第68話 2学期5、後夜祭
食べ歩きだけでだいぶお腹も膨れてしまったところで、俺だけ冷ややかな視線を受けつつ俺たち4人は再度校舎内を巡った。
今月最後の日曜日にいつもの場所と時間で一緒にダンジョンに潜ると決めたあと、3人はこれからカラオケに行くと言って2時ごろ帰っていった。
文化祭が終了し後片付けが始まる4時まで講堂での出し物で時間を潰した俺は、教室に戻って後片付けを手伝った。
俺を見るみんなの目が冷たかった。
俺から見てリア充だろうと認識していた文化祭有志の面々も俺を見る目は特に冷たかった。
冷たくなかったのは、同じ後片付けのグループとなった鶴田たち3人だけだった。
俺たち4人は、取り壊したベニヤ板や角材を教室から校庭に雑談しながら運んだ。
ちなみに、そういった物は積み重ねて後夜祭のファイアストームの燃料にされる。
「長谷川、今日の
鶴田が3人を代表したような質問をしてきた。
「ひとりは中学の時の同級生だったが、偶然サイタマダンジョンで再会して、その子の同級生ふたりとも知り合った。そう言う意味ではダンジョン効果と言えなくもないか」
「ダンジョンは経済効果だけもたらしたわけではなかったということか」
「ぬかったな」
「
「冬休み。頑張ってみるか」
「10万はきついが、親に頼み込んでみるか」
「だな」
「鶴田たちが本気で冒険者を目指すというなら俺が最初のころ一緒に潜ってやるよ。
ある程度ノウハウあるからモンスター狩もスムーズになると思うぞ」
「ほう。
そうなれば、借金返済も早まるわけだな」
「すぐに効果が現れるわけじゃないが、ダンジョンでモンスターをたおし続けていると身体能力が上がるからな。
その代りこれから先スポーツの大会を目指すなら冒険者だと大会に出られないからそこらへんは承知しておけよ」
「われわれがスポーツ大会を目指すようなことはあり得ないので全く問題ない」
「全くその通りだ」
「あり得んな」
「あと、確認はされていないようだが頭もよくなるような気がしているんだ。
少なくとも記憶力は高まると思う」
「それは俺も聞いたな。
まだ実証されてはいないようだけど、ほぼ間違いないだろうという話だ」
「だとすると
「長谷川という実例があるし、いい材料になる」
「だな」
手の空いたほかの生徒たちも手伝ってくれたので教室と校庭を4人で3往復したら教室の中にベニヤ板や角材はなくなった。
機材を提供した面々は各自手提げ袋のようなものに機材を納め、土足で汚れた教室の床掃除をして最後に机と椅子を並べて教室内の片付け作業は終わった。
その後は、同じように土足で汚れた廊下などの清掃が始まり、後夜祭の始まる6時の20分ほど前に全作業が終了した。
6時10分前に文化祭委員から後夜祭を始めるので校庭に集まるよう放送があり、みんなぞろぞろと教室を出て校庭に向かった。
少し前に日が暮れていたがもちろん外はまだ明るい。
生徒が後片付けをしている間に業者がやってきて校庭の端にステージを組み立てている。
ステージの上には大きなスピーカーが置かれ、アンプのような機器も置かれていた。
そして校庭の真ん中には、今日の出し物で使用した燃えるゴミが積み上げられていた。
6時ちょうど。
ステージの上に上った文化祭委員長から一言あり、そのあと、教師によって点火用のたいまつが数本ゴミの山に突っ込まれ、ゴミの山は簡単に着火して火は燃え上がりファイアストームができ上った。
そのあと、3年生の司会でカラオケ大会が始まった。
最初は3年生の担任で物理の先生がステージに上がった。
その後次々と担任を持つ教師がステージに上がり、教師のためのカラオケ大会になってしまった。
しかし、逆に大盛り上がりだった。
俺はクラスの連中たちと一緒になって調子に乗って大声で声援を飛ばし拍手していた。
教師のカラオケが10曲くらい続いたころで、ステージ上の司会がすっかり暗くなった校庭を見回した。
「そろそろ、生徒のカラオケが始まってもいいんじゃないかー?」
ということで、生徒がステージに立つようだ。
誰がステージに上がるのかと期待していたら、なぜか俺がクラスメートたちの手によってステージに引っ張り出されてしまった。
ステージに上がった俺に司会が曲目を聞いてきたので正直に、
知っている曲は『君が代』しかないと言った。
そしたら司会から帰っていいと言われた上に校庭から「引っ込めー」の嵐が起こってしまった。
俺が悪いんじゃないぞ。
俺がすごすごとステージから降りてクラスメイト達のところに戻ったらみんな満足そうな顔をしていた。
これでよかったようだ。
結局、その後2年生と3年生がステージに上がったあと、また担任を持つ教師のカラオケが続いた。
もちろんわれらが1-1の担任の吉田先生もステージに上がり、美声を披露した。
曲は高島みゆきさんの『銀の龍の口車に乗って』だった。
秋ヶ瀬ウォリアーズの3人もうまかったけれど、吉田先生はもうプロだ。
歌い終わった後、大拍手、大声援で、アンコールコールが沸き起こってしまった。
ステージから下りようとしていた吉田先生は司会に止められもう一曲披露することになった。
2曲目は、上川みくにさんの『ひがしかぜ』。
俺は聞いたことがなかったがとあるアニメのテーマソングだったらしい。
素晴らしかった。
そのアニメも見たくなってしまった。
曲の雰囲気からほのぼの系のアニメかと思って鶴田に聞いたら、これはシビア系のロボットアニメだと教えられた。
ますます見たくなった。
文字通り夜空を焦がしていたファイアストームも消え、午後8時に後夜祭は終了した。
各自早めに自宅に帰るよう指示があったが、明日が祝日ということもあり街に繰り出したグループもいたようだ。
もちろん俺はひとりで自宅に戻った。
暗かったこともあり、校門を出たところで転移で跳んだ。
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