第403話 第二の試練 その一

 町で少々時間をとったせいか、キャンプの設営が終わった頃には日が傾いていた。

 山羊娘のカシムルちゃんはというと、食料なんかの仕入れについて、アンと打ち合わせていたが、日暮れとともに帰っていった。

 うちは別に買わなくてもどうとでもなるんだけど、町の方で需要を見越して用意しているっぽかったので、現地で可能な限り仕入れることにしてある。

 こういうところで現地住民と仲良くしておくのも大事だと言っていたのは、日暮れとともに帰ってきた赤竜参謀のローンだった。


「よそ者が集団で駐留すればどうしてもトラブルは尽きないものです。せめて景気よく金を落としておけば丸く収まるというもの」

「紳士の御威光より、やっぱ金かな」

「さあ、若い娘なら、あなたの御威光も効くのでは? なにやらメェラの娘に色目を使っていたとか」

「なんで今戻ったばかりなのに知ってるんだよ」

「それはもう、どこにいてもあなたのことばかり、気にかけておりますので」


 などと言ってメガネをくいっとやる。


「嬉しいねえ、嬉しすぎて腹が減ったなあ」


 そう言ってローンの元から逃げるように食堂に向かうと、ガーレイオンとフルンがとんかつを山のように積み上げて食べまくっていた。

 若いっていいねえ。


「あ、師匠。明日どうするの? もぐもぐ」


 ガーレイオンが口に頬張ったとんかつを飲み込みながら、そう尋ねる。


「まあ、まずは塔の様子見だろうなあ」

「あの塔、でっかいよね! 前のやつより倍ぐらいある」

「そうだなあ」


 といって食堂の窓から外を見る。

 ここからだと見えないんだけど、ガーレイオンの言うとおり、二番目の塔は前より一回りはでかかった。

 噂では中は複雑な迷路になっているので、ちょっと面倒かもしれない。

 先行する四紳士のクリア時間はかなりムラがあったようだ。

 なにか特殊な能力が必要になる試練なのだろうか。


「ねえ、宝探しはどうするの? もぐもぐ」


 今度はフルンがそう尋ねる。

 こちらも同じくとんかつをガブガブ食ってる。

 食べながら喋らないように注意したほうがいいのかなと思わなくもないんだけど、そういうのはアンやテナに任せておこう。

 第一自分にできないことを棚に上げて説教するのは、いかがなものかと言う気もするし。


「そうなあ、宝も気になるよなあ」

「試練を先に終わらせると、アンとかは早く先に行こうって言うと思うから、両方やるなら宝探しを先にしたほうが、いいと思う」

「いいところに気がついたな、フルン。とはいえ、まだ全然実態がわからんし、当面は午前中は塔、午後は宝探しって感じでいこうかな」

「すごい、勤勉! 朝も昼も働いて大丈夫? すぐに調子が悪くなったりしない? 前の旅のときも、よく元気がなくなってた」

「まあ、あの頃よりは鍛えてるさ。ガーレイオンも一緒に宝探しをやるか?」


 と尋ねると、何度もうなずいて、


「やる、ほんとはそっちのほうが気になってた。お宝があると、ネーチャンをいっぱい侍らしたりできるってじいちゃんも言ってた!」

「そうそう、やっぱり男の魅力の半分ぐらいは金なんだよ」

「お金かあ、どうやって稼ごう。ねえ師匠、紳士って儲かるの?」

「そうなあ、まあうまくやれば儲かることもあるが……、むしろ紳士を利用して儲けてやろうというあくどい人間が寄ってくるから気をつけたほうがいいな」

「そんな悪いやつは、やっつければいいと思う」

「悪いやつほど身を守るのがうまいからな、下手に手を出すとこっちが悪者にされるぞ。やはり近づかないのが一番だな」

「むずかしい、もっと勇者みたいに魔王を倒して王様にお金もらうとかがいい」

「そうなあ、でも最近は魔王とかあんまりいないらしいぞ」

「どうして?」

「やっぱり魔族の王様だって、恐怖で支配するより、ちゃんと政治をやって国を経営したほうが儲かるからじゃないかなあ」

「政治、政治って紳士より強い?」

「結局な、個人がいくら力をつけても、国みたいな権力には勝てないから、政治をうまくやる人間のほうが強いな」

「そっか、うーん、世の中は難しい。じいちゃんが外の世界は大変だ、山に住んでいれば、十頑張れば一頑張ったときより薪は十倍取れる、でも外の世界じゃそんな風にはならないって言ってた」

「そうなんだよ、頑張る人も頑張らない人も、程々の成果で落ち着いちゃうんだよな」

「頑張ったら頑張っただけいっぱい儲かるほうがいい」

「少ない人数で暮らしてるとな、例えばせいぜい数十人しか住んでない山奥の村とかだと、個人の頑張りと儲けは比例するんだけど、これが何万人、何十万人って街で暮らすようになると、個人の頑張りはあまり影響しなくなってくるんだよ」

「どうして?」

「そのほうがうまく世の中が回るからさ」

「そうなの?」

「人間のできることって個人によってすごく差があるからな、できる人を基準にしちゃうと、ほとんどの人がついていけなくなって、すぐに破綻しちゃうんだ」

「ふうん、よくわからない……けど」

「まあ、あんまり一気にわかろうとしないほうがいいなあ。大勢の人間の事を考えてるときでも、その一人ひとりは結局別々の人間だから、まずは身近なところからちょっとずつ世の中を理解していかないと、大事なところがわからなくなるぞ」

「大事なところって?」

「みんながみんな、好き勝手に生きてるってことかな」

「そうなの?」

「そうなんだよ、だからこそ、一緒におんなじ方向を向いて生きていける仲間は大事にしないとなあ、とか、違うことをやりたい人になにかして貰うには、それ相応のメリットを提供しないとなあ、とかそういうこともわかってくるもんだ」

「ふうん、わかった……ような、わからないような」


 ガーレイオンは首を傾げたまま、またとんかつをもりもり食べ始めた。

 俺も説教が下手だなあ、などと考えていたら、説教のうまいレーンがそばで話を聞いていたらしくにこやかにこちらを見ていたので、場所をかわってレーンの尻を揉むことにする。


「おや、もうお説教は終わりですか?」

「まあね」

「ご主人様のおっしゃる通り個人の能力差というものは、単に力や器用さのように比較できるものだけとは限りませんから、実際に触れてみないと理解が難しいことも多いでしょう。だからこそ社会というものは個人の差を平坦に均すことで相互理解を始めとした各種負担を減らすという役割も持っているのですが、ガーレイオンさんも紳士として世に出るのであれば、いずれ人の上に立つでしょうから、大衆とその仕組というものをあらゆる面から理解していく事が必要でしょう。ですが、まだ少々早いかもしれませんね。今は個人としての経験を積む段階ですね」

「そうかもしれん」

「師たるもの、目指す道の大枠を示すと同時に、内より発する問に適切な回答を与える役目もあります。この二つを偏らずに、常に示し続けることが肝要です」

「大変だな。俺ももっと人間理解に勤しまないと。例えばあそこの新人ちゃんはうまくやれてるのか?」


 と少し離れた場所で騎士連中と歓談するマッチョ僧侶のレネを指す。


「なんせカリスミュウルも人付き合いが苦手だから、うまくやれてるのかとか気になるじゃねえか。フューエルなんかはそういう心配はないけど」


 実際、自分の従者であるエームシャーラとはべたべたべたべた四六時中いちゃついてるし、かと思えばキーキーキーキー喧嘩してたりする。

 実に仲が良い。

 甘酒のような交わりだと言えよう。


「レネさんは、見かけよりも随分まっとうな僧侶だと思いますよ。信仰も深く朝晩の祈りも欠かしません。ハーエルさんに爪の垢でも飲ませたいぐらいですね」

「ほほう」

「惜しむらくはウル派は直感で神を理解するので、私の大好きな神学問答を戦わせることができないことが残念だと言えましょう」

「そんなもんか」

「それよりも、メェラ族のカシムル嬢はどうでした? ご主人様の琴線に触れるところはありましたでしょうか」

「そうなあ、おっぱいでかいしなあ」

「先程まで私もお姉さまと一緒に打ち合わせておりましたが、一見真面目そうでありながら、ご両親が探検家というだけあって、あれは本質的には山師の気質。ご主人様も口説かれるならその点を考慮なされたほうがよろしいかと」

「ほほう、さすが坊主のアドバイスは役に立つな」

「お褒めに預かり、光栄です」

「それはそうと、宝なんてあるのかなあ」

「さて、白象の宝も私は無いと考えておりましたから、安易な意見表明は避けたいところですが、根拠のないものを論じるのは神学の常、この場合、もっともらしい仮説と検証を積み上げて本題をごまかすのが王道ですが、ご主人さまには通じないでしょう。ですからこの場合は、視点を変えるというのがよいですね」

「というと?」

「たとえば、ご主人様にとって真の宝とは金銀財宝のたぐいではなく、従者こそが宝である、といったことですね」

「なるほど、それは探しがいがありそうだ」


 などと楽しく話していたら、書類を手にした考古学者コンビがやってきた。

 宝探しの打ち合わせをしたいというので話を聞く。

 コンビの内、メガネの方のエンテルが手にした地図を広げながら言うには、


「このあたりの山は、古い坑道があるんですよ。もう随分と前に閉じていて、正確な記録は残っていないのですが、一番古いもので大戦より前のアビアラ帝国期のものだと思われます。今でも若干取りこぼしの精霊石などがあるようで、それを集めて小遣い稼ぎをするものもいるとか。そうした廃鉱に宝を隠した、という話のようですね」

「ほう」

「こちらは町が希望者に売っている地図で、山の中腹までのものですが、その先は崩落していて不明です。宝探しをするものは、このあたりを掘り返しているようですね」

「ふむ」

「で、こちらが先程、上空のリズフォーがスキャンしたこの一体の地図です」


 そういって立体端末で山の中の様子を映し出す。


「未発掘の箇所に精霊石の鉱床が見られますので、鉱山として採掘すれば採算はとれるでしょうが、いわゆる宝と呼ぶようなものではないでしょう」

「ないか」

「ですが、こちらをご覧ください。坑道のほぼ東端、入り口からだと三キロほど東にずれたところに、人工の構造物があります。作りからして石造りのものでおそらく数百年前のものですが、その中心にステンレス系の材質の箇所があります」

「ほほう」

「古い遺跡を取り囲むように後付でなにか作ったのかもしれません。これは鉄の層などによく見られる構造です。断定はできませんが、ここが例の岩窟の魔女ロロイドの残した遺跡である可能性を考えております」

「ああ、そんな話もあったっけ。その魔女は遺跡に通じてるような人物だったのか?」

「そこはまだわかりません、ただの憶測です。いずれにせよ、私達が研究対象として望むような古代遺跡である可能性が高いですね。ここだけの話ですが、探検家というものは往々にして我々考古学者と利害が反するものですから、慎重に事を進めたいところです」

「ふむ、まあそういうもんかもしれん。じゃあ、どうしようか」

「そうですね、ご主人さまには町の意向に沿って、鉱山跡のほうで適当にお茶を濁してもらって、その間に私どもの方で遺跡の方を発掘するという方向でやりたいと考えておりますね」

「あくどいなあ」


 そう言うと、隣で立体地図をくるくる回していたペイルーンが、


「探検家を出し抜くには、これぐらいやらなきゃダメよ。だいたい発掘に出向いたら、すでに漁られたあとだったとかいうこともよくあったんだから。今、クロックロンを現地にやって当たりをつけてもらってるけど、連中に嗅ぎつけられないためにも、基本的に夜の間に調査を進めたいところよね」

「まあ、任せるよ。町の機嫌取りは俺がやっとこう。面白いもんが見つかったら教えてくれよ」

「わかったわ。じゃあ、そっちもお願いね」


 エンテルとペイルーンの考古学者コンビはそう言って去っていった。

 明日からやることも多そうだし、さっさと寝ておくかね。




 翌朝。

 まずは試練だろうということで、支度を整え、さっそく試練の塔に足を踏み入れる。


(古の盟約に基づき、汝の力を示せ)


 入口の扉をくぐると、前回と同じセリフが響く。

 残りも全部同じだと流石に演出として手抜きすぎるのではという気がしてくるが、みんな神妙な顔をして進んでるので水を指すのもいかがなものかという気がするし、まあ適当に流しとこう。

 この塔は、入り口こそ少し広いホールになっているが、幅二メートル高さ三メートル程度の通路が入り組んだ迷路チックなダンジョンのようだ。

 三、四人のパーティが上限っぽいので、メンバーを小分けにして、それぞれが声の届く距離を保ちながら手分けして探索することにする。

 今日はローンを含む現役赤竜組はいないので、俺はスポックロンとミラー二人をお供に、入り口のホールで待機している。

 総合的に見て古代技術のアドバンテージがあるので、参謀役としてのスポックロンはローンに劣るわけではないんだけど、スポックロンはボケ専門なので俺がひたすらツッコミ役に回らなきゃダメなのがしんどいんだよな。

 本来、俺もボケ寄りだと思うし。

 その点ローンはツッコミ寄りなので、気が楽だと言える。


 手元の端末で地図を眺めていると、次々と空白部分が埋められていくのだが、ほんとにランダムな迷路になってるな。

 隣で様子を見ていたスポックロンは、


「恣意的な構造が排除された、非常にランダム性の高い迷路になっていますね。ホワイトノイズのような一様性といいますか」

「そのこころは?」

「作成者の意志が感じられない、とでも申しましょうか」

「ふうん、これを作った女神様も、横着してランダムに自動生成したのかな?」

「さて、どうでしょうか。あるいはそうであることに意味をもたせている、と言えるかもしれませんが」

「意味とは?」

「私が把握している他の一般的な試練の塔と呼ばれるダンジョン類と比べて、ここや前回の塔は、もうすこしメッセージ性のある、あるいはチャレンジングなテーマを持っているように感じられます」

「ほほう」

「高出力の魔法により障壁を破り突破する、などと言った謎掛けは人生の試練、あるいは技術的困難の突破といったモチーフを感じさせるのではありませんか?」

「深読みのしすぎじゃないか?」

「その可能性もありますが、仮に私がこのような施設を作るとしましょう」

「ふむ」

「その目的はなにか? 試練に挑む紳士の力試し、あるいは戦術スキルの啓発、そういったトレーニングや熟練度の試験を目的にするのが妥当でしょう」

「まあ、そうかもな」

「であるならば、そうした戦闘や探索の能力が試せるものにすることでしょう。実際、他の塔はそういう意図を感じさせる設計のものが多いようです。ですが、ここや前回の塔はそうではないように思えますね」

「ふむ」

「そうした観点も踏まえて、全体の攻略を俯瞰的に捉えるのも、我々司令塔の役目であろうと思われます」

「無難にまとめたな」

「まとまったところで、フルン達が二階に進む階段を見つけたようです。指示待ちですが、どうなさいますか?」

「一階のマッピング状況は……六十八%か、敵の強さはどうなんだろう」

「雑魚と言っていいでしょう、現状では障害となる敵はいないようです」

「ふむ、じゃあマッピングはクロックロンに任せて、先に進んでもらうか。あと誰か一チーム呼び戻して護衛を頼もう、昼までここにいるのも退屈すぎる」


 近くにいたエーメス、レルルとクロ、ハーエルのチームに護衛してもらいながら階段を目指す。

 エーメスは日常でもボディガードを務めることが多いので、こういうときでも安心だが、レルルやハーエルは冒険者としてはまだ頼りないのでどうなのかという気もするな。

 俺が言うのもなんだけど。


「いやはや、紳士の試練と申しましても、さして代り映えしないものでありますな」


 などと調子に乗っているのはもちろんレルルだ。

 弱さを補うように、舌が回るところが可愛いと言える。


「調子ニ乗ルナ、コケルゾ」


 と突っ込むのは彼女の相棒のクロだ。

 俺の従者になった最初のガーディアンであり、レルルの相棒として息のあったところを見せるクロだが、ツッコミは容赦ない。


「む、自分もそこまで未熟ではありませんぞ、これでも近年はメキメキ腕も上がり、魔物に対峙しても震えが来ることもまったくありません、もはや一人前と言えるでありましょう」

「ソレハ見モノ、エーメス、次ニ敵ガ来タラ、レルルニ任セルトイイゾ」


 それを聞いたエーメスは、


「たしかに、レルルも修行の成果をご主人さまに披露したいことでしょう。では我々は手を出さずにご主人様の護衛に徹しますから、敵は任せましたよ、レルル」

「ははは、任せるであります。なにが来ようと、自分がケチョンケチョンに……おわっ」


 突然、足元に出現した落とし穴にはまりかけたレルルを、クロが確保する。


「油断大敵真ッ逆サマ、言ワンコッチャナイ」

「な、な、なんでありますか! このような罠があるとは聞いてないであります!」


 腰砕けで引っ張り上げられたレルル。

 中を覗くと、底まで高さ五、六メートルはある。

 剣山みたいなあくどいトラップはなさそうだが、鎧装備でこの高さから落ちれば、骨の一つも折れていただろう。


「大丈夫か、レルル」

「だ、だ、だ、大丈夫であります!」


 声をかけると、まだ腰が抜けていたようで、結局クロの背中に座り込んでしまった。


「敵ガ出ルマデモナカッタナ、イイ見世物」

「うるさいであります、どうせ自分はやくたたずの腑抜けであります」

「マアソウ言ウナ、粗忽モ役ニ立ツ、トキモアル。ミロ、アノ先ニ、何カアルゾ」


 そう言ってクロが穴の底を足で指す。

 どうやら落とし穴の横に、通路があるようだ。

 してみると、この塔は上だけでなく、下にも伸びているのだろうか。

 それなら階段ぐらいありそうなものだが。


「どうなさいます、行ってみますか? 吊り梯子の用意はありますが」


 とエーメス。


「ふむ、といっても、単に落とし穴からの抜け道があるだけかもしれんし、降りる前にクロックロンを送り込むか」


 内なる館に待機していた飛行型クロックロンを五体ほど送り込む。

 その間に他の連中にも連絡を取ると、一番近くにいたフューエル、エームシャーラ、シロプスのチームがやってきた。

 落とし穴を覗き込んだシロプスは、


「ふむ、妙じゃな。我々が先程通ったときには、このような罠は発動せなんだ。無論注意ははらっておったが……」

「俺達はまったく注意もせずに雑談しながら歩いてたら、落っこちかけたんだよ」

「ははは、それは災難じゃったな。だが、そうなると紳士殿の存在が、罠のトリガーとなったのであろうか」

「そういう可能性は考えられるよな。だとすると、俺が行く必要のある場所、ということも考えられるか」

「いずれにせよ、後方で陣取っておるばかりでは、攻略は進まぬ、ということでもあろうな」

「まいったね、俺としては従者たちの華々しい活躍だけで乗り切りたいところなんだけど」


 などと話す間に下層の大まかな情報が取れた。

 ここと同様に、ランダムな迷路状の通路が広がっているようだ。


「明確に違いがあればそっちを優先するんだが、悩ましいな。セオリー通りであれば、塔の上を目指すところだが……」


 と悩む俺にフューエルが、


「いいではありませんか、降りてみれば。どうせ頭数は足りているのです、分散しすぎない程度に上と下で手分けしていきましょう」


 というので、言われるままにすることにした。

 まずは落とし穴に簡易の階段を設置して上り下りしやすくし、全パーティの半分を地下に振り分け、さらにミラーとクロックロンも適宜追加していく。

 迷路は複雑だが、前回のように強敵と出くわすこともなく、単調なマッピング作業が進む。

 そうして地下一階と地上二階を半分ほど回ったところで昼飯時になった。

 すなわち本日の探索は終了だ。


「はー、なんだか面倒くさそうな塔だな」


 塔から出てそう愚痴ると、同じくだるそうな顔をしていたデュースが、


「そうですねー、こういうなんだかよくわからない塔は初めてですねー」

「わけがわからんのは疲れるよな」

「まったくですねー、午後はのんびりしたいところですよー」

「ところがそうはいかんのだよな、午後は午後で宝探しが」

「そちらはおまかせしましょうかねー」


 デュースが若返った気がしたのは心臓が戻った一瞬だけで、結局すぐに元のぐーたらおばあちゃんスタイルに戻っていた。

 まあ、染み付いた生活スタイルは早々変わらんよな。

 俺は午後に会う約束をしている昨日のかわいい山羊っ子ちゃんと、まだ見ぬその姉に思いを馳せて、やる気を絞り出したのだった。

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