第507話 オフショット

 俺のセクシーボディに興奮して体を光らせたさえずり団の残り二人、ヘルメとオーイットも、その場の勢いで従者にしてしまった。

 二人ともその気になってたようだし、何よりこの俺がチャンスを逃す男ではないことは言うまでも無い。

 まあ、宰相閣下には逃げられたけど。

 宰相のブレーンであるラーキテル嬢が、あとはお任せくださいと言って後を追っていったので、大丈夫じゃないかな。

 彼女はチョー有能だからな。

 どれぐらい有能かと言えば、すっぽんぽんの俺を前にしても眉一つ動かさない程度に有能だった。

 フューエルの幼なじみだけある。

 一方のさえずり団だが、


「どうしよう、ヘルメ、私たちまでなっちゃった」

「ほんとに、よかったのかな」

「親になんて話そう」

「が、学校とかも、どうしよう」


 などと浮かれているのを横目に、とりあえず俺は服を着た。

 最初に服から着るべきではないかと思う向きもあるかもしれないが、服を着ている間にお嬢さん方の気が変わったら困るじゃないか。

 どうにか着終えたところに、ラジカジ卿がやってくる。

 人の家で全裸になってるところを見られなくてよかった。


「閣下が体を光らせたまま血相を変えてお帰りになりましたが、何かあったので?」

「いやあ、別れ際にご挨拶をしたら、少々興奮なされたようで」

「そうでしたか」


 あまり納得した様子ではなかったが、表情を改めて、頭を下げる。


「此度のことは、誠に感謝の言葉もない」

「なに、娘をもらい受けた以上、あなたは私にとって義理の父、何の遠慮もいりませんよ」

「それこそが何よりの喜びだ。して、娘のことだが」

「そうでした、どうなっている?」


 ミラーに訪ねると、


「先ほど、手術自体は無事に終了しました。人工臓器の定着まであと十二時間ほどかかります。それまで麻酔が効いていますので、目を覚ますのは明日の夕方ごろかと」

「ふむ、ごくろうさん。では明日、改めて使いを送ります。今日はもう休まれた方がいい。そんなやつれた顔で面会に行っては、かえって彼女が心配しますよ」


 実際、色々ありすぎたのだろう、ラジカジ・パパは心労でヘロヘロだった。

 ラジカジ卿に送り出されて家路につく俺。

 もちろん、従者にしたさえずり団の面々もお持ち帰りだ。

 サーシアの実家の方にはすでに人をやって、問題が解決したことを伝えてある。

 娘を従者にした件は、明日俺が自ら出向いて挨拶することにした。

 なにより、今夜は忙しいからな。


 だが、家に帰るとまずは地下に降りて、手術の結果を改めて確認する。

 地下を管理しているオービクロンは、今度はどこであつらえたのか、昭和のナースみたいな白いワンピースに三角巾をかぶっている。

 あざといなあ。

 俺じゃなければこの場でお医者さんごっこを始めてしまうところだぜ。


「お疲れ様でした、ご主人様。そちらは万事解決されたようですね」

「おかげさまでね、そっちもうまくやってくれたようだな」

「手術は予定通り成功しました。手術の概要ですが、肥大化して肝臓と癒着したコアを削り、脾臓のそばに移植しました。このコアという物は本来、大気中に過剰にあふれるエルミクルムが自然に体内に吸着した物ですが、長い時間をかけて適応した土着のペレラ人と違い……おっと説明がわきにそれてしまいましたね。経過も順調ですが、後遺症を防ぐために定着時間を長めにとっております。今回入れ替えた人工臓器は本人の遺伝情報により合成した物ですが、半年程度は経過観察が必要です。また黄疸の解消には薬物療法で一月、筋力の回復には二、三ヶ月程度見た方がよいかと。こちらは本人のリハビリ次第ですが、体力がありませんので慎重に行うべきでしょう」

「ふむ、まあみんなでサポートするとしよう」

「かしこまりました。また侍女のポイッコは先ほどまでフューエル奥様とアンがフォローしておりましたが、今は一人で病室の控え室におります。彼女にはご主人様のサポートが必要でしょう」

「ふむ、じゃあさっそく声をかけてこよう」

「ではこれを」


 そう言ってかごに入ったお弁当を手渡す。

 俺と彼女の分のようだ。

 そういやパーティで忙しくてろくに食ってなかったな。

 控え室は病室に面した壁がガラス張りで、眠っている病人の姿がよく見える。

 牛娘のポイッコちゃんは、大きくてシンプルなソファの隅っこに腰を下ろし、じっと自分の主人であるラーラの寝姿を眺めていたが、入室した俺に気がつくと、立ち上がって深々と頭を下げた。


「疲れたろう、後は任せて、少し休んだらどうだい?」


 俺が声をかけると、彼女は小さく首を振る。


「でも弁当ぐらいは食べるだろう。小食の牛娘なんて聞いたことがないしね」


 そう言って手にしたバスケットを掲げると、タイミングよく彼女のおなかがぐぅっとなる。

 隣に腰を下ろし、バスケットのふきんをどけると、中には具だくさんのうまそうなサンドイッチが入っていた。

 俺が一つつまむと、彼女もならって手に取る。

 それをじっと眺めてから俺の方を見て、もう一度頭を下げた。


「あの、さっきは失礼なことを言っちゃって、すみませんでした」

「なあに、彼女が心配だったんだろう、気にすることはないさ」

「しゅ、手術のことも、何度も丁寧に説明してもらって、今もお嬢様があんなに静かに眠ってて……、最近はお薬も効かずに夜中にうなされることが多かったんですが、もう大丈夫だって聞いたら……」


 そこまで話したところで、再び彼女のおなかが鳴る。


「わ、わたし、馬鹿みたい、こんな時におなかが鳴って」

「ははは、どんなときでも腹は減るものさ。俺も腹ぺこだ」


 そう言って頬張ると、マスタードが効き過ぎな気もするが、気にせず食べたらちょっとむせた。


「だ、大丈夫ですか?」

「げほげほ、だ、大丈夫。いくら腹が減っても慌てて食うもんじゃないな」

「ふふ、おかしな人ですね。お嬢様がいつもあなたの新聞記事を読んで、話して聞かせてくれてたんですけど、記事によって描かれてる姿がてんでバラバラで」

「噂のつきない男だからね、俺も」

「でも、ご本人が一番、その……」

「変わってるかい?」

「いえ、その、す、素敵かなって」


 そう言ってサンドイッチを手にしたまま、顔を赤く染めてうつむく。

 さっきの気の強い姿とのギャップもあってかわいいなあ。


「そりゃあ光栄だね。褒められたらますます腹が減るな、もう一個もらおう」

「私もいただきます。もぐもぐ……あ、これすごくおいしい」

「彼女もすぐに、食べられるようになるさ」


 そう言って眠るラーラ嬢に目線を向けると、つられてポイッコちゃんもそちらに目をやった。


「お嬢様はほとんど食べられないから、以前はお嬢様の前では食べないようにしてたんですけど、私がおいしそうに食べるところを見ていたいっておっしゃって、それで一緒に食事をすることも多かったんです。でも本当はお嬢様だっておいしいものも食べたかっただろうし……、それで……」


 そう言って少し涙ぐんで、ペロリとサンドイッチを平らげた。


「たしかに、君の食べる姿は見ていて気持ちいいな」

「そ、そうでしょうか」

「まだあるぞ、どんどん食ってくれ」

「いただきます。おなかペコペコでした」


 あっという間に弁当を平らげると、安心したのかポイッコちゃんはそのまま寝落ちしてしまった。

 よほど疲れてたんだろう。

 ソファで眠る彼女をそのままにして控え室を出ると、アンが待っていた。


「おう、ご苦労さん。色々手間かけたな」

「いえ、ご主人様こそ、今夜は大変でしたね」

「まあね、フューエルは?」

「そちらの事件が解決したと聞いて、先にお休みに」

「ふむ、俺も眠くなってきたなあ」

「上ではさえずり団の面々が支度をして待っておりますが、どうなさいます?」

「まじで、そりゃあ待たせるわけにはいかんだろう、全然眠くなんて無かった」

「では、私は先に休ませていただきますね。ミラーたちもいますし、もう少ししたらテナが起きる時間ですので、ご用はそちらにお申し付けください」


 地下でシャワーを浴びて地上の自宅に戻ると、四人は裏の家馬車にいるらしい。

 雑魚寝部屋はみんな寝てるからな。

 いそいそと乗り込むと、四人のアイドルがアイドルっぽい格好で待ち構えていた。

 さっきまでのパーティドレスもかわいいが、今着ているのは彼女たちが自分のスタイルで演奏するときの定番衣装だ。

 この世界では女神のユニフォームとして由緒正しい衣装であるメイド服をベースにした、カラフルなパステルカラーのエプロンドレスで、動きやすいように短めのスカートの中にはみっしりとパニエがつまっている。

 色も各人のキャラクターに合わせてあるそうで、リーダーのヘルメはうっすらと赤い髪にマッチするピンク、青肌のサーシアは引き立てるような補色のオレンジ、褐色のオーイットは金髪にマッチする濃いイエロー、長身で肌の白いペルンジャは少し大人びたブルーといった感じだ。

 そんなきらびやかなアイドル四人が、これから夜のアイドル活動となるわけだ、ぐふふ、たまらん。

 多少は慣れたはずのペルンジャでさえも顔を真っ赤にしてうつむいているので、残り三人は推して知るべしといった感じだが、あえてリードせずに、自主性に任せてみる。

 ソファに腰掛ける俺の前に整列して、四人ともしばらくじっと立ち尽くしていたが、リーダーのヘルメが意を決して、ペルンジャに声をかける。


「あの、ご、ご奉仕って、ど、どうするの?」

「それは……」


 と言いにくそうな顔で言葉を詰まらせながらも、ペルンジャはしどろもどろで説明する。


「は、肌を、さらして、その、見ていただくというか、そ、そういうことから、初めて……」

「わ、わかった、脱げばいいのね。わたし、脱ぎます!」


 微妙にアイドルっぽい宣言をして脱ぎ始めるヘルメ。

 うちのメイド服はピンポイントで胸だけ露出できるような作りになっているが、彼女たちの衣装はハードな演奏にも耐えられるしっかりした作りなので、前開きのワンピースも襟元まで紐でがっつりと固定されていたりする。

 それを緊張しながらほどき始めると、残りのメンバーも見習って脱ぎ始める。

 演奏を終えたアイドルが、パトロンの元で夜の仕事にいそしむ的なシチュだろうか。

 そういえばこの家馬車はちょっと楽屋っぽさもあるな。

 やべえ、めちゃ興奮してきた。

 どうにか紐をほどき終えたヘルメが上着を脱ぎ捨てようとするのを、ペルンジャが押しとどめる。


「ぜ、全部脱がずに、まずは前だけ……、こういう風に」


 そう言って上着の前を開き、下に着ていたキャミソールの前紐もほどく。

 肌着も前開きなんだな、最近うちのご婦人方はハイテク素材のぴちっとした肌着を着ていることが多いが、案外こうして着衣のまま見せやすい下着をミラーあたりが用意していたのかもしれない。

 などと言ったことを冷静に考える余裕はすでにない。

 肌着も開いてブラを外すと、ペルンジャのそこそこある双丘がぷるんと揺れる。

 残りのメンバーも我先にと胸をさらけ出した。

 大小様々な八個のぷるんぷるんがプルンプルンと目の前で揺れている。

 感無量だ。

 みんなのアイドル春のさえずり団が、今、俺だけのアイドルとして俺の前に立っている。

 今日からは春のおっぱい団として……。

 思考が支離滅裂になる俺に寄り添うように、四人の娘たちは、左右に分かれて俺のそばに腰を下ろす。


「よ、よろしくお願いします」


 誰が言ったのかもわからぬほどに興奮していた俺は、ひみつのアイドル活動を夜が明けるまで堪能したのだった。

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