第295話 最上階
例の円柱が落ちてきてから九時間が過ぎた。
すでに日付は変わっている。
途中、動く壁みたいな面倒なトラップがあったり、立体構造で移動が物理的に大変だったりと余計な時間を食ってしまったが、元々無理なペース配分だったのでしかたあるまい。
五十階のボスは、縦横三メートルを超えるあんこ型の巨体を誇る魔物で、たぶんすごく強いんだろうけど、短針銃一発で倒れたところを、ざっくり首を落として勝利となった。
ついで、六十階のボスは非常に強力で、赤竜に次ぐ難敵、金竜だった。
そばにいるだけで魔力に押しつぶされそうになる。
こちらは短針銃の麻痺も効かず、このメンツでも大層苦労したが、今ようやくに倒し終えたところだった。
「いやー、強敵でしたねー」
とデュースがいうと、カーネも緑の帽子を脱いで汗を拭いながら、
「まったく、こんな恐ろしい相手が地上にいるとは」
「そうですねー、マーネはよくこんなものを一人で倒せましたねー」
「わが親ながら、恐ろしい話ですよ。それでも、塔の中では竜も自在に動けないので、余計な結界を張らなくてすむ分、まだこちらが有利ではありますね」
などと言って、苦笑するカーネ。
金竜の倒れたあとには無数の財宝が残る。
適当に回収し終えると、外のバルコニーに階段が現れた。
これまでと違い外は下り階段だけで、上に行く階段はフロアの中央に出現した。
どうやらまだ上に登れるようだ。
女神のお言葉は上かな?
一応、女神にお伺いを立てていたアンたちからもすでに連絡があったが、あちらは漠然と、塔に登れとだけ、言われたらしい。
まあ、選択が間違ってなかったとわかっただけで、良しとしたいところだ。
「塔のコアはこの上でしょうか、とにかく、行ってみましょう」
レーンに促されて、俺達は上に登る。
数フロア分の螺旋階段を昇ると、試練の塔の屋上に出た。
周りを腰ほどの高さの縁に囲まれ、床は芝生が敷き詰められ、木が茂り、空には星がまたたいていた。
「先ほど確認したときは、最上階は半球に覆われて何もなかったのですが」
とネール。
あたりを見渡すと、周りは透明なドームに覆われているようだ。
マジックミラーのように、外からは見えないのかもしれない。
ふいに茂みが、ガサッと動く。
慌てて警戒すると、金ピカの鎧を着た老人が現れた。
カイオンとか言う老将軍だ。
「何だ貴公、ここにおったのか」
とカリスミュウル。
「やっと来おったな、わっぱ共。コアはこの奥だ」
この爺さん、ずっとここに居たのか、ご飯とかどうしてたんだろう。
そもそも、最上階は蓋がされてたんじゃないんだろうか。
色々気になるが、今はお告げだ。
慌ててコアの前に行くと、巨大な精霊石がボワッと光る。
(お待ちしておりましたよ、ご主人様)
ぼんやりと浮かぶ姿は、先日の女神ポラミウルだ。
「よう、どうにかここまできたぞ」
(感動の再会と行きたいところですが、時間がありません。あちらに渡って、シャトルを停止してください)
「おう、任せとけ。それで、行くだけでいいのか?」
(中に入れば、自ずとなす…べきことが、わか…りま……しょう)
「おい、どうした?」
(すこし、力を…使いすぎた……ようです。あなたの目で…アレを……あとは、まかせ…まし……)
そこまでで、ポラミウルの声は途絶えてしまった。
また思わせぶりなこと言いやがって、と思わなくもないが、割と深刻そうだったな。
それはそれとして、どうやって壁の方に移動するんだ?
と思ったら、少し離れたところに居たドラゴン族のラケーラが外を指差す。
「見よ、橋がかかったぞ」
塔の外周まで駆け寄ると、少し離れた壁の屋上に向かい、橋がかかっている。
ドームにも小さな扉がついていた。
出入りできるのか。
「ここを行けということかな」
「そのようだな」
うなずくカリスミュウル。
「もう残り三時間を切っておる。急いだほうが良かろう」
「そうだな、お前は壁に近づいて大丈夫か?」
「ある程度はな」
「俺も人よりはマシそうだが、まあ行ってみるか」
橋は幅十メートル。
長さも結構ある上に、相当高いので、かなり細く感じる。
強風で歩くのも大変だし、その上、手すりもないのでかなり怖い。
それでも頑張って半ばまで来たが、どうやら大半のメンツがこれ以上進めないという。
「すごい圧力ですね。これ以上は、ちょっと難しいようです」
足の方は回復したものの、それなりに消耗していたフューエルがそういうと、他のものも同様にうなずく。
大丈夫そうなのは俺とカリスミュウル、人形である紅とチアリアール、それにミラーも平気だった。
「しかたない、みんな塔の上で待っててくれ。下で人手が必要そうなら、各自の判断で行ってくれ。こっちは俺たちでなんとかするよ」
俺の言葉に、みなうなずく。
カーネが一歩前に出てこう言った。
「あの円柱は太古の遺物。重要な価値のあるものだと聞かされていますが、それでも今を生きる我らの命と比べるものではないでしょう」
「ま、そのへんは臨機応変にね」
「ふふ、あなたには不要な一言でしたね。かわりにこれをお貸ししましょう」
と腰に巻いていたベルトを手渡した。
「これは晴嵐の魔女より借りた、空を飛べるベルトです。重力を制御する魔法が込められているそうです」
「そりゃあ、すごいが、俺にもつかえるかな?」
「ここの所に指を触れて念じると、大地の力から切り離されるそうです」
言われるままにやってみると、確かに体がふわりと浮くのだが、浮くだけで如何ともし難い。
「あとは魔力を放出して移動するのですが」
「魔法とか使えないんだよな、俺」
「では、誰か共の者に持たせればよいでしょう」
というわけで、紅につけてもらうことにした。
ちょっと試したところうまく飛べそうだった。
俺が落っこちそうになったら拾ってもらおう。
皆に手を振り、先を急ぐ。
「平気とは言ったが、まったく無問題というわけでもないな」
少し顔をしかめるカリスミュウル。
「大丈夫か? 俺はそうでもないが、ちょっと耳がツーンとするぐらいで」
「ふん、私とてたいしたことはないわ」
「その調子だ、いくぞ」
橋を渡りきると、壁の屋上に着く。
こちらもフラットな作りで、何本か伸びたアンテナみたいなやつのほかは、入り口も見当たらない。
「さて、どっからはいるんだ? 紅、なんかわからんか?」
「現在、ノード191と交信中です」
「191?」
「この壁の基幹システムです。クロのいたノード18などと同系統のもので……、今、交渉が成立しました。入口を開くとのことです」
言い終わる前に、目の前にニョキッと壁が生えてきて扉が開く。
「ほう、こりゃ助かる」
中に入ると小さな小部屋で、なにもない。
「なんだこれは、罠ではなかろうな?」
カリスミュウルは驚くが、紅が答えて、
「この部屋が、目的地まで運んでくれます」
「エレベータみたいなもんか?」
と俺が言うと、紅はうなずく。
三十秒ほどで再び扉が開いた。
ほとんどGもなく、わずかに動いているのを感じた程度だったが、たしかに違う場所に出ていた。
外に出ると、軽やかなBGMとともに、こんなセリフが鳴り響いたのだった。
「ようこそ、フュードラージ宇宙センターへ」
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