第376話 割烹旅館

 今日はレアリーに誘われて、街でデートすることになった。

 モチベーション維持のために、定期的に休みを取ることにしているらしい。

 できる女って感じだなあ。

 こういうのに限って、なぜかできの悪いヒモみたいな男に引っかかるんだよな。

 誰とは言わんけど。


 東通りの高そうな店で無駄遣いなどしてから食事を取り、夜はキックリ記念劇場で再演中の白薔薇の騎士を観る。

 先のバレンタイン騒動で人気が再燃中らしいが、ちょっとずつアレンジが入ってたりして、何度見ても飽きないもんだな。

 この劇場はエディが大貴族パワーを行使して、個室のVIP席がキープしてあるので、いつでも特等席で見放題だ。

 都のレストランといい、金持ちはいいねえ。


「こうしてグラス片手にVIP席から見るのも良いものですわね、自分が成功者になった気がしてきますわ、この場合は玉の輿ですけど、おほほ」

「むしろ乗っかってるのは俺なので、二階建ての輿だな」

「商人が二階建てといえば、株の信用取引のことですけど、旦那様にはおすすめしませんわね」

「バクチは負けていい分しかやらないことにしてるんだ」

「良い心がけですこと。やはり現物にまさるものはありませんもの。舞台もこうして見下ろすのもいいですけれど、やはり役者の息吹が聞こえるような距離でかぶりついてみるのが、いちばんかもしれませんわねえ」

「そりゃわかる、むしろここって接待向けだよな」

「では、次は小さな芝居小屋でもお誘いしますわ」


 舞台が終わり、土産を買いつつ帰路につく。

 人が多くて馬車が捕まらないので、歩いて帰ることにした。

 途中、レアリーが組んでいた腕をぎゅっとつかみ、体を寄せてきた。


「うん、往来で色気づいたのかい?」

「おほほ、それも従者の醍醐味でしょうけど、残念ながら違いますわね」

「そりゃ残念、じゃあ何だ?」

「どうも妙な輩に付けられている気がしますの」

「まじで?」


 思わず振り返りそうになる俺を押し止めるレアリー。


「気取られては面倒ですわ。うちまでは距離がありますし、やはり馬車を使います?」

「うーん、とりあえず」


 ポケットから小型クロックロンのクロミちゃんを取り出す。


「俺たちをつけてるやつがいるか確認できるか?」

「スデニ確認済ミ、近クニ二十二体ノクロックロント、上空ニ待機中ノリズフォーガ監視中。オッツケエレンモ来ルゾ」

「備えは万全だな、じゃあこのまま歩くか」


 道中これみよがしにイチャイチャしながら、買い物などして歩く。

 店が立ち並ぶ大通りだけでなく、ちょっとした角の空き地にも屋台が出ていたりして、色んなものを売っている。

 出店というと大仰なものを考えてしまうが、もっと気楽なものらしい。

 まあ旅の途中も、雑に店を出してたもんな。


「店を構えるというのであればともかく、商売はもっと気楽に始めたり引っ込めたりするものですよ。食べる分だけ作っていた芋が余計に取れたので、街まで担いでいってなくなるまで売ってみるとか、蔵から茶碗が大量に出たから出してみようとか。でもそうした素人商売から一歩抜きん出ようと思えば工夫が必要ですわね」


 そう言って手にとったのは、木彫りの茶碗だ。

 むしろの上に商品を並べ、ボロを何枚も着込んで丸くなった婆さんがそれを売っている。

 孫におもちゃを買ってやりたい、おまけするからなんか買っとくれ、などとありきたりのセールストークで攻めてくる。

 適当に聞き流しつつ、レアリーと雑談していると、不意に苦笑してこう言った。


「ふふ、こうしてたわいない話をできるのも、相手がいればこそ、ですわね。思えば私も自分で思っていた以上に、孤独を病んでいたのかもしれませんわ」


 と、しおらしいことをいう。

 うちはことさら賑やかなので、復讐を誓って孤独に生きてきたレアリーにしてみれば、ギャップが大きいのかもしれないが、彼女ならすぐに慣れるだろう。


「あら、この鷲の彫り物、ちょっとかわいいんじゃありません? 都の貴族の子息などは、こうしたものを手土産に持っていくと喜ぶんですのよ」


 みるとずんぐりと丸くて、鷲というよりも梟かなにかのようだった。

 あまり興味がわかなかったので別のものを探すと、コマがあった。

 軸が紡錘状で変わった形だが、表面の装飾が細かくて、いい感じだ。


「宙独楽とかちょんかけと呼ばれるコマですわね、西のシャムーツで見られるコマですけど、ヒモに引っ掛けて空中で遊ぶんですの」

「ふうん、俺の知ってるコマとは違うのか、ちょっと買ってみよう」


 適当に買い求めて、いるかどうかもわからない孫への土産代を上乗せして金を払っていると、脇に新聞を抱えた子供が一部買っておくれよとせがんできた。

 体の良いカモを自認している俺は、言われるままに新聞を買う。


「おほほ、押しに弱いとは思ってましたけど、筋金入りのようですわね。アンやフューエル奥様も、しっかりと脇を締めておく必要があるとおっしゃってましたわ」

「言われてるだろうなという自覚はあったんだ」


 そう言って新聞を開いてみると、隅にエレンからのメモ書きがあった。

 慌てて今の売り子を見ると、去り際にこちらを振り返って帽子をとり、挨拶する。

 頭にはネズミのような耳がついていた。

 どうやらエレンと一緒に居たネズミっ子のようだ。

 今回は正体に気が付かなかったので、本気を出してきたのかもしれない。

 メモにはいったん目抜き通りに抜けてから馴染みの店に入れとある。

 何も言わずともレアリーは理解したようで、指示された店に向かう。

 ここは個室が中心の宿泊もできる割烹旅館で、子供連れでも周りの目を気にせずに使えるのでたまに利用している。

 レアリーも商談などで使ったことがあるらしい。

 でっぷりと脂の乗った女将が出迎える。


「ようこそ、サワクロの大将はん、お部屋はいつものところで。まあ、お連れはレアリーはんやおまへんか、ききましたであんた、ええお人を見つけはりましたなあ。ちょいと大将はん、このお嬢さんはできるお人やさかいに大事にせんとあきまへんで、ほな気張ってええもんこしらえますから、少々お待ちを」


 などと調子がいい。


「ここの女将さんは、駆け出しで交渉ごとが未熟だった私にも色々とアドバイスを頂いたことがあるんですよ」

「ふうん、しかし駆け出しの頃だと、ちょっとお高いよな」

「そうですわね。それでも勉強代だと思って、無理をして使ったものです。そういえば初めて利用したのは、私が行商の仕事を始めたばかりの頃でしたわね。じいやが門出を祝おうと言って、連れてきてくれたんですの。商売をやっていくなら、こうした店も知っておかねばならない、とかいって。高かったでしょうにどこでお金を工面したのやら……。それ以来、女将さんにも目をかけていただいて。近いうちに顔を出そうとは思っていたのですけど、今日はあなたと一緒に、お礼の報告もできそうでよかったですわ」

「じゃあエレンはそれを知って、この店を選んだのかな?」

「それもそうですわね、どうしてでしょうか」


 すぐに酒と料理が運ばれてくる。

 運んでくれたねーちゃんが、


「お連れ様はもうすぐいらっしゃるそうです。女将はその後、ご挨拶に参ります」


 と言っていたので、気にせずガブガブと飲み食いを始めた。

 お高い味がしてうまい。

 ひと心地ついた頃に、エレンがやってきた。


「おまたせ、ちょいと手間取ってね」


 そう言って入ってきたエレンの後ろから、後ろ手で縛られた女が入ってくる。

 抑えているのは、板前風の屈強な男だ。

 あんまりカタギには見えないけど、この店のもんかな?

 女の方は、なんか見覚えがあるな、誰だっけ?

 女の顔を忘れることは、そうそうないと思うんだけど。

 抑えられた女は、そのまま椅子に押し込まれた。


「ご苦労さま、あとは僕が見てるから大丈夫だよ」


 エレンが言うと、板前男は頭を下げて出ていった。


「さて、じゃあゲストにも席についてもらったことだし、乾杯と行こうか」


 レアリーは最初はあっけにとられていたが、持ち前のキモの太さですぐに順応したようだ。

 俺はまあ、細かいことは気にしないスタンスなので、素直に乾杯する。

 一方、縛られたままの女は、そっぽを向いたままだ。


「なんだい、不機嫌そうじゃないか。酒は嫌いかい?」


 とエレンが言うと女は、


「ふん、縛られたままで、乾杯もないもんだろう」

「おやそうかい、一端の盗賊なら、猿ぐつわ越しでも酒ぐらい飲めるだろうに」

「舐めんじゃないよ、あんたがどの組のもんか知らないけど、あたしはこうみえてもねえ」

「あはは、自分の狙う相手が誰かも知らずにちょっかいかけてたとはね、ビコットも手を焼くわけだ」

「……あんた、なんでその名を」

「まあいいさ、おっと女将さんだ」


 そこに店の女将が料理を持ってやってきた。


「おや、にぎやかにやってますな、祝いの席はそうやないとあきまへんわな。じゃんじゃんやっとくれまし」

「迷惑かけるね、女将さん」

「かまやしませんよ、ほな、ごゆっくり」


 縛られた女を見ても眉一つ動かさずに、女将は出ていった。

 こういう店は、やくざ者からいかがわし神官、高貴な貴族まで、いろんな連中が使うものだと聞く。

 女将の肝の座りようをみても、それがよくわかろうというものだ。


「さてと、僕も腹ペコだよ。つまらない話より先に、このうまそうな料理を平らげないとね」


 と言って食べ始めるエレン。

 レアリーはどうしたものかとこちらを見るが、どうにもならないので、俺も食べることにした。

 やはりうまい。

 のんびりと味わいながら、改めて女を観察する。

 変装しているが、どうやら以前怪我をした男の手紙を届けた酒場の女らしい。

 名前はマーレルだったかな。

 ジロジロ見ていたら、こちらをキッと睨んで、何見てんのさ、と凄まれた。

 怒られたのでレアリーを見ると、どうも状況を楽しんでいるようだ。

 そうこうするうちに、エレンが目の前の料理を平らげてしまった。


「ふう、食った食った。さてと、ビコットには借りがあるからこのまま勘弁してあげてもいいんだけど、うちの旦那に付きまとわれても面倒だからねえ」


 そう言ってエレンは女の方に向き直ると、ポケットから例の鍵を取り出す。

 あの鍵は俺が内なる館にしまってるはずなので、偽物かな?

 無論、俺が知らない間にエレンが持ってきてる可能性もある。

 最近はカリスミュウル経由でも頻繁に出し入れしてるしな。

 内なる館のポータビリティは格段に高まっていると言える。


「君の狙いはこいつだろう、ほしけりゃ、それなりのものを出してもらおうか」

「何いってんのよ、そっちが先に奪ったんじゃないか」

「まっとうな盗賊の言い分とも思えないね、そんなに大事なものなら、たとえ自分の命が奪われたって、他人の手に委ねるもんじゃないだろう」

「し、仕方ないでしょう! あいつは……盗賊じゃ、ないんだから」

「そうみたいだねえ、おかげで僕も手間取ったよ、まさか普通の冒険者を相棒に、組の仕事をやってるとはね。相棒くんの具合はどうだい? 軽い傷じゃなかったろう」

「う、うるさい、あんたの知ったことか」

「そりゃあそうだ、緑組の縄張りで、灰色の三下が勝手なことをしてたなんてことがバレても、まあ、僕の知ったこっちゃないね」

「そ、それは……」

「土竜の大将に、恩を売れるだけの価値が君にあるとも思えないけど、ま、厄介払いはできそうだしね」


 そう言ってエレンが手を叩くと、さっきの板前がやってきた。


「済まないが、ボスにつなぎをつけてもらえるかな」


 エレンの言葉を聞いた男はすぐに出ていこうとするが、女は慌てて引き止める。


「ま、待って、は、はなす、話すから!」

「おや、そうかい。じゃあ、ちょっとだけ待とうかな」


 それを聞いた男は、一礼すると出ていった。


「さてと、話す気になったんなら、もういいだろうね」


 エレンはそう言って女を縛り上げたロープを解く。


「じゃあ、改めて乾杯といこうか。一杯やれば、舌も軽くなるだろう」


 女はすっかり折れてしまったのだろう。

 言われるままに、グラスの酒を一口に飲み干すとポツポツと話し始めた。

 彼女の話はこうだ。

 灰色組の三下であるこの女盗賊マーレルは、この町に潜入して仕事をやっていた。

 緑組のシマであるアルサでおおっぴらに盗賊仕事はできないので、彼女の役目は情報収集と、ここにきた灰色組の連絡役、だったらしい。

 盗賊は縦社会らしいけど、エレンの顔も知らないということは相当な下っ端だったんだろうな。

 そこにビコットからの指令があった。

 謎の盗賊団が、アルサ近郊にできた魔界への通路を使って魔界に移動したらしい。

 それを調査しろ、との命令だったとか。

 女盗賊のマーレルは相棒の戦士エリントとともに冒険者として魔界に潜り、なにやら怪しげな連中を調べていたのだとか。


「私は報告のために、一旦アルサに戻ってたのよ、あっちに相棒を残してね。それが何を考えてんのか、あのバカが一人で余計なちょっかい出した挙げ句に、なにやら曰く有りげな鍵を奪って逃げ帰ったわけ。その途中、追手にやられて、あとはあんたがたの知っての通りってわけよ」

「つまり、あの鍵のことは何も知らないっていうのかい?」


 エレンが問いただすと、女は皿に盛られた料理を手づかみで頬張りながらうなずく。

 品のない食べ方だが、彼女の席にはフォークもナイフも置いてないんだよな。


「そんな説明じゃ、納得のしようがないねえ。第一、ビコットに泣きつくまで、何をやってたんだい?」

「別に、どうにか自分でかたをつけようと思ってたけど、どうにもならなくてね」

「ふうん」

「もういいでしょう、勘弁してちょうだい」

「どうしようかねえ」


 そう言ってエレンが一瞬目線を宙にそらす。

 するとこれみよがしに皿を手にとってなめていた女盗賊のマーレルが、手にした皿をかち割って机に飛び乗り、そのまま正面に居た俺に向かって飛びかかってきた。

 割れた皿は十分凶器になるし、俺も十分軟弱なので、襲いかかられたらひとたまりもなく人質になるだろう。

 だが悲しいかな女盗賊は次の瞬間、ひょいと手を伸ばしたエレンに足を掴まれてテーブルに落下し、さらに俺のポケットから忍びでたクロミちゃんに飛びつかれ、電撃でしびれて気絶してしまった。

 物音を聞いて店のものが飛び込んでくるが、テーブルの上でひっくり返った女を見るとすぐに引っ括られる。

 そのまま女はどこかに運び去られてしまった。


「あはは、旦那に飛びかかるとは、目の付け所は良かったんだけどねえ」


 とエレンが悪びれずに言うと、レアリーが少し怒った顔で、


「笑い事ではありません、主人を餌に釣るような真似をして、何かあったらどうするのですか」

「ごめんごめん、どうも旦那はアテにしやすくてね、気をつけるよ。それよりも困ったねえ、彼女は何も知らないようだし。ま、そんなことじゃないかと思ってたけど」

「だいたい、これは何の騒ぎなんです?」

「それがわかってれば、もうちょっと説明できるんだけど。なんせ僕も紳士の従者となったからには、なるべく組の仕事には関わらないようにしててね。かわりにご説明願おうかな」


 そう言ってエレンが見た先には、店の女将が立っていた。


「おやまあ、随分とよごしなはって、もうちょい行儀ようせなあきまへんで」

「ごめんごめん、うちのボスにでもつけといてよ」

「よろしゅうおます。ほな皆様には改めてご挨拶させてもらいましょか、盗賊ギルド緑組の幹部、ルズーラともうします、よろしゅうに」


 と頭を下げると、一番驚いたのはやはりレアリーだった。


「まさか、女将さんが! そんな!?」

「ごめんなさいねえ、レアリーはん。ドガッチの親父はんが、あんたをどうしても盗賊にはしとうない、言うもんやから、色々と手を回してましてん」

「では、私の両親のことも?」

「あんたはんのご両親は存じ上げへんのですけどな、ドガッチの親父はんには昔お世話になりましてなあ、そのお人が孫のようにかわいがっとるあんたのことやさかい、気にかけてましてん。しかも親父はん、晩年に仇のことを漏らしてしもうたことを、えらい後悔してはりましてなあ、あとを頼むとまあ何度も頼まれまして。仇の相手のことも、こっちで調べはついとったんですけど、どうやら心の臓が悪うて老い先短そうですからな、そのうちぽっくりいって諦めつくやろおもて、様子見とったんですけど、そっちはなんや紳士様のお力でうもうまとまったそうですな」

「え、ええ、そうです。だけど、まだ信じられません。そもそも、このところ、私の周りでは根底から覆るようなことが続きすぎて、何が何やら……」

「すごいお人と一緒になると、そういうもんですわな。それを肝に銘じて、これからは商人として生きなはれ。それがドガッチの親父はんへの手向けにもなりますで」

「そう……ですわね。大丈夫です、私はもう、そういう生き方をすると決めたのですから」

「ほんま、あのよちよち歩きの駆け出し商人やったお嬢はんが、立派になって、きっとあのお人も喜んでますわ」


 オーバーに涙ぐむ女将のルズーラ。

 盗賊はすぐうそ泣きするからなあ、と身もふたもないことを考えていたが、たぶん顔には出てなかったと思う。


「さて、打ち明け話も終わったところで、さっきのわんぱくはんの話ですけどな、正直、わかりまへんねん」


 女将がそういうとエレンがこれまたオーバーなゼスチャーで抗議する。


「そりゃあないよ、女将さん。なにか知ってるんだろう」

「こっちでわかっとることは、あんたも知っとることでっしゃろ、赤猫のお嬢はん」

「困るなあ。まあいいや、夜も更けてきたし、そろそろお暇しようかな」

「その前に、お勘定を」

「しっかりしてるなあ、じゃあコレ」


 と言って例の鍵を手渡す。


「釣りはいいよ、かわりにマーレル嬢は勘弁してあげてよ。あれでも僕のかわいい妹分だ」


 しかめっ面で鍵を見ていた女将のルズーラは、


「あの子は随分とうちのシマを荒らしてくれはったんですけどなあ、ま、次はおまへんで」

「恩に着るよ。じゃあ、今後ともよろしく」


 店を出てもレアリーはまだ狐につままれた顔で、


「どうもまだ、信じられませんわね」


 とつぶやく。

 それを聞いたエレンが、


「ま、盗賊ってのはそういうもんさ、どんな親しい間柄でも、嘘の皮をかぶり抜くのさ」

「相手が主人でも?」

「さあ、どうかな。旦那はどう思う?」


 とニヤニヤしながら尋ねるエレン。


「そりゃあおまえ、従者のやることは嘘も真もひっくるめて受け入れるのが、主人ってもんだろう」


 その返事に満足したのかしないのか、エレンは何も言わなかったが、かわりにレアリーが、


「あなたがすごい人物なのかどうかは、正直まだわかりかねますけど、盗賊と商人を同時に受け入れるだけの度量を持っていることだけは、確かなようですわね、おほほ」


 そう言って笑う。

 でも、レアリーにもちゃんと見守ってくれてる人が居たんだなあ。

 後で聞いた話では、レアリーのことがボーセント卿に伝わってなかったのも、彼女がいくらアプローチしても盗賊とコンタクトが取れなかったのも、女将が手を回していたかららしい。

 きっと俺も、自分の知らないところで知らない誰かに守られたりしてるのかもな。

 そういうふうに考えることができることこそが、孤独ではないということなんじゃないかなあ、などとらしくないことを考えながら、家路につくのだった。

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