第414話 第二の試練 その十二
ピカピカ光る塔を見上げつつ、皆をねぎらう俺。
ボックスも手に入れ、めでたく第二の塔をクリアしたわけだ。
結局当初の予想通り、落とし穴を全部開けて回ったらクリアだったというじつに退屈と言うかゲームならクソダンジョン扱いされても仕方のない展開だった。
まあ、無事にクリアできたので良しとしとこう。
「お疲れ様ハニー、思ったより早かったわね」
とは、クリアと聞いて仕事先から飛んできたエディの言葉だ。
「まあね、それよりも、せっかく騎士団の設営も終わったのにどうする?」
「そうねえ、神殿に戻る道中の護衛は一部にして、本体は先に次の第三の塔に行ってもらおうかしら」
「そうなるわなあ、鉱山の方の教会騎士団とかなんとかいうのはどうなってるんだ?」
「あっちは数人歩哨が突っ立ってるだけみたいな感じよ、楽観はできないけど、ハニーがここを去れば、心配いらないんじゃない?」
「ありがたい予想ではないが、まあいいか。今夜は宴会だ、十一小隊の連中にもいい酒を振る舞ってやってくれよ」
「それもいいわね。今夜は夜半に叩き起こして深夜の行軍させようと思ってたんだけど、酒が入ってるとなお効果的ね」
「軍隊は辛いな」
「そういうものよ。私もハニーと暮らしだしてからちょっと気が抜けてるのよね。引き締めておかないと」
「引退するんじゃなかったのか」
「するつもりなのは変わってないけど、後釜が決まらなくてなかなかねえ。私の前もすっごいグダグダしてたし、世の中比較的平和とはいえ力の空白は避けたいし、姉のこともあるし、面倒くさい事情が複雑に絡み合ってるのよ」
「怖いねえ」
怖い話から逃げるようにキャンプに戻り、アンに報告する。
「お疲れさまでした。それにしても順調ですね」
「試練だけ見たらそうだよな、他で色々あるけど」
「ナンパは捗ったので、よろしいのでは?」
「そういう見方もある」
「次の第三の塔は、近くに町がないのでナンパの機会はないかもしれませんね」
「なんか港町があるんじゃないのか?」
「シーナの町は湾を挟んだ対岸で、行き来は不便だそうです。ただ、第三の塔は手頃なモンスターとお宝が豊富で、先日聞いた話では冒険者が三十組ほど常駐しているとか。更に増えるかもしれませんね」
「ふうん、混み合ってると面倒だが、でもまあ、出会いの機会はあるかもなあ」
まだ見ぬ出会いよりも、今日のところは風呂酒飯と行きたいところだな。
というわけで、ひと風呂浴びてさっぱりしてきたら、なにやら取材が押し寄せているという。
十一小隊の件で町に集まっていた新聞記者が、俺がクリアしたと聞いてやってきたのだとか。
仕方ないので接客スタイルに着替えて出ていくと、シャツ姿で肉を頬張ったガーレイオンが捕まって質問攻めにあっていた。
「あ、師匠、助けて、みんな何言ってるのかわかんない!」
「ははは、ガーレイオン、市井の要望に答えるのも紳士の努めだ。カッコつけようと思わずに、質問にできる限り丁寧に答えていけばいい。みなさんもお手柔らかに頼みますよ、この子はまだ駆け出しでね、こんな大勢に囲まれるのに慣れていないのですよ」
などと言って皆の注目を集める。
そのスキにガーレイオンはリィコォちゃんに救出されたようだ。
「第一に続き、第二の塔も驚くべき速さでクリアなさっておいでですが、その秘訣は?」
「カリスミュウル殿下とご一緒に試練に挑まれておりますが、お二人の関係は噂通りのものなのでしょうか? それに伴い、レイルーミアス家との婚約を解消されたとの噂もありますが」
「アヌマールが出たとの話は真実なのでしょうか? 赤竜騎士団を、私的な試練に用いているのではとの批判もありますが、それについては?」
などといった質問に、ガハハと笑いながら雑に答える。
なんかアレな質問もあった気がするけど、まあいいや。
どうにか引き上げた頃には、すでに宴会が始まっていた。
マスコミってやつにデリカシーが無いのは、どこの世界も一緒だなあ。
などと愚痴ると俺の分のジョッキを持ってやってきたフューエルが、
「人一倍ゴシップ好きの人間のセリフとは思えませんね」
「自分のことは棚に上げるのが、ゴシップを楽しむ秘訣さ」
「弟子には聞かせられないセリフですね」
「言葉には気をつけないと。そういや、さっき記者が言ってたけど、桃園の紳士様はカリスミュウル殿下に乗り換えて、レイルーミアス家のご令嬢との婚約を蹴ったことになってるらしいぞ」
「まあ、ひどい男もいたものですね、見つけたら尻に精霊をねじ込んで爆発させましょう」
「かわいそうな男だなあ」
かわいそうなので酒でも飲んで忘れることにしよう。
順繰りに従者をねぎらって空いた席に落ち着くと、ローンがやってきた。
どうやら仕事の途中で一旦戻ったらしい。
「無事に第二の試練を終えたそうで、おめでとうございます」
「おかげさまでね。そっちはエディと一緒じゃなかったのか」
「ええ、色々とありまして。十一小隊の駐留に関する根回しやらで揉めておりまして」
「そういえばさっき来てた記者連中も、批判がどうこうといってたな」
とインタビューの話をすると、ローンは書類片手に苦笑しながら、
「あながち飛ばしでもないのですが……、我々としても、この島に拠点を作りたいという下心はあるんですよ。なんといってもマタール回廊の西の端、シャムーツに睨みを利かせる海上の要衝です。ですがここは古くから教会の勢力が強く更に特殊な気候も相まって思うように行かなかったのですよ。そこに今回の状況ですから」
「いい話だな」
「しかも、冬の嵐で島が閉ざされる件については、解決する可能性が高いのでしょう。教会側はまだそのことを知らないはずですから、有利に事を進めたいところですね。ついでになにか大きな事件でも起きて既成事実でも作れれば、駐留の口実になるのですが」
「いい話だなあ」
「おっと、お耳汚しだったようですね。では、貴方好みの話でも」
「うん」
「実家の使いが来て、近々妹が慰問に来たいと言っているそうです。パエの出産が夏頃の予定で、その前が良いだろうと」
「パエやコンツも来るのかな?」
「身重で旅は難しいでしょう」
「迎えの飛行機でも出してやればいい気もするが、まあ無理強いすることでもないか。しかしお供無しで大丈夫かな?」
「一人ということはありませんから、大丈夫でしょう。それから……」
「まだあるのか」
「宰相閣下もお忍びで参られたいと、事あるごとにおっしゃっているそうで」
「へえ」
「フューエルの紹介で知己を得たラーキテル殿と、最近は数日おきにその件で打ち合わせているところです」
「ああ、あの馬車好きの……」
「らしいですね。お近づきの印に一台お贈りしようと思うのですが、マニアというものは半端なものを贈るとかえって機嫌を損ねるので、難しいものです」
「そういうところはあるな」
「あなたにも奴隷娘を贈りつけようと考える輩は多いそうですよ」
「まじかよ、貰っても持て余すんだけど」
「あなたの女性に対する特異性は、並の貴族には理解できないでしょうね。そういえばウクレをリンツ氏の養女にする件は進んでいるのですか?」
「そういえばそんな話もあったなあ」
いつまでも奴隷のままというのはなんなので、フューエルの妹にして改めて従者として迎え入れるといった方向で考えてるらしいんだけど、建前は奴隷でも実質は貴族であるエクなどと違い、金で買った奴隷で、しかも敵国ローゼルの出身であるウクレの扱いはなかなか難しいらしい。
「試練が終わるまえにはどうにかするって言ってた気もするし、大丈夫なんじゃないかな」
「そうですか、あとは……」
「まだあるのか」
「シェキウールの父親の件ですが、彼に接触していた黒竜会残党の動きが、少し掴めたそうです」
「ほう」
「やはり辺境に残る僅かな信者が起こしたもので、組織だったものではない、とのことですが」
「そういう風に言われると、逆に不安になるな」
「気持ちはわからないのでもありませんが、心配ならスポックロンに依頼して、南方を調査してみては?」
「そうなあ、そういえばパシュムルたちが、あっちにいる両親に報告に行きたいって言ってるんだよな。俺としてもなるべく早めに行ってやりたいところだが」
「次の第三の塔は、地道に攻略する必要があるそうで、時間がかかる様子。その後に長期の休暇を入れればよいのでは」
「次の塔は面倒なのか。今のうちにリフレッシュしておかないとなあ」
というわけで、目の前のおっぱいに手を伸ばそうとしたら、すっとかわされてしまった。
「あいにくと、まだ仕事が残っておりますので。奉仕は新人に譲りますよ」
そう言って立ち去るローンと入れ違いに、双子姉妹が酒と料理を目一杯運んできた。
こいつはリラックスできそうだ。
あるいは逆に疲れ切るかもしれないが、それがいいんじゃないか。
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