第70話 氷川涼子3、同行2


 氷川涼子に俺が異世界からの帰還者、そして元勇者であること以外話しておいた。

 隠したままだと、活動が大きく制限されるからだ。

 当たり前に氷川が驚いてくれて少しスッとした。


「次のターゲットはもう見つけている。

 いくぞ」

「お、おう」


 今度のターゲットは大蜘蛛2匹だった。

「2匹なら簡単だから、氷川がたおしてみろ」

「分かった」


 氷川は鋼棒を構え近づいてくる大蜘蛛に向かっていった。

 最初の大蜘蛛に鋼棒を突き刺したが浅く、致命傷を与えることができなかった。

 2匹目の大蜘蛛をけん制し、大きく踏み込んで最初の大蜘蛛に鋼棒を叩き込み何とか1匹目は動かなくなった。

 その後は、腰の入った一撃が2匹目に決まって、簡単に2匹目は動かなくなった。


「タマちゃん」

 リュックの中から金色の偽足が2本伸びて、あっという間に蜘蛛の死骸は消え俺の右手に2つの核が残された。

 俺はその核を氷川に手渡した。


「何も取り決めていなかったが、核の配分はたおした者が受け取ることでいいだろ?」

「それでいい」

「あと、モンスターの数が3匹なら俺がたおす。2匹以下のときは氷川がたおす。

 それでいいか?」

「わかった」

「じゃあ、次行くぞ」


 次のターゲットは大トカゲ3匹だった。

 俺が3匹を瞬殺してタマちゃんが処理して核が3個手元に残る。


 その次は大ネズミが2匹。

 氷川が手こずりながらもたおした。

 タマちゃんが処理して2個の核を氷川に渡す。


 7時40分ごろ5階層に到着して以来、話のため短く立ち止まった以外はずっとサーチアンドデストロイだ。

 もちろんサーチとデストロイの間は氷川に合わせてスピードは押さえているものの駆け足だ。

 俺が戦っている時間は文字通り一瞬だからその時間氷川は休めない。

 氷川が戦っているあいだ氷川は全力だ。


 9時半くらいから氷川の息が荒くなってきたので、10時に少し休憩することにした。

 氷川はヘルメットを脱いで小脇に抱えスポーツドリンクを飲み始めた。

 そして、同じようにヘルメットを小脇に抱えて緑茶を飲んでいる俺に聞いてきた。

「長谷川、いつもこんな調子で走り回っているのか?」

「いや。ほかの冒険者がいたら、驚かせないように歩くことが多い」

「それ以外は走っている?」

「まあそうだな。

 そろそろ行くぞ」

「あ、ああ」


 ヘルメットを被ってサーチアンドデストロイを再開した。


 ……

 

 12時少し前まで走り回り、昼休憩を取ることにした。

 午前中の成果は俺が36個、氷川が18個。

 氷川を連れていた割に悪くない成果だ。


「昼にしようか」

「ああ」


 俺たちは坑道の左と右の壁に沿って向かい合って座わり、昼食を食べた。

 氷川は例の特大おむすび。

 俺とタマちゃんはおむすびパック。

 フィオナには俺がおむすびからとったご飯つぶ。


「なあ、長谷川」

 氷川がおむすびを食べる手を止め俺に話しかけていた。

 俺は口に入っていたものを飲み込んでから、

「なんだ?」


「長谷川から見てわたしの足りないところは何だ?

 分かるなら教えてほしい」

「そうだな。

 冒険者という意味ではいい線いっているんだろうが、一撃が軽いうえに正確さが足りない。

 今は2匹しか相手にしていないだろ? 相手が2匹いたとして初撃で最初の敵をたおすことができれば、あとは1匹を相手にしているのと同じだ。

 正確で重い一撃が放てるようになったら、次の攻撃まで隙ができなくなるようスピードを上げていく。

 それができるようになれば、敵が何匹いても1対1に持ち込める」

「なるほど。

 ダンジョン高校時代そういったことを考えたこともなかったし教師にも言われたことはなかったが、さすが長谷川だな」

 プライドがあるやつはえてして素直にアドバイスを聞かないものだが、こいつはアドバイスも素直にちゃんと聞くようだ。



「しかし、よく短期間で1日100万円稼げたな」

「アレは寝ずに24時間かけて集めたものだ。

 1日は24時間だからな。

 わたしは今実家から離れてサイタマダンジョンに近い祖父母の家に厄介になっているんだが、朝帰りしたらひどく怒られた。

 祖父母に怒られたのは初めてだった」

 冒険者の仕事は危険だ。

 いつ帰るのか教えておかないと当然家族は心配する。

 その辺りダンジョン高校で教えていなかったのだろうか?


 氷川には少々配慮に欠けるところはあるようだが、やる気と根性もあるようだ。

 素直なうえにやる気と根性があるやつは確実に伸びる。


「その根性は認めてやるよ」

「ありがとう」

 氷川は嬉しそうに微笑んだ。

 こいつ、笑うとすごい美人だ。


 お互いに昼食を食べ終え後片付けをして、しばらく休憩して午後からのお仕事のために支度を整えた。

「それじゃあ、行くぞ」

「ああ」


 ディテクターを発動したところ反応がなかった。

「近くにモンスターはいないようだから、もう少し進んでから探ってみる」


 道なりに坑道を駆けていったら前方に冒険者のキャップランプの明かりが見えてきた。

「もう少し近づいたら歩こう」

「わかった」


 前方からこっちに向かってくる冒険者は3人。

 彼らとの距離が50メールほどになったところで俺たちは駆け足から早歩きに切り替えた。


 その冒険者たちの一人がすれ違いざま、

「フィギュア男と赤い稲妻」

 確かにそうつぶやいた。

 フィギュア男は俺のことだと思うが、赤い稲妻というのは氷川のことか。

 たしかに、赤いヘルメットをかぶって黒字に赤いラインの防刃ジャケットだものな。

 しかし、赤い稲妻とフィギュア男。

 扱いに差があり過ぎないか?


 冒険者たちが通り過ぎたところでディテクターを発動したところターゲットを発見した。

 しばらくそのまま歩いてからターゲットに向かって駆けだした。


 ターゲットの位置はすぐ先に開いていた分岐路の先200メートルほど。

 分岐に入ってターゲットに向かって進んでいったのだが、ターゲットまで150メートルもまだあるのにそこで坑道は行き止まりだった。どこかから回り込まないとこの分岐からではターゲットに近づけないようだ。


 それはいいのだが目の前の坑道の突き当りの壁の奥からビンビンモンスターの気配が伝わってくる。


「壁の奥なのか?」

 氷川が聞いてきた。

「そうみたいだ」

「反対側から回り込めないのか?」

「回り込める道があるなら、もうどっかに分散しているんじゃないか?

 壁の向こうの気配は2匹とか3匹といった数じゃないぞ。

 2、30匹はいる感じだ」

「確かにこの気配は多数のモンスターがひしめき合っている気配だ」


「おそらくこの壁の向こうはモンスターハウスだ」

「モンスターハウスについては話には聞いたことはあるが、それでどうするつもりだ?

 壁がある以上何もできないだろう?」

「もちろんたおす」

「壁をどうする?」

「壁を壊して壁の向こうのモンスターも全部たおす。

 危ないから10メートルくらい後ろに下がっていてくれるか」


 氷川は何も言わず後ろに下がった。

 俺も下がって氷川の前に立ち、右手から白く輝くファイヤーボールを正面の坑道の壁に向けて連射した。


 ドドドドドドドドドーン。


 ファイヤーボールが爆発するたびに、破片を飛び散らせながら壁が抉れていき、穴が深く大きくなっていった。


 10発目が貫通した穴から抜けていき一拍おいてドーンと音を立てた。


「何なんだ、こんどは?」

「ファイヤーボール。

 お前も名まえくらいは聞いたことがあるだろ?」

「それは聞いたことがあるが、小説や漫画、アニメの中だけだ」

「良かったじゃないか、実物が見られて」

「そう言われればその通りなんだが」

 それ以上氷川は何も言わなかった。


 俺は気付いていたが、10発目の爆発の後、前回同様モンスターの気配はなくなっている。

 氷川も気付いているはずだ。


 貫通した穴の大きさは人がくぐれるほどではなかったが、首を突っ込んで中の確認はできるし、もちろんタマちゃんの偽足は侵入できる。

 従って何も問題ない。

 核を回収したら天井を崩落させておけばそのうち前回同様元に戻るだろう。


「タマちゃん」

 リュックの中から数本偽足が伸びていき、貫通した穴を通っていった。

 10秒ほどで偽足は戻ってきた。

「核は俺の足元に置いてくれるか」


 核がタマちゃんの偽足からぼたぼた地面に落ちてきた。

 数を数えたら42個あった。

 やっぱ、モンスターハウスはありがたい。



[あとがき]

宣伝:

作者の主観による作品の辛さ(エグさ)。


辛口(大人向け)

現代ファンタジー:異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!

現代ファンタジー:秘密結社、三人団 -神の国計画-(常闇の女神シリーズ3)


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歴史短編:堀口明日香の仮想戦記その1、2、3

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異世界ファンタジー:魔術帝国、廃棄令嬢物語

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