第11話 淡いものを軽くして
いつからだったか。気づけば目で追っている。届かないはずのその人に思いを募らせている。特別な出会いでもない。きっかけがあったわけでもない。他人と変わらない、だたの人。いつも隣に同じ人がいる。
そんな、ときめきのかけらもない、彼氏みたいなやつといつも店に来る子を目で追っている。名前もまともに呼んだことがないような、会話も少しだけの一人の女の子に。
「それって恋じゃね?」
いつもと何も変わらない軽い口調で平然と嫌な言葉を放ってくる。
「違うだろ。多分」
「その多分ってやつが証拠じゃん」
「は?」
こんな話も日常の一つかのように筆を止める様子はなく続けた。
「多分ってさ要するに好きかもしれないってことでしょ。嫌いって言い切れてないし。なら恋じゃね?叶わない恋ってやつ。ほい、できた」
耳障りな言葉を次々と放ちしながら見せられた絵には俺が描かれている。もう何度目か分からない絵のモデル。
「なんか暗いな」
夕日の差し込む教室で描いたにしてはやけに暗くて。
「それが今のお前だからでしょ。暗い影にほんのり淡いやつ」
「淡い……?」
相変わらず俺には理解できないこいつの感性。よく見れば淡い色が使われているのが見えるけど。
「花とかと同じじゃん。散るから美しいみたいな?儚いものこそ瞬間は最高ってね。俺は全然恋って分かんないけど。…好かれてうざいのと好いてうざいのって違うでしょ方向が」
最後の言葉だけうざいくらい刺さってきた。
違うだろそんなの、当たり前に。分かってても、あの子に手を伸ばすのは───。
「つーか頭いっぱいになってる時点で答えじゃん。てかその子には現状選択肢が二つあるわけだ。お前か彼氏風の人か。時間が経ったら増えるかもしれない選択肢が。けどさ、誰にだって当たり前にあるでしょ選ぶ権利。お前がその子を選ぶっていうならそれでよくね?選んでほしいならそうすればいいじゃん。俺もいるけど?って。そんでバーンってきれいに散ったら俺がそれを描く!あ、散らなくても描くけど」
相手を考えているようで考えておらず、無責任で自己本位な物言いに半ば呆れつつ、こっちが悩んでいても変わらない様子にどこか安心するものもあって。こいつと俺は似たもの同士なのかもな。選ぶ権利……か。あの子に選択肢を与えて、俺が選ばれる可能性は限りなく低い。それでもまぁ───ちょっと賭けてみるくらいならいいか。
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