3.スーパークラガリ【だんまり】

 新しいのに古い店。それがスーパークラガリの第一印象でした。実際の立地は思ったよりおばあちゃんの家の目と鼻の先で、ぼくはかなり安心しました。いつのまにか開店していた、というおばあちゃんの言葉はすこし気にかかりますが。

 今日は土曜日。学校がない分、時間に余裕があります。尋常でない寒気に襲われ腕をさすりながらも、とりあえず店内を見て回り、夕飯の相談をします。ぼくらはこれまでも少しずつ、かあさんのお手伝いと称して買い物や夕食づくりに取り組んできました。その成果が、こうしていざという時にも示されるのです。

 スパゲッティは食べづらそうだから、マカロニにしよう、ということになりました。ミートソースやチーズで味付けしたら美味しそうだし、おねえちゃんも麺に逃げられずに済み、格段に食べやすそうです。

「マカロニってどこにあるんやろう。茹でるから、スパゲッティと同じかな」

「たぶんそう」

 果たして乾物や保存食材の陳列棚の一角に、スパゲッティ各種をみつけました。ところが、スーパークラガリの棚は完全に大人向けなのか、すごく高いのです。そして、貝殻や蝶々の形をしたかわいいマカロニは、すごく上の段にあるのです。

 小声でおねえちゃんに相談すると、「店員さんに取ってもらったらいいやん」としごくまともな答えが返ってきました。けれど、大人たちはみんな話しかけづらくて、あんまり言いたくないけれど、怖いです。自分でなんとかするしかないと思いました。

「どうされました」

 びっくりするほど小さな声で話しかけられて、すぐには気がつきませんでした。その店員さんは、前髪がすだれのように長くて、綺麗なそばかすの散った顔がちらちらと見えます。つまり、それほど近くに居たというのに、気付かなかったのです!

「あの、マカロニがほしいです」

 店員さんは、「早茹でにしますか」とか「何グラムにしますか」とか「かたちは」とかいろいろ聞いてくれたのですが、ぼくは適量がさっぱりわからなくて、とりあえずなんでもいいので三人分くださいと、差し出された袋をひっつかんでレジへ向かいました。

 空はまだ青く見えましたが、すぐにオレンジや赤に染まってゆくでしょう。

 おねえちゃんはさっきから黙ったままです。さすがに不思議に思って声をかけようとした瞬間。

「ひゃっ」とおねえちゃんの鋭い叫びが聞こえて、いそいでリュックをおろしました。「どうしたの」おねえちゃんは、くしゃみが出そうで出ない時の顔でこちらを見上げていました。リュックの口のゴム部分を締める紐がほどけて、おねえちゃんの顔に降ってきたみたいでした。

「ごめん、気をつけるね」

 そっか、手がないからなにかが顔を覆ってきたりしたらこわいんだろうな、と思いました。だけど、すこし時間が経って冷静になってから、首だけになってまで、なにを怖がることがあるんだろうとも思いました。でもそれはおねえちゃんに対してあまりにも冷たい言い様な気がして、口にはしませんでした。

「分からぁへんもん、リュックん中が暗いで」

 おねえちゃんがもそもそ言い訳するときの口調は、首だけになる前とまったく同じものでした。

「いややー絡まるー」

 またおねえちゃんの悲鳴があがり、今度はチャックでおねえちゃんの髪を噛んでしまったことを、おばあちゃんの家に着くまでひたすら謝り続けるぼくでした。

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