第412話 第二の試練 その十

 ひとまず明日から塔の試練を再開することにして、今夜は早めに休むことにした。

 のはいいんだけど、早く寝すぎたのか、夜明け前に目が覚めてしまった。

 まあ油断すると朝型になるタイプなんだけど一緒に寝ていた連中はグーグー寝ているので、起こさないように寝所にしている和室馬車から出る。

 キャンプ地を取り囲む廊下は、足元に非常灯が灯っているが、人が通るとその周辺だけ少し明るくなる。

 廊下には、幼女軍団が無限に走りやすいように、リノリウムみたいなちょっと樹脂っぽい床が貼ってあるんだけど、そのせいでどこか学校の廊下っぽくも見える。

 大学に泊まり込んで卒論とかやってた時もこんな雰囲気だったような気がするな。

 口寂しくなったら本能の赴くままにコンビニに買い出しに行ったりして。

 ここにコンビニはないが、二十四時間営業の食堂ならある。

 食堂にいくと、ミラーが数人、朝食の支度を始めていた。


「おはようございます、オーナー。眠れませんでしたか?」

「いやあ、ちょっと早く寝すぎてな。とりあえずコーヒーを頼む」


 窓際のテーブルに腰を下ろし外の景色を眺める。

 キャンプ地の境界には電灯が立ち並び、周囲を程よく照らしている。

 町へと続く道沿いにも何本か立っているが、その明かりの下で夜通し歩哨に立っていたであろう騎士があくびをしている姿が見えた。

 大変そうだなあ。

 動く姿からして女の子っぽいけど、勝手に差し入れとかすると、怒られるかな?


「おまたせしました」


 ミラーがいい匂いのするコーヒーを運んできた。

 カップを手に取り、あらためて匂いをかぐとなかなか香ばしい。

 口に含んで新鮮な苦味と酸味を堪能していると、さらに何人かやってきた。

 アンやテナをはじめ、家事組の面々だ。


「おや、奥様に布団から蹴り出されましたか?」


 とテナ。


「寝相が悪くてね」

「どちらが、とはお聞きしませんが。私どもは今から朝の湯浴みをしてきます、ご主人様はどうなさいます?」


 一緒に入るかというお誘いだが、


「朝から刺激が強すぎるな。ここでおとなしくお茶でも飲んでるよ」


 そう言って面々を送り出す。

 改めて窓の外を見ると、少し霧が出てきたようだ。

 空はまだ暗いが、もうすぐ夜明けかな。

 二杯目のコーヒーを飲み終わる頃には半分ぐらいは起き出してきて、朝の支度を始めた。

 俺も飯でも食うか。




 その日の探索は順調で、塔の三分の二程を徘徊し終えた。

 すなわち落とし穴を開けまくったわけだ。

 この調子なら、早ければ明日には試練が完了するかもしれん。

 まあ、敵も出ない迷路をひたすら歩くだけだからな。

 今日の成果に満足してキャンプ地に戻るとカシムルが不満そうな顔で勢いよく乳をしぼっていたが、俺に気がつくと、ころっと機嫌がよくなり顔がほころぶ。

 だが、次の瞬間、自分が乳搾り中だった事に気づいて顔を真赤にする。

 こう言う初々しさも今だけだから堪能しておかないと。

 リプルみたいに目いっぱい俺に見せつける絞り方を身につけたのもイケてるんだけど。


「ご、ご主人様、おかえりなさい。今、片付けるんで」

「せっかくの仕事中だ、そのまま、そのまま。というかむしろ目の保養に見学させてくれ。疲労回復におっぱい鑑賞に勝るものはないとよく言うからな、主に俺が」

「いや、でも、その、はぁ……」


 渋々俺の要求を受け入れたようだ。

 そばで乳搾りのフォローをしていたリプルとパンテーは苦笑しつつ、絞ったミルクを瓶に移していた。

 この牛娘コンビは基本的に朝しか絞らないし、カシムルもそうらしいのだが、今日は朝から町に行っていたので、絞る余裕がなかったらしい。

 でも毎日絞らないと乳が張って苦しいのだとか。

 今朝は温泉のことなどを相談してきたそうだが、町長はともかく、町の主だった連中はあまり乗り気ではないとか。


「まったく、せっかくご主人様が色々図ってくださってるのに、あれもいや、これもダメって、要するに新しいことをしたくないだけなんですよ」


 ぷりぷり怒りながら乳を絞るカシムル。

 こちらは自分の手でダイナミックに絞り上げている。

 リプルもはじめのうちはそうだったが、今は搾乳機でチューチューやってるからな。


「まあ、変化を受け入れるのは難しいもんだ」

「でもそれで困るのは自分たちなのに」

「たとえ一部であっても、今までと生活の仕方が変わることに耐えられない人は多いからな。こっちもあくまでお節介をする立場だから、強くは言えんさ」

「そうなんでしょうか、新しいことをして良くなる方がいいと思うんですけど」

「うちはそういうタイプが多いけどな。そのへんも相性の良さに繋がってるんじゃないか?」

「へえ、そういうものですか」

「たぶんね、見ての通り、うちも色々いるからな」

「私もまだ一通り挨拶させてもらっただけですけど、モゥズのお二人とは仲良くやっていけそうで、良かったです」


 そう言ってニッコリ笑うカシムル。

 それを聞いたリプルは、


「私も、メェラの人が来るかもって聞いて、ちょっと心配してたんです。よく屋台の縄張りとかで争ってたって母に聞いてたから」

「そうなのか」

「アルサにも、メェラの屋台がいくつか出てるんですけど、気まずくて避けて通ったりしてたんです」

「そりゃあ、知らなかったな」

「でもカシムルとはすぐに仲良くなれたので、やっぱり従者のつながりのほうが重いんだなあって。ほら、フルンとエットも、すぐに仲良くなってたでしょう」

「そうそう、アレみて驚いちゃった」


 とカシムル。


「だってグッグとポロなんて、昔から不倶戴天の敵みたいに言われてるのに、姉妹みたいに仲良くて。今日も一緒に遊ぼうって約束してるんですけど、妹みたいでほんと可愛くて」


 などと話す間も、どんどん乳は絞られていく。

 わりとむっちり体型とはいえ、この体からよくこれだけ絞り出せるもんだな、人体の不思議だ。

 そうして乳搾りを堪能し終えたところで、俺も絞ってもらおうかと思ったら、フルンたちがわっとやってきた。

 カシムルを交えて遊ぶらしい。

 子供の遊びは任せておこう。

 そういえば、帰ってきてすぐにおっぱい鑑賞に勤しんだので、まだ着替えもしてなかった。

 とりあえず風呂だな、風呂。

 風呂と酒とご奉仕だけで俺の日常は出来てると言ってもいいだろう。

 前回のキャンプからある風呂場とは別に、食堂の屋上に露天風呂が設置されたと聞いたので、さっそく行ってみる。

 開放的なスペースに、ひなびた温泉宿の如き佇まいが実に情緒があって良い。

 しかも混浴だし。

 試練に挑んでいた面々と一緒に、のんびりくつろいでいると、スポックロンもやってきた。

 こちらは人種的モデルはプリモァらしいんだけど、わりといやらしい体型をしている。

 性格も別の意味でいやらしいので好ましいな。


「どうした、遅かったじゃないか」

「探索中に収集したデータをチェックしていたもので。どうもこの島は電波の通りが悪くて、パフォーマンスが落ちますね」

「そういうもんか」

「やはり落下したバリア発生装置の干渉があるのでしょう。大まかなあたりはつけてあるのですが、島の北側の海底なので、試練の後半までお預けかと思いまして」

「別に前倒しでやってもいいんじゃないか?」

「それはそうですが、まだ現地調査が進んでおりません。海底まで凍りついているものでして」

「ほほう」

「バリアは原理的に、エネルギーを吸うんですよ。その影響として凍ってしまいます」

「ふうん、それでアプローチはできるのか?」

「大型ガーディアンで力ずくという手も考えましたが、万が一爆発でもされてはことなので、専用の調査機を開発中です」

「ふむ、まあ任せるよ」


 ついでエンテル、ペイルーンの考古学コンビと新人の変身宇宙人パシュムルがやってきた。

 職業的に敵対してるはずなんだけど、そこは従者ということで仲良くやっている。

 あるいは互いに一番厄介そうな相手と最初のうちに積極的に仲良くなっておこうという作戦なのかもしれない。

 まあ大人には大人の付き合いがあるのだ。

 みんながフルンのように天真爛漫ではいられないからな。


「今日の試練はどうだった?」


 こぶりなボディをささやかに揺らしながら、ペイルーンが寄ってきた。


「まあ、順調だな。今は迷路を網羅する作戦なので、ぶっちゃけ歩くだけなんだよ」

「なんだか微妙な試練ね」

「そっちはどうだ? なにか悪巧みでもできたって顔してるな」

「そうなのよ。パシュムルのご両親、今南方にいるそうなんだけど、なんでも天空の輪に至る道を見つけたとかって」

「なんだっけ?」

「あれよほら、軌道上にある軌道リングってやつ。それの一番南方のリング・アメルナっての」

「ああ、それか」

「スポックロンの事前調査した座標とも近そうだし、あたりっぽいのよね。せっかくだから、そっちから宇宙に出てみるのはどうかしらって話してたの」

「ふむ、たしかに一向に宇宙に行けなくて困ってたからな」

「ここの軌道エレベータってのは壊れててないらしいんだけど、代わりに試練の塔が立ってるんだって」

「ほほう」

「でもそれが宇宙まで繋がってるわけじゃないらしいのよね。ただわざわざそんな場所に立ってるってことはなにかあるんじゃないかってのと、昔、天まで登った人がいるっていう言い伝えもあったりで、なかなか有望なのよ」

「よくわからんな」

「わからないから、面白いんじゃない。というわけで、どこかのタイミングで南方行きを計画したいのよね」


 ついでパシュムルが、


「私も両親に会いに行きたいし、そんなお宝、気になるでしょう」

「そりゃあ、そうだな。とはいえ、試練も始まったばかりだし、あんまりホイホイ遊んでると怒られそうだからもうちょい先かな」

「ご主人様って結構尻に敷かれてるわよね」

「実は尻も好きでな」

「目は胸ばかり見てるのに」

「そりゃあ、俺の目は女の乳を見るためについてるからな」

「役目はちゃんと果たしてるみたいね」


 そう言ってパシュムルが体を揺すると、でかい乳がじゃぶじゃぶとお湯を揺らす。

 頼もしいな。

 それにしても、ここの試練はなんかつまんないよな。

 以前挑んだ塔はどれもそれなりに戦闘や謎解きにやりがいを感じる構成になってたのに。

 やっぱ一般向けの塔と違って、紳士向けに何らかの意図がこもってるんだろうか。

 まあどうせ考えてもわかんないんだし、無駄なことにカロリーを使うのはやめて、湯にたゆたうおっぱいを眺めて過ごそうと思うのだった。

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