第346話 捜索計画
今日も商店街は大繁盛で、家事組の大半がパロンのチョコ屋の手伝いに入っている。
こちらは特に俺が手を貸せるようなことはない。
さらに南方からコーヒー豆とともにやってきた褐色金髪系プリモァ少女のフリージャちゃんのお店の準備なんかも進んでいるようだ。
こちらはもうちょっと積極的にお手伝いなどしてお近づきになりたいのに、全然機会がない。
やはり俺のナンパ師としてのピークは過ぎたらしい。
まあ、そもそもナンパらしいナンパとかしてないよな、俺。
たまたま、いれぐい状態のところに糸を垂らしてただけとも言える。
過ぎ去ったバラ色の時に思いを馳せるのはやめて、今後は今いる従者たちと仲良くすることだけに専念しよう、そうしよう。
「貴様、その顔はまた心底どうでも良いことを考えているな」
朝から仲良く自堕落に過ごしていたカリスミュウルにバレるぐらい、だらしない顔をしていたようだ。
「よくわかったな、俺も修行が足りないな」
「貴様ほど顔色が読みやすい人間もそうはおらぬわ。それよりも……」
と言ってソファーでふんぞり返る俺を引っ張り起こす。
「パンテーが手を離せぬのであろう、子供たちの相手でもしてやったらどうだ」
「いいこと言うなあ、ちょっと様子を見に行くか。今日も公園かな?」
裏庭をのぞくと居なかったので、ミラーに確認するといつもの公園だという。
ブラブラと歩いていくと、新入り従者の巨人レグの姿が最初に目に入る。
その足元では幼女トリオに謎の宇宙人パマラちゃん、そして先日しでかしたばかりの妖精パルクールと火の玉クントが遊んでいた。
「おう、レグ、お守りは大変だろう」
と声をかけると、少しはにかんで首を振る。
「いえ、故郷では子供たちは怖がってしまうので、あまり面倒を見るということが出来なかったので……」
彼女は無双の槍使いで、ひとたび槍をふるえばすごい迫力だ。
子供じゃなくとも、ビビるのは仕方がない。
もっとも、家の子供達は騎士組の激しい稽古なんかも見慣れているので、気にしないのかもしれない。
何より、同じ従者で家族だという繋がりがあるしな。
ちなみに、商店街に限らず近所の住民は、レグを見ても何も言わない。
毎週巨人の村から農作物や山で仕留めた獲物を卸しに来るので、すっかり巨人を見慣れたのだろう。
やはり何事も慣れるのが一番だ。
幼女カルテットの方は、なにやら砂場で遊んでいた。
パマラちゃんの指導の元、穴の掘り方を学んでいるらしい。
「穴掘りで一番怖いのは崩落です。土砂に埋もれてしまえば、いかな洞穴人といえども助かりません。そこでむやみやたらと掘り進むのではなく、慎重に定着スプレーで固めながら進むんです。スプレーはどこですか?」
と尋ねると、撫子が無いです、と答える。
「ないんですか!? じゃあどうやって穴を掘れば……」
「穴は掘らなくていいと思います、城を作るほうがいいです」
「しろ……とは?」
「見ててください、こうやって……」
となにか作り始めた。
まあ、まっとうな砂遊びだ。
ちなみに、パマラちゃんの言葉が通じるのは撫子だけなんだけど、ピューパーもメーナも自分の言葉で好き勝手に喋っている。
多分、通じなくても通じるんだろう。
そのとなりでは、妖精パルクールが幼女ぐらいの人型になって、クネクネ踊っており、ホロアもどきであるクントも半端に人型になって踊っているのだが、こちらはいまいち、うまくいかないようだ。
「こう、こんなふうに、人の形をつくる! かんたん!」
「かんたん! かんたん!」
「ちがう、こう!」
そのうちにパルクールは踊る方に必死になり、クントも元の火の玉に戻って飛び跳ねていた。
楽しそうではあるんだけど……、クントの件はちょっと先延ばししすぎたな。
例の人形師はいまだに消息不明だが、ほっとくわけにも行くまい。
「よし、魔界に行こう!」
「なんだ、藪から棒に」
レグと雑談していたカリスミュウルが呆れ顔でそういった。
「いやな、クントのことで……」
と説明する。
「ふむ、あれの体のことは聞いておったが、そういうことなら早々に探しに行くべきであろう。例の黒頭登山は、もうしばらく猶予があるのであろう?」
「スポックロンがなにか調べると言ってたからな、一週間ほどって言ってたような気がする」
「しかし、魔界行きとなると移動だけでもそれぐらいかかってしまうのではないか?」
「そこでおまえ、この間の宇宙船が役に立つんだよ」
「あの丸いやつか、名はなんだったかな?」
「さあ、なんかややこしい名前だったが、とにかく、あれで飛んでいけば、そうだな前に穴があいちまったあの街のとこから……」
「あれとかあのとか、耄碌した年寄りのような喋り方をするでないわ、話が通じぬではないか」
「そこはおまえ、工夫と思いやりでどうにか」
「バカモノめ、まあよい、それで具体的にはどうするのだ」
「それはまあ……、どうしよう」
「タワケモノめ。私が魔界に潜っていたときも思ったが、あそこでは何より繋がりが物を言うな、要するにコネだ」
「コネ?」
「うむ、小さな集落、部族、あるい街や国に至るまで、彼らは結束力が強く排他的だ。ただ旅をするだけであれば、金と腕っぷしさえあればそうそう不便もないが、人探しなどしようと思えば、情報が必要であろう。となると信頼を得る必要がある。あの折のアンフォンの街の住民などは、我らの顔を覚えておろうから情報を集めやすかろう。まずはあの地に赴き、そこから足を伸ばすべきであろうな」
「なるほど、じゃあそんな感じで」
そうこうするうちに昼飯時になったので家に帰ると、ちょうどフューエルも戻っていたので改めて相談する。
「クントのことは私も気になっていましたが、落ち着くのを待っていてはキリがないでしょうね。この機会にせめてあの人形師たちの消息だけでも掴まねば。制作さえ再開してくれれば、多少の遅れは心理的に許容しやすいものです」
「といっても、まだなんにも情報がないけどな」
「そうでもありませんよ、そもそも、以前エレン達が魔界に降りていたときにそれらしい情報を得ていたのでしょう。魔界学士とやらいう賢者のもとに向かっていたとか」
「そうだっけ?」
「その途中であなたの遭難やら、女神の柱やらの騒動があって、中断していたのですから、それを再開するのがよいのでは?」
「しかしそうなると、またアウリアーノ姫の厄介になることになるんじゃないか?」
「あら、お気に召さないんですか?」
「そういう問題じゃないんだけど、最近、女性関係に自信がなくて」
「何を馬鹿なことを、そもそも、相手が女性だからといってモテ過ぎようとするから悪いのです。友人として節度を持って、もっと謙虚に接すれば、それでいいんですよ」
「いいこというなあ」
ざっくりと計画をまとめると、天井に穴の空いたアンフォンの街から魔界にアクセスし、そこを拠点に情報を集めつつ、デラーボン自由領の都ラブーンにも足を伸ばし、あのお姫様の協力を仰ぎつつ前回の探索の続きをする。
まずはそんな感じでいいかな、それだけで一週間はすぐに過ぎる。
運よく見つかればその後の目処も立つし、ダメでも情報ぐらいは集まるだろう。
その間にスポックロンが黒頭登山に関するいい感じの情報を集めてくれるんじゃないかな。
夜にみんなが揃うのを待って、細かいところを詰めることにした。
人探しと言っても闇雲にやって見つかるものではない。
まずは義兄弟にしてフューエルの従弟であるアンチムに、その後の様子を確認しておきたい。
ここしばらく連絡がなかったので、多分なんの進展もないんだろうけど。
そもそも、ゲートからまる一日ぐらいのところに彼の領地があるらしいので、簡単に連絡を取るというわけには行かなかったのだ。
そこで例の宇宙船でミラーにお使いを頼む。
町外れの人のいないところまで出向いて宇宙船を出し、見送ってから家に帰るとすでに昼を過ぎていた。
帰宅したエレンやレーンたちを交えて更に計画を詰める。
アンフォンの街で情報を集めるグループと、デラーボンに行って情報を集めるグループの二つに分けようという方向で、チーム分けをすることにする。
「やっぱりお願いする本人が行かないと、まずいんじゃないかな」
とエレンが言うので、俺はデラーボンに行って姫様の機嫌を伺うことになった。
するとカリスミュウルが、
「では私がアンフォンに滞在して、情報を集めてやろう」
と言うので、いささか不安がないわけではないが、なるべく顔に出さないようにして、そっちはカリスミュウルに任せることにした。
アンフォンではあそこの坊さんの、えーとなんて名前だったっけ、なんかオッサンっぽい名前の坊さんに頼めばいいだろう。
避難行で一緒に居たクメトスやエーメスもそっちにつけとけばいいんじゃないかな。
情報集めならエレンもいたほうがいいだろうが、こっちは前回の探索の続きを継続してもらわなきゃならないので、コルス、紅とともに、俺と一緒に来てもらう必要がある。
とはいえ、カリスミュウルやクメトスだけでは情報収集は心もとないよな。
「では、そちらは私が引き受けましょう」
とレーン。
「クメトスさんたちは街の有力者にお願いして情報を持ってきてもらう形で集めてもらいましょう。私は托鉢坊主のような体裁で街を練り歩きます。その際にうわさ話なども集めることが出来るでしょう」
「大丈夫か? まあ、大丈夫なんだろうけど」
「お任せください、修行時代にもそうやってよく家々を回っておりましたので」
「冒険者の修行だけじゃなかったんだな」
「そこはそれ、坊主としての本分を忘れては、成り立ちません!」
「ふむ、じゃあそっちは任せる」
家事組の方は当面手が離せないし、冒険組中心にコンパクトな編成で短期間の遠征になるだろう。
家のことはフューエルに任せて、と思ったら、彼女も行くつもりのようだ。
「せっかくなので、アウリアーノ姫と少し商談など進めておきたいですし」
「うちの方はどうするんだよ」
「アンやテナがいるのですからなんの心配もないでしょう。夜にはエディもいますし」
「まあ、そうかもしれんが」
むしろエディを置いてけぼりにするほうが問題なのではないかという気もするが、仕方あるまい。
話がまとまりかけたところで帰ってきたエンテルたち学者組も、同行するという。
「女神の柱が遺跡であるのなら、それにまつわる伝承を調べたいと思いまして。アンフォンの街でフィールドワークをやろうかと。本当は来年以降に落ち着いてからと思っていたのですが、皆で行くのなら、情報集めも兼ねて、私達も街で話を聞いてまわろうと思います」
とエンテル。
「そりゃいいが、学校は大丈夫なのか?」
「ええ、そろそろ春休みですし」
「もうそんな季節か」
今度こそ話がまとまった頃には、すでに夕飯の時間だった。
チョコショップはまだやってるようで、パロンとエメオは店に詰めているが、助っ人だったアンたちは戻って食事の支度をしていた。
「おつかれさん、今日も大変だったな」
とねぎらうと、アンは苦笑しながら、
「まさかここまで繁盛するとは。パロンは念願かなって最高のチョコを売れていると張り切っていますから、それはそれで良いのですけど」
「あいつは良くてもみんなは大変だろう」
「それでも、だいぶ慣れてきましたし、あと数日でピークも過ぎるでしょう。それよりもコーヒー豆屋のほうがちょっと難しいのでは?」
「というと?」
「今日の午後にテスト販売してみたのですが、チョコ目当ての人が多すぎて、ほとんど人が入らなかったようで」
「そりゃそうかもなあ。それだと他の店はどうなんだ?」
「そちらはうまくやれているようです。ルチアは行列客にうまくお茶を出してますし、他の店もついでに覗いていく人がいるようで。ただコーヒー豆だけは、皆さんご存じないですから、ちょっと覗いて買ってもらうというわけにはいかないようです」
「それはルチアの店なんかで味を覚えてもらうのが前提だからな」
「そのあたりは、後日メイフルと相談しておいていただければ」
飯を食い終えても、パロンだけでなくメイフルたちもまだ働いていた。
食事を終えた台所組も、お弁当を持って、再び助っ人に出向いたようだ。
大変だなあ。
このタイミングで家をあけるのはやはり良くない気がしてきたが、アンが言うには、
「ご主人様には実務の面で手伝っていただくことはありませんし、アドバイスが必要であれば念話でもなんでも通じるわけですから、一刻も早くクントの体の件を解決していただきたいと思います。あまり口には出しませんが、ネールはいつも気にかけているようですし」
「だろうなあ、俺も忘れてたわけじゃないんだけど……」
商店街が全て閉まり、表が閑散としてからも、翌日の仕込みなどで皆が忙しくする中、陣中見舞いを兼ねて、チョコショップを覗く。
厨房ではパロンが歌って踊りながらひたすらチョコを作っていた。
中に入ると追い出されそうなので、同じ並びのコーヒー豆屋に移動する。
こちらはまだ正式オープンではなく、店の看板も出ていない。
ルチアの喫茶店でコーヒーを好む客に声をかけて、試験的にこちらで売ってみるとかそういった段階だ。
「おや、社長! ご苦労さまです」
コーヒー豆を黙々とピッキングしていた金髪プリモァのフリージャちゃんが俺に気づいて立ち上がり、挨拶する。
「ご苦労さん、そのままでいいよ」
と座らせて話を聞く。
「それで、どうだい?」
「このような立派な店まで用意してもらい、感謝に耐えません。まだ手応えのようなものは感じられないのですが、もとより時間をかけて地道に販路を増やしていく覚悟ですから」
「俺としても、コーヒー文化が根付いてくれると、愛好家としても商売人としても嬉しいからね」
そこにミラーがコーヒーを入れてくれる。
煎りたての豆をドリップしたシンプルなコーヒーだが、うまい。
「実にいい香りですね、このネルを使ったドリップという淹れ方を、故郷でも皆に勧めてみたのですが、なかなか意見が割れまして」
「ほほう」
「やはり油分の抜けてしまうのが物足りないとか、逆にあまり飲まない若い者などはこれならいけるなどといってまして」
「そうかもなあ」
「本当は時間をかけて故郷でも普及させたいところだったのですが、流石にこの身一つでは」
「まあ、焦らないことさ。まずはしっかり売り込まないとな」
「はい!」
やる気に溢れた若い娘から元気を分けてもらい、家に帰るとちょうどエディが帰ったところだった。
「よう、今日は早いな」
「まあね、そんなにいつまでもトップが現場で走り回ってても埒が明かないでしょう。やることは終わったから、そろそろ落ち着けそうよ」
「そりゃよかった」
「それで、魔界に行くんだって?」
「うん、スポックロンの話は聞いてるんだろ? 黒頭の下調べがもう少し掛かりそうだから、ちょっとあちらの様子見にな」
「じゃあ、私も行こうかしら、そのなんとかって乗り物があれば、すぐに往復できるんでしょ?」
「ああ、いいんじゃないか、そもそも店の方に人手を取られて、探索の頭数が足りない気もしてたんだ」
「ずっと居られるわけじゃないから、頭数として期待されても困るけど、ハニーたちが居ないのにここに居ても物足りないじゃない」
「そりゃそうだ」
どうにか計画をまとめたところで、使いに出していたミラーが帰ってきた。
宇宙船を回収して話を聞くが、やはりその後も音信不通らしい。
ただ、つい先日、改めて人形師の屋敷をしっかり調べたところ、人形を作る炉と呼ばれるものがみつからなかったという。
おそらくは何らかの理由で炉が失われ、それを仕入れに魔界に行っているのではないか、人形師の炉は魔界の遺跡で手に入るらしい、とアンチムは語ったそうだ。
そのことに関しては、スィーダの従姉である人形師の目的が炉の入手であり、それに同行していたという状況証拠から推測できたことではある。
アンチムの話では、独り立ちする人形師は、それぞれ師匠から炉の在り処を教わり、何ヶ月も、時には何年もかけて手に入れて、新たな工房を開くのが慣例だとか。
なかなか面倒なんだな。
しかし、何ヶ月もかかるならせめてその旨を伝えてくれればよかったのに。
あるいは、すぐに戻るつもりで戻れなくなってしまったのだろうか。
だとすると、良からぬトラブルに巻き込まれてる可能性もあるよな。
スィーダが従者になった時点で、わりとあの人形師連中への興味が薄れていたのは確かなんだけど、ちょっと適当すぎたな。
時間もないことだし、明日早速出発するとしよう。
手遅れになってなきゃいいけど……。
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