第17話 ただいまとおかえり

今日はお姫さんが帰ってくる日。そろそろかな。

遠くからお姫さんの姿が見えて、すぐに駆け寄りそうになった。でもお姫さんは友達と話しているみたいで楽しそうに笑っていた。

お姫さんが笑っているのはとても嬉しい。だけど、一番近くで見ていたい。早く抱きしめたいよ、お姫さん。

しばらくして話し終えたお姫さんがこっちに気がついてくれて走って向かってくるのが見えた。俺も急いでお姫さんの元へ向かった。


「おかえり。お姫さん」

「…ただいま」

久しぶりのお姫さんの温もりに涙が溢れそうになる。

「早く帰ろう。お姫さん」

「うん」


おかえりを言うのもただいまを言われるのも、すごく久しぶりに感じる。ほんの少し離れてただけなのに、こんなに寂しいなんて…。一之瀬さんも、同じ気持ちなのかな…。

そうだといいな。だってずっと手を握ってくれてるから。

握られた手を強く握り返すと、一之瀬さんは優しく微笑んで指を絡めた。照れくさいけど嬉しくて、久しぶりに感じる頬の熱さと胸の高鳴りに、寂しさは消え心地良さだけが残った。

一之瀬さんの寂しさも消えてるといいな。



「ふぅ…。荷解きはこれで終わりかな」

「うん。手伝ってくれてありがとう」

「お姫さんの役に立てて嬉しいよ」

帰ってきてから少し慌ただしかったけどようやく落ち着いたかな。お姫さん疲れてるだろうし、お茶でも用意しようかな。

俺が少し動き出すと、後ろから何かに引っ張られる感じがして、振り向けばお姫さんが裾を引っ張っていた。

「どうしたの?お姫さん」

そう聞くと

「えっと、これ…色々悩んで買ってきたお土産。おそろいの物が多くなっちゃって……その…」

恥ずかしそうに視線を揺らしながら、お姫さんがお土産をくれた。

箸置きにお茶碗に湯呑……全部色違いのおそろいだ。

「お姫さんありがとう。全部大切にする。俺からもいい?」

「え……」

お姫さんのために用意したお土産を渡すと、お姫さんは思ってもいなかったみたいでとても驚いていた。

「これは……?」

「実はね俺も仕事で行ってたんだ。お姫さんと同じところに。そのお土産だよ」

「……そう、なんだ。お土産、ありがとう。でも……言ってくれたらよかったのに…」

「え?」

笑った顔が見られると思っていたらお姫さんは少し悲しそうな顔をしている。

「お姫さん?」

どうしたんだろう……。気に入らなかったのかな…。

途端に不安が押し寄せてくる。けれどお姫さんの言葉は思いもよらないもので。


「深也さんと一緒にいたかった…。修学旅行だから、無理なの分かってるけど……」


少し頬を赤らめて言うお姫さんが可愛くて仕方なくて、思いがけない言葉とその姿に胸が高鳴った。

お姫さんがこんなにも嬉しい言葉を言ってくれるなんて。ああ、もう。お姫さんはいつも俺が喜ぶことばかりしてくれるね。これ以上俺を夢中にさせてどうするんだろう。

俺だって一緒にいたかったんだよお姫さん。お姫さんも同じ気持ちですごく嬉しい。

「今度二人で一緒に行こう。お姫さんの行きたいところもしたいことも全部しよう。一緒に」

「うん………!」

お姫さんの表情が一瞬で明るいものに変わりほっとする。ぱあっと明るくなったお姫さんが眩しい笑顔を見せてくれて、その笑顔がかわいくて……あぁ、どうしよう。嬉しいのに途端に込み上げてきちゃった。

「お姫さん……抱きしめてもいい?すごく…さみしかったから」

なんて言われるのか少し怖くてお姫さんを見つめるのをためらった。

「いい、よ…」

お姫さんが抱きついてくれた。その動きはまだ少しぎこちないけれど、小さな体でめいっぱい俺を愛してくれてるみたいでたまらなくうれしい。お姫さんの方から来てくれるなんてこんな幸せあってもいいんだ…。

「だって私……深也の彼女だから」

ああ……もう、そうやってお姫さんは…。俺をもっと大好きにさせる。ねぇお願い─────。

「俺以外の人に言ったらだめだよ?お姫さん」

「言わないよ……。深也さんしか好きじゃない」

本当に…どこまで君は夢中にさせるんだろう。かわいいのも甘えるのも何もかも全部───俺だけにしてねお姫さん。俺の全部もお姫さんにだけだから。

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