第428話 列車強盗 前編
加勢するとかなんとか適当に理由をつけて、奥の寝室に向かう。
ペルンジャの寝室前を警備していた兵士が扉を開けて中に招き入れてくれた。
寝室に入ると、兵士が三人壁際に立ち、侍女が一人枕元にいる。
またベッドの反対側にはレクソン4427が待機していた。
ベッドに臥せっていた偽ペルンジャに扮したパシュムルは、俺と目が合うと、ホッとした顔で表情を崩す。
さぞ緊張していたことだろう、ひどい目に合わせちまったなあ。
とにかくなにか理由をつけて彼女を連れ出さないと、などと考えつつ視線を窓の方に何気なく移すと、分厚いカーテンで覆われていて見えないはずの窓の外で青白く光る顔と目が合った……様な気がした。
うん?
と思った瞬間、壁がドカンと吹っ飛び、お供のミラーが身を挺して俺をかばう。
襲撃だ、とか雷撃を使うぞ、とかどこかで叫んでいるのが聞こえるが、煙の立ち込める室内をみわたすと、窓のあたりに穴が空いている。
侍女と護衛の兵士三人は吹っ飛んで引っくりかえっているし、ラムンゼ隊長も片膝を付いていた。
レクソン4427は銃を手に壁の穴から外に躍り出る。
偽ペルンジャはベッドの上で白い泡に包まれていた。
隣りにいたクロックロン404が吐き出した、衝撃吸収材のようなものらしい。
なんにせよ、敵がここまで思い切ったことをしてくる以上、こっちも体裁なんて気にしている余裕はない。
駆け寄って偽ペルンジャを内なる館に取り込もうとした瞬間、いつの間に起き上がったのか、侍女が偽ペルンジャを羽交い締めにして首にナイフを突きつける。
「巫女の印をお出しください!」
侍女はそう叫んだように聞こえたが、周りはやかましいし、俺も動揺していて見守ることしかできない。
「ペルンジャ姫、印をお出しください。傷つけたくはないのです、どうかっ!」
侍女はナイフを突きつけながら脅迫とも懇願とも取れる声でそう叫ぶ。
顔は紅潮して興奮しており、逆らうと何をしでかすかわからない。
それでいて、周りはしっかりと警戒していて、隙がない。
なにかの印とやらを脅し取ろうということなんだろうけど、それがなにかもわからないし、かと言って手をこまねいていては偽ペルンジャに危害が及ぶ可能性がある。
そのペルンジャは偽物だとバラすのは、いい作戦じゃないだろう。
ヤケになって斬りつけるかもしれないし。
とにかく、その印とやらを知ってる人間がいないと、と思って近くに居たラムンゼ隊長をみると、腰の剣に手をかけてこちらも顔を真赤にしている。
怒ってるのか動揺してるのかわからんが、これもちょっと頼りない。
となると、さっき出ていったレクソン4427が頼りだ。
という俺の考えが通じたのか、スポックロンを見ると小さくうなずく。
次の瞬間、足首のブースターから派手な音を立てながらレクソン4427が飛び込んできた。
レクソン4427はじろりと侍女を睨むと、手にした銃を向ける。
「も、もう戻って……、近づくな、姫がどうなっても」
そう叫ぶ侍女に、努めて冷静に言い放つレクソン4427。
「抵抗は無駄です。あなたが動くより早く、私はあなたの動きを止めることができる」
「こ、これを見なさい。こいつを爆発させっ、させるぞ」
そういって丸っこい精霊石みたいなものを取り出す。
手榴弾的なものだろうか。
レクソン4427は逡巡する素振りも見せずに、銃を収める。
「……望みは巫女の印ですか。それを得てなんとします?」
「奪うことが目的だ、後のことはしらない!」
「稚拙なことを。そうした行為が、預言者の反感を呼ぶことぐらい、わかりませんか?」
「それを決めるのは私じゃない!」
「いいでしょう。彼女の印は、まだ私がもっています。受け取りなさい」
そう言って懐から、ピンポン玉サイズのガラス玉を取り出した。
「そ、そこにおけっ」
侍女が促すままに、レクソン4427はガラス玉をベッドの上に置く。
それを取ろうとした瞬間、偽ペルンジャを拘束する手が緩む。
その一瞬のすきを突くようにレクソン4427が銃を構え直すが、間髪入れずに剣を抜いたラムンゼ隊長がレクソン4427に斬りかかる。
だが、この行動は予想のうちだったようで難なくかわすが、ラムンゼ隊長が両者の間に分け入る形で立ちふさがる。
「予定が狂ったが、カロニーをとらせるわけにはいかん、印も頂いていく」
そう言って剣を構えるラムンゼに、レクソン4427が言い放つ。
「あなたの培ってきた名誉と引き換えにするほどのことですか」
「そうだ!」
「では、何も言いますまい」
「我々が逃げ切るまで、姫の身は人質に取らせてもらう」
「そこまで妥協するつもりはありません、姫を解放しなさい」
「ガーディアンの力を見くびるつもりはない、これ以上の問答は無用。先に出ろ、カロニー」
カロニーというのが侍女の名前だろう。
偽ペルンジャを抱えたまま、壁に開いた穴に移動していく。
まいったな、こんな状況になるとは。
俺としては細かいことはどうでもいいので、とにかく偽ペルンジャに扮したパシュムルを助け出し、他の身内にも危害が及ばぬようにするしかない。
ないんだけど、俺にできることはなにもないんだよな。
この距離と密着具合だと、偽ペルンジャだけを選り分けて内なる館に取り込むこともできないし。
だいたいくっついてるものはひとまとめに中に入っちまうからな。
まれに中に入れられない人物もいるようだけど、条件がわからんし。
もっとちゃんと調べとくんだった。
肝心なときに役に立たんな、俺は。
などと悩んでいたのはほんの数秒だったが、そこに突然朗らかな声で飛び込んで来た人物がいた。
「師匠! 大丈夫!? 前の方大変みたい!」
声の主はガーレイオンだ。
ドタドタと無造作に駆け込んできたガーレイオンに向かい、興奮気味のラムンゼ隊長が斬りつけるが、これをなんなくかわす。
「え、なに、この人敵? 昼間一緒にいなかった?」
かわしながらも混乱して尋ねるガーレイオンの背後から飛び出してきたフルンが、ラムンゼの手にした剣を手刀で叩き落とす。
同時に「やっ!」と気合を発して何かを投げた。
「あっ」
と侍女が声を発して手にしたナイフを取り落とす。
その手首にはフォークが刺さっていた。
そのショックでスキができたのか、目にも留まらぬ速さで飛びかかったレクソン4427が侍女から偽ペルンジャを奪い取る。
そのショックで、侍女は手にした爆弾的なやつを取り落とす。
真っ赤に光る精霊石っぽい球がころころと転がるとガーレイオンの足元で止まった。
「なにこれ?」
と拾い上げるガーレイオンに、レクソン4427が初めて声を荒げて、
「いけませんっ、爆発します!」
「えっ? あ、ホントだ」
ガーレイオンが間の抜けた返事を返しつつ、両手で赤い玉を抑え込むと、ギュッと握りつぶしてしまう。
次の瞬間、ボフッと手の中で鈍い音をたてて消えてしまった。
あとには赤黒い煙が残るだけだ。
「危ないから潰しちゃったけど、いいよね?」
ガーレイオンに問われて、レクソン4427は銃を構えつつもあっけにとられる。
「ええ、構いません……が、腕は大丈夫ですか?」
「平気、こんなのダストンパールと稽古したときより楽勝。結界を小さく張るのもうまくなった」
「あなた、生身で殲滅級ガーディアンとやりあうのですか?」
「うん、勝てないけど、思いっきり魔法を乗せる練習にはなるよ」
「そうですか、最近の人間は、頑丈なのですね」
レクソン4427はそれで納得したようだったが、侍女とラムンゼ隊長は、茫然自失の体でその場に崩れ落ちてしまった。
二人の活躍で解決かとおもいきや、再び壁が爆発する。
いや、正確には爆発ではなく、青白い光の塊が壁を突き抜けて飛び込んできたのだ。
それがさっき錯覚かと思った光る顔だと気づいたのは少し後のことで、その時は光の放つ衝撃波のようなものでひっくり返ってしまった。
ひっくり返ったのは俺だけではなく、フルンやレクソン4427も同様で、こいつらがコケるぐらいだから俺なんてもうどうしようもないほどに飛ばされて一瞬気を失ってたわけだが、光る顔が必死の形相で、早く早くと急かすものだから、慌てて飛び起きると、フルンとガーレイオンが俺を抱えて心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ご主人さま、大丈夫?」
「お、おう、たぶん」
「スポックロンたちもひっくり返ってる、悪い二人は逃げた、追いかけたほうがいい?」
「パシュムルは?」
そう言って顔を起こすと、レクソン4427の隣で倒れていたパシュムルが起き上がるところだった。
どうやら変身を解いたらしい。
ノッポのペルンジャに比べて縦に縮んだ分、横にむっちりした夜着がムチムチである。
「わ、私は大丈夫。ご主人様は」
「俺は大丈夫だ、お前も無事で良かった」
よろめきながらこちらによってきたパシュムルを抱きとめて安心させる。
数秒の間をおいて、突然レクソン4427とスポックロン、それにクロックロンが起き上がる。
「なにごとですか、これは」
スポックロンが叫ぶと、レクソン4427もうなずいて、
「バックアップからの再起動に二十七秒もかかってしまいました。ECMの一種でしょうが、直近数分の記憶がまだ曖昧だ。そちらで補完できますか?」
「バクスモーのバックアップから可能で……完了しました。ああ、なるほど。二回目の襲撃者は正体不明ですが、ひとまず逃げた二人は追跡中です。どうしますか?」
「追跡は継続してください。泳がせて背後関係を知りたい。それとラムンゼの部下と残りの侍女を一旦拘束しましょう。ご協力願いたい」
これは俺に向かってレクソン4427が尋ねる。
断るわけにもいかないので、スポックロンに良きに計らえと命じておいた。
目先の問題は解決したが、襲撃はまだ続いている。
これもどうにかしないとなあ。
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