第14話 さみしくないよ、独りじゃない

最近の私は、少し変だ。気づけば一之瀬さんのことを考えている。あの時の言葉がずっと頭に残っている。思い出すだけで胸が熱くなって、一人で照れている。

帰ってくるのが遅い日は落ち着かなくて、早く会いたくて体が勝手に動いている。

一人の時間なんて今までいくらでもあった。それでも……こんなに寂しいのは、どうして?


ドアの向こうから聞こえてくる足音が大きくなり、ドアが開けば

「ただいま。……!お姫さん、待っててくれたの?嬉しいよ。…抱きしめてもいい?」

甘えるように聞かれたら……拒めない。

「ん」

両手を広げて待っている一之瀬さんに抱きついた。

「! お姫さん……かわいい…」

私の頭を撫でる一之瀬さんの手も声色も、何もかもが優しくて、寂しさなんて一瞬で忘れられる。

ただ少し離れてだけで、寂しくて不安で、堪らなく苦しくて、そばにいて欲しい……早く会いたいって思うのは​─────

「一之瀬さんのこと……好きだから」

「え───」

恥ずかしいのに一之瀬さんの顔を見たくて、胸にうずめていた顔を上げた。

「私───一之瀬さんのこと、好き」

「………………っ、 お姫さん……」

今にも泣きそうな一之瀬さんを見て少し不安になる。

「一之瀬さん…?」

「…っ。ごめん……お姫さん…。俺、嬉しくて…泣きそう……」

泣きそうなのは…うれしいから……。そっか、うれしいから……。

「一之瀬さん…泣いていいよ。私には───私にだけはどんな姿も見せて。これから先も…ずっと」

「…!もちろん。どんな姿だって、お姫さんになら見せられる。だから、お姫さんもたくさん見せて?お姫さんの全部が大好きだから」

「うん……。一之瀬さんにだけ…見せてあげる」

「ふふっお姫さん────大好きだよ」

「私も、大好き」

互いの鼓動が聞こえるほど強く抱きしめあう。

「ふふ…お姫さんも俺もすごくドキドキしてるね」

「……幸せ、だから」

「……! そうだね。すっごく幸せだ。これから先もずっと永遠に」

「うん。だって独りじゃない、さみしくない……でしょ?」

「……うん。独りじゃない、さみしくない。お姫さんといれば俺はずっと幸せだよ」

私の頬に一之瀬さんの手が触れ、見つめ合う。

「私も、一之瀬さんといればずっと幸せ」

私たちの鼓動はどんどん早くなって、互いの息遣いと共に響き合う。


そのまま君にもっと近づこうとした。けれど、これ以上は触れられない。本当はもっと君に、お姫さんに触れたい………でも、これ以上はまだダメだ。頬に触れた手をそっと離して頭を撫でる。ダメなんだ……これ以上は。君を傷つけたくないから。

大丈夫……待つのは慣れてるから。耐えるのも得意だし。この我慢は苦しいものじゃない。君を幸せにするための時間だ。

お姫さん​────俺が君を幸せにする。そのためなら俺はなんだってするよ。

​────俺は、君のためにここにいるんだ。


これ以上はダメだと何度も自分に言い聞かせて心を落ち着かせた。

今はそっと君の頭を撫でるだけ。これだけでも本当は十分すぎるくらい幸せなはずなんだ。……欲張りになって、いけないは俺は。

俺の手がお姫さんの頭から離れると

「ねぇ一之瀬さん」

俺を見上げたお姫さんが

「ん?どうしたのお姫さん」

「一之瀬さんの名前教えて欲しい。一之瀬って苗字でしょ?ちゃんと一之瀬さんのこと…名前で呼びたいから」

とびきりかわいいお願いをしてきた。

こんなかわいいお願い、聞かないわけないよ。

「…! お姫さん……もちろん、ちゃんと教えるよ。俺の名前は​─────」

あぁ……やっと呼んでもらえる。お姫さんに俺の名前を​─────。

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