第341話 バレンタイン その二

 演劇マニアのキスネちゃんにエームシャーラ主従、さらにメイフルやミラーを連れて坂を下り終えると同時に、腹に響くラッパの音が聞こえてきた。

 春のさえずり団のムードメーカー、褐色娘のオーイットの演奏だ。

 彼女も仮面で顔は見えないが、今日はちょっと大きなバズーカみたいなラッパだな。

 ボリュームのある低音が効いてる。

 春のさえずり団に演奏を頼んだのは、うちの商店街と縁があるというのもあるんだけど、劇場お抱えの楽団は、路上でのパフォーマンス向けではないらしいんだよな、よくわからんけど。

 そんなわけで今回は四人が分担しながら、やってくれている。

 ついで妖精バレンタインが現れて、歌ったり踊ったり騎士を介抱したりして、第一幕が終わった。


「どうだい、キスネちゃん」


 と尋ねるが返事がない。

 どうやら魅入ったまま、我を忘れているようだ。

 まだそこまで盛り上がる段階じゃないと思うんだけどなあ。

 しょうがないので、エームシャーラ姫に声をかけると、


「続き物の劇ですのね、このあとはどうなるんです?」


 と普通の感想だ、まあそうだよな。

 ネタバレしないようにざっくりと説明すると、興味を持ったようで、できればこのまま同行して続きを見たいという。

 断る理由もないので、喜んで連れて行くことにした。

 まだ放心状態のキスネちゃんは、バリシャアナきれい……などとうっとりしたままなので、強引に引っ張って次の場所に出発しようとすると、よく通る声で、知った名前を呼ぶ声が聞こえた。


「ねえ、リリエラさん、これどういう催しなのかしら、あなたご存知でして?」

「わかりませんよ、でもこれが例のポスターの劇だと思うのですが」

「続きものですわよね、やはり今の馬車を追ったほうが良かったのではございませんこと?」

「しかし、こうも人が多いと馬車も捕まりませんし、走って追いかけましょうか?」

「まさか、私、今日は特別頼りないパンプスなんですのよ、それに泥がはねたら困りますわ」

「困りましたね。それよりも、このお菓子、美味しいですわね」


 そう言ってチョコを頬張っているのは、リリエラ嬢だ。

 うちのエメオや友人のハブオブが努めているパン屋の一人娘の友人にして、小麦の仲買人でもある金持ちのお嬢様だ。

 そしてその隣で話している同年代のご婦人は、どこかで見覚えがあるんだけど、どこだっけ?

 なんか声をかけると面倒なことになりそうな気がするんだけど……。

 こっそりミラーに確認すると、別荘で遭遇した成金婦人集団のリーダー格の人物だった。

 リリエラの友人だったか、とするとこの街に住む成金ってことになるな。

 残念ながら、まだミラーのデータベースにはない人物らしい。

 声をかけようか、更に悩んでいると、先にリリエラに見つかってしまった。


「まあ、サワクロさん、こんなところでどうなさったんです? あなたもこの劇を?」


 リリエラは一筋縄では行かない相手だと思うが、俺の正体を知っていて、フューエルの実家と商売上の取引もある相手だ、無碍にはできまい。


「やあ、君も劇の鑑賞かい?」

「ええ、今日はなにかあると、演劇好きの仲間内で噂していたんですけど、これがそうなんですね」

「実はこいつは、うちの商店街でやる店の宣伝を兼ねていてね」


 と言って説明する。

 連れの成金婦人は俺が話す間、だまって話を聞いていたが、妙にジロジロと俺の顔を見ている。


「マダム、何かおっしゃりたいことがお有りでは? 何なりとお尋ねください」


 と尋ねると、彼女は目を見開いて少しオーバーに驚いたふりをしながら、


「フラウで結構ですわよ、私、まだ独身でございますから」

「これは失礼を、私サワクロと申します、しがない商人の端くれですが、お見知りおきを」

「レアリーですわ、それよりもあなた、どこかでお目にかかったかしら?」

「テライサの村でご挨拶させていただきました」

「テライサ? まあ、あの時の書生さん、見違えましたけど、あなた、商売をおやりでしたのね、今日は別のご婦人方のお供かしら」

「まあ、そんなところです」

「太鼓持ちも結構ですけれど、本業がお有りならそちらに精を出されたほうがよろしいですわよ、おほほ」


 などと言って笑う。


「でもあなた、リリエラともお知り合いということは、媚びを売る相手を選ぶ目はお有りのようですわね、商売人に必要なのは何をおいても目利きですもの、おほほほほ」


 話を振られたリリエラは、少し躊躇してから、アバウトにうなずいてみせる。

 やっぱり面倒なことになってきたな。


「自己紹介もままなりませんが、次の舞台に間に合わなくなってしまいます。続きは歩きながらといきましょう」


 そう言って強引に話を打ち切り、なんとも言い難い構成の集団とともに、次の上演場所に向かう。

 そもそも責任者として今回のイベントの視察をしなきゃならないのに、なんでこんな事になってるんだろうな。

 お供のメイフルはわれ関せずといった顔でふわふわ歩いてるし、ミラーは状況がわかってるのかわかってないのか、すまし顔でついてくる。

 エームシャーラとシロプスは貴族スマイルで黙ってついてくるだけなのでまあいいとして、演劇マニアのキスネはまだうっとりと先程の舞台を思い出しているようだ。

 リリエラは何を考えているのかわからない笑顔で押し黙っているし、仕方がないので俺が成金嬢のレアリーと会話する。


「……では、サワクロさんはアルサの西の端でチェスを扱うお店を?」

「ええ、小さなものですが」

「ですけど、あの辺りにお店なんてあったかしら?」

「大半の方はご存じないでしょう、ですからこうして宣伝を打つのですよ」

「しかし、それで元は取れますの? これほどの舞台をやるからには、相当かかるのでは?」

「周知させるためのコストというものは、本来際限なくかかるもの。幸い、劇場にコネもありまして、ちょっと勝負に出た、と言ったところでしょうか」

「あら、案外、肝が座っていらっしゃるのね。それは商売にもっとも必要なものですわよ、おほほ。それに作ったコネを活かす術もお持ちの様子。あなた、初めてお見かけしたときからどこか可能性を感じるお人でしたけど、気に入りましたわ、商売で困ったことがあったら、相談に乗りましてよ、おほほほほ」

「それはありがとうございます、なにとぞご指導ご鞭撻の程を」


 この成金……と呼ぶのはやめよう。

 実業家のレアリーは、どうやら個人で商社のようなことをやっているらしい。

 世界中を回り、高価な品を買い付けて金持ちや貴族に売りさばくのだ。

 現代の日本ならネットのおかげで主婦が片手間で個人輸入の商売をするって話も聞いてたけど、この世界で一人でそれをやって、しかも成功するのは相当な能力と度胸、それに運も必要だろう。

 別荘地では胡散臭く思えた彼女は、確かな実力者のようだ。

 そう思うと、ちょっと鼻持ちならない言動も可愛く思えてきたぞ。

 実際、外見は可愛い。

 年齢的にはエディと同じぐらいかな?

 リリエラよりは、少し年上のようだが、チャーミングなタイプだな。

 口はちょっと悪そうだけど、口が悪い女性に弱いのは、俺も自覚がある。


「ところで、舞台がお好きなのですか?」


 商売の話はしんどいので、話題をずらしていこう。


「ええ、はじめは社交術の一つぐらいのつもりで始めた観劇ですけれど、舞台を見ている間だけは、浮世を忘れて没入できるでしょう、それがなんとも言えず、好きなんですのよ、おほほ」

「なるほど、おっしゃることはわかりますよ」

「ところで、今回の演出はエッシャルバンですのね。彼の舞台は、荒唐無稽ではありますけれど、筋は通っておりますし、その上で実に想像を超えた、なんと申しましょうか、夢を見せてもらえるような気がしますわね、おほほ」


 するとそれを効いた演劇マニアのキスネが割って入る。


「そう、そうなんですよ、あなたよくわかってますね! エッシャルバン先生の舞台は、地に足のついた幻想を現出させるところが、もっとも優れた点だと思うのです」

「ええ、おっしゃるとおり。あなた、学生さん?」

「これは申し遅れました、私、キスネと申します。演劇評論を専攻しておりまして……」


 なとどマニアっぽい話に熱中し始めたので、そちらはほっといて、リリエラ嬢に話を振る。


「君も舞台に興味があったとはね」

「ええ、彼女同様、はじめは社交の一環で、乗馬やダンスはさほど興味を惹かなかったんですけど、演劇は趣味にあったようで」

「まあ、そんなものかもね」

「ところで、お連れのご婦人はどちらの? お聞きしてもよろしいのかわかりませんけれど、聞かずに失礼があっても……」


 と声を潜めて尋ねるので、こっそりと教えるついでに、エームシャーラにも紹介しておく。

 リリエラは名前を聞いて流石に驚いていたが、平静を保ちつつ挨拶を交わしていた。

 こちらは双方人間性に問題がないので、上辺だけの礼儀正しい付き合いができそうだ。

 エームシャーラもフューエル以外の相手だとすごく人間ができてるからな。

 まあ俺が大変なことには変わりないんだけど。

 第二幕に間に合うように、少し急かしつつ、この大変な面子を引き連れて、のんびりと街を南下する。

 これ以上余計な面子を拾わないように心のなかで女神に祈りながら……。


 街の東側外周部も住宅街が続く。

 この街はもともと神殿が中心でそこから東西に広がったのだが、森と海しかない西側と違ってブルーム街道の起点である東側のほうが発展している。

 高台の高級住宅街や、大店の並ぶ東通りがこちら側にあるのは必然だと言えよう。

 ならば無理をしてでもこちらに店を構えたほうが良かったのではないかと思わなくもないが、メイフルに言わせると、


「駆け出しの商売に必要なんは伸びしろでっせ、自分より強いもんばっかりのとこで揉まれてもろくなことはおまへんからな」


 とのことだ。

 アップダウンの激しい道をくねくねと進むと、東通りの端にでた。

 ここには大きな集会所があり、東通りに立ち並ぶ高級商店の催し物などが頻繁に開かれているそうだが、今回はここを借り切って上演する。

 集会所にはすでに人が集まってザワザワと騒いでいるようだ。


 演劇マニア女学生のキスネは前の特等席をキープしようと人混みをかき分けて突き進み、エームシャーラ姫も楽しげに後に続く。

 するとお目付け役のシロプスも付き従うを得ず、俺の横には、おほほと高笑いする実業家のレアリーと、その友人で小麦の仲買人であるリリエラが残った。


「おほほ、サワクロさん、ここもなかなかに盛況ですわね。あなた方の企ては、大成功ではありませんこと?」


 なんだか上機嫌なレアリーは、俺と一緒に少し後ろの空いた席で、楽しそうに舞台を見ている。

 やがて太鼓の音が鳴り響き、妖精バレンタイン役のバリシャアナが出てきた。

 彼女のそばには傷ついた騎士が寝ている。

 同時にどこからか歌声が聞こえてきた。

 歌う姿は見えないが、この声は春のさえずり団のリーダーにしてボーカルであるヘルメの歌声だ。

 歌詞の内容を要約すると、第一幕のあらすじで、お菓子の大好きな妖精バレンタインが、ある日森のなかで傷ついた騎士に出会ったというようなものだ。

 ここは深い森の中、薄明かりの中で甲冑をまとい傷ついた騎士の顔はヘルメットに覆われてよく見えない。


「さあ、あなた、これをお食べなさい」


 そう言ってチョコを手渡すと、騎士はぱくりと一口たべて、歌い出す。

 役者の名前はわからないが、こちらも美しい声で、どうやら男装の女性らしい。


「おお、なんという美味、これほどの物はおよそ地上の食べ物とは思えぬ。では私は力尽き、アシハラに召されたのであろうか」

「食べたなら、お眠りなさい。そうして、人の世界におかえりなさい。さあ、今はお眠りなさい」


 妖精バレンタインの子守唄で眠りに落ちる騎士。

 彼が再び目覚めると、そこは森の外だった。

 簡易なセットとはいえ、こう言う早変わりは見事なものだな。

 エッシャルバンはこう言うのが得意らしいけど。


「不思議な事があるものだ。傷は癒え、力が蘇っておる。さては女神の加護であろうか? それにしても、奇妙な夢を見た。あのなんとも言えぬ味わいが、夢でないというのなら、もう一度味わいたいものよ」


 騎士はそう言って立ち去る。

 再びバレンタイン登場で、去りゆく騎士を物陰から見守る。


「ああ、行ってしまわれた。私のチョコレートを美味とおっしゃったあの言葉が、いつまでも耳に残って離れない。叶うなら、もう一度あの言葉をお聞きしたい……」


 そこで少し激しい弦楽器の音が鳴り響き、バレンタインが退場して第二幕が終わる。


「ああ、あのバリシャアナの儚げな表情が、こんな近くで見られるなんて」


 満足気につぶやくレアリー。


「やはり妖精のお話ということは、これも悲劇なんでしょうねえ、ああ、なんだか今から泣けてまいりましたわ。それに相手役はロゼエンナですわね、あのライバル二人の悲哀物なんて、このような小芝居にするには惜しいですわね」


 などと言って、高そうなハンカチで目元を拭うと、リリエラもうなずいて、


「なんと言っても、今の早変わりが見事ですね。あの真っ赤なドレスが、見事な暗示になっていましたし」


 リリエラの言葉で気がついたが、バレンタインの衣装が少し赤黒いものに変わっていたような気がする。

 最初は確か真っ白だった……ような気もするな。

 俺の観察眼も適当すぎる。


「ところで、次の上演はどうなっていますの?」


 とレアリー。


「今と同じ内容をあと三回繰り返して、その後は昼休みを挟んで、第三部を同じく四回上映。最後はうちの商店街があるアルサの西外れで一回きりの上演の予定ですね」

「なるほど、そうやって客を誘導するのですわね、実に興味深い趣向ではありませんの。とにかく、他の回も見ておきたいですわね、次に参りましょう」

「それは構いませんが、前に行った連中を回収しないと」


 そう言って前に進むと、チョコを配る劇団員に遭遇する。

 当然のようにその周りには人だかりができていて、押し飛ばされてしまった。

 ヨロヨロとテーブルに手をつくと、椅子に立ち上がってブラボーブラボーと拍手する女の子と目が合った。


「あら、黒澤君、久しぶり、いい劇だったじゃない。チョコも美味しいし」


 そう言ってチョコを頬張っているのは、角の生えた帽子をかぶった若い娘だ。

 見覚えはないんだけど、知り合いらしい。

 というか、俺の名前を黒澤と呼んだぞ?

 もしかして判子ちゃんつながりだろうか。


「あれ、初対面だっけ? まあいいや、私ほら、この世界みたいにこれから発展するような景気のいいとこ好きだから、気になって覗いてみたんだけど、こう言うとこってロロは絶対来ないもんね、あ、もうちょっとチョコある? あったら頂戴」


 言われるままに、手持ちのチョコを全部渡すと、もりもりと頬張る。

 だれだっけ、この子。

 知ってる気がするんだけど、全然思い出せない。

 俺もだいぶ耄碌してきたか。


「さてと、全部見て満足したし帰るわ、やっぱり物語はハッピーエンドよね。じゃあねー」


 と言って、彼女はふわりと消えた。

 やっぱりあっち関係の人物だったか。

 関わるとめんどくさそうなので気にしないことにして、エームシャーラ達を探し出し、集会所を出る。

 次は闘技場の横だったはずだ。


 ぞろぞろと並んで移動すると、集会所にいた連中も同じ方向に進む。

 どうやら移動する劇団員の馬車を追っているらしい。

 同じ道を進むと道が混むので迂回しようと思ったが、近道はスラムを抜けることになるのでやめておけとメイフルに言われてしまった。


「御婦人を連れて通るようなところやおまへんな」

「そうなのか」

「そうでっせ、ま、のんびりいきまひょ、このペースなら間に合いまっせ」


 このあたりは道が広いだけあって、たしかにそこまで滞ってはいないようだ。

 それでも要所に騎士が立ち、誘導している。

 なんだか大変なことになってきたな。

 他人事のように言ってる場合でもないので、周りの様子をうかがうと、半分は劇の話題で、残りはチョコの味について話していた。

 やはりあのワンランク上の味は、口に放り込めば印象に残るらしい。


「おほほ、周りの様子が気になるようですわね、商売人たるもの、そうでなくてはいけませんわ」


 とレアリー。


「劇自体もそうですが、チョコレートの評判が気になりましてね」

「そういえば先程配ってましたわね。では私も一つ」


 そう言って頬張ると、目を見開く。


「まあ、これはまたなんとも、これもあなたのいる商店街で売っておりますの?」

「そうなんですよ、うちの商店街の目玉にしようかと。直接的には、こいつを売り込むのが劇の目的なんですよ」

「いろんな店を食べ歩きましたけれど、こんなチョコは初めて……おや、この包み紙、なにか書いてありますのね」

「ええ、店の名前などを入れてあります」

「それは良いアイデアですわね、ええ、実に良いアイデア。でももう一捻りあるとよろしかったのですけれど、せっかくですからお教えいたしますわ、あなた、かの桃園の紳士様はご存知かしら?」

「え、ああ、まあ」


 急に名前を出されて動揺しかけたが、爽やかにスルーする。


「かの紳士様が旅の途中、紳士の挑戦と称して、丸薬の包み紙に謎掛けを刷っておりましたの。私、仕入れの旅の途中で一度目にして、これは素晴らしい発明だと感服したものですわ。あいにくと私は小売はしませんから、アイデアを拝借する機会はありませんでしたけれど、あなた、これをもうひと工夫するだけで良い宣伝になりますわよ」

「それは良いことを教わりました。勉強になります」


 とうなずく。

 周りの連中は、それぞれがそれぞれに色んな表情をして聞かなかったふりをしているようだが、当のレアリーは自信満々にうんちくを垂れていた。

 これあれだな、正体をばらせなくなるパターンだな。

 まあいいけど。


 そのまま通りを進み、闘技場横の以前魔物が逃げ出したあたりに来ると、レアリーが急に思い出したかのようにこういった。


「そういえば私、ここで一度、桃園の紳士様をお見かけしましたの。先の祭りの最中、闘技場から魔物が逃げ出した事件があったのですけれど、ちょうど私も祭り見学でここを通りかかって巻き込まれましたの。混乱する民衆に揉まれていたところに、かの紳士様がさっそうと現れ、後光眩しく民衆を照らし出すと、またたくまに魔物を倒して、事態を収めてしまいましたわ」

「それは何よりでした」


 倒したのはエディだけどな。


「遠くてよくは見えなかったのですけれど、噂とは違って身の丈二メートルはある偉丈夫で、何より実に威厳あふれるお姿でしたわね。あの後光の眩しさの前に、さすがの私も、魅入ってしまいましたわ」

「かの御仁は、いろんな噂があるようですね」

「そのようです。ですが有名になるほど、あらぬ噂もつきまとうもの。商売人の目利きとは、噂に惑わされず、自分の目で真実を見極めることですわよ、あなたも精進なさいませ」

「肝に銘じます」


 レアリーの後ろではリリエラが笑いを噛み殺していたが、エームシャーラなどは涼しい顔をしていた。

 この辺は貴族らしい面の皮の厚さだと言えよう。

 俺も彼女の半分ぐらいはタフなので、細かいことは気にせずに、次の上演場所にむかったのだった。

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