第10話 綺麗な人
『お姫さんデートに行こう』
そう言われて今日は一之瀬さんと出かけることになった。一之瀬さんは毎回デートと言う。でも私は恥ずかしいので『デートじゃないです』そう言うと
『二人でいればいつもデートだよ』
私を見て優しく微笑む。太陽の光を浴びながらいつもよりさわやかに。自然に繋がれていた手はまだ少し恥ずかしいけれど、前よりずっと心地よく感じている自分がいた。誰かが隣にいるってすごく──うれしい。
いつものようにお店に入ると店長さんが誰かと話していた。私はいつものように席に着こうとしたけれどその誰かはこちらに気が付いたようで近づいてきた。
「一之瀬、久しぶり」
一之瀬さんに話しかけたその人はとても綺麗で、親しげに話し始めた。
すると
「あっごめん。電話だ。ちょっと出てくる」
一之瀬さんが店を出て数歩前には綺麗な人がいた。その人は私の方を見て近づいてくる。
近づかれるたびに私はなぜか緊張して、少し…嫌だった。
「そんなに警戒しないで大丈夫よ。私、一之瀬は好みじゃないから」
耳元で囁くように言われた言葉に私は安堵した。綺麗な人の方を見ると店長さんを見つめていた。
そっか。だから一之瀬さんには興味ないんだ。
「あなたがお姫様、ね?私は高瀬凪咲。一之瀬とそれから、彼の同級生なの。さっきはごめんなさいね。一之瀬に会うのは久しぶりだったからつい話し込んじゃって」
先ほどまでのもやもやは消えていた。でもそれとは別のもやもやが生まれる。
なんで私……嫌だったんだろう。
「ごめんお姫さん。急に行かなきゃいけないところができて」
お店に戻ってきた一之瀬さんが申し訳なさそうに眉を下げて謝った。
「大丈夫です」
そう言って見せた。けどもやもやの正体が分からなくて自分が今どんな表情をしているのか不安になる。
「また今度デートしようね。お姫さん気をつけて帰るんだよ?」
「うん。大丈夫ちゃんと帰れるから」
「それじゃあねお姫さん」
彼は私の頭を軽く撫でた後またお店からいなくなる。
一之瀬さんの周りにはきっとたくさんの人がいるから。必要としている人もたくさん。
このもやもやはきっと──よくないものだ。
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