第69話 氷川涼子2、同行
文化祭の翌日は国民の祝日で学校は休み。
もちろん俺はタマちゃんとフィオナを連れてダンジョンに直行した。
売店で昼食用の
1階に下りて改札を通り渦を抜けたら少し先に真っ赤な地に黒いラインの入ったフルフェイスヘルメットを被った女冒険者が立っていた。
ひかわりょうこだ。
「おはよう。長谷川一郎」
「おはよう。
それと人の名まえをこんなところでフルネームで呼ぶな」
「す、済まなかった」
「まあいい。
で、俺に何か用か?」
「5点になった」
「5点?
何それ?」
「おい、忘れてしまったのか?
1日で100万儲けたら一緒に潜ってくれるといっただろ!」
そう言えばそのようなことを言ったような言わなかったような。
言ったんだろうな。
そこで、ひかわりょうこは買い取り所の発行した
確かに総買い取り額が100万を超えていた。
しかし、数日分の成果を溜めて買い取り所に持っていけば100万超えることは簡単だ。
とは言うものの、目の前のひかわりょうこがそういったことをする人物とはさすがに思えない。
「わかった。
一緒に行こう。
ただ、約束してもらいたいことがある。
約束できないようならこの話はなしだ」
ひかわりょうこは何を勘違いしたのか分からないが身をこわばらせた。
「いったいどんな約束だ?」
俺は周りに聞こえないよう少し声を落として氷川に答えた。
「俺はいろいろ秘密を持っている。一緒に行動するとなるとそれをお前も知ることになる。
俺の秘密を絶対口外しないと約束できるか?」
「なんだ、そんな簡単なことか。
もちろん約束する」
ひかわりょうこはあからさまにホッとしていた。
「じゃあ一緒に行こう」
正直足手まといだし、儲けは少なくなるわけだから嫌なのだが、一度約束したことは守らないとな。
俺は氷川を連れて、いつものように朝食のサンドイッチを食べながら階段小屋に速足で歩いていった。
「長谷川、朝食べてこなかったのか?」
「ああ。
ひかわは食べてきているのか?」
「もちろんだ」
「そうか、それは良かったな」
「立ち止まって食べた方がいいのではないか?」
「いや慣れてるから大丈夫だ。
ところでひかわ、お前の名まえは漢字でどう書くんだ?」
「氷の川に、サンズイに京都の京で涼しい。それに子どもの子だ」
氷川涼子か。名まえから連想されるカラーは青色だが、本人は赤が好きらしい。
「カッコいい名まえじゃないか」
「ありがとう。
名まえをほめられたのは初めてだ」
うれしそうな声で氷川が答えた。
こいつ、感情が声に出るのか案外素直だな。
階段小屋の改札を抜けて、階段をある程度の速さで駆け下りた。
ちゃんと氷川涼子は俺の後をついてきていた。
「氷川、こっちに来てくれるか」
氷川を階段下の空洞の隅に連れて行った。
周囲を見回して他の冒険者がこっちを見ていないことを確かめ俺は氷川の肩に手をかけた。
「な、何?」
氷川は突然肩に俺の手が置かれたことで相当ビックリしたようだが、俺は構わず4階層へ続く階段の近くに転移した。
「あれ?」
「氷川、ここは3階層で、4階層に続く階段の近くだ。
今のが俺の能力のひとつ転移だ」
「転移?」
「そう、転移。
俺の知っているところならどこでも一瞬で跳んでいける能力だ」
「まさかそんな」
俺は半分呆けている氷川を階段前の改札まで案内した。
「ほら、3階層の改札だろ?」
「……」
「改札を抜けて4階層に下りたらそこでもう一度転移して5階層に進む」
「わ、分かった。
でも、どうして一度で転移しないんだ?」
「改札を通ってないと面倒が起こるかもしれないから用心している」
「なるほど」
氷川も納得したようだ。
改札を抜けた俺たちは4階層まで下りてそこで5階層に転移した。
「ここは5階層のかなり奥の方になる」
氷川が俺の言葉にうなずいた。
理解も早いし、素直ではあるな。
「2つ目の秘密だが、
俺は転移の他にいわゆる魔術が使える」
「えっ!?
魔術の存在は未確認だが存在するのではないかと言われている。
ダンジョン高校でそう習ったが、長谷川が魔術を使えるというわけか。
さっきの転移も魔術なんだろうから驚くほどのことでもなかったな」
「厳密にいえばアレは魔術じゃないんだが、そういうことだ。
ほらな」
俺は手のひらを上に向けてそこでライトの魔術を発動した。
まばゆいばかりの青白い光が辺りを照らした。
俺の思っていた以上の光だったのですぐに消した。
また俺の魔術の力が強くなっている気がする。
大丈夫だろうか?
それはさておき、氷川は黙ったままだった。
ヘルメットが邪魔で表情が読み取れないので、分かってくれたのかどうかはわからないが、ちゃんと分かってれたと思うしかない。
「今のはライトの魔術だったがほかに何種類か魔術を使える。
ディテクター」
俺はわざと声を出してディテクターを発動した。
「いまの魔術は周囲を探る魔術だ。
おそらくモンスターだと思うが複数反応があった」
「じゃあ、その魔法でモンスターを見つけていたわけか?」
「そういうことだ」
「……」
「それじゃあ、さっそく反応のところに急ぐぞ」
「ああ」
駆けだした俺の後を氷川が追ってくる。
しばらく駆けていたらモンスターの気配が伝わってきた。
この気配は間違いなくオオカミだ。
「俺がモンスターをたおすから見ててくれ。
その後もうひとつの秘密を教える」
俺は2本のメイスを左右の手に持ってオオカミの気配に向けて駆けだした。
坑道の曲がりからオオカミが3匹跳び出てきて向かってきた。
俺は速度を落とすことなくオオカミに向かって突進していき、ワン、ツー、スリーで3匹のオオカミを仕留めた。
そして、
「タマちゃん」
俺がタマちゃんの名まえを呼んだらリュックから金色の偽足が伸びて瞬く間に3匹のオオカミは消え、手の上に3個の核が残った。
「今の金色の触手は?」
「あれが俺のもうひとつの秘密だ。
タマちゃん出てきてくれるか?」
俺がそう言ったらタマちゃんがリュックから這い出してボトンと坑道の路面に落ちた。
「金色のスライム!」
「そう。
俺の相棒、何でも食べるタマちゃんだ」
「タマちゃん」
「そう、タマちゃん。
俺の言うことを理解してくれる。
今回はオオカミの核だけ残して死骸を食べて核を俺によこした」
「なんと。
転移に魔法に言うことを聞くスライム。
長谷川のことが世間に知れたら文字通り大ごとになるではないか!?」
「だから秘密なんだよ」
「わ、分かった。
決して口外しない」
「それでいい」
「最後に」
「まだあるのか!?」
「フィオナ、氷川にあいさつして」
俺の肩にフィギュア然として座っていたフィオナが飛び上がり、赤いヘルメットの前で一度お辞儀してまた俺の肩に戻った。
「なっ。
フィギュアではなかったのか?」
「妖精のフィオナ。
かわいいだろ?」
「か、かわいい」
魔術の由来などに関連して俺が異世界帰りであることはこれから氷川と一緒にダンジョンで活動するにあたり意味のないことだから話す必要はないだろう。
氷川ならちゃんと話せば信じてくれそうだが、話すこと自体大変だしな。
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