第402話 ラクサの町
翌日の昼過ぎにラクサの町につくと、町長を筆頭に町を上げての手厚い歓迎を受けた。
俺のあふれる徳が、町民をして歓待させたのかと思ったが、どうもアルサの宝を見つけた俺に、ここでも探してもらって、宝が存在するという信憑性をアップした上で、他の観光客を呼ぼうという魂胆らしい。
カリスミュウルに言わせると、
「結局、自分たちも心の底では信じておらぬのであろうよ、体のいい町興しの手段であろう」
その意見にはまったく同意だが、
「むしろわかっててやってるなら、協力しやすいよな。無理のない範囲で協力して町を盛り上げてやろうじゃないか」
「貴様が打算や茶番が好きなのは承知しておるが、今回の目当ては宝ではなく、あの娘であろう」
「まあ、そうともいうな」
カリスミュウルのいうとおり、町長のところで応対してくれた娘はなかなかのかわいこちゃんで、俺たちを熱烈にもてなしてくれた。
名をカシムルといい、山羊のように弧を描いた立派な角が額から二本生えている。
山羊娘のメェラ族というらしい。
牛娘同様に屋台で自分の乳を売り歩くことが多いが、こちらは乳を晒して生搾りなどはしないそうだ。
あとおっぱいは二つしか無い。
山羊ってそうなんだっけ?
「宝と伝説の町ラクサへようこそ、紳士様。アルサでのご活躍はお聞きしております。つきましてはぜひこの町でも貴方様にご活躍いただければ、これにまさる喜びはありません」
などというカシムルちゃんは年の頃はまだ十代かな、とても可愛い。
白くてふわふわした毛並みはフルンに似ているがもう少し柔らかそうで、体つきは狸娘のトッアンクにも負けていない、見事な巨乳だ。
彼女の搾りたてのミルクを頂いたが、コクがあって癖になる味だ。
これは毎日飲みたいなあ、と鼻の下を伸ばしていたら、町長がやってきて、
「あの娘のミルクは気に入っていただけましたかな?」
「ええ、モゥズのミルクはよく口にしておりますが、メェラ族のミルクも、負けず劣らずの良い味で」
「そういえば、紳士様はモゥズも従者になされておるのでしたな。この町は住民の三割ほどがメェラでして、今の時期は女衆の大半がグリエンドまで出稼ぎに行っております。もっとも、あの子の両親はメェラにしては珍しい旅がらすで、特に父親の方は私と種族は違えど幼馴染の兄貴分みたいなものでしてな、両親が留守にしている間は、この子は家で面倒をみておったのですが、すっかり年頃になって、そろそろ身を固めてやりたいなどと、まるで我が子のように考えておったのですよ」
などという。
「実はこれには双子の姉もおるのですが、こちらは妹と違って、仕事もせずに宝探しに明け暮れて、今も裏山で穴を掘っておることでしょう」
「それこそ町民の鏡と言えるのでは?」
「まさかに、宝は観光に来た客人に掘ってもらってこその商売ですよ、紳士様も本職は商人だとか、であればみなまで言わずともおわかりでしょうに、ガハハ」
結構ストレートにくるな。
つまり宣伝塔としてこの町の宝をアピールして欲しいということらしい。
うまく行けば、この山羊娘ちゃんをゲットできそうな気もするし、悪くない話だと言える。
「お話はよくわかりました。私も白象の宝には縁のある身、ご協力は惜しみませんが、いかんせん試練の途上ですから、あまり本腰を入れるわけにはいきません」
「もちろん、よくわかっております。無論、試練の間は町を上げてご協力させていただきますよ。ここだけの話、他の紳士様は皆、試練を終えると町には目もくれずにさっさと次に行かれてしまいましてな。それに比べてさすがは桃園の紳士様、我らのような庶民の窮状をよく理解しておられる、いや誠に助かりました」
町長はいいスーツでパリッと決めて血色も良く、経済的に困ってるようには見えないんだけど、まあいいか。
というわけで、山羊娘のカシムルちゃんを町との連絡役につけてくれた。
あれだろう、村長の方でもあわよくばこの子を押し付けようという魂胆が感じられるが、むしろそれこそ望むところであり、あとは俺の頑張り次第だと言える。
言えるが、とりあえずカシムルちゃんの姉の方も気になるな。
双子ってことは外見は同じだろうけど、多分性格は違いそうだ。
町から塔へは、徒歩で三十分程度かかる。
キャンプは塔の側に設置するので、まずはそこまで移動することにした。
オープンタイプのおしゃれ馬車を引っ張り出して山羊娘のカシムルちゃんを乗せて、ご当地の案内などを受けながら進む。
「ここラクサは、白象の宝とともに海を渡った騎士ベンジーラスと、彼に付き従ったアルサの住民が開いた町だといわれています。町長も代々地位を受け継いだ家系で」
「へえ、じゃあ五百年から続く家系なんだね」
「家系図的にはそうなってるんですけど、ここだけの話、町長の祖父は宝探しによそから来た探検家だったとか」
「探検家? 冒険者とは違うのかい」
「あ、はい、えーと、多分世間的には同じに見られてると思うんですけど、宝探しや遺跡探索を中心にやる冒険者というか……私の父も、その弟子筋で宝探しに専念して、めったに街に戻ってこないんです」
「ふうん、考古学者とも違うんだね」
「そうです、あくまで金儲けのためにお宝を探して遺跡なんかを回るんですけど、うちの両親もその探検家で、たぶん今も世界のどこかで遺跡を探してるんじゃないかと」
「へえ。でも、ご両親はここの宝は探してないのかい?」
「父曰く、ここには金になるものは無いだろうって、でも姉はあるって信じてるみたいで」
「なるほどねえ」
「そもそも、宝探しなんて、当たればでかいんですけど、普段はろくな稼ぎにならないから、私達姉妹が幼い頃は、両親ともグリエンドまで出稼ぎに行って、乳を売ったり、港で人足仕事をしたりしてたんです」
「そりゃあ、大変だな」
「でも結局また宝探しを始めて旅に出ちゃって、しかも今では姉まで。本当をいうと、さっさと宝が見つかるか、むしろ無いって証明してもらいたいぐらいなんですけど」
「ははは、無いことを証明するのは難しいだろうな。それで、君自身はどうなんだい? 無いと思うのかい?」
そう尋ねると、山羊娘のカシムルちゃんは、すこし驚いた顔で、
「そ、そんなの、無いに決まってるじゃないですか! 宝なんて馬鹿らしい」
「そりゃあ一理あるが、それでもアルサの宝だって、大抵の人はほんとにあるとは思ってなかっただろうなあ」
「あ……すみません、紳士様が発見したんですよね、その、どんな感じだったんですか?」
「そうだなあ、あれは宝と言っても……」
当時の話をかいつまんでしてやると、カシムルちゃんはすっかり聞き入っていた。
「そんなことが……、この島のさまよえるホロアの話は聞いたことがあります、呪いにかかって苦しむ彼女を、ジャムオックが救い出したって、じゃあその伝説のホロアがまだ生きてて、今では紳士様の従者なんですね」
「うん、彼女と、当時の白象騎士団の意思をついで、今はアルサ神殿の元貫主がホロアたちの霊をしずめてくれてるんだよ」
「すごい……、やっぱり紳士様って、同じ宝探しでも、とても大切なお仕事をなされたんですね」
「そうだね、俺があの場に立ち会ったのは、ただの偶然かもしれないが、そうすることができたことは誇りに思うよ」
「それに引き換えうちの家族ときたら……」
「そう卑下したものでもないさ、もしかしたらなにか素晴らしい発見をするかもしれない」
「そうでしょうか?」
「もちろん、なにもない可能性のほうが高いだろうが、別に悪事を働いているわけじゃないんだ、どんな仕事にだって、それなりに意義を見いだせるものさ。もっとも、仕事に意義なんてものが必要だとすればの話だけどね」
「うーん、よく、わかりません。私はメェラなので乳をしぼって売ったりするのがいいと思うんですけど、姉はたぶん……」
「うん?」
「いえ、すいません、内輪のことで。あ、そろそろキャンプ場が見えてきますよ。他の紳士様がお見えになったときも案内させていただいたんですが、クリュウ様はヘショカの王様に負けないぐらいの立派な行列で……」
「あの王様は貫禄あるよな」
「はい、もっとも直接お話することはできなかったんですけど、クリュウ様は噂通り、とても親しみやすい方で、安心しました」
「ははは、まあ、生まれが庶民だからね。ここにいる間も、うちのものにも気軽に付き合ってもらえると嬉しいな」
「はい、よろしくおねがいします」
カシムルちゃんは、なかなか気持ちのいい美少女で、ふわふわと白い髪などもちょっと儚げで繊細なイメージもあるが、獣人系の常として、動きは活発で健康的だ。
いい子だねえ、俺もちょっとやる気が出てきたよ。
無論、彼女をゲットしてやろうというやる気だ。
他に俺がやることなんて無いもんな。
がんばろう。
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