。

 俺は階段で下りた4階層から5階層に跳ぶ際、改札近くに跳んだ。

 もとより5階層以降に潜る冒険者はDランクかSランクの冒険者。

 Dランクの冒険者の数は少ないしSランクとなるとこのサイタマダンジョンでは『はやて』の連中だけのはずなので思った通り誰もいなかった。

 ここで改札を通り、階段を下って6階層に下り立った。


 6階層はもちろん今までと変わらぬ坑道型のダンジョン。

 5階層よりも若干坑道が広く高くなっている。

 俺の目指すは10階層なので、今日買った地図を見ながら階段を目指した。


 地図を確かめながら15分ほど進んだところに7階層への階段があった。

 同じように、7階層から8階層、8階層から9階層。

 そして9階層から10階層に俺は下り立った。

 5階層から10階層まで1時間。

 その間モンスターはディテクターでヒットしたが実際の接触はなかった。


 10階層ももちろん坑道型ダンジョンだったが、5階層と比べるとはっきり分かるほど坑道が広く高くなっていた。

 大剣クロの出番だな。


 ここからはサーチアンドデストロイ。



 核だけで稼ごうと思っている俺には関係ないが、6階層以降の爬虫類系、哺乳類系は肉もニーズが高く結構な値段で買い取ってくれるそうだ。


 各6階層から9階層に現れるモンスターと核の値段はこんな感じだ。

 6階層

 巨大昆虫(クワガタ、カブトムシ、その他)、スライム、ムカデ、大ネズミ、蜘蛛、オオカミ、大トカゲ、大ヘビ、イノシシ。2匹~5匹

 核の値段、3万円~4万円

 7階層

  巨大昆虫(クワガタ、カブトムシ、その他)、スライム、ムカデ、大ネズミ、蜘蛛、オオカミ、大トカゲ、大ヘビ、イノシシ。2匹~5匹

 核の値段、3万円~4万円

 8階層

  巨大昆虫(クワガタ、カブトムシ、カマキリ、その他)、スライム、ムカデ、大ネズミ、蜘蛛、オオカミ、大トカゲ、大ヘビ、イノシシ。3匹~6匹

 核の値段、5万円~6万円

 9階層

  巨大昆虫(クワガタ、カブトムシ、カマキリ、その他)、スライム、ムカデ、大ネズミ、蜘蛛、オオカミ、大トカゲ、大ヘビ、イノシシ。4匹~8匹

 核の値段、5万円~6万円


 そして、10階層に現れるモンスター。

 巨大昆虫(クワガタ、カブトムシ、カマキリ、その他)、スライム、ムカデ、大ネズミ、蜘蛛、オオカミ、大トカゲ、大ヘビ、イノシシ。6匹~10匹。

 そしてクマ。こいつだけは単体らしい。

 核の値段はだいぶ大きくなり8万円~10万円、熊の核はもう少し大きくなって値段も30万。

 ダンジョン管理庁のホームページに載っていた10階層での最低人数は4名以上。推奨チーム人数は6名だった。


 俺にとってモンスターが沢山出て単価も高くなる10階層が一番の魅力階層というわけだ。


 時刻は10時15分。

 それでは始めるか、サーチアンドデストロイ。

 ディテクター!


 すぐに反応があった。

 距離にして300。

 150メートルほど進んだところで、接近してくる複数の気配を感じた。

 オオカミはもう少し気配が小さいから、イノシシじゃないか?



 100キロはありそうなイノシシが7、8匹坑道の曲がりから現れた。

 俺を認めたイノシシが俺に向かって文字通り猪突してきた。


 俺はお味見にメイスで立ち向かおうと思ったが、メイスの強度がちょっと心もとなかったので、背中からクロを引き抜いて構えた。


 迫るイノシシに向かってクロを一振り。

 2匹のイノシシの頭蓋を水平に両断した。

 一突き。

 3匹目のイノシシの眉間にクロを縦に突き入れそのまま上に。

 クロを振り下ろして4匹目のイノシシの首を落とした。


 残ったイノシシは4匹。

 その4匹は仲間が一瞬のうちに死んでしまったことに驚いたのか、様子をうかがうように突進を止めてしまった。

 そいつは悪手だ。


 止まってしまったイノシシなど何の脅威にもならない。

 俺は残ったイノシシに突っ込んでいき、瞬く間に4匹のイノシシを両断した。

 3匹は首を落としたのだが、1匹はタイミング悪く胴体を両断した。


 もちろん坑道内はイノシシの死骸と流れ出た血とこぼれ出た何か**でメチャクチャになったが、不思議なことにそれほど臭くはなかった。

 

「タマちゃん、残骸を片付けて核を渡してくれ」

 残骸を吸収し終わったタマちゃんから8個の核を貰った。

 核の大きさは直径で4センチ弱。

 かなり大きい


 これ1個が10万円だとすると既に80万円。

 効率が良すぎぎる。


 その場でディテクターを発動したが、アタリがなかったので、10分ほど徘徊モードで移動してディテクターを発動したらアタリがあった。


 シメシメ。

 俺は表情筋を緩めまくって次のアタリに駆けていった。

 おー。

 大蜘蛛がひしめいているーー!

 10匹のフル面子メンツじゃないか!

 俺はヒャッハーとは叫ばなかったが、今にも叫び出したい気持ちを抑えてクロを持って大蜘蛛の中に突っ込んでいった。


 ワシャワシャしている大蜘蛛は若干気味悪かったが、こいつらがお金だと思えばそんな気持ちは薄れて、かわいく見えてくるから不思議だ。


 いいお客さまのバラバラ死体をタマちゃんに片付けてもらって、10個の核を手に入れた。

 イノシシの核と同じ大きさの核だった。

 そういうものなのだろう。



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