第522話 第四の試練 その十一
降って湧いたとか言うとアレなんだけど、そんな感じで増えた三人の従者と朝からねんごろになったりしてみた。
アヌマールになってたイーネイスはおとなしい感じのノッポのお嬢さんだ。
まだおびえているのか、大きな体を小さくしてすり寄せてくる所などは実に愛らしい。
時折肌に触れるストレートの黒髪は手入れが足りないのか傷んでいたが、ハイテクトリートメントとか使えばさらさらになったりしないかな?
ほとんどしゃべらない無口なむっちり女のエキソスは、なんというか、かなりむっちりだった。
いいよね、むっちり。
マッシュルームカットもかわいい系の顔立ちを引き立ててよく似合ってる。
最後に一人で全員分の会話を受け持ってる感じによくしゃべる小柄なバドネスは、ウェーブのかかった短い髪を揺らしながら色々話してくれた。
「あの、私たち、一応戦士なんですけど、みんなちゃんと学んだこともなくて、我流というか未熟というか、聞けばご主人様の下には歴戦の勇士が多くいるとか。正直、試練に加えていただくのが恐れ多いというか」
などとおっしゃる。
「なるほど、不安になる気持ちはわかるが、実力如何を問う前に、お前達の希望としてはどうなんだ、俺のために試練の場に立ちたいと思うのかい? それとも、内向きのところでがんばりたいと思うのかい? うちも数が多いから、実際に戦いの場に立つのは半数もいないんだ。バックアップとして試練に参加するのも、まったく問題は無いし、むしろありがたいぐらいだが」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせてうなずき、あらためて小柄なバドネスが答える。
「いえ、それでも戦士だから……。国を出るときから、剣を持ってまだ見ぬご主人様の前に立ちたいと、考えてたんです。だからその、お許しいただけるなら、試練に参加したいと思います。至らぬ部分は努力と根性でどうにか」
「ふむ、ならば頼むとしよう。まあ足りないところはちゃんと練習して腕を上げてくれ。一夜漬けでどうにかなるものじゃないだろうが、うちは優秀な師範役も何人もいるし、なによりホロアは自分のクラスに対して優れた能力を持つというじゃないか。すぐに力を発揮できるんじゃないかな」
などと無責任なことをいうと三人とも喜んでいた。
まあ指導するのは俺じゃないので、おもだった前衛組みを集めて誰に任せるかを決める。
実際に三人の技量をチェックした結果、魔族騎士のラッチルが担当することになった。
三人ともパワー系で侍向けではないのと、師範格の騎士の中では、クメトスはすでに弟子がいるし、エディは忙しいので今もこの場にいないぐらいだし、それはエディの相棒二人も同様だ。
巨人のレグは方向性としては悪くないんだけど、性格的に師匠向けでないのと、巨人の戦い方は肉体面のアドバンテージに依存する部分も多くて参考にならないみたいな感じらしい。
他のメンツもあれこれ理由をつけて除外した結果、メリーかラッチルかということになって、俺の独断でラッチルに任せることになった。
元団長で実力経験共に問題の無いメリーだが、いかんせんうちでは新人なので俺とイチャイチャするのを優先してやりたいという配慮からだ。
なんせ真面目なので、面倒を見るとなったらそれに専念しそうだしな。
ラッチルの方はすでにうちになじんでるし、見かけによらずウィットに富んでるし、なにより彼女の能力を考えれば、三人ぐらい面倒を見ながら試練に当たるぐらいでちょうどいい気がする。
三人の処遇が決まったところで、試練の続きだ。
ラスボスであるところの黒竜っぽいやつに挑むのは、デュース達魔導師組みと、ラッチル、オルエンと言った騎士だ。
一流の騎士は攻守のバランスに優れるだけでなく、自ら結界を張り後衛を守る技術も高い。
相手が黒竜もどきだと、おそらく攻撃の主体は魔法になるが、攻撃力だけで言えばデュース一人で事足りる、あとはそれを完璧に守れる騎士を配置すれば良い、と言う作戦らしい。
心臓が治ってますますぐーたらに磨きがかかったデュースだが、今日はちょっとやる気を見せていた。
「やはり因縁というものは切れませんねー。倒しきったと思ってもまだ湧いてくるんですからー」
デュースが言っているのは黒竜会とかいう怪しい連中のことだ。
彼女が人生の大半をかけて戦ってきた相手でもある。
「ですがー、試練で黒竜を模したものが出るというのであればー、これもまたご主人様の従者としてのつとめなんでしょー」
などと柄にもなく殊勝なことを言っているが、本気かどうか確認するような野暮はしない。
信じて送り出すだけだ。
でまあ、戦いの方だけど、滞りなく勝利を収めた。
いやあ、うちの従者は強いねえ。
もうちょっと具体的に説明すると、最初、円形闘技場の中央にぶわーっと黒い塊が出てきて、ぼわーっとすごい火を噴いたりしたのを前衛が結界で防ぎ、その間に長めの呪文を唱えたデュースがさらにすごい火をがばーっっとぶちかまして終わりだ。
やっぱり強いねえ。
たっぷりあのでかいケツをねぎらってやるかとおもったら、真っ黒い塊がぶわーっと消し飛んで、あとにまばゆい光が残る。
ついで円形闘技場の周りにも光の柱みたいなのが立ち上り、ずいぶん装飾過剰だなとおもったら、いつの間にか幼女の絵本読み聞かせ部屋になっていた。
そういえば、ここってそういうギミックだったな。
たぶん、俺だけなんだろうけど。
さっきまで黒竜もどきがいた部屋の中央には、愛らしい幼女がぽつんと立っている。
こちらを見て俺と目が合うと、にっこり笑って手を振り、地面に溶け込むように消えてしまった。
慌てて駆け寄ると、テーブルに絵本の最後のページが開いていた。
「こうして黒き竜の脅威は永遠に去り、闘神達も世界を支える楔となりました。頭領たる神子もまた、その礎として永遠に眠るのです。めでたしめでたし」
「いや、めでたくないだろう!」
思わず突っ込んでから、ふと気がつくと、周りの光の柱のいくつかが消え、代わりに人型の光るシルエットになっていた。
何人かはシルエットでもわかるぐらい、知ってる顔だが、知らないのもいた。
そのうちの一体が歩み寄り、テーブルに散らかった絵本を片付け始める。
「闇に飲まれて何もかも失ってしまうよりも、楔となって後世を見守ることができるのは、十分ハッピーエンドと言えるのでは?」
まだ知らないシルエットがそう言って集めた絵本を別のシルエットに渡す。
「そういうのはビターエンドって言うんだよ」
「ご主人様は、ハーレムエンドというものがお好みでしょう」
そう言ったのは、絵本を受け取った方の人物で、よく見ると紅だった。
「そうだったっけ」
「そうです」
「ならそうなんだろうなあ」
「まだ、攻略していない者もいるでしょう、エンディング目指してがんばってください」
そう言って紅が目をやった先には、順番待ちの光るシルエットがいっぱい並んでいた。
こりゃたいへんだ。
「じゃあ、あの子は?」
さっき消えてしまった幼女のことを指摘すると、光ったままの紅は、少し肩をすくめて何も答えなかった。
ちょっぴり物寂しい気持ちに包まれてため息をつくと、周りの光が消え、元の塔に戻っていた。
釈然としない気持ちがないではないが、まあそれはさておき宴会だな。
いつものようにクリア記念のハンコをもらって塔を出ると、これまたいつものようにピカピカ光っていた。
なんか光るの好きだよな。
光らんと損みたいなアレでもあるんだろうか、女神カルチャー的なところで。
でもまあ派手なイルミネーションをみてるとなんだか浮かれてくるので、悪くないかもしれん。
まだ日は明るかったが、今から山を下りると麓でオーディエンスに囲まれそうなので、このままキャンプ地にとどまる。
べつに大衆にちやほやされるのがいやというわけでもないんだけど、ほら、俺って命とか狙われてるじゃん、そんな状況で安易に人混みに出て行くのもどうかなと言うようなことを考えた訳よ。
分散して街などに泊まっていた連中も、今日はこのキャンプ場か、内なる館か、俺の知らない間にできていた海洋上のベース基地にいる。
ベース基地って何だよって尋ねたところ、異世界人で本屋をやってるネトックの依頼で探していた、次元航行船パリー・ファベリン号とかいうご大層なものを探し出して海の底に保管してるんだけど、その上に管理を兼ねた海上基地を作っているらしい。
自宅地下の基地から資材を持ってくるより、こっちの方が便利なんだとか。
それはさておき、宴会だ。
今夜の主役はもちろんデュース達だが、新人三人の歓迎会も兼ねている。
そういうのがなくても毎晩宴会してるけど。
新人を代表して一番よくしゃべるバドネスが、小柄な体を駆使して興奮していた。
「あんな戦い、はじめて見ました! ちょっと想像もできなかったんですけど、あれが一流の冒険者ってものなんですか!?」
興奮してるうちはいいんだけど、自分も修行してあの場に立つことになると言う現実に気づいたら凹んだりしないだろうか?
でも俺の従者はみんなメンタル強めなので大丈夫かな。
ついであっという間に準新人枠に入ってしまった春のさえずり団の面々と、彼女たちの友人であり、こんなおじさんである俺の婚約者にされてしまったかわいそうな美少女、エマちゃんとテーブルを囲む。
「さすがはおじ様ですわね、聞けばこの塔の攻略では最速だとか」
「へえ、他の連中もみんな強いのにな」
「といっても、やはり従者の層の厚さでしょう。今回も八度の戦いは皆違う従者で当たったのでしょう? だからこそ一日二戦といった戦い方もできるのでは」
「それもそうか、あのレベルの戦いを続けてやるのはしんどいしな。でも、王様なんかは百人従者がいるとかなんとか」
「ヘショカの王は、実は従者は数人しかいないという話もありますし、ほとんど自らの手で敵を打ち倒してるそうですよ」
「そうなのか、じゃああの大量の子分みたいなのは」
「私はまだ見たことがありませんけど、王様ですし、臣下を引き連れているのでは」
「そうかもなあ」
そういえば、王様の隣でえらそうにふんぞり返ってこっちを見下してたように見える従者っぽい美女は、姉だとか言ってたな。
実の姉でも従者になるのかな?
王侯貴族って近親婚もありがちだし、親族で従者ってのもあるのかもしれんが。
エマは以前から学校帰りなどにちょくちょく顔を出してうちの連中となじんでいたこともあるので自然に打ち解けているが、そんな彼女と義兄弟的な関係を結んでいるシルビーもまた、家族同然に馴染んでフルン達と楽しそうにご飯を食べている。
いいよな、美少女と義兄弟。
俺の義兄弟って人形マニアとかだもんなあ、べつに人形趣味が悪いわけではないけど。
あいつらもいいところがないわけではないので、試練が終わったらまた遊んでやりたいところだ。
まあ、野郎のことはいいや、順番に従者をねぎらって回らないと。
物語のハーレムエンドなら、ハーレム作ればそこで終わりなんだろうけど、実際にやると大変なんだよな。
まあ、そこがいいわけだが。
今夜も忙しくなりそうだ。
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