第27話

 そして、朝を迎えて、2人は帰った。リビングのソファーで読みかけの小説を読みつつ、そろそろ昼食にしようかと考えていた頃、緋山さんが帰ってきた。

「あ、お帰りなさい。早かったですね、夜になるかと思ってました」

「うん、予定よりちょっと早まった。結衣さんと由香里さんは、もう帰ったの?」

「はい。お蔭様で、2人ともとても楽しめたみたいです」

「藍は?」

「え?」

「藍は、楽しかった?」

「あ、はい。私も、楽しかったです」

「なら、良かった」

 緋山さんはミリタリーコートを脱いで、椅子の背にかけて腰を下ろした。いつも俯いて歩くけど、今日はいつも以上に項垂(うなだ)れている。少し疲れてるのかな。

「あの、お風呂沸かしましょうか?」

「あぁ、ありがとう」

 普段は湯は張らなくていいって言ってるのに、珍しい。やっぱり、疲れてたみたいだ。せっかく大きな湯船があるのに、湯を張らないなんて勿体ないと思うけど、その気持ちは少しわかる。このお風呂は、大きいだけに、浴槽を洗うのが面倒臭いんだ。こういうところは、もっと一般的な浴室の方が快適かもしれない。

 昨晩、由香里と結衣と入ったお湯が残っていたので、まずはそれを抜いた。3,4人は同時に入れそうな大きさだから、お湯を抜くのにも時間がかかる。

 リビングに戻ると、緋山さんは何をするでもなく、テーブルの椅子に腰かけて、机の上を指でトントンと叩いていた。

「お友達に会いに行くって、どこまで行かれてたんですか?」

「アメリカのシリコンバレー」

 予想の通り遠方だった。しかも海外だったなんて。

「どういうご関係の友達なんですか?」

「友達、という関係だけど」

「いえ、高校時代のとか、大学時代のとか、そういう意味です」

「ちょっと前の、仕事仲間だよ。ちなみに、僕は大学には行ってない」

 と言うことは、高校までは通ってたのかな。その辺りの身の上話は、今度じっくりと聞いてみたいと思いつつ、なかなか聞けないでいる。お風呂のお湯が抜けるまでの間に、今日の晩御飯は何にしようかと、冷蔵庫の開けて、残りを確かめてみた。

「結衣さんは、元気そうだった?」

「え、結衣…ですか? はい、元気でしたよ」

「そっか」

 ここで、結衣の名前が出てくるのは意外だった。もしかして、恵美のアカウントの件を解いてしまったことで、少し気にかかる部分があったのかもしれない。

「藍、話があるんだ。座って」

 なんだろう、急に改まって。もしかして、私に出ていけという話かな。居候の身で、2人も家に泊めるなんて図々しかったとか。でも、あれは緋山さんが承諾したのだから大丈夫のはず。そんな不安を胸中に巡らせながら、私は緋山さんの向かいに腰かけた。その口から聞こえてきたのは、私の想像の遥か外にあるものだった。

「君に、お願いがある。僕の妹を殺した犯人を、突き止めて欲しい」

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