第7話 心を込めて
料理はいつも一之瀬さんが作ってくれる。朝食もお弁当も夕飯も全部。さすがに申し訳ないから手伝おうと思ったけれど───
「お姫さん!!その持ち方危ないよ!」
野菜を切ろうとしたら止められてしまった。慌てた様子の一之瀬さんが私の手から包丁を離す。
「お姫さん、俺がちゃんと教えるよ」
そう言われて一之瀬さんは私の背後に回り手を重ねた。
「いい?お姫さん、包丁はこう持ってそれから切る時は────」
抱きしめられてるみたいに教えられてまったく集中できない。それでも何とか野菜を切り終えたけど形はとても不格好で大きさバラバラ。これじゃあ手伝うとかの話じゃないかも…。
そう思い私は店長さんを訪ねた。
「おう!いらっしゃい!今日はどうした?」
「…………料理を、教えてください…」
「料理……?」
事情を話せば
「そういうことなら俺に任せな!!」
それから少しづつ開店前の料理教室が始まった。
初めは全然上手にできなくて怪我したりもして。
「お姫さん、その指どうしたの?」
心配そうに言われるとつい本当のことを言いたくなるけれどそれじゃあ料理を習っていることがバレてしまうから
「本を読んでいるときに、紙で切っただけです」
そう嘘をついた。
「そうなの……?痛くない?平気?」
ちょっとだけ納得してなさそうな感じだけど変わらずずっと心配してくれた。
「平気です。すぐ治ると思うので」
上手に作れるようになってからちゃんと話そう。そう心に決めて料理の練習を続けて二週間が過ぎた。
「よし!!こんだけできればもう教えることはねぇよ嬢ちゃん」
「……ほんとに大丈夫ですか?」
「大丈夫だ!あんたは一番大事なもんをもう持ってる」
「一番大事なもの?」
「ああ!今日あたりノセに食わせてやりな。きっとすげー喜ぶ」
満面の笑みで肩をたたかれ「大丈夫だ」と言われれば不思議とそんな気がしてくる。
うん、今日帰って来るの遅くなるって言ってたし作ってみよう。喜んでくれるといいな。
思ってたよりも遅くなっちゃった。お姫さんお腹すいてるよね。なにか作っておけばよかったな。
「ただいま」
ドアを開けた瞬間、目の前の光景にものに驚いて立ち尽くす。
「おかえりなさい。一之瀬さん」
突っ立ってる俺の目の前にエプロン姿のお姫さんが現れた。……なんてかわいいんだろう…。いや、じゃなくて…もしかして
「お姫さんが作ってくれたの?これ全部…?」
テーブルに置かれた料理とお姫さんを交互に見ていると
「そうです…。いつも作ってもらってばかりだと悪いので…その……」
お姫さんは少し恥ずかしそうにしながらそう言った。手を触りながらもじもじしているのを見て思わず握った。そっか…この手は俺のために。
「お姫さんありがとう。すごくうれしいよ。たくさん…頑張ってくれたんだね」
目の前にいるお姫さんが愛おしくてたまらなくていつもよりたくさん頭を撫でた。お姫さんは頬を赤らめながら、それでも嬉しそうに
「早く食べないと冷めちゃいますよ…?」
撫でられながらも上目遣いで俺を見つめた。
お姫さん……それはちょっと、いやかなり反則だよ……。かわいいなぁもう。
「そうだね。早く食べよう」
お姫さんが作ってくれた料理をお姫さんと一緒に食べられるなんて…すごく幸せだ。
「ねぇお姫さん。今度一緒に何か作ろう」
そう言うとお姫さんは一瞬驚いて
「たまになら…一緒に作りたい」
そうやって恥ずかしそうに言うのがとっても……とってもかわいくて愛おしいんだよお姫さん。
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