第67話 2学期4、文化祭2


 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人を校舎の中の出し物に案内して回った。

 俺はただ友だちを案内しているだけなのに、いく先々で文字通り熱い視線を感じてしまった。

 女の嫉妬という言葉は話に聞くことがあるが、男の嫉妬もすごいものだ。

 本物のリア充諸氏も同じような視線を感じているのだろうか?


 ある程度見て回ったところで、斉藤さんが俺に聞いてきた。

「長谷川くんは1年の何組なの?」

「俺は1組」

 俺は正直答えたくはなかったのだが、さすがに嘘は吐けない。


「11。……、

 お化け屋敷やってるじゃない」

 パンプレットを見て斉藤さんが俺の組の出し物を探し当てた。

「そこ行ってみようか?」

「俺はお化け屋敷の仕切りのべニア板に墨を塗っただけなんだけどね」

「なにそれー」

「おもしろーい」

「こらこら。人の努力を笑っちゃだめだよ」

「とにかくそこ行ってみようよ」

 結局そうなるよな。


 俺は覚悟を決めて1年1組の教室へ彼女たちを案内した。


「おい、長谷川が美少女を3人も連れてやってきたぞ!」

斉藤さんたち3人を連れた俺を目にしたクラスメートが伝言ゲームのようにニュースを伝えていった。


 俺たちが入り口に到着したところで手すきのクラスメートたちによりお迎えのアーチができていた。


「長谷川くんご一行4名さま。

 ご入場ーー!!!」


 暗幕で窓を覆っているため、お化け屋敷の中はかなり暗くなっており、ところどころ赤色ライトで足元が照らされている。


 一歩足を踏み入れたところで、下から冷たい風が足元を通り抜けた。

 氷を入れたボウルに小型ファンで風を送っているらしい。

 よくできた仕掛けだ。

 スイッチは入り口横に潜んだ人間だ。

「なに?」

「びっくりした?」

「そうでもない」


 次の仕掛けは通路の脇に立っているお地蔵さまの前を人が通ると首が落っこちる。

 コトン。

「なに?」

「びっくりした?」

「そうでもない」


 突き当りには赤と青の光でライトアップされた理科室から借りてきた人体模型。

「人体模型だ!」

「うちの人体模型肝心のところが付いていなかったけれど、これも付いてないよ」

「ほんとだ」


 上から霧吹きで霧が吹きかけられ、吊り下げられたコンニャクが後ろから頭に当たる。

「涼しい風」

「これって霧じゃない?」

「わたし頭セットしたばっかだから、ちょいヤバ」

 その言葉で霧吹き係は慌てて霧を吹きかけるのをやめた。


 通路の横に置かれた棺桶。

 いきなり蓋が開いて怪人が起き上がった。


「うわ! ビックリ!」

「こわかったー」

「ご苦労さま」

 最初のふたりのセリフは平坦で、最後のご苦労さまは普通のあいさつだった。


 最後の出し物はライトアップされた首吊り死体がニッと笑う。

「キャー!」

「こわーい!」

「ご苦労さま」


 高校生レベルとすればそれなりの出来ではあったが、鶴田たちの懸念通りの出し物だった。

 普通ならお化け屋敷を出たところで案内した3人に「どうだった?」と聞くところだが、聞けなかった。


 次は隣のクラスでやっていた喫茶店に入った。

「4名さまごあんなーい」


 むだにレベルの高いウェイトレス******に机を4つ使ったテーブルに案内された。

 3人は紅茶で、俺だけコーヒーを頼んだ。

 値段はどちらも50円。

 運ばれてきた飲み物を飲みながら次どこに行くか話し合ったところ、もう少ししたら講堂で軽音楽部のコンサートが開かれるようなのでそれを見に行こうということになった。

 ちなみに、コーヒーは値段からしてインスタントだったのだろうが結構おいしかった。


 喫茶店で時間調整した俺たちは出口で代金を払って講堂に向かった。

 開け放たれた講堂の扉から中をのぞくと、軽音楽部のコンサートがもうすぐ始まるというのに席はガラガラだった。

 うちの学校の軽音楽部の実力のほどは俺にとっては未知だが、客の入りから考えて、そういうことなのだろう。


「さいたま高校の軽音部って有名なの?」

「うーん。どうだろ?

 うちの軽音部は結構有名みたいだけどさいたま高校の軽音部のうわさは聞いたことないな」

「わたしもない」


 あまり期待はしていなかったが、部長のあいさつの後演奏が始まった。

 ベース、ギター、ドラム、ボーカルの4名。

 小所帯のようだ。

 曲はビートルズのメドレーだった。

 期待はしていなかったが、結構うまい。

 楽器演奏のレベルはお世辞にも最高とはいえなかったがボーカルは最高だった。

 彼のファンもいたようで、数人の女子が演奏中にも曲に合わせて手を振っていた。

 軽音はモテルというのは都市伝説ではなかったようだ。


「結構うまかったね。

 とくにボーカル」

「うん。

 英語もそれっぽかったよね」

「さすがさいたま高校ってところじゃない?」


 軽音楽部は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人に合格点を貰ったようだ。


 講堂を出た俺たちは、校庭に回って出店を見て回ることにした。

 俺は先日食べたたこ焼きを思い出したので、ちょうど出来立てを売っていたので買うことにした。

 3人も俺と同じようにたこ焼きを買ったので4人してたこ焼きを爪楊枝で突き刺して食べながらほかの店を見て回った。


 そして、運命の時がやってきた。

 前方から鶴田たち3人を発見した。

 彼らも俺の姿を発見したようだ。


 4人揃ってたこ焼きを食べていた以上、俺が3人の美少女を連れ歩いていることは自明だ。

 鶴田たち3人はそこでUターンして雑踏の中に消えていった。

 済まない、鶴田、坂口、浜田。


 彼らには心に深い傷を負わせたかもしれないが後の祭り。

 だがこういった結末は予想できた。

 運命のようなものだ。


『運命はわれわれの行動の半分を支配し、残りの半分をわれわれ自身にゆだねている』



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