第72話 赤ウサギ2、氷川涼子5
俺は5階層で赤い大ウサギと対峙していた。
俺の魔術は効かないようなので、物理で何とかしなくてはならないのだが、大ウサギは転移を駆使して捉えどころがない。
大ウサギに攻撃力はほとんどないので脅威というほどではないところが救いだ。
俺はメイスを空振りしながら何かいい手はないか考えた。
そうだ、俺はひとりじゃない。
今のところフィオナは戦力にはならないが、タマちゃんがいる。
タマちゃんの偽足で捉まえてしまえば赤い大ウサギもイチコロのハズ。
「タマちゃん。
俺が相手している赤ウサギを処理してくれ」
リュックの中から金色の偽足が伸びて赤い大ウサギに迫った。
しかし偽足が触れる寸前で赤い大ウサギは転移して俺の後方に跳んだ。
そしたら2本目の偽足がリュックから赤い大ウサギに伸びた。
再度赤い大ウサギは転移して俺のすぐそばに現れた。
俺が蹴っ飛ばそうとしたら反対側に転移した。
そこで一気にリュックから数十本の偽足が伸ばされ、坑道には隙間がなくなり赤い大ウサギは偽足に捕捉されアッというまに吸収されて消えてしまった。
この状況を他の冒険者が見たら恐怖するだろうけど、タマちゃんさまさまだ。
直ぐに1本だけ残してタマちゃんの偽足がリュックの中に消え、残った偽足からこぶし大の真っ赤な核が手渡された。
これは高く買い取ってもらえそうだ。
何回かリュックを攻撃されたので一度リュックを床に下ろして穴が空いていないか確かめたところ、異常はなかった。
よかった。
赤ウサギの角がリュックを貫通する前にタマちゃんが押し戻してくれたのかもしれない。
その後、ニヘラ笑いをしながらサーチアンドデストロイを続けたのだが、午前中は他の冒険者に出会っただけで他のモンスターに出会えなかった。
いつものように坑道の壁によりかかるようにして座り込み昼食のおむすびを食べながら赤い大ウサギのことについて考えていた。
俺だったから赤い大ウサギの突進の衝撃でダメージを受けなかったが、普通の冒険者だったら最低でも路面に突き倒されたはずだ。
赤い大ウサギがかじるような攻撃をするのか分からなかったが、もしそういった攻撃があるなら倒れてしまった冒険者は防ぎようがない。
俺でも捕捉できなかった赤い大ウサギを一般冒険者が捕捉できるわけがないのでじり貧となる。
ああいった特殊なモンスターが出現したという情報はどこかにあるのかもしれないが、おそらく初めてだったのではなかろうか。
今後転移を操るモンスターが出現したとして、大問題になりそうだ。
まず、転移という特殊能力の存在。
そして、それなりの攻撃力を持っていたら俺でさえケガをする恐れがある以上、一般の冒険者では対処不能で大けがや絶命の危険があること。
タダの冒険者の俺がいろいろ考えても仕方がないけどな。
まっ、なるようになるだろ。
大騒ぎになり過ぎてダンジョンが閉鎖されるようになれば困るが、まさかそんなことはないだろう。
赤い核を売る時何か聞かれたらどう答えるか。
正直に遭遇した赤い大ウサギをたおして手に入れたと答えるしかないが、転移
証明できないわけだし、言いつのればアタオカ扱いになりそうだし。
あんなのがこれから先ポンポン現れるとは思えないのでそれで十分だろ。
午後に入っても最初はまったくモンスターがディテクターでヒットしなかったが、2時過ぎ辺りからぽつぽつヒットし始めて、上がろうと考えていた3時半には12個の核を手に入れていた。
4時15分。
買い取り所に到着。
まずは12個の核をトレーに出した。
その後、赤い核をトレーに出した。
「長谷川さん。
またすごいものを。
この核は初めて発見された核だと思います。
暫定的に1千万円長谷川さんの口座に振り込まれますが、残りの金額は今週中には振り込まれると思います。
もしよろしければ、どのようにしてこの核を手に入れたかお教え願えますか?」
センターの職員がこのように
とはいえ、秘密にしなければならないような情報でもないし、心証は大事なのでちゃんと考えていた通り答えた。
「5階層を歩いていたら、中型犬くらいの赤いウサギがいたのでたおしたところ、その核が手に入りました」
「5階層で赤いウサギですか」
「はい」
「その赤ウサギの死骸はお持ちではないんですよね」
「はい。ソロプレーヤーなんでウサギの死骸は坑道の壁際に投げ捨ててきました」
「分かりました。
ご協力ありがとうございます」
今日の買い取り額は1024万2千円となった。
累計買い取り額は7239万2500円+1024万2千円=8263万4500円。
赤い核を3000万円以上で買い取ってもらえれば、一気に大台突破。俺はDランクだ!
この世界に戻ってからの俺ってむやみに運いいよな。
武器預かり所に武器を返した俺は、ルンルン気分でうちに戻った。
高校の授業を1日挟み、今日は祝日。
氷川と潜る約束の日だ。
時間と場所は8時に渦の先。
俺は7時30分にセンターの売店で食料関係を買い込んでから武器預かり所に行きそこで武器を受け取った。
そしたら、ちょうど氷川もいたので、2人で装備を整えて渦を越えて1階層に入った。
1階層に入ってからは俺はいつものように朝食のサンドイッチを食べながら軽い駆け足で移動した。
氷川は何も言わず俺についてきていた。
朝食を食べ終わった俺は駆けながら気になっていたことを氷川に聞いた。
「そう言えば氷川。一昨日の日曜日5階層に行ったか?」
「いった。
午前中全くモンスターに出会わなかった。
あんなのは初めてだ。
午後少しすぎてやっとモンスターに出会った」
「やっぱりそうか」
「長谷川もそうだったのか?」
「俺もそうだった。
昨日はどうだった?」
「少し少なかったかもしれないが調子の悪い日程度で普通と言えば普通だった」
「そうか。
じゃあ、今日はいつも通りに戻っていそうだな」
「そうならいいがな」
俺たちは8時半前には5階層の坑道の上に立っていた。
ディテクターで探ったら簡単にヒットした。
「今ディテクターで探ったらヒットした。
ダンジョンは常態に戻っているようだ」
「そうなのか。
それは良かった」
「それじゃサクサク行くぞ」
「おう」
午前中1度の休憩を挟んだだけで俺たちは駆け通しでモンスターをたおしていった。
午前中の成果は、俺が54個。氷川が24個。
前回より氷川の動きは良くなっていて、最初のモンスターを初撃でたおす確率が4割ほどまで上がっていた。
お互いに食べ終わったところで午前中の動きについて氷川に感想を話しておいた。
「氷川。今日は前回より動きが良かったぞ」
「何だか長谷川が見ていると思うとちょっと頑張れるようなんだ」
「そいつは良かった」
感想の後はあの赤ウサギのことを話した。
「話は変わるが、
「やり合ったということは、長谷川でも一撃でたおせなかったということか?」
「そう言うことだ。
というか逃げ回るので俺ではたおせなかった」
「何と!」
俺の言葉に氷川はかなり驚いたようだ。
「それほどまでに機敏だったということだな」
「少々機敏でスピードが速い程度なら何とかなると思うが、そいつは転移で移動するんだ。
メイスで捉えたと思っても全て空振りした」
「転移を使うモンスター。脅威ではないか?」
「幸い攻撃力はあまりないんだ。
俺が受けた攻撃はぶつかり攻撃だけで、ダメージはなかった。
しかし普通の冒険者なら弾き飛ばされるくらいの衝撃はあったと思う」
「それでどうなった?」
「結局タマちゃんの偽足の網に絡めて吸収してやった。
あんなヤツがそうそう現れるとは思えないが、現れたら注意してくれ」
「注意と言ってもどうすればいいんだ?
長谷川でもどうしようもなかったモンスターだぞ」
俺でさえ気付いたときには至近にいたモンスターだ。
氷川にどうこうできるとは思えない。
「何とかして逃げきるしかないだろうな」
「相手は転移できるんだろ?
逃げ切れるわけないぞ」
「確かにそうだな。
トラップのようなものがあれば有効かもしれないが、トラップがあったとしても出会った後に仕掛けられないものな。
今回はとっさのことだったから思いつかなかったが、転移だってそう何回も続けてできるとは思えないからそのうち転移できなくなる可能性もある」
「それは分かるが、その回数が10回くらいならいいが100回とか1000回なら意味はないぞ」
「確かに。
そこも含めて運次第。
出くわさないことを祈るしかないか」
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