第546話 雪遊び
翌朝。
ひどい二日酔いで目覚めるとキャンプのベッドだった。
てっきり起きたら地球の方に飛ばされてるんじゃないかと思ってたんだけど、まあ警戒したからと言ってなるようにしかならんので、考えても仕方ないな。
いやでも、あの王様のねーちゃんみたいにこっちから何か持って行ければ少しは状況を改善できるのではないかと思わなくもないんだけど、何をもっていけばいいのかよくわからんのでいかんとも。
オーソドックスに考えれば武器なんだけど、そんなもんあっても、どうせ使いこなせないしな。
朝風呂で酔いを覚まして食堂に行くと、いつものように冒険組の面々と一緒にリルが飯を食っていた。
「ひどい顔ね、飲み過ぎじゃないの?」
自分も相当飲んでたはずなのに、そんな気配はみじんも感じさせない爽やかな笑顔で朝からステーキを食っている。
若いっていいよな。
「飲まなきゃ耐えられないことが多いお年頃でね」
「私の故郷は、そう言って飲んだくれた廃人みたいな大人がいっぱいいたわよ」
「どこにだっているもんさ」
「あんたもそうならないように、せいぜい気をつけることね」
そうならないために大事なのは家族の愛だよ、などと言おうとしてやめた。
どう考えても地雷発言だからな。
試練の方は攻略方法がわかったので、例のミミズみたいな変な物体を呼び出して裏面に行き、鍵をゲットするというのを繰り返し、今日だけで裏面の鍵を三つも手に入れた。
表面の攻略も進み、あと二日もあれば攻略が終わりそうな勢いだ。
試練の最中も、つまずいたり扉を開けたりとなんかそれっぽいタイミングで身構えてしまうのだが、結局今日は一度もあっちに飛ぶことがなかった。
たぶん、俺が油断するのをまってるパターンじゃなかろうか。
まあいいんだけど。
例のごとくうちは午前中しか探索しないので、昼下がりにはみんなフリータイムとなる。
このタイミングで俺は従者やマダム連中のご機嫌伺いに奔走したりするわけだが、それも終えて食堂でくつろいでいると、病み上がりでリハビリ中のラーラが、侍女のポイッコに手を引かれてやってきた。
自分の足で歩いているようだ。
「ご主人様、今日のおつとめはもう終わりなんですの?」
「どうにかね。そっちはリハビリかい?」
「はい。ほんとは外を歩いた方がいいらしいのですけど、雪の上は私にはまだちょっと早いみたい」
「ははは、すぐに雪遊びもできるようになるさ」
「わたし、雪だるまというものを作ってみたいんです。冬が来る度に朝起きたら窓から見える広場にいくつも並んでいて、とっても楽しそうで」
「あー、雪だるまか、いいな。よし、今からやるか!」
「いいんですの!?」
「やろうと思ったら、とりあえずやるんだよ。失敗してもいいじゃないか」
「それもそうですわね!」
ラーラは乗り気だが、心配性のポイッコはでかい乳を揺らしながら慌ててとめる。
「と、とんでもない、雪遊びなんて無理ですよ、風邪をひいてしまいます」
「そんなことはないだろう。今は晴れてるし、うちの防寒着なら吹雪の中でタップダンスだって踊れるさ」
さっそく防寒着を用意して外に出ると、ピューパーたち幼女組が雪合戦をしていた。
タフだな。
さすがにアレをラーラがやるのはまだ難しいので、当初の予定通り雪だるまを作り始める。
キャンプの周りは人が歩き回るので多少雪が汚れているが、少し離れると綺麗な新雪がつもっていた。
その上にどっかりと座り込んで、砂場遊びのノリで、雪だるまを作り始める。
「どうやって作るんですの?」
雪を手に取って途方に暮れるラーラに蘊蓄をたれる。
「そうだな、雪だるまはあんがい奥が深いものでいろんなやり方がある。上級者ともなればドデカい奴をゴロゴロ転がしながら作るもんだが、はじめてならこうやって小さいのから始めるのがいいだろうな」
そう言っておにぎりの要領で小さな雪玉を二つ作って重ねてやる。
見よう見まねで自分でも作り上げたラーラは、ちょっといびつな雪だるまをちょんと手のひらに載せると、うっとりと眺めた。
「ねえ、見てちょうだい、ポイッコ。これを私が作ったのよ」
大はしゃぎするラーラをみるポイッコも実に嬉しそうだが、いざ自分でも作り出すと思いのほか不器用なようで、
「あらポイッコ。あなたってなんでも上手にやれると思っていたのだけれど、できないこともあるのね」
「この雪が、べっとりしてうまく丸まらないんですよ、うちの田舎はもっとさらっとした雪で……」
「まあ、雪に違いがあるの?」
「そうですよ。海沿いの街に降る雪は、こういう重い雪になるそうです。逆に山奥だとさらっとしているもんです」
「不思議ね。あなたの田舎の雪も見てみたいわ。今年の冬には行ってみましょう」
「無理ですよ、あんな山奥……あ、いえ、そうですね。今のお嬢様なら、きっといけます。母も手紙でお嬢様が元気になったと知って会いたがっていましたし」
「ポイポウも元気かしら。あなた以上に心配性だったから、私が雪遊びをして見せたら、きっと腰を抜かしてしまうわね」
「絶対そうなりますね」
楽しそうな二人の様子にひかれたのか、幼女軍団も雪合戦をやめて銘々が小さな雪だるまを作り始めた。
たちまちあたりは雪だるまがあふれる。
そういえばエツレヤアンにいた頃も、こんなことがあったな。
当時はフルンが近所の子供らと一緒に作っていたが、今じゃ、うちの子だけでこれだからな。
ずいぶん増えたもんだ。
感心して眺めていると、空から降ってきた穴掘り幼女のパマラが雪だるまを手に載せて走ってきた。
「見てみて神様、雪ってすごい、固くなったり溶けたりする!」
「土掘りとはまたひと味違うだろう」
「うん、研究しがいがある!」
何の研究をするのかわからんが、パマラは俺に雪だるまを押しつけるとみんなの所に戻っていった。
彼女の作った雪だるまは、だるまと言うより洋梨と言った感じで独特の風情があるなあと、これまた感心して眺めていると、フルンがキャンプからテケテケと走ってきた。
「すごい、雪だるまいっぱい、みんなで作ったの?」
「おう、すごいだろう。おまえもやるか?」
「うーん、作りたいけど、今からお出かけ」
「どこいくんだ?」
「セスと一緒にコン先生を迎えに行くの」
「お、来るのか」
コン先生とは、うちの工場があるシーリオ村で用心棒を頼んでいる剣術の名人で、すごく強いじいさんだ。
なんかやばい殺し屋が仇らしいので、そいつをやっつけに来るらしい。
「うん、でもうちには来ないんだって。シーナで宿をとるって」
「へー、あっちに例の仇がいるのかな」
「わかんない」
首を傾げるフルンのあとから現れたセスが代わりに答える。
「私からも勧めたのですが、神聖な試練を血で穢すわけにはいかぬと固辞されまして」
「そうか、まあそう言われると、無理強いもできんな」
ナンパで穢すなんて事は無いよな、俺のナンパは良いナンパだ、たぶん。
「まあ、気をつけてな」
飛行機で飛んでいった二人を見送ると、今度はエセ幼女のストーム、カームの双子がやってきた。
黒髪がストームで元女神、白髮がカームで元ペレラールの騎士、だそうだ。
前世はともかく、今はただのおませな幼女である。
「おまえ達は作ってないのか?」
俺が尋ねると、ストームが自信満々に、
「もちろん最高にエレガントな氷像をこしらえておきましたわ」
そう言って無駄に尻がでかいセクシーな氷像を差し出す。
「カームもか」
「もちろんです。究極にビューティフルな雪だるまを」
「そりゃあなにより」
「それよりも、ご主人さまはちょっとサボっているようですね」
「そんなことはないだろう、みろこの雪だるまの豊満なボディライン」
そういってさっき作った雪だるまを見せると、
「そちらはご立派なできですが、私の申したのはあちらのことですよ」
「あちら?」
「地球の話です」
「ああ、そういや昨日から呼ばれてないな」
「昨日の時点ではかなりシンクロしているように思えたのですが、またずれてしまったようですね」
「ずれるって?」
「元は同じとは言え、バラバラに発展する宇宙を無理矢理結合するのですから接合面でシンクロさせねば、くっつくものもくっつかぬでしょう」
「ふーん、よくわからんけど、なんか海賊に誘拐されてな」
「それはさぞ、美人の海賊なんでしょうね」
「よくわかったな」
「わからぬ方がどうかしています」
「そういや、今思えば海賊の片割れがなんかおまえに雰囲気が似てた気がする。あれがおまえの妹か?」
「名前は?」
「名前は聞いてないな。髪の毛は緑色で」
「緑ですか、舟はどのような?」
「なんかこう、枝豆というか、インゲン豆というか、そういうボコボコした半月形の……」
「それはオリビンでしょう。姉の一人ですが、彼女は私どものようにライズしたわけではないので、二億年前から生き残っていたのでしょうね」
「ずいぶんとおばあちゃんじゃねえか、全身タイツでピチピチしてたのに、若作りだな」
「ペレラのヴァレーテたるもの、つねにピチピチをたしなむものです。私をごらんなさい、じつにピチピチしているでしょう」
子供用コートで着ぶくれした体でしなを作ってみせる。
「なるほど、ピチピチだな」
「でしょう」
カームは満足そうにうなずくと、おほんと咳払いする。
「とにかく、仕切り直しのようですね。ご主人さまはおっぱいでも飲んで英気を養っておいてください」
そう言って無駄に乳がでかいセクシーな氷像を差し出し、双子幼女は去って行った。
こいつはしゃぶるには冷たすぎるな。
だがたしかに英気を養うべきだと冷たくないおっぱいちゃんを探すと、ポイッコはラーラを連れてすでに屋内に引き上げていた。
しょうがないんで酒でも飲むか。
飲んでりゃおっぱいの方から集まって、女体だるまができあがるだろう。
こいつが俺流の雪だるま作成術ってね。
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