第474話 第三の試練 その四
二日ほどアウトドアライフに勤しんだら飽きてきたので、また試練を再開することにした。
このようにいきあたりばったりなおっさんの思いつきに翻弄される従者たちを気の毒に思う気持ちもない訳では無いが、まあ、おおむね楽しんでる者のほうが多そうなので、良しとしておこう。
えーと、前回はたしか二階のボス部屋前で中断してたんだったかな。
久しぶりに遊ぶゲームの続きを思い出すようなノリだが、ゲームと違って立ち上げたらまず本体のアップデートがかかってやる気を削がれる様なこともなく、順調に試練を再開する。
まず朝一で二階のボス部屋に向かったおかげで、順番待ちもなしにそのまま三階に抜けることができた。
リドルはともかく、ボスの順番待ちは上階に抜けられなくなるので、いろいろ構造的に問題がある気がするなあ。
そもそも紳士以外のパーティが居なければ、こんなに混むこともないんだけど、それを言ってしまうほど、俺もケチではない。
ケチではないが、太っ腹でもないので、なるべく面倒は避けてクリアしたいものだなあ。
一方、かわいい弟子のガーレイオンは今日も元気だ。
「師匠! 今日はもう、キャンプしないの? せっかく家できたのに」
パーティ戦の修行を兼ねて、今日は一緒に回っているガーレイオンだが、キャンプの方が気になっているようだ。
そのガーレイオンと一緒にパーティを組んでいるフルンも、
「今日やっとレンガが組めるから、やめるわけにはいかないと思う」
「うん、フルンのとこ、凄い小屋ができそう。でも僕のとこも凄いほら穴だから、師匠も遊びに来るといい」
などと探索後のキャンプに意識が向いているようだ。
「お前たち、遊ぶのもいいが、今は試練の最中だぞ。もう少し気を引き締めていけ」
とたしなめると、
「そうだった、注意力、集中力、だいじ」
などと言いつつ、隊列を組み直し始めた。
それを隣で見ていたカリスミュウルが、
「貴様が気を引き締めるなどという概念を知っていたとはな。行動に移したことはないようだが」
「俺も博識を売りにしてるからな、言葉だけは知ってるんだよ。知識に実践は不要、ただ垂れ流すだけで周りがありがたがってくれる状態こそ最上である」
「実践しないを実践することは、矛盾ではないのか?」
「自己言及は除外するもんなんだよ」
「二人共、遊んでないで、もう少し若者の見本になるようなことをしたら?」
これはエディ。
小屋を作って遊んでると聞いて、急いで仕事を切り上げて戻ってきたら、俺がもう飽きてたので仕方なく試練に参加しているせいで、少々機嫌が悪いようだ。
あとで尻をもんで慰めてやらんと。
「見本といえば、ガーレイオンに連携の基礎を教えるのであろう」
一緒にするなという顔で話題を変えるカリスミュウルに、パーティリーダーで俺の三百倍は屁理屈が達者なレーンが答える。
「そうですね。とはいえ、ガーレイオンさんもフルンさんと同じく天才肌の戦士ですから、しばらく我々の戦い方を見せておけば十分でしょう」
「たしかに、あの若さであの実力。努力だけで身につくものではあるまい。そういえばあのものは結界などの術も得意なようだが、念動力は使えぬのか」
「魔法はなくなったおじいさんやその友人から教わっただけなので、紳士の術は知らぬようですね」
「そういえばあの者は、内なる館もしらなんだな。祖父はどのような人物であったのだろうか」
「本人も、おじいさんがどのような素性であったかは知らないようですね。ただ、筋の良い剣術や、結界魔法の扱いなどを見るに、騎士かそれに類する身分であったのではないでしょうか」
「ふむ、太刀筋はこの国では見ない型だな。どうなのだ、エンディミュウム」
話を振られたエディは、あくびをかみ殺す。
「そうねえ、といっても侍みたいに剣に特化したクラスとちがって、騎士の場合は、槍術、盾術、弓術、馬術、結界術なんかを別々に学ぶんだけど、例えばうちで槍と言えば、六百年前の王国指南ベルージェ・アジャーの書『戦場の果実』を元にしてるのよね。バダムなんかはこれの達人で、私も随分しごかれたけど……」
そこで前を行くガーレイオンに目線をやる。
「あの子はどうなのかしら。北の果てといえば、古の強国ガデントのファランクスなんか有名だけど、そういうのとも違うっぽいし。国境を接してる国の騎士のフォームは研究してるんだけど、私の知ってるのとは、どれも違うわねえ」
「それで指導になるのか?」
「べつに武術を教えるわけじゃないでしょう。まあ連携も武術だけど、間合いの取り方とか呼吸の合わせ方とか、一人じゃできないところを見せていけば十分でしょう」
「そんなものか」
「それにしても、筋はいいわよねえ。紳士じゃなければ、うちでスカウトしたいぐらいだわ」
「生国も違うだろうに」
「そんなものは養子にでもすれば解決するのよ」
「国防の要を担うものの発言とは思えぬな」
エディとカリスミュウルが話すあいだに、ガーレイオンたちが戦闘に入ったようだ。
部屋の入口から中を覗くと、五メートル四方の部屋に木人形タイプのガーディアンが三体。
戦士型が二体に、魔導師型が一体だ。
これに挑むガーレイオンチームは、前衛にガーレイオンとフルン、後衛に魔導師のリィコォ、その護衛としてエットが盾と短剣を構えている。
指揮はガーレイオンがとるようで、並んで立つフルンに指示を出す。
「僕が左、フルンは右ね」
「わかった」
「いくよ、うりゃあっ!」
ガーレイオンが体を光らせつつ、戦士ガーディアンの一体に斬りかかる。
素晴らしい斬撃で、これが並のギアント程度であれば一刀両断されているだろうが、ガーディアンも見事な剣さばきでガーレイオンの一撃を軽くいなす。
半歩遅れて切りかかったフルンも、踏み込みが浅かったようで、ガーディアンの腕を軽く削ったぐらいで、逆に反撃を受けて少し距離を取った。
それを見ていたエットがリィコォに、
「ねえ、魔法魔法、援護しないと」
「わかってるんですけど、二人の動きが速すぎて」
「デュースはいっつも適当にバーって撃つ、撃ってから前の人はザーって避けてる」
「そんな事言われても、あたったらどうするんですか」
「大丈夫、あの二人なら当たらない、あたしならたぶん当たるけど」
「と、とにかく、呪文の準備を……あっ」
前衛二人が敵と膠着状態に陥ったスキを突いて、後衛の魔導師ガーディアンが、氷礫の魔法を全方位にぶっ放してきた。
全方位と言っても切り合っている前衛二組を避けつつ、後衛のエットとリィコォが避ける隙間がないぐらいにばらまいたのだ。
「あぶないっ!」
そう叫んだのはガーレイオンとフルンのどちらだったかはわからないが、扉から覗いていた俺は誰かに首根っこを掴まれて後ろに引きずり倒された。
と同時に扉の隙間から氷礫がバラバラと飛び出してくる。
危ないところだったが、道路に飛び出す幼子じゃないんだから、もうちょっとマシな扱いはないものか。
いや、危なっかしさから言ったら似たようなもんか。
それよりも、エットとリィコォちゃんは大丈夫なのか?
おっかなびっくり中を覗くと、フルンが魔導師ガーディアンの首をはねたところだった。
同時にガーレイオンも二体の戦士ガーディアンを粉砕していた。
勝負はついたらしい。
改めて部屋の中を見回すと、壁や天井のいたるところに氷がへばりついて、大昔の霜だらけの冷凍庫みたいになっている。
その隅っこの方で、エットとリィコォが何事もなかったかのように立っていた。
慌てて駆け寄るが、二人共けろっとした顔だ。
「あ、ご主人さま。おわったよ」
ニコニコしながら答えるエット。
「おう、おつかれさん。怪我はなかったか?」
「うん、平気」
「すごい魔法食らってたけど、大丈夫なのか?」
「うん、バリアあるし」
そういって、ベルトのバックルに手を触れると、なにかクルクル回りながらぴかりと光る。
「そうか、バリアか」
そんな物があったのか、知らなかったぜ。
一方のリィコォちゃんは、ため息をつく。
「はぁ、でもダメですね。連携もなにもあったもんじゃありません。結局前の二人が力技で倒しただけなので」
「まあ、そういうこともある」
「さっき見せていただいたレーンさんのパーティは、実にスムースに連携されていたのですが」
「あいつらは、何年も専門のトレーニングを受けてるからな」
「ガーレイオンも私もそうなんですが、一人で戦う方法しか教わったことがなかったので、どうしても体が勝手にそういう風に動いてしまうんです」
一人で反省会状態のリィコォちゃんをよそに、ガーレイオンは出現した宝箱を漁っていた。
「すごい、お金はいってた! これでおやつ買おう。まんじゅうがバケツいっぱい買える!」
無邪気にはしゃぐガーレイオンをみてため息をつくリィコォちゃん。
なかなか大変そうだが、俺にアドバイスできることはないので、生暖かく見守ることしかできないのだった。
見守ってたら腹減ったな、そろそろ切り上げよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます