第5話 やっと見れた

お姫さんが来てからの時間は毎日楽しくて嬉しくて。おはようも行ってらっしゃいも、お帰りもおやすみも全部君に言える毎日が幸せで、いられる時間はずっとお姫さんといられるようにたくさん時間を作った。休みの日はお姫さんとデートに行って、少しでもお姫さんがこの時間になれて心地いいって思ってくれたらって。そうやってお姫さんと過ごしていたある日のこと。


来たときはずっと戸惑っていたお姫さんも少しづつ表情が柔らかくなって、それがたまらなく嬉しくなっていたその日はお姫さんと公園へ散歩に行くことにした。

しばらく歩いて休憩しようと思っていたところに、クレープを売っているお店を見つけた。

「お姫さん、クレープ食べる?」

お姫さんは少し悩んでいる様子で

「……うん。食べたいです」

頷いた後にそう言った。

お店の前まで行って二人でメニューを見る。

「お姫さんどれがいい?」

「…この、チョコのやつがいいです」

「うん分かった。お姫さんはベンチで座って待っててね」

「……うん」

こくりと小さくうなずいてベンチがある方へ向かうお姫さんを見送ってから、クレープを頼んだ。出来上がってすぐにお姫さんの元へ向かう。

「はい。どうぞお姫さん」

クレープを手渡して隣に座る。俺が座るとお姫さんは食べ始めてその姿があまりにもかわいくてつい見惚れてしまう。

視線に気が付いたお姫さんが

「一之瀬さん、食べないんですか…?」

自分だけ食べているのが申し訳ないのか食べるのをやめてそう聞いてきた。

「ふふっ。ごめんね、お姫さんがかわいくてつい見惚れてた。大丈夫ちゃんと食べるよ」

お姫さんは顔を赤らめながらも再びクレープを食べ始めた。

なんて幸せな時間なんだろう…。お姫さんと並んでクレープを食べれる日が来るなんて。本当によかった。───お姫さんが手を取ってくれて。

「ふふっ……」

感慨深くてつい泣きそうになっていた時ふいに笑い声が聞こえた。お姫さんを見れば笑っていて────、え?お姫さんが笑ってる…?少しづつ柔らかくなっていたお姫さんでもまだちゃんと笑っている姿は見たことがなくて、そんな君が…お姫さんが笑ってる…………。でも俺何にも───。

「一之瀬さん……クリームついてる」

お姫さんは俺の顔を見てそう言っていた。

口の周りに触れればクリームが手について、あ……ほんとだ。いつもならこんな姿絶対見せないけど、それでもお姫さんの笑顔が見られたならたまにはいいのかな。

「教えてくれてありがとうお姫さん」

お礼を言ってクリームを舐めてみる。うん、この時間みたいに甘くておいしい。

……あ、お姫さんの笑顔に見惚れて気づかなかったけど────

「お姫さんもついてるよ」

お姫さんにそっと触れてクリームを取った。

「うん。お姫さんのも甘くておいしいね」

笑っていたお姫さんの顔は一瞬で赤くなり……何か言いたげだったけどお姫さんは何も言わなかった。

今日はなんていい日なんだろう。

君が初めて笑ってくれた日。一生書き記しておこう。今日という記念日を。

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