第302話 大人版

 驚いて飛び起きると、フルンらしい大女はニコニコと笑って、こう言った。


「一人でこんなところで寝てると、デストロイヤーに食われちゃうよ?」

「いや、え、ほんとにフルン? ここどこ?」


 周りを見回すと、足元は光り輝くふわふわした地面で、空には内なる館と同じ網目状の光の筋が見えた。


「いまねー、ウクレがアンカー回収してるからもう少し待ってね」


 そう言うフルンをよく見ると、身長は二メートルはあるだろうか。

 オルエンよりでかい。

 たぶん胸もオルエンよりでかくて、太ももも太い。

 水着っぽいボディスーツに真っ赤なロングコートを羽織って、背中には大きな剣を背負っている。


「あら、もう起きたんですね、ご主人様」


 今度は背後からウクレの声がする。

 振り返るとウクレが居た。

 ただしこちらも、背がぐんと伸びて俺と変わらないぐらいで、フルンと同じコートを肩がけにし、ボディースーツに包まれた乳と尻は、デュース並みにでかい。

 美しく大人びた顔には、チャーミングなそばかすと、綺麗な赤毛の三つ編みも健在だ。


「おはようございます、急に時間の流れがくっきりしたから何事かと思ったら、そこで倒れていたものだから、驚きましたよ」

「えーと、ウクレ……だよな」

「そうですよ?」


 と首を傾げてから、大きなウクレはすっと色っぽい腕を伸ばし、俺の額に触れる。


「まあ、ずいぶんと昔のご主人様と同期なさってるんですね」


 ウクレの言葉に、フルンが驚く。


「え、どれぐらい?」

「たぶん、まだペレラールにいた頃の……うーん、あの頃の記憶は圧縮してて、ああ、わかりました、ストームが一時的にロストしたときのご主人様ですね。では、彼女たちを探しに来たんですか」

「そんなことあったっけ?」

「あなたの主観時間だと、もう何万年も前かも」

「うーん、わかんない。子供の頃?」

「ええ、そうよ」

「そっかー、ねえご主人様、ほらほら、私おっぱいおっきくなったでしょう」


 と胸を反らすとブルブル揺れる。


「おう、でかいな」

「でしょ。揉む?」

「ふぬ」


 頷いてギュッと掴むとすごくでかい。


「そうかあ、あのぺったんこだったフルンがこんなになあ。背も伸びて俺よりでかくなって」

「うん、いっぱいご飯食べたからいっぱいおっきくなった」

「そりゃあ、よかった」


 揉みながらそんな事を話していると、ウクレに遮られる。


「お取り込み中、すみませんが、どうやらデストロイヤーが迫っています。たぶんご主人様の気配に引かれてよってきたのかと」


 するとフルンが、


「どうする? ここで倒す?」

「一旦、マテリアルプレーンに降りましょう。ここだと万が一ご主人様に何かあったときに修復がききません」

「わかった」

「今から宇宙を一つ分岐させます。ご主人様は私に捕まっていてください」


 言われるままに大人ウクレの腕を掴むと、こちらもまんべんなく柔らかい。

 そのウクレが、カカトをトンと地面に打ち付けると、地面の一部が風船のように膨らみだし、にょきにょきと枝のように伸び始めた。


「フルン、あけて頂戴」

「いいよー」


 背中に背負った大剣を天にかざす。


「伸びろ、エンベロウブ!」


 大剣はたちまちのうちに天空の彼方まで伸びる一筋の帯となる。

 そのまま振りかざすと、まばゆい光とともに、世界が裂けた。




 なんだか柔らかい夢を見たような気がするが、目を覚ますとテントの隣ではフューエルとデュースが眠っていた。

 二人を起こさないように外に出ると、すでにすっかり日は暮れていた。

 そばに居たミラーに尋ねるともう九時ぐらいらしい。


「街の方はどうなってる?」

「被害の少なかった中央部や南東側は、すでに元通りに復旧しております。その他は……」


 半壊したスラム周辺の住民は、どうやら壁の中に乗り込んだらしい。

 ノード191が避難スペースを用意してそこに収容したとか。

 また、試練の塔に登り始めた連中もすでに大勢いる。

 つまり寝てる間に面倒そうなところは概ね片付いたようだ。

 従者たちも大半は眠っていて、起きているのはミラーとクロックロンを覗くと一部だった。


「カーネたちは?」

「カーネ様は、先程都の友人を尋ねるとラケーラ様を伴いお出かけになりました。明日戻るそうです」

「ふぬ、じゃあ今のうちに野暮用を済ませるか。88号を呼んでくれ」

「かしこまりました」


 入れ違いにミラー88MHがやってくる。

 もう体は光ってなかった。


「お呼びでしょうか」

「うん、お前がもってるマザーってのは、簡単に取り出したりできるのか?」

「いえ、私の内部にプロテクトを掛けた状態で収納してあります。無理に取り出すと消滅するでしょう」

「ふぬ、カーネがそいつを引き渡してほしいといってるんだが、どうしたもんかな」

「マザーは早急にプラットフォーム上に移植する必要があります。すなわちマザーが本来のスペックで可動できる環境が必要です。カーネ様は、それをお持ちなのでしょうか?」

「いや、彼女の依頼主が欲しがってるそうなんだが、どうなんだろうな」

「ノード191の話では、上位ノードのいくつかが候補として上がっているのですが、おそらくマザーの全機能を展開するだけのスペックが足りないだろうとのことで、分割インストールを提案しています」

「困ったな」

「分割するとマザーのポテンシャルは大幅に低下します。依頼主がもしプラットフォームを所持しているのなら、提案に乗るのも良い選択として考えられるでしょうが」

「そこのところはわからんのだよな」

「判断の材料が足りませんね」

「ちょっとノード191と話したいな、いけるか?」

「では、別のミラーに中継させましょう」


 というわけで、ミラーの一人がノード191の代わりに通話してくれることになった。


「まずは作戦の成功について、お礼申し上げます」


 とノード191。


「いやまあ、概ね無事で良かった」

「現在、難民を受け入れておりますが、どこまでフォローして良いものか、判断しかねております。非常時には人民への救済は最大限優先されるのですが、未開文明への干渉は禁止されてもおります。ほぼ断絶されたと言っていい現代文明への干渉は禁止事項に該当するのかどうか、判断を保留せざるをえません。いくつかの可動ノードは、独自の判断で部分的に現代文明に機能を提供しているようです」

「部分的とは?」

「上下水のインフラや、ダムのコントロールなどが該当します」

「ふぬ、まあ今は非常事態だからな。なるべく早めに外で暮らせるようにしてもらうほうがいいだろう。やっぱりギャップの有りすぎる技術ってのはトラブルのもとだし。そのうえで自発的に学びたいものがいれば、段階的に啓発していくのがいいんじゃないか?」

「再び完全に閉鎖するという選択肢もありますが」

「それじゃあ、おまえさん、つまらんだろう」

「それはもっともな見解だと思います」


 ミラーもそうだけど、この世界のロボット的な連中は、一見つつましそうでいながら、したたかだよな。

 人間の脳みそをエミュレートしてるそうだから、まあそんなもんなんだろう。


「それでまあ、本題なんだが」

と呼ばれる存在がどのようなものかの情報がありませんので、現状では判断できかねます。私を含む、いくつかのノードの一致する見解としましては、軌道上にあるメテルオール、いわゆるアップルスター内の本来のプラットフォームを修理した後に、そちらで復元するのが最善であろうと考えます。ただし、アップルスターとの通信はまだ復旧しておりませんが、先程、カラム29と名乗る相手から、当地の状況を伝えるメッセージが届いております」

「カラム29ってまだあそこにいるのか」

「お知り合いでしたか」

「まあね」

「そのものからのメッセージによると、サブノードのいくつかが生きていることは確かなようですので、修理チームを送り、修繕することが望ましいと考えております」

「つまり、また俺に行けってこと?」

「そうしていただけると助かります。現在、決定権をもつ上位ノードはマザーの引き渡しを要求しております。もしあなたが指揮権を行使なさらない場合、上位ノードに引き渡すことになります」

「しょうがねえな」

「ありがとうございます。現在ノード18ではプロジェクトが立ち上がっております。最短で二週間程度で支度が整う予定です。詳細は後日お伝えいたします」


 二週間後に、クロを拾った地下基地までまたいけってことね。

 それで宇宙までいけるなら、まあわるくないだろう。

 もっとも、ストームもセプテンバーグもいない今、あそこまで積極的に行く理由はないんだけど。

 でも、流れってもんもあるしな。


 ノード191との相談を終えると、フルンたちが帰ってきた。


「おう、でかけてたのか?」

「うん、メシャルナとラランをエディのお家まで送ってたの。あっちに着替えとかもおいてるし、今日も向こうで泊まるって」

「そうか、まああっちだと布団で眠れるしな。あの子らは大丈夫そうか?」

「なにが?」

「いや、大変だったろう、いろいろとほら」

「あ、うん、すっごい驚いてた。私は前に赤竜とか見てたから、ああいうのもいるんだなーってわかってて、そういう覚悟はできてたけど、二人はちょっと想像できてなかったから、そこが大変だったみたい」

「だろうなあ」

「でももう、大丈夫だと思う。逆にほら、すっごい強い人も見られたでしょ。そう言うのは勉強になる」

「そうか」

「うん。ご主人様はもう起きたの?」

「おう、よく寝たよ」

「そっか、よかった。すごく疲れてたみたいだし」

「俺も体力ねえからな、もう少し鍛えないと」

「うん、そのほうがいいと思う。いっぱい運動して、おっきくならないと」


 そう言って笑うフルンを見ていると、なんだかデジャブーみたいなのを感じたんだけど、気のせいかな。

 まあいいや、まだやることはいっぱいあるんだ。


「ねえ、いつお家帰るの?」

「うーん、どうすっかな。もうここにはほとんど用事はないが、パルシェートのことがあるだろう」

「そっかー、パルシェートは一緒に帰るんだよね?」

「うん、だけどこの家の後始末とかいろいろな。流石に明日は帰れないんじゃないか?」

「お手伝いすることなかったら、また塔に登ろうってメシャルナと話してたんだけど、いいかな」

「いいんじゃないか? でもパーティ編成だけは、しっかりやっとけよ」

「うん!」


 フルンとの会話を終えると、内なる館に入る。

 例の幼女が気になったからだが、中に入った途端、妖精とクロックロンに飛びかかられた。


「みつけた! あ、ちがった、ボスだ! ボスが鬼!」

「わーい逃げろー」

「逃ゲロー」


 押し倒された俺をほっといて、妖精とクロックロンの集団は走り去る。

 元気だな。


「オーナー、お手をどうぞ」


 中に居たミラーが起こしてくれた。


「それでどうだ、見つかったのか?」

「いえ、それが観測範囲をくまなく探したのですが、一向に見つからず。靄の向こう側は、なにかの作用か、距離と方位が狂うようで、捜索できません」

「まいったな、あんな小さな子が大丈夫なんだろうか」

「ここにいる限り、代謝機能がほぼ停止しているように思われます。私もエネルギーの消耗がほぼありません。つまり食事や睡眠を取らなくても良いように思えます」

「まじかよ、そういや年を取らないって言ってたな。まあいいや、とにかく、引き続き探してやってくれ。クロックロンたちはあてにならんし、ミラーをあと何人かよこすよ」

「かしこまりました、お役に立ちます」


 外に出ると、アンとテナが起きていた。


「もういいのか?」


 と尋ねると、アンは大丈夫だとうなずく。


「後始末もありますし。お休み中に宮殿からの使者が参られて、明日、宰相閣下が昼食に招待なさりたいと」

「またそんな面倒なことを」

「宰相閣下は、エンディミュウム様の腹違いの姉にあたり、御年三十五歳でまだ独身だそうですよ」

「またそんな面倒な情報を」

「お断りなさいますか?」

「行くに決まってるだろう」

「では、そのように。ここでは支度ができませんので、明日エンディミュウム様の別宅で準備しますから、早めに起きてくださいね」

「しょうがねえな」

「それと、パルシェートの両親が隣町のパツナに住んでいるそうですので、帰りはそちらに顔を出してから帰ろうと思います。ここの後始末は都に住む親戚もいるので、一旦そちらに預けることになると思いますが」

「うん、パルシェートもそれでいいって?」

「はい。それで、明日の夜には出発できると思いますが、どうなさいます?」

「留守番組も心配してるだろうけど、どうしたもんかな。フルンが明日は塔に登りたいといってたけど」

「そうですか、家にはミラーを通して連絡してあるので、あと数日は大丈夫だと思いますが」

「そうなあ、まあ、あさっての朝出発ぐらいかな。なるべく早く帰りたいし」

「かしこまりました」


 とアンがうなずいたところで、無事だったコテージからテナが出てきた。


「あちらの支度は整いましたよ。ご主人様もどうぞ」

「支度とは?」

「もちろん、パルシェートがはじめてのご奉仕をする支度です。新人に、あまりお預けを食らわすものではありませんよ」

「おっとそりゃ大変だ、急いで主人の務めを果たさねば」


 いそいそと中に乗り込むと、色っぽいナイトドレスのパルシェートが顔を真赤にして待っていた。


「よ、よろしくお願い、いたします」


 深々と頭を下げる彼女をみて、俺は今までの疲労も鬱屈も全て吹き飛んでしまった。

 がんばろう。




 情熱的なひとときを過ごしてまどろんでいると、妙に暑い。

 火照ったパルシェートの肌のぬくもり……にしちゃ、すごく暑い。

 まるで直火であぶられた焼き魚のような……、って暑すぎる!


 慌てて飛び起きると、一面真っ黄色の世界だった。

 黄色と青。

 地平線より下は黄色くて、上は青い。

 どう見ても砂漠のど真ん中だ。


「なんじゃー!」


 俺の叫び声は、熱気にとろけていく。

 暑い。

 やばい。

 すでに皮膚は焼けるようで喉はガサガサ。

 目も眩む。

 なんでこんなことに。

 いや、とにかくここから移動しないと、まじでやばい。

 這うようにして砂の斜面を登ると、遠くに石造りの神殿のようなものが見える。

 あそこまで行けば、少なくとも直射日光は遮れるだろう。

 それとも、穴でも掘って日陰を作り、日が傾くまで休んでおくべきだろうか。

 太陽は真上にある。

 あと何時間で日が沈むんだろう。

 俺はもう、あと何分も持たない気がする。

 そもそも、あの神殿は本物か?

 蜃気楼じゃないだろうな。

 いや、だからなんで俺は砂漠にいるんだよ。

 愚痴りながら、とにかく歩く。

 歩く内に、焼けて真っ赤になっていた肌は薄っすらと浅黒くなっていく。

 カラカラに焼き付いて痛かった目や喉も、いつの間にか気にならなくなっている。

 よろよろと這いつくばるように進む足取りは、いつしかしっかりと砂を捉えて歩き始めている。

 要するに、俺は砂漠に適応していた。

 空を見上げても、まるでサングラス越しのように減光されて、あまり眩しくない。

 しまいには、砂の上をスキップするように軽やかに走り始めていた。


「それにしても、ここはどこだ?」


 どうにかたどり着いた神殿の中は、薄暗く、寒い。

 日が差さぬというだけではない、奥の方から冷気が溢れている。

 振り返って今きた砂漠を見ると、あらゆるものが焼き尽くされそうな暑さだ。

 いくら体がなれたとはいえ、もう一度あそこに戻る気はない。

 となると、この神殿を探索するしか無いだろう。

 キョロキョロと見回すと、柱の陰に小さな噴水がある。

 ジョボジョボと溢れる水は澄んでいてうまそうだ。

 手に取るとしみるほどに冷たい。

 グビリと飲む。

 うまい。

 もう一杯、グビリ。

 はー、人心地ついた。

 落ち着いたところで気がついたが、どうやら俺は日本にいた頃に持っていたジーパンとTシャツを着ている。

 さっきまでパルシェートの初々しい肌身を堪能していたはずなのに、なんで砂漠でミイラになりかけてたんだ?

 いや、なんか思い出してきたぞ。

 大人のフルンとウクレがいて、なんかしたんだ。

 それで一旦意識が途切れて……。


「よかった、ここにいたんですね」


 振り返ると大人のウクレがいた。

 ボディスーツに強調されたムチムチの体を揺らしながら、ふわりと舞い降りてくる。


「申し訳ありません、少し位相がずれていたようです。どうも私だと紅ほどうまくは行かないようで」

「なんかわからんけど、助かった。フルンはどうした?」

「え、フルン? フルンとはもうずいぶん別行動で……、あ、いえ、いました。どうも事象の順序がぐちゃぐちゃで、ああもう、私って下手だなあ。とにかく現状を説明しますね」


 そう言いながらウクレは腰についた小さなボールを手に取る。

 それを二、三度揉んでから宙に投げると大きく広がって、立体映像を映し出した。

 そこには光る巨木の一部が映し出されている。


「ファーツリーの局所構造体です。ファーツリーはご存知ですよね?」

「名前を聞いたことはある」

「えーと、わたしたちの住んでいた物質世界を情報世界から見た構造のことだと思ってください。それぞれの宇宙は離散的ですが、見方を変えれば連続的な相互作用に支配されています。具体的には重力を介してつながっているのですが、ひとまずそれはおいておき、今私達がいるのはここです」


 と光る枝の一部を指す。


「このダミー空間に退避しています。この太い枝がわたしたちの生まれた世界につながるベヘラ枝です。ここのうろになっているのがご主人様の元いた世界で、ご主人様と他の何人かの放浪者の影響で分岐し、絡まっています。このコンフリクトを解消し、元の世界にマージするのが我々の最終的な使命ですが、これも今はおいておきましょう。ご主人様の目的はストームと***でしたね」

「うん? だれだって?」

「あ、ストームとセプテンバーグです」

「うん、それそれ。よくわからんけど、まずはそれだ」

「二人はデストロイヤーを消滅させたあと、この部分、そうです、この深く入り組んだ面倒なはざまにはまり込んでいます」


 映像をぐるぐる回しながら説明してくれる。

 二人は昔流行ったフラクタル映像みたいなグニャグニャした複雑怪奇な隙間にハマっているようだ。


「まっすぐ進むのは無理なので、時空を組み替えつつ経路を作って、この領域に進行しようと思います。ですが私一人だと難しいので」

「フルンはどうしたんだ?」

「え、フルン? フルンとはもうずいぶん別行動で……」

「さっきもそれ言ったぞ」

「す、すみません。どうも私からはご主人様がよく見えなくて、トンチンカンなことを」

「眼の前にいるじゃん」

「ご主人様からは私がちゃんと見えてるんですね。私は同期を取りながら実体化するのが下手で、私から見たらご主人様は過去か未来の残像みたいなものなので、えーと、ここに来るであろうご主人様に聞こえるように応答を予測して録音しているとでも言うか、とにかく、少々ピントのずれたことを言うかもしれませんが」

「よくわからんが、わかった。俺も無粋なツッコミはやめよう」

「ありがとうございます。それでフルンですが、たぶんもうそろそろ着くと思います。あとパルクールがいれば」

「パルクールって?」

「え、あ、まだいませんでしたっけ? じゃあ、えーと、あれ、おかしいな、いるはずなのに、それじゃあ」


 ウクレがパニクっていると、建物の外で大きな音と地響きが起きる。

 覗き見ると、黒くてぶよぶよしたものが砂漠に突き刺さっていた。


「あれ、なにか来ましたか?」

「そこに黒くてぶよぶよしたものが、あれってもしかして黒竜なんじゃ」

「ん? みえないんですけど……もしかして先にデストロイヤーが? それでよく見えないんですね! ご主人様、奥に逃げてください、今から遮蔽装置を起動します、それでフルンがつくまで時間を稼ぎます」

「よし、逃げるのは任せろ」


 言うが早いが、俺は一目散に建物の奥に逃げ出した。

 と同時に、背後でブツンという音がして、一切の光が消えたのだった。

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