第289話 バーゲンふたたび その三
大勢のクロックロンのおかげであっという間に地図はできる。
しかも、このメンツは大半が金に困ってないので、魔物退治は程々にどんどん進む。
それでも、シルビーやメシャルナちゃん達に一財産用意してやるぐらいはできそうな勢いではある。
特にシルビーの後見人を自負してる俺としては、せめて金銭面だけでもどうにかしておいてやりたいからなあ。
各フロアの出口にはリドルがあり、幸運なことに俺には簡単なものだったので、こちらもサクサク進む。
「ハニーにそんな才能があるとは思わなかったわ」
「やるではないか、見直したぞ」
相変わらずエディとカリスミュウルが褒めてくる。
なんだか怖くなってきた。
敵の強さは、階ごとにムラがあるようで、さっきまで居た七階などは、昔懐かしのコロコロみたいな連中しか居なかった。
かと思えば、ここ八階にはキングノズの亜種が居て、高い魔法耐性と剣が通らない頑丈な皮膚にだいぶ手こずってしまった。
結局、デュースが小さく絞り込んだ火炎壁で逃げ惑うノズを酸欠に追い込んで窒息させるという、エゲツない方法で勝利を収めたところだった。
「はー、久しぶりに手強い敵でしたねー」
「なかなか大変だな」
「そろそろ休憩したいところですよー」
「俺もそう思ってたんだ、メシャルナちゃんたちも慣れない実戦で疲れてるし、ここらで休憩にしよう」
というわけで、先に進みたがるエディたちはほっといて、キャンプを張ることにした。
九階への上り階段のある部屋は、魔物が出ないようなので、ここにカプル特製のバリケードを並べて陣を作る。
あれから工夫したおかげで、クロックロンに積めるコンテナ形状の、重量級組み立て式バリケードが大量に揃っている。
これを内なる館から取り出して囲めばキャンプスペースの出来上がりだ。
「いいわね、これ。ダンジョンでの拠点づくりはいつも大変だったのよ。これならあっという間にできるじゃない。あの箱は、馬でも運べるかしら?」
と、諦めて休憩することにしたエディ。
「森のダンジョンでも苦労したからな。こいつをそのうち土木ギルドに売り込んで、一儲けと行きたいところだが」
「うちに優先的に卸してくれればお墨付きをあげるわよ。交渉にも箔が付くんじゃない?」
「俺を丸め込もうとしてもだめだぞ、俺は自分では契約はしないことにしてるんだ、押しに弱いからな」
「そういうところだけ、しっかりしてるわね」
「まあアルサに帰ってから、メイフルと相談してくれ」
精霊石の小型ストーブでお湯を沸かして一息つく。
隣でフルンたちと談笑していたメシャルナちゃんに声をかけてみた。
「どうだい、まだいけそうかい?」
「はい、少し慣れてきた気がします。体力もまだ大丈夫です。それにしても……」
「うん?」
「サワクロさんの従者をはじめ、エディさんたちもすごい実力者揃いで、皆さん、大会に出ていれば優勝候補だったのでは? 魔法も、あんなすごいものは初めてみましたし」
「うちはそれなりに場数を踏んでるからね、冒険と剣の大会じゃ、またいろいろ違うもんさ」
「そうなのでしょうか」
猫耳のメシャルナちゃんは、セスを幼くしたイメージとでもいうか、剣に一途な感じだな。
この道で大成するなら、エディの元で頑張るのもいいのかもしれんなあ。
そうして時間を潰している間に、カプルがミラーやクロックロンを使って、どんどんバリケードを組み上げていく。
テニスコート一面分ぐらいある部屋の半分が要塞化してしまった。
「随分と本格的にやったな」
と俺が言うとカプルは、
「せっかくの実戦ですもの。トレーニングの絶好の機会ですわ」
「それもそうか」
「理想では、あと三割は設置時間を縮めたいところですわね。先程、エディさんのアドバイスを頂いたんですけど、まず小さく陣を作って、それを広げていくほうが良いのでは、とのことでしたわ。出来上がるまで襲撃は待ってもらえませんものね」
「なるほど」
「どうせなら実際に魔物に襲撃してもらえると、なお良いのですけど、そこまでは望みすぎですわね」
「おちおち、休憩もできんからな」
プロセスもだいぶ効率化されていて、背中に小さなコンテナを背負ったクロックロンが、所定の場所まで行くとコンテナを降ろし、それをミラーが二人一組で組み上げる。
シンプルな鉄骨を組み合わせてネジ止めするだけだが、常人より力のあるミラーだと、割と簡単に組み上がってしまう。
それを並べたうえで、運んできたクロックロンがその背後に控えることで、バリケードとクロックロンのバリアの二段構えで防御するらしい。
状況によっては、盾を構えたミラーも配置するという。
そりゃあ、頑丈そうだ。
奥まった安全なところでは、デュースが折りたたみのデッキチェアでふんぞり返っていた。
「いやー、ダンジョンの奥でこんなにリラックスできるなんてー、昔は考えられませんでしたねー」
「油断してると大変なことになるぞ」
「そうですねー、まーでもー、私ももう年ですからー、試練さえ終われば引退してー、あとのことは若い子に任せたいですねー」
「そうなあ、俺もそろそろ最前線からは引退してもいいんじゃないかなあ」
「ご主人様はー、あと十年は頑張らないとだめですねー」
「そんなにか、俺の故郷じゃ、アスリート……っていうかこう言う商売は三十代なかばで引退するもんだけどな」
「まー、たしかにそれぐらいで体はピークをすぎるっぽいですけどー、相当稼いでないとしんどいですよねー」
「そうだよなあ、後人を育成したりする仕事もあるんだろうが、大変だよな」
「やっぱりー、生涯やるには向いてない仕事ですねー、早めに小金を稼いで別の仕事につなげないとー」
などと頼りない年寄りの会話を繰り広げていると、どうやらシルビーやメシャルナちゃんらが聞いてたらしい。
「や、やっぱり、冒険者って大変なんですね」
というメシャルナに、シルビーが答える。
「そういうものだとは、よく聞く。それなりに覚悟は決めているつもりだが」
「実は、冒険者ってのも最近流行ってるみたいなので、考えてはいたんですけど、やっぱりエディさんの言うとおり、騎士を目指すのがいいのかなあ。でも、獣人だし」
「私も、よくは知らぬが、赤竜に限って言えば、まっとうな待遇で迎え入れてもらえるらしい」
「シルビーさんは、その、騎士を目指したりはしないのですか?」
「昔は、それしか考えていなかったがな。ここ最近、色々な経験をして、自分にできることは何かを、探しているところなのだ」
「そうなんですね。私も、そういう、なんだろう、可能性みたいなのを知りたくて、この大会に出てみたんです。ほんとは大人の部に出たかったんだけど、でも、色んな人と知り合えたし、すごい人も間近に見られるし、来てよかったなーっておもってます」
「それについては、私もそう思う」
どうやら、若者に余計なプレッシャーを与えてしまったようだ。
良くない大人だなあ。
デュースが休んでいるので、フューエルもその側にいるのだが、ミラーを相手になにか話していた。
俺は小腹がすいたので、パルシェートちゃんが持たせてくれたお弁当を開ける。
中にはいろんな具材を挟んだサンドイッチが入っていた。
俺も早く彼女に挟まりたいなあ、などとおっさん臭いことを考えながら、一つつまむと美味しかった。
エメオの美味いパンに慣れてると、パン自体は微妙なんだけど、トータルではうまい。
きっとこれは愛の味に違いあるまい。
そうしてぼんやりしていると、元気が有り余ってるらしいエディがやってきた。
「ちょっと、いつまでくつろいでるのよ。カリは先に出発しちゃったじゃない」
「そうなのか、俺を置いていくなんて、つれないなあ」
「なら、彼女が戻ってくるまで、そこでそうして泣いてなさい」
と言ってフューエルの方に行ってしまった。
こっちもつれないなあ。
まあ、くつろぎすぎてもアレなので、そろそろ出発するとしよう。
時刻は、夜の八時ぐらいだ。
今朝はあんな状況にもかかわらず爆睡してしまったので、まだ眠くはないが、どうしたもんかな。
と思っていたら、ミラーが声を掛ける。
「レーンとクメトスがこちらに向かっているそうです」
「外はもういいのかな?」
「神殿から人員が配置されたから大丈夫とのことです」
「ほほう」
というわけで、少し作戦を立てる。
俺たちは先に進んでおき、ここにはカプルを中心に、数名残して撤収しながらレーン達と合流してもらう。
予想では十階あたりで合流できるだろうとのことだ。
「じゃあ、カプル。後は任せたぞ」
「お任せくださいな、ご主人様こそ、お気をつけて。少々、ツキのない顔をしておりますわ」
「知ってる」
九階に登ると、再び同じような小部屋が並ぶ。
例のごとく、階ごとのリドルは少し時間を置くと復活してしまう。
そのために他の連中はなかなか上に進めないので、今の所、俺たちが先頭だ。
途中の小部屋を開けた様子がないので、先に行ったカリスミュウルはそのまま上を目指したのだろう。
まあ、宝が目当てじゃなければ、そうなるわな。
エディは先に行きたがっていたが、俺としてはさっきも言ったようにシルビーだけでなく、メシャルナ、ラランの両人にまとまった財産を作ってあげたいので、ある程度は稼いでいきたいのだった。
「そろそろ、ダンジョンの雰囲気にも慣れてきたので、前に立たせてもらって良いでしょうか」
とメシャルナちゃん。
ここまでは前衛のサポートに回って、ほとんど活躍できていなかったが、俺には判断できかねるので、それとなくセスの方を見ると、無言でうなずいた。
「よし、じゃあ次は頼むよ。魔法もあるから、こちらから指示を出したら従ってくれよ」
「はい、よろしくおねがいします」
そう言ってメシャルナちゃんは腰の刀に手を添える。
柄の装飾も立派で、なかなかの業物っぽい。
あと、だいぶでかいな。
小柄な彼女の身長に近い長さがある。
あれをどうやって抜くんだろうな。
手頃な部屋に狙いをつけて、メシャルナとラランの炎閃流コンビが飛び込む。
薄暗くてよくわからないが、中にいたのはノズが三匹っぽい。
「行きます!」
メシャルナがそう言ったかと思うと、右手を腰の刀に伸ばす。
次の瞬間にはもう上段に構えていた。
全然見えなかったぞ?
と思ったら、
「チェラアアアアアアアアアアッ!」
耳をつんざかんばかりに叫んで突進する。
上段から叩きつけるように切り下ろした刀は、ノズの体を頭から真っ二つにしてしまう。
その衝撃は凄まじく、真っ二つになった体が左右に吹き飛んでしまった。
「デュアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
同じく、すごい声で叫んだ犬耳のラランちゃんもこれまた上段からの一振りで、ノズを真っ二つにしてしまう。
何だこの子達。
俺はあっけにとられていたが、残る一匹のノズも呆然と立ち尽くしていた。
「ギェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
再び叫んだ猫耳メシャルナちゃんが、真横に薙ぎ払うと、今度はノズが上下に真っ二つになって吹き飛んだ。
「ふぅ……」
と一呼吸ついて、さっと刀の血を払うと、また目にも留まらぬ所作で鞘に収めてしまった。
「ど、どうだったでしょう」
いつもの、控えめにはにかんだ表情で尋ねるメシャルナちゃん。
表情は可愛いんだけど、袖とか返り血でべったりだよ、ちょっと怖いよ。
「いや、お見事」
セスが俺のそんな感想を無視するように絶賛する。
「炎閃流の初太刀は吹き上がる炎の如き激しさだと聞いていましたが、お二人の太刀筋は、まさに炎そのものの見事な激しさでした」
「ありがとうございます。実戦の経験は、数えるほどしかなかったので、どこまで通じるか不安だったのですが」
「たしかに、実戦においては予想できない要因が絡んでくるもの。それに応じるには現場での経験は欠かせませんが、お二人なら、それも乗り越えられるでしょう」
とべた褒めだ。
フルンもやってきて、
「すごかった! あれを試合でやられてたら、速攻で負けてた!」
というとメシャルナが首を振って、
「ううん、今のはこの剣がないと。木剣だと耐えきれなくて折れちゃうもの。もし初太刀をかわされたら、それで私の負けだから」
「うーん、そうかも。でもすごかった。あ、コア剥がさないと。あとお宝も」
改めて吹き飛んだノズの死体を見ると、まだ薄っすらと紫色に光っている。
これ、ノズの上位種だな。
普通に出てくる魔物の中じゃ、かなりの強さだぞ。
すげーな。
エディに譲るのはもったいないなと思ってそちらを見ると、彼女はニヤニヤしていた。
「どうした、そんなスケベそうな顔をして」
「ニヤけもするわよ、こんな掘り出し物、めったにないもの。絶対、うちでいただくわよ」
「欲をかくと痛い目を見るぞ」
「いつものことよ」
ウキウキしてるエディに引っ張られて、俺達は探索を進めるのだった。
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