第9話

 少し、間が続く。3人は私の説を吟味しているみたいだった。ほぼ思い付きで喋ったから、穴があるんじゃないかと、少し緊張する。気を紛らわそうと、辺りを見回してみた。イルミネーションで飾られた家々や、コンビニの入り口に置かれたツリーが目立つ。ハロウインが終わって、街は手のひらを返したようにクリスマスモードになっている。この変わり身の早さには、余韻も何もあったもんじゃないなと、毎年思う。

「部屋の画像については、どう考えてる?」

 沈黙を終わらせたのは、緋山さんだった。

「アカウントの削除を依頼するような間柄だから、相当に仲が良い相手です。恵美の家族と面識があった可能性も高いです。だから、例の朝番組の当日、お焼香を上げに来たとかの理由で、恵美の家にあげてもらいます。その流れで、恵美の面影を求めて、部屋を覗かせて欲しいと申し出ても、不自然ではありません。写真はそうやって撮りました。画像だから音はいらないので、消音でTVをつければ家族にはバレません」

 そこで、ちょっと待ってと、由香里が割って入る。

「それって、思いっきり恵美ちゃんの部屋に人をあげちゃってるじゃん。誰もあげてないって話はどうなったの?」

「そんなのは、ご家族の方にお願いすればいいんだよ。自分がここに来たことは、どうか秘密にして欲しいって。理由は、委員会や朝練をサボって来ているからとか、適当にでっち上げればいい」

 次いで、結衣。

「でもさ、娘の親友と言えど、いきなり部屋を撮りだすのは不自然なんじゃない? しかも、TVまでつけて。たまたま家族が目を離してくれることに賭けたってのも、ギャンブルが過ぎるし」

 その点は、私も話していて引っかかった。だけど、場の流れを上手く作れば、出来なくもない。

「家族の目があるなら、堂々と許可を取って、撮らせてもらえばいいんだよ。生前の面影が残るこの部屋を、せめて写真に残させて欲しいとか言って。その流れで、そう言えば恵美の好きなアーティストが生放送で流れています、とか言って、TVをつける。そうやって例の写真を撮る。以上が、恵美の死後もアカウントにアクセス出来て、恵美の部屋の画像を投稿できた理由…かなと、思います」

 結衣と由香里から、感嘆の声が漏れる。予想以上のリアクションが、少し恥ずかしい。ちらりと、緋山さんの方を見ると、もう、私の方を見ていなかった。

「なるほどなぁ。それなら確かに、この悪質な悪戯を再現できるね」

 結衣の納得に、由香里が続く。

「だけど、そうなると最後の疑問は、どうしてそんなに信頼の置ける相手が、こんな性質の悪い悪戯に走っちゃったのかって点だよね」

「それについては、私達が考えても仕方が無いから、この悪戯の犯人に聞くしかないよ」

「もし、藍ちゃんの推理が正しいなら、恵美ちゃんのご家族にその辺も踏まえて深く追求したら、喋ってくれるかもだね」

「どうする? これから行ってみる?」

 結衣が私達に視線を巡らせてきたので、私は本音で返した。

「う~ん…あんまり乗り気しないかも。そう何度も、誰か来てないかなんて聞きに行ったら、恵美の家族も気になるよね。実はこんな悪戯が起きてるんです、なんて、家族の耳に入れたくないし」

「そりゃまぁね、そうだよね。私もそう思う。なんだか、藍の推理を聞いて納得しちゃったよ。どうせ、恵美のアカウントはみんなブロックしてるんだから、犯人もそんな一人芝居、そのうち飽きてやめるでしょ」

 その後は、適当な雑談を少し交わして、結衣と由香里は寄るところがあるからと商店街の方に歩いて行った。

「緋山さん、どうしましょう。まだ、恵美の家に行きますか?」

「うん、行く」

 緋山さんの即答に、不安が過る。

「私の推理は、間違っていたでしょうか?」

「間違っている」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る