第466話 ふたたびルタ島へ
リッツベルン号のラグジュアリなソファでまったり寛ぎながら、家路を急ぐ。
時刻は夜の十時ぐらいだろうか。
塔のあれこれが終わった後もいろいろあったんだけど、駆け足で終わらせたわけだ。
ペルンジャとその親戚との会談に関しては、ペルンジャは俺の従者となって実家と距離をおき、親戚の方も現巫女の孫娘ルージャに巫女の地位を継がせて、双方の利害が一致したことで落とし所をみつけた感じだ。
まあ、実際は面倒な部分もあったんだけど、思い返すだけで面倒なのでスルーしておく。
スルーできない点としては、塔の守り手絡みで後を引きそうなことが判明したところか。
過激な行動をとっていた連中が、黒竜会と繋がりがあるのではないかと言うことだ。
まあ、なんかこの世界で変なことするのは、だいたいその黒竜会とかいう連中じゃねえのという気はしてたけど、事実上滅んでるみたいなことも聞いてたので考えなくてもいいのかなと思ってたらそうでもなかったらしい。
それに関して、オラクロンが次のように説明してくれた。
「エレンが盗賊ギルド経由で集めた情報と、ノード8……もとい、ポワイトンからの報告、さらに国の方で忍ばせていたスパイの報告を鑑みるに、その可能性が高いようです」
「それはやばいレベルで活動してたのか?」
「まだ不明です。首領にして黒竜復活の儀式を司ると言われるダークソーズが復活していないと考えられるので、重大な問題に発展することはないと思われますが」
「そういうのは、油断してると最悪の形で現れるんだよ」
「その時はご主人様の特異な能力で解決していただきたいですね」
嫌な予感を抱えたまま行動するのは不本意なんだけど、さほど後手に回ってるわけでもないのが安心ポイントかな。
例えば、アーランブーランで失踪したかに見えたラムンゼ隊長だが、彼女や、彼女と一緒にペルンジャを襲った侍女のカロニーなどは黒竜会と繋がりがある可能性があるので、泳がせることで北方大陸に潜んでいる信者を洗い出せるのではないかとのことだ。
これも根拠の無い話ではなく、塔の守り手に忍ばせていたスパイの報告に基づく判断だという。
詳しい話は聞けなかったのだが、他にも色々手は打っているそうで、まあ、ちゃんとやれてるんなら別にいいだろう。
結局、南方旅行の成果としては、キンザリス、リエヒア、ビジェン、ハッティ、ペルンジャ、オラクロン、リカーソの七人を得たこととなった。
我ながら釣果は抜群であるな。
南極大人をはじめとしたカラム三人娘は、例の白玉を処分したあとに、そのままどっかに行ったらしい。
せっかく褒めてやろうと思ってたのに、シャイだな。
あとは列車が楽しかったとか、飯や酒も美味かったとかもあるんだけど、まあそちらはその気になればまた後日遊びに来ればいいので、ひとまず置いておこう。
列車といえば、列車マニアのキーム嬢は、オラクロンの肝いりで再度スパイツヤーデへの留学が叶うことになったらしい。
といっても一緒に連れて行くわけにもいかないので、段取りを付けて後日ということのようだ。
すなわちナンパにチャレンジする機会が与えられたと言うことだろう。
「いやあ、紳士様のお陰であっけなく夢がかなって、拍子抜けといいますか、いずれにせよ、スパイツヤーデに渡った際には、改めてよろしくお願いいたします」
などと本人も調子のいいことを言っていた。
今一人、ペルンジャの世話を担当していた女官のエリソームは、神殿仕えの本来の仕事に戻るようだ。
「お陰様を持ちまして、つつがなく任務を終えることができ、感謝の言葉もありません。他の者達も温情を持ちまして……」
と言った感じで、脈がありそうな気がしてたのにパッとしない別れ方をしてしまった。
彼女はなんか裏もありそうだったのになあ、ことごとく読みが外れたのだろうか。
まあ、南方との縁が切れたわけではないので、後日に期待したいところだ。
縁といえば、商人の娘、ハッティ、ラティ姉妹のことだが、姉の方はすでに契約済みだし、多方面からの根回しもあったので、父親との面会はスムースにいった。
今後は商人らしい親戚づきあいをすることになるだろう。
妹のラティは、姉と同伴する形で、一緒に来るようだ。
こちらはまあ、すでにフラグは全部立ってるようなもんなので、あとはきっかけさえあれば、ガーレイオンとうまくやれることだろう。
エィタ族のピビちゃんは、盗賊幹部ビコットの依頼により、俺が連れて帰ることになった。
姉妹のように育ったドラゴンメイド兼女神であるビジェンが俺の従者になったこともあるし、まあどうにかなるだろう。
どうにかというのはもちろん、アレだ。
山羊娘パシュムルの両親は、結局こちらに残って探検を続けるらしい。
まあ、それが本業だしな。
思えば両親の安全確保が当初の目的だったのに、脇道にそれるにも程がある。
他にも細かいことがあれこれあった気もするが、帰りに温泉令嬢のリエヒアの実家に寄って挨拶をしたうえでひと風呂浴びて、現在空の旅と言う訳だ。
ソファの隣には、遅ればせながら従者らしいことをしてうっとりした表情で俺に体を預けているペルンジャがいる。
抱えてた問題もすべて解決して、表情も穏やかだ。
「ヘイ、ペルンジャ。黄昏レテル暇ガアッタラ太鼓タタケ」
どこからともなく現れたクロックロン404が、小さな太鼓をもってくる。
それを受け取ったペルンジャが、無言で俺に返事を促すので、黙ってうなずくと、ポコスカと小気味よくリズムを刻み始めた。
するとタイミングよくキンザリスがグラスを持ってくる。
生演奏を聞きながらの一杯、いやあ、満たされるねえ。
一方、ヒッピー巫女のリカーソは、青い顔をして部屋の隅で毛布にくるまっている。
アレもちょっとフォローしてやらんとなあ。
日付が変わるぐらいの時刻に、ようやくルタ島に帰ってきた。
船から降りると、こんな時間なのにアンたちが起きていて出迎えてくれた。
「お疲れ様でした、あちらでもまた色々あったようですが、無事にお戻りでなによりです」
みんなの顔を見ると落ち着くな。
落ち着いたら眠くなってきたので、寝るか。
疲れ切っていたせいか、かえって眠りが浅かったようでほんのりと老いを感じつつ目覚めると、空が白み始めた頃だった。
添い寝していた牛娘のパンテーやリプルを起こさないように布団からでる。
久しぶりにあじわう和風馬車の畳の感触も、四つずつついてるたわわな実りの豊かさも実に素晴らしいものだった。
食堂に移動すると、二十四時間勤務のミラーの他に、朝早くから仕込みをやっているパン屋のエメオや、今やすっかりベテランシェフの風格を備えたモアノアが忙しそうにキッチンを走り回っている。
そんな様子を冷やかしていたら、外からアンとテナ、それにキンザリスが戻ってきた。
キンザリスはプロ女中なので、アンなんかと同じポジションにつくのだろうなあと思ってたけど、すでに一緒にやってるようだ。
具体的に何をやってたのかと聞いてみると、
「リカーソのことで、少々」
とアンが苦笑する。
この古代遺跡と同じテクノロジーで構築されたキャンプでは落ち着いて眠ることができないと言って、外のフルンたちのテントで眠っているそうだ。
飛行機だけじゃなく、古代っぽいものが全部だめだったか。
「彼女はそんなに筋金入りだったのかなあ?」
「オラクロンの話では、幼い頃にゲオステルの声を聞いていたので、塔の守り手の教育も受けていたそうです。それが三年前に満を持して巫女として代表に就任したとか」
「その教育の賜物か。でも後天的なものなら、リハビリすることもできそうな気もするけどな」
「そのあたりの相談をしてきたのですが、今は心労が重なっているようなので、しばらく様子を見ようかと。試練の間は巫女として一緒に祈りを捧げることになると思いますので、その過程でフォローできるでしょう」
「ふむ、まあ任せるよ。俺の手がいるなら言ってくれ」
「かしこまりました。他にも色々、ご相談したいことがありますが……」
「ふぬ」
「まずは、お茶にしましょうか。南方土産のお菓子もありますし。ご主人様は、久しぶりにパロンのチョコでも召し上がっては?」
「そうしよう」
キンザリスが淹れてくれたお茶をすすり、チョコを食べる。
あいかわらずうめえな。
落ち着いたところで、改めてアンが話を切り出した。
「まずはこちらの現状報告から。懸案だった例のアヌマールですが、その後それらしい情報は何もありません。警備を任せていた十一小隊も、別件で半数が島を離れていますが、残り半数は、島内全域を手分けして探索中です。ここの警備は白象から有志で来ていただいた十名の騎士がクメトスの指揮下に入り、うちの騎士たちとともに警備にあたっております」
そういや、そんな問題もあったな。
すっかり忘れてたよ。
「ついで、ここの第三の塔ですが、噂以上に盛況なようで、このキャンプ地は紳士向けで静かなものですが、隣の一般向けのあたりは連日屋台なども出て賑わっている様子。塔の中も混雑しているので、試練は手間取るかもしれません」
「そういや、先行してた紳士連中も、ここで何ヶ月も詰まってたそうじゃないか」
「聞くところによると、それは別の理由だったそうです。何か攻略に必要なものが、冬の間は入手できないとかで」
「そんな理由で。しかし、手間取ってると俺たちも来年まで待たされる可能性もあるのか」
「かもしれません。早めに攻略したほうがいいでしょうね。すでに第四の塔を攻略した紳士もいるようですし」
まあ、よその動向はどうでもいいんだけど、ちょっと疲れてるのでさっさと試練を終わらせたい。
エネアルにも早く会いたいし、エネアルが来れば、判子ちゃんももうちょっとデレるんじゃなかろうか。
それに今も仕事で島を離れているエディなんかとも、俺が家にいればゆっくりする時間が取れるだろうし。
お茶を飲んでくつろいだところで外に出てみると、うちの騎士連中が朝のトレーニングを始めたところだった。
例のごとくエディと相棒二人はいないので、クメトスを筆頭に、オルエン、レルル、エーメス、ラッチルといった面々に、アンブラールやマッチョ系僧侶のレネ、巨人のレグなどがいる。
レネやレグは戦士系だが、スタイル的に侍組より騎士組とウマがあうようだ。
空はだいぶ明るくなってきたが、足元まではまだ日がさしておらず、焚き火を囲んでめいめいが体をほぐしていた。
しばらく様子を見ているとクメトスが手を休めて話しかけてきた。
「おはようございます、南方ではずいぶんとご苦労があったと聞きましたが、もう体調はよろしいので?」
「ああ、お前たちの顔を見たらすっかり元気になったよ」
「それは何より。またずいぶんと従者も増えたようですが」
「どうせまたレーンが胴元になって賭けてたんだろう」
「ハハ、そのようで。私は参加しておりませんでしたが、レルルは結果を知ってずいぶんと落ち込んでいた様子」
「相変わらずだな、反省するまでしっかり稽古をつけてやってくれ」
「それはもう、今もエーメスがしっかりと」
見ると木剣の乱取りでだいぶやり込められていた。
「先程、キンザリスとは挨拶を交わしましたが、あれはなかなかの腕前とみました。空手と言うのは無手で戦う体術だと聞きますが、前衛はさておき、腕のたつ僧侶であれば、後衛の守りが厚くなりますね」
「今日からさっそく塔に挑むつもりだけど、様子は見てみたのか?」
「いえ、やはりご主人様抜きで扉をくぐるわけには」
「ふむ、まあ仕方ないか」
「ここにキャンプを構えてからすでに数日経ちますが、動きがないので世間では憶測を呼んでいる様子。午後にでも記者を相手に、健在な様子を披露すべきかと」
「紳士をやるのも大変だな」
ため息をついた瞬間、景色がわずかに暗くなったかと思うと、東の水平線に日が昇った。
ここはどうやら海岸沿いの高台で、北東に目をやると大きく弧を描いた湾が広がっている。
その少し手前にガッチリとした試練の塔が朝日を受けて銀色に輝いていた。
北には小高い山並みが続き、山並みに沿って東に目を移すと、山頂に立派な神殿のシルエットが見える。
あれがウル神殿らしい。
そしてその麓にはシーナの港町がある。
島有数の大きな街だが、湾の向こう側で渡し船を使わないと渡れないので、塔をクリアするまでお預けかな。
湾内では養殖も盛んだそうで、塔の冒険者をあてこんで、毎朝新鮮な魚を売りに来るそうだ。
日が昇ると、キャンプ内も人が動き始めた。
俺もそろそろ支度をするかな。
その前に飯か。
モアノア特製朝ごはんを、久しぶりに堪能するとしますかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます