第71話 氷川涼子4。赤ウサギ


 モンスターハウスへの壁を壊すためファイヤーボールを連射した最後の一発でモンスターハウスの中身を皆殺しにしてしまった。

 その後はタマちゃんに処理してもらい、一度に42個の核を手に入れた。


「俺が核はもらっておく」

「あ、ああ。もちろんだ」

 核を腰袋に入れて、一体どういったモンスターが潜んでいたのか確かめようと貫通した穴からその先のモンスターハウスの中をのぞこうと思ったが、よく考えたらタマちゃんが全部食べてしまったあとなので確かめようがないことに気づいた。


 その代り天井を崩壊させるため、穴から空洞の天井に向かってファイヤーボールを連射してやりすぐに後ろに引いた。


 連続してひとつになった爆発音に続いてゴゴゴゴゴと天井が崩落するお腹に響くような音と一緒に空いた穴から粉塵がすごい勢いで噴き出てきた。

 ちゃんと崩落してくれたようだ。これで貫通した穴は塞がった。


「長谷川、今度は何をやったんだ?」

「こんなところに穴があったらマズいと思って天井を落として穴をふさいでやった。

 何日かしたら元に戻るから問題ない」

「なるほどというか、よくそんなこと知ってるな」

「一度やったことがあるからな」

「なるほどというか、返事に困るな」



 モンスターハウスのおかげで一気に42個も核が手に入った。

 これで俺の核は午前中のも合わせて78個。

 氷川は変わらず18個。


「それじゃあ、次行くぞ」

「ああ」


 しばらく進んでディテクターを発動させたら、反応が複数あった。

 近い順に潰していこうと進んでいく。

 前方からスライムが2匹。


 氷川が鋼棒を構えて前に出て、そして一匹目のスライムに鋼棒を振り下ろした。

 心持ち鋼棒を振り下ろすスピードが上がったかなと思ったら一撃でスライムは潰れて水跡になった。

 2匹目のスライムに対しては2撃が必要だったがまずまずだった。


 スライムの核を拾っている氷川に向かって、

「今の初撃は良かったんじゃないか?

 自分でも分かっただろ?」


 氷川は振り返って俺に答えた。

「肩に力が入らないよう意識しつつスライムの中心目がけて振り下ろした。

 スピードが乗っていた気がする」

「その調子でやっていけば、少しずつ威力も増してスピードも上がってくるだろ」

「頑張ってみる」


 それから一度休憩を挟んだだけでサーチアンドデストロイを4時近くまで続けた。

 だいぶ氷川の息が上がってきた。


 俺の今日1日の成果は核111個。

 氷川は26個。

 


「俺はそろそろ上がるが、氷川はどうする?」

「わたしも上がる」

「じゃあ一緒に帰ろう。

 まずは3階層への階段がある4階層の空洞の端に跳ぶ。

 肩に手を掛けられるのは嫌だろうから俺のどこでもいいから手を添えてくれ」


 氷川が俺の手袋をした左手を手袋をした右手で取ったので、そこで転移を発動。

 4階層の空洞に着いたところで、階段を上り3階層に。

 そこで改札を抜けて、少し進んでから1階層への階段がある2階層の空洞の端に転移した。

 そこからは速足で階段を上り、階段小屋の改札を抜けて渦まで一直線に進んだ。


 買い取り所には別々に入った。

 俺の111個の核は221万8千円。

 これで、累計買い取り額は7017万4500円+221万8千円=7239万2500円となった。


 買い取り所を出たら先に終わったらしい氷川が待っていたので、2人で武器預かり所に回り武器を預けた。


「次一緒に潜れるのはいつになる? 次の祝日の23日はどうだ?」

「それでいい」

 何気に氷川と次も潜ることになっていた。いいけど。

「時間と場所は8時に渦の先でいいか?」

「了解」


 俺はそこで氷川と別れ、いつもの道筋で最後に転移してうちに戻った。


 うちに戻った俺は自室で普段着に着替え、防具類をタマちゃんにクリーニングしてもらった。

 タマちゃんにクリーニングしてもらった防具類は新品に見える。


 靴をクリーニングするのはちょっとかわいそうかと思ったけれど「靴がきれいになればいいな」とか言ったら、タマちゃんの偽足が少し開いていた部屋のドアの隙間から伸びていった。

 扉を開けてのぞくと玄関まで偽足が伸びて下駄箱の中に先端が入ってすぐに縮んで戻っていった。

 玄関まで下りていって下駄箱の中をのぞいてみたらダンジョン用の安全靴がピカピカになった。

 それ以来、毎日クリーニングしてもらっている。



 翌日からは普通に高校の授業があり、土曜も昼まで授業があった。

 俺は組はじきにされることなく普通に高校生活を送れた。



 そして日曜日。


 今日は心置きなくソロで楽しめると、7時には家を出てルンルン気分でダンジョンセンターに向かった。


 売店で食料類を調達し、武器預かり所に回ってもろもろ装備した俺は、朝食のサンドイッチを頬張りながら移動して7時40分には5階層でサーチアンドデストロイを開始していた。

 今日は大収穫の予感がする。


 

 確かに大収穫の予感はあったのだが、ディテクターに何もヒットしないまま、30分ほど5階層を高速で徘徊した。


 出てこい、出てこい、モンスター。


 見つからないものは仕方がない。

 しかし、釣りじゃないんだからじっとしていても始まらない。

 ということで、高速徘徊の継続である。

 

 やってコイコイ、ビッグウェーブ!


 ディテクターの反応がないまま、更に20分。

 おかしい。

 その時背後に何かの気配を感じた。


 振り向いたらそこに1匹の赤い大ウサギ?が赤い目をして俺を睨んでいた。

 いつそこに現れたのか、どうやってそこに現れたのか。

 全く分からない。

 ただ、そいつはかなりの存在感を漂わせている。

 事前情報には赤い大ウサギなどなかったが、いずれにせよ5階層のモンスター。


 俺はそいつに向かって突進し、間合いに入った瞬間メイスを振った。

 確実にそいつの頭をカチ割ったはずがメイスは空振りし、代わりに俺の背中の真ん中がリュック越しにかなりの勢いで押された。



 タマちゃんが入っているリュックのおかげで押されただけだったがこのダンジョンで初めて反撃されたわけだ。

 少しびっくりした。

 リュックに穴が空いた可能性があるが、それだけだ。

 

 こいつは転移で俺の後ろに現れて俺を攻撃したのだと思う。

 5階層にいていいようなモンスターではない。

 とは言え種が割れてしまえばどうということはない。


 俺は坑道の路面でじっと俺を睨んでいる赤い大ウサギに向かって不可視の風の斬撃、ウィンドカッターを放った。

 ウィンドカッターは俺の目にも見えないので発動したはずだが赤い大ウサギは健在だ。

 普通に考えて転移もできるくらいなんだからウィンドカッター程度の魔術は防げるのだろう。

 厄介な。


 魔術がダメならやはり物理。

 幸い赤い大ウサギの攻撃は軽いのでダメージはほとんどない。

 先ほどと同じ攻撃を仕掛けて、後ろから跳びかかってくるところを待ち受けてやればメイスは簡単にヒットするだろう。


 構える赤い大ウサギに近づき、メイスを振る。

 思った通りメイスは赤い大ウサギの頭があったはずの位置を空振り。

 俺は空振りしつつ体を半回転させたら、赤い大ウサギが跳びかかって宙を移動中だった。

 その赤い大ウサギの頭部に半回転したメイスを叩き込んだ。

 と思ったら、また赤い大ウサギは消えてメイスは空振りした。




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