第13話 独りぼっち

【誰にでも選ぶ権利がある】

頭の中に響き続ける言葉をかき消してほしくて、行く当てもなく歩き続けた。かつていたあの施設場所も私の帰る場所じゃない。どこにもない。私の帰る場所。

歩き疲れて近くの公園にあったベンチに座り込む。

彼の周りにはたくさん人がいる。私の知らない交友関係だってたくさんある。

彼には選択肢がたくさんあって、その中で彼はずっと私のそばにいてくれるわけじゃない。

私じゃない誰かといた方が、幸せなはず。

でも、私には……​───。


彼までいなくなったら、私はまた───​────


「独りぼっち……──」

雨にかき消されるずの言葉は

「独りじゃないよ」

彼に拾われた。

見上げれば、傘を差した一之瀬さんがいて、自分が泣いていることを思い出しすぐに下を向く。

視線を合わせるようにしゃがんでいるみたいで視界に彼の手が入り込む。

優しく私の手を握って、うつむいたままの私に彼は語りかけた。


「お姫さん、俺は君が思っているような人じゃないよ。俺はね、ある人のためにずっと生きてきた。その人の隣にずっといられるような、その人を笑顔にできるような、そんな男になりたくて。友達もろくに作らず生きてきた。久しぶりに会ったその人は前よりもずっと寂しそうで…胸がぎゅって締め付けられた。それでも、その人は俺の手を取ってくれた。俺を選んでくれたんだよ。嬉しかったな……すごく。その場で抱きしめそうになったくらい。もちろん我慢したけど。それからその人は、少しつづに笑顔を見せてくれるようになった。本当に嬉しかった…。俺が笑顔にできている確証はなかったけど、それでも……その人の──君の笑顔がずっと見たかったから」

彼の言葉に堪らず顔を上げた。彼の顔が見たくて。

私の顔を見てホッとしたのか、いつもより優しく笑いかけてくれて、私を見つめたまま彼は続けた。

「それからも、君はいろんな表情を見せてくれるようになった。怒った顔も、今みたいに……泣いてる顔も。俺の本音も聞きたいって言ってくれた。さみしいって言っても変わらずそばにいてくれて。いつだって寄り添ってくれた。世界で一番愛おしい人​───」

彼に強く抱きしめられる。雨に打たれて冷たくなった体は彼の熱で温まる。

「ねぇお姫さん……俺は君の王子様になれてるかな。……最初はただ君の隣にいられればそれでよかったんだ。けど最近は……欲張りになったみたいで、君を独り占めしたいって気持ちが捨てられないんだ。欲張ったらいけないのに……どうしようもなくて…。お姫さんのこと独り占めしてずっとずっと一緒にいたい。離したくないし離れてほしくない。だから……ね、独りじゃないよ……?お姫さん……」

彼の言葉一つ一つが嬉しくて、涙が溢れて止まらなくなる。

「ねぇ……お姫さん、好きだよ……大好き。一人だなんて言わないで。ずっと…ずっと……俺だけのお姫さんでいて​……──​─」

耳元で囁くように言われた言葉は胸が締め付けられるほど切実なものだった。嬉しくてたまらなく苦しい。

私を抱きしめる彼の力は先ほどよりも強くなり、感じていた不安はとうに消えていた。私は彼の背中に腕を回して、彼を強く抱きしめた。

「捨てないで……その気持ち。捨てられるのは悲しいから」

雨なのか分からない雫が私の首筋を伝った気がした。彼が泣いている気がして顔を上げようとしたけれど、私のすべては彼の胸の中に。

「捨てないよ。絶対に」

今までで一番近く、彼の声が聞こえた。少し掠れた彼の声を愛おしく感じながらもっと強く抱きしめる。この時間がずっと続きますように。独りじゃないこの時間が​、ずっと────。

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