第301話 後始末

 勝利に浮かれる人々をかき分けながら、俺は壁の中に入るエレベータに向かっていた。

 後のことはエディとカリスミュウルに任せ、塔の上にいる従者達にはこちらに向かうように伝えてある。

 エレベータにのり、デュースが治療中の部屋に移動すると、フューエルが出迎えてくれた。


「外の様子は聞きました、黒竜は倒したとか」

「うん、それよりデュースはどうだ?」

がいうには、治療は成功したので、今は薬で眠っているそうです」

「そうか、よかった」


 デュースは集中治療室っぽいガラス張りの部屋からこちらに戻され、今は静かに眠っていた。

 顔色もいいし、大丈夫なのだろう。

 一安心と言いたいところだが、俺は相当気難しい顔をしてたらしい。

 フューエルが心配そうに話しかける。


「あなた、何かあったのですか?」

「それがな、ストームとセプテンバーグが……」


 とあらましを説明した。


「では、彼女たちが身を挺して」

「そうなるな」

「ですが、迎えに来いと言っていたのでしょう」

「そうなんだけど」

「だったら、うじうじしている場合ではないでしょう。今すぐ迎えに行くアテがないのであれば、まずは従者たちを労い、勝利を祝い、そして体を休めなければ」

「そりゃあ……そうだな」


 わかってはいたことだが、改めて人から言われると、ぐっと安心する。

 頼もしい奥さんで助かるぜ。


「アンたちが、ついたようです」


 ミラーの声に振り返ると、扉からぞろぞろとみんなが入ってきた。

 手をとって声をかけてやると、皆嬉しそうに、あるいは照れくさそうに、そして誇らしそうにうなずく。

 デュースが大丈夫なこと、ストームとセプテンバーグがいなくなったことを話すと、アンがこう言った。


「我々が改めてストームに呼びかけてみましょう。それでお声がいただけるかもしれませんし」

「うん、ひとまずそれがいいかな。あとはおいおい考えよう。正直ヘロヘロだ」

「たしかに。もっとも家で心配だけしてるよりは、マシでしたよ」


 と苦笑するアン。

 その時突然、天井から声が響いた。


「検査が完了しました。患者が目を覚まします。異常がなければ退院いただけますが、後日の再検査をおすすめします。担当医が設定されておりませんので、こちらもご確認ください」


 言い終わると同時に、デュースが目を覚ます。


「よう、よく眠れたか?」


 みんなを代表して声を掛けると、先程の苦しそうな様子は微塵も感じさせない穏やかな顔でうなずいた。


「んー、眠れましたねー、なんだか妙に体が軽くてー、ダンスでも踊りたい気分ですねー」

「そりゃあなにより。こっちも万事片付いたよ。どうだ、起きれるか?」

「うーん、大丈夫そうですねー」


 と体を起こすデュース。

 それを見てオーレが抱きついて泣き出した。


「よかった、デュース、大丈夫だった、よかった」

「あらあらー、心配をかけてしまいましたねー」

「うん、ちゃんと敵、やっつけた、でもまだ、駄目だった、帰ったらちゃんと修行する」

「そうですねー、私も頑張らないと駄目ですねー」

「うん、うん」


 デュースを連れて、みんなで地上に降りると、あちこち賑やかに盛り上がっていた。

 道行く人同士抱き合ったり、輪をかいて踊りだしたりと賑やかだ。

 相変わらずみんなタフだなあ。

 浮かれる人混みを縫うようにして宿まで戻ると、このあたりは綺麗サッパリ倒壊していた。

 どうやら倒した黒竜の雑兵が落っこちたらしい。

 雑兵の残骸は残ってないが、ぶつかった痕跡はくっきり残っていた。


「これ、中に人とか残ってないだろうな」


 というとミラーが、


「すべて避難済みです。徐々に避難先から戻りつつあります」

「そうか、まあ、生きてりゃどうにかなるさ。どうにかする方法は、あとで考えよう」


 そう言って空を見上げると、東の水平線に日が昇り始めていた。

 それを見て、やっと俺も、終わったんだなあ、という実感がすこしだけ湧いてきた。


「よし、ちょっとそのへん片付けて、宴会にするか。食い物はまだあったよな、派手にやろう」


 皆も賛同の声を上げる。

 片付け始めるもの、火をおこし調理を始めるもの、買い出しに行くもの。

 いきいきと動く従者たちを眺めながら、内なる館に入る。

 非常食を残して、残りの食材を全部持ち出すのだ。


 中に入るとまず目につくのは、うず高く積まれた財宝だ。

 前回のバーゲンの比ではない。

 何十億とありそうな気がする。

 だがまあ、宝石は食えないので、少し離れたところにある食料をクロックロンに積み込んで順次運び出す。

 一通り出したところで、なにか忘れてるような気がしてボーッと考えていると、ふわふわと妖精が飛んできた。


「ボスー、ボスも遊びに来たの? パロンは?」

「パロンは家においてきたから、もうしばらく来れないよ。なにか用事か?」

「うん、あのねー、さっきねー、知らない人間がいたから遊ぼーって言ったらぴゃーって言ってどっか行っちゃった」

「あーっ!」

「ぴゃー!」


 思わず声を上げると、妖精もつられて叫ぶ。


「なになに、叫ぶ遊び?」

「いや違う、その子どこ行った?」

「あっち!」


 と南側の牧場予定地を指差す。

 見える範囲には居ないようで、その先はモヤがかかっていてよくわからない。

 参ったな、あの子のことをすっかり忘れてたよ。

 ミラーは全員外に出してたから、中には妖精しか居ないんだった。

 そりゃびっくりして逃げてもおかしくないわな。


「クロックロン、手分けして女の子を探してくれるか」

「オーケーボス、カクレンボダナ」

「まあ、そんなところだ」

「かくれんぼやるやるー、みんな呼んでくるー」


 と妖精も森の方に飛んでいく。

 クロックロンと妖精の団体に追いかけ回されて、余計ビビらなきゃいいけど。

 ミラーを一人残して捜索の取りまとめを頼み、ひとまず外に出た。


 瓦礫の大まかな撤去も終わり、開いたスペースにテーブルを並べて宴会の準備も整った。

 そこに避難していた近所の住民も帰ってきたようだ。

 もちろん、女将のパルシェートちゃんもいた。


「サワクロさん!」


 涙目で駆け寄り、俺に抱きつくパルシェートちゃん。


「よか……よかった。もう、心配で」

「ごめんよ、君の方こそ、無事で良かった」

「はい、私は、ミラーさんが誘導してくれて、それで、ほんとに、良かった、よか……」


 あとの方は言葉にならないようだ。

 心配かけたり、苦労をかけたり、俺も大概、どうしようもない男だなあ、と思うんだけど、俺は俺にできることをしないとな。

 そう考えながら、泣きじゃくるパルシェートが落ち着くまで待った。


「うぅ……よかった、ほんとに、ご無事で、ずっと、遠くから見てて……」

「心配かけちゃったね」

「いいえ……いいえ……ご無事ならもう、でも……」


 ほんのり光る彼女の肩を抱くようにして、こう言った。


「また、心配をかけちゃうかもしれないけど……、それでもよければ、これからはずっと近くで見守ってほしいんだ、いいかな?」


 俺がそういうと、流れる涙を拭おうともせず、パルシェートは俺を見上げ、うなずいた。


「ずっと、お側にいさせてください。遠くから見てるだけは、もう、耐えられないから」

「ありがとう」


 彼女にそっと口づけてから、いつものように血を与える。

 みんなに歓迎されるパルシェートをみて、俺も今度こそ落ち着いた気がした。

 ストームたちのことは気になるが、なんと言っても女神様だ。

 それにきっと、こんな事もあろうかと判子ちゃんがあのロボットを用意してくれたんだろう。

 なるべく早く、迎えに行ってやろう。

 俺がいつまでもうじうじ悩んでると、従者たちが困るじゃないか。

 シャキっとしないとな。

 リラックスしようと背伸びをして、ふいに視線を感じて振り返ると、エディとカリスミュウルがいた。


「どうした、そんなところに突っ立って」


 というとエディが呆れた顔で、


「私だって声をかけづらいタイミングってものがあるのよ」

「奥ゆかしい人間は、いつも損するよな、俺もそうだからよく分かる」

「どうだか」

「まあ、今から宴会だ、都合がつくなら飲んでってくれ。ぐちは酔っ払ってから聞くよ」

「なら覚悟しときなさい」


 と言って席に着くエディ。

 隣で突っ立っていたカリスミュウルにも声を掛ける。


「おふくろさんは大丈夫だったのか?」

「うむ、まあ、貴様のおかげでもあるのでな、一応礼を述べにきた」

「お互い様だよ、お前がいてくれてよかったよ」

「いや、私は……まあよい」

「飲んでくだろ、酒はたっぷりあるぞ」

「よばれてやるとしよう。なんせ今戻っても、役人どもがうるさいのでな」


 二人を迎え入れ、宴もますます盛り上がる。

 周りには近所の住民もあつまり、女神の恩寵をたたえて飲んでいる。

 新人のパルシェートはフルンたちに囲まれているし、デュースはフューエルやオーレに挟まれて、今日は酒を控えているようだ。

 そこで今日の功労者である巫女トリオのところに顔を出す。


「今日はご苦労だったな、お前たちがうまくやってくれたおかげでどうにかなったようなもんだ」


 というと、サリスベーラが、


「ふへへ、お、お役に立てて、良かったです。でも……」

「まあ、ストームなら大丈夫さ、すぐにどうにかなるよ」

「はい、今日はもう精神が疲れ切っているので、一休みしてから改めて儀式を行いたいと思います」

「うん」

「直接召喚できればよいのですが、状況を聞く限り、この世界ではないところに行かれた御様子。となると声が届くのかもあやしくはあるのですが……」

「そうだな、一応考えてみたんだが、直接連絡がつかないなら、世界の外側まで迎えに行くしかあるまい」

「そのようなことが、可能なのでしょうか」

「うん、近所の本屋さんのネトックがいるだろう、彼女の持ってる舟が、そういうことのできるやつでな、今行方不明で探してるところなんだけど、こいつをどうにか見つけ出して、使わせてもらえばどうにかなるんじゃないかと思ってな」

「そうなのですか、よくわかりませんが、何にせよ良かった。世界の外などと、わけも分からず途方に暮れておりましたが、さすがはご主人様、どうか一刻もはやくポラミウル様、いえ、ストームの降臨が叶いますように」

「うん、まあ任せといてくれ」


 しばらくそうして話してから、今度は少し離れたところにいた緑のお姉さんカーネと竜騎士ラケーラに声を掛ける。


「二人もご苦労さま、大変だったね」


 カーネは手にしたジョッキを脇に置くと、


「ある程度はなにかあるだろうと想定していたのですが、まさか黒竜とは。あれほどの戦いは、私も初めてでした」


 と笑う。


「それよりも、デュースが倒れるなんて。そちらのほうが驚いてしまいました」

「俺もびっくりしましたよ」

「やはり、年齢的なものなのでしょうか?」

「それが、どうもデュースの心臓は作り物の、人工の心臓だっていうんですよ。そいつが壊れたらしくて」

「人工? まさか夢幻の心臓では……」

「うん、なんですそりゃ」

「話せば長くなりますが……、かつて魔界学士ウェディウムという魔王がいました。魔王と言っても両親やデュースの盟友でもあったのですが、彼女は魔族とプリモァのハーフであるがゆえに、子をなせぬ体でした。それゆえ、彼女は人形作りの技術を応用して、子供を人工的に作り出す研究をしていたそうです」

「ふぬ」

「その過程で、彼女は人工の臓器、とくに精巣と卵巣を作り、これを用いて自らの子を作ろうとしたのです」

「すごいな」

「私の父も……、ご存知かはわかりませんが、白薔薇の騎士フタヒメは女でしたが、ウェディウムの作った人工の性器で男と転じ、子をなしたのです。それがすなわち……」

「君なのか」

「ええ、ですから、この体は半分がまがい物であり、それゆえ人とは違う人生を歩んできたのですよ」

「不思議な事も、あるもんだ」

「ふふ、あなたはずいぶんと博識なご様子。私の生い立ちを聞いてもさほど驚いた様子はないようですね。それどころかこの世界の秘密もいろいろとご存知なのでは?」

「俺もいろいろあったんでね」

「あなたの知識と判断は、良い結果を生んだと思いますよ。一つに囚われすぎると、他の多くの良いことを見失うものです。将たらんと欲するのであれば、その事を忘れぬことです」

「ありがとう、まあ、大丈夫ですよ」


 俺の言葉に、ニッコリ笑うカーネ。


「そういえば、例のシャトルが目当てだったと言っていたが、壊れちまって問題なかったんですか?」

「そのことです。あれが運んできたものを回収せよ、との依頼だったのですが、あなたはあそこから何かを持ち出したのですか?」

「ええまあ、一つは古い遺跡の一部とでもいうか、もう一つはプリモァの子供が一人」

「では、その遺跡のことなのでしょう。かの晴嵐の魔女はそれのことを女神の代理とも、地の三柱とも言っておりました」

「そう言っても差し支えないかもしれませんね、あれは大昔にこの世界を支えていた重要な仕組みの一部……とでも言うべきものでしょう」

「できれば、それをお渡しいただきたいのですが」

「もちろん……と言いたいところですが、俺の一存では決めかねましてね。壁の遺跡もアレと関係があるようですし。そもそも……」


 とそこで言いよどむと、カーネが苦笑しながらこう言った。


「晴嵐の魔女が、信用できるのか、ということでしょう」

「まあ、そうですね」

「かの魔女は六大魔女の筆頭にして、天地に並ぶものなき偉大な術者……と思っておりましたが、先程の戦いで女神の力の片鱗に触れたことで、かの魔女の絶大な力も結局は人の力の延長にあるものだとわかりました。彼女の意図はわかりませんが、その力は決して人智を超えたものではありません。であるならば、その目的も人のなしうる範囲と言えるでしょう」

「しかし、人が人を滅ぼすことも、可能ですからね」

「その点、かの魔女は数千年の時を生きてきたそうですが、未だ一度たりとも、人類を滅ぼしたことはないようですよ」


 と言って笑う。


「なるほど、わかりました。急ぎでなければ、明日にでも返答しますよ」

「よろしくおねがいします。私も今日は、どこか柔らかいベッドで休みたいですね。もっとも、今のこの街の現状では難しいでしょうが」

「そのへんは、あとでどうにかしてもらうとして、ひとまず手打ちの乾杯でも」


 と乾杯してから、エディとカリスミュウルのご機嫌伺いに移動する。


「あら、やっと私の相手をしてくれる気になったの?」


 そう言うエディはすでにほろ酔いだ。


「まさか、俺が相手をしてもらいに慎ましく参上したところさ」

「まあ、殊勝なこと。いいわよ、たっぷりねっとりもてなしてあげるから、ねえカリ」


 同じく隣で酔っ払っていたカリスミュウルの肩を叩くと、みゃー、とかにゃーとかつぶやいて、更にジョッキを煽っていた。

 相変わらず酒癖悪いなあ。


「今話してた彼女、かの緑花の魔女の娘なんですって?」

「らしいな」

「ハニーっていつも家でゴロゴロしてる割に、色んな所で引っ掛けてくるわよね」

「そうかな?」

「ペンドルヒンの商工会……あの国の事実上の政府なんだけど、そこの幹部に緑の導師って呼ばれる魔導師がいるって聞いたことがあるけど、彼女のことなのね」

「へえ」

「ペンドルヒンは薬の知識を独占してるし、莫大な金の力で中立を保ってるしで厄介なのよ。彼女、あの凄いガーディアンに乗ってきたでしょう、ペンドルヒンもガーディアンをもってるのかしら? だとすると……」

「あれは晴嵐の魔女から借りてきたらしいぞ」

「晴嵐!? 六大魔女の? 本当にまだ生きてるの?」

「らしいぞ、怖いよなあ」

「また他人事みたいに」

「あんまり話題にしてると会いに行かなきゃならなくなりそうだから、避けてるんだよ」

「モテる男は辛いわね」

「わかってるなら、もうちょっと優しく慰めてもらいたいね」

「それはフューエルに頼みなさい」

「今日はデュースに貸してるからな」

「そうねえ、でもホント、今日の術もすごかったわね」

「なんかアレでも程々だったらしいぞ」

「信じがたいわね、私も自信なくなるわ」

「お前さんがそれじゃあ、あの二人が路頭に迷うぞ」


 とフルンたちと一緒に食事をとっていた炎閃流の二人を指差す。


「彼女たちも無事で良かったわ。いくらなんでも今回の事件はイレギュラーすぎるもの」

「そうだな、それより都は大丈夫なのか?」

「思ったより建物も無事だし、大丈夫じゃない? それよりも壁が入れるようになったでしょう。あれをどうするかが悩みどころよね。冒険者はともかく、一般人は遺跡なんて怖がって近寄らないし」

「そんなもんか、試練の塔もあるし、観光施設として人をどんどん呼べばいいかとおもったが」

「試練の塔はともかく、そもそも都だから、あんまり観光客があふれてもねえ」


 しばらくそうやって飲んでいたが、エディとカリスミュウルは迎えが来たので渋々帰っていった。

 お偉いさんは大変だな。

 二人を見送って、宴会の輪に戻ろうと振り返ると、判子ちゃんがいた。


「よう、先に帰ったのかと思ってたよ」

「帰っておけば、生でナンパシーンを見ずに済んだのに、無駄なことをしたものです」

「たまにはのぞき見料でも請求したいところだがな」

「監視料をいただきたいのはこちらですよ」

「そいつはつけといてくれ。それよりも今回は世話になったな、大丈夫なのか?」

「わかりませんよ、なにも。ただ、ほっておくわけにも行かないでしょう」

「そりゃそうだ」

「……あの二人の消息については、私にはわかりませんが、ベヘラ枝のどこかにはいるようです。この枝はいくつかに分岐し重複しているので非常にトレースが困難です。ご自分で探してもらうしかないでしょう」

「たまには、もうちょっとわかりやすく言ってくれよ」

「あら、私があなたのためになるようなことを言うとでも思ったんですか?」


 と珍しく嬉しそうに笑う。


「気分がスッキリしたので、そろそろ帰ります。ルチアが心配してるでしょうし」

「夜のうちに失踪したんだもんな」

「人聞きの悪い事を、せいぜいのんびり帰ってきてください。その分私も静かに過ごせますので」


 そう言って判子ちゃんは消えた。

 言葉の意味はわからんが、わざわざあの二人が俺の探せる場所にいるって教えに来てくれたわけだ。

 可愛いとこあるよなあ、なにか土産でも買って帰ってやろう。


 その後、しこたま飲んで騒いで、昼前には力尽きて宴会場のそばに用意したテントで横になった。

 目が覚めたら、パルシェートをたっぷりかわいがってやろうかな、などと考えつつ眠りに落ちる。

 寝床はいささか硬いが、眠ってしまえばどうということはない。

 むしろふわふわと枕は柔らかいじゃないか。

 まるで誰かの膝枕みたいに……。

 いやこれ、ほんとに膝枕だな。

 誰の太ももだろうとペタペタ触るが、ピンとこない。

 太くて肉付きがいいが、オルエンやクメトスとは違うな。

 そもそも、オルエンは家で留守番してるし。

 はて、だれだ?

 と目を覚ますと、目の前にびっくりするほどでかくて丸い塊が揺れていた。

 そうしてその隙間から真っ白い耳が覗いている。


「あ、おきた? だめだよー、ご主人様、こんなところで寝てちゃ」

「え? フルン!?」

「そだよー、久しぶりだから、驚いた?」


 声はたしかにフルンだが、声の主は大きな体と大きなおっぱいと真っ白い耳の……どう見てもフルンだった。

 ただし、むちむちナイスバディになった、大人のフルンだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る