終末記アダム

軽間 二ノ

プロローグ:最後の人類

――こちらα隊、侵略者アルターの群れを確認。

100km/h の速度で走る少女の形をした人擬き。

アンドロイドと呼ばれるそれは、口元のマイクを通して連絡を取っていた。

本来、自身が媒介となって可能であるものを、わざわざ人の模倣をしているのだ。


――α、貴様は単独行動だろう。

司令部からの冷たい指摘。少女は無表情のまま黙り込む。

――引き続き尾行し、βとの合流を待て。

慣性を無視した無音の急停止と共に建物の崩落部分に身を潜める。

――了解


そういって、少女は腰に携えていたハンドガンをホルスターから抜く。

「交戦開始!」


連絡は途絶え、司令部はため息と共に頭を抱える。

「誰だ。あのじゃじゃ馬を今回の調査に派遣したのは」

「貴方です」

メガネを人差し指でそっと上げ、冷たく言い放つ秘書。

「……そうだったな」


青い惑星・地球。命の海と呼ばれたここはかつて人類が支配していた。

知恵を持って力を制し、生存競争から一脱した種族である。

しかし、同士での争いは最後まで消えることがなかったそうだ。

弓矢、剣、大砲、鉄砲、ミサイル、国力。

形を変え、血は流れなくとも競争が絶える事はなかった。

故に留まることなく、発展を続けていたのだろう。


――ならば、侵略者との闘争も無意味ではないのだろう


「殲滅完了」

αからの報告によって、思考を止める。

「そこは人類の軍事施設だったようだ。アルターに気を付けながら調査してくれ」

「了解」


我々が起動される前、人類は突如として姿を消した。

街を、文明を残したままに人間だけが姿を消したのだ。

人類と共に活動していたアンドロイド・Dva。現在は艦長を務めている彼女は多くを語らない。生存者を探し、文明を維持することが我々の存在理由である。

その一言だけを頼りに生きるしかないのだ。我らは人に造られし命なのだから。


――複雑な思考を検知。モードを切り替えます


突如としてノイズが思考を阻害し、痛みが全身に走る。


「うぐっ!」


「司令!」


後ろに倒れ込む司令の肩を支え、立て直す秘書。

「すまない、いつものだ」

「まったく。考えごとも程々にしてくださいね」


そうこうしている内に、司令部のモニターがαとの視界共有モードになる。


「どうした?」


「司令、これは……」


「なっ……!」


αの視線は一機の搭乗型兵器を映していた。

内部電源も既に尽き、立ち尽くすだけの鉄くずとなったそれの中に、一つの奇跡を。

殻に籠る様に体育座りした一人の少年を、人間を見つけたのである。


「人間だ……」


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終末記アダム 軽間 二ノ @hayaki_osamu

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