第253話 再会 前編
妖精達の踊りは続く。
天井部分の岩盤を使って、柱のあとに何やら積み上げているらしい。
そもそも、あれだけの重量物がなくなって、地盤は大丈夫なんだろうか?
よくわからんが、もはや俺のどうにかできる範囲を超えている。
あとはなるようになるだろう。
気が抜けたかして、ぼーっとしていると、ラケーラが飛んできた。
「紳士殿、遠くから見ておったが、凄まじい術だな。あれ程の魔法は初めて見たぞ」
「俺も初めてみたよ」
「ははは、謙遜を。なるほど、紳士というものは凄まじいものだな」
などと言って、もうしばらく後始末をしてくると飛んでいってしまった。
それよりも、俺は早くパンツを着替えたい。
「旦那、死にかけると漏らすって話は聞くけど、よっぽど溜まってたんだねえ、」
エレンは呆れた顔だが、お前これはあの人形が悪いんだぞ。
しかし、あれと魔法に何か関係があるのだろうか?
話を聞きたくても、カリスミュウルとあの人形は、さっさとアンブラールの所に戻ってしまった。
あんな情熱的なキスまでしたのに、つれないやつめ。
仕方ないので、揃って駐屯地まで戻る。
どこか物陰を探して着替えを、いや、そもそも着替えるパンツが無いな、などと考えていたら、懐かしい声で呼ばれた。
「ご主人様!」
振り返らなくてもわかる、アンの声だ。
「よう、早かったな」
気が緩んで思わず泣きそうになるのを我慢しながら振り返ると、みんないた。
文字どおり、うちの家族全員だ。
「あなた、よく無事で」
そう言って微笑むフューエルに、俺はなんといっていいかわからずに、
「ただいま」
と、そういった。
うちにいた連中は、誰が迎えに来るかで揉めた挙句に、結局全員で来ることにしたらしい。
流石にミラーとクロックロンの待機組はほとんど残してきたが、後は本当に全員だ。
ピューパーや撫子だけでなく、蛇娘のフェルパテットまでいる。
よくここまで無事に来れたな。
「どうせ試練のときにはみんなで旅をするのです。良い練習になるでしょう」
アンは俺の着替えを用意しながらそう言った。
全員で来るならそう教えてくれてもいいのにと思ったが、子供たちも一緒だと心配させるかもと黙っていたとかなんとか。
「それにしても、先程感じたあの魔力は、やはりご主人様のものだったのですね」
「らしいな、俺もよくわからんが、紳士は念動力が得意らしいぞ」
と言うとデュースが、
「なるほどー、もう長いこと念動力を見たことがありませんでしたがー、そうでしたかー。紳士は独特な力を持つとは言われていたのですがー、念動力だったんですねー。あれは感情の起伏が魔力の源泉となると言われていますがー、ご主人様はわりと飄々としているので発動しづらいんでしょうかー」
「それが言いづらいんだが、どうも射精しちゃったのがきっかけみたいなんだけど」
「ははあー、むかし知り合いだった商人がー、射精すると魔法が使えると豪語してましたねー。冗談だと思っていましたがー、あれは本当だったんですかねー」
「まじかよ。でも俺も毎日エッチしてるのに、一度も使えたことがなかったぞ?」
「うーん、逆に溜め込むことで魔力が高まるんでしょうかー」
「あー、こっちに来てから、一回もしてなかったからな」
「それはお辛かったでしょうねー。あとでたっぷりサービスさせてもらいますねー」
「期待してるよ。すっからかんだけど」
「今はどうですかー? 使えそうですかー」
「使うってどうするんだ?」
「とりあえず、この小石でも動かしてみてはー。それぐらいなら念じるだけで呪文はいらないと思いますがー」
「ふむ、さっきはダメだったが、やってみよう」
差し出された爪ぐらいの大きさの小石に向かって、動け動けと念じてみるが、ピクリとも動かなかった。
「だめだな、これ」
「だめですねー。魔力は感じるんですけどー、魔力の流れを感じないんですよねー、だから使えないだろうと思っていたのですがー。また数日、溜めてみますかー?」
「勘弁してくれ。それなら魔法なんて無くてもいいよ」
「あれ程の力をもったいないー」
「ご奉仕の機会損失のほうが、もっともったいないよ」
「まあ、ご主人様はそういう人ですよねー」
残念だが、あんな魔法は生涯に一度使えれば十分だ。
着替えてさっぱりしたところで、俺に会うためにこんなところまでやってきてくれた従者たちを順番にねぎらってやる。
大きめの馬車を三台も連ねて来たらしい。
うちも大所帯だなあ。
一通り声をかけたりハグしたりしてまわり、それからフューエルの所に向かう。
フューエルはちょうどエーメスと話しているところだった。
「あなた、みなに声はかけたのですか?」
「まあね、最後に奥さんにキスでもしてやろうかと」
「あら、先程、よそのご婦人と熱い接吻を交わしたばかりでは?」
「なんで知ってるんだよ!」
「知らないと思ったんですか?」
「くそう、ロマンチックな再会が」
「それよりも、パロンが来たようですが」
見ると、妖精の群れから離れて、パロンが飛んできた。
「おう、みんな来とったんじゃな」
「パロン、ありがとう、あなたも随分とこの人を助けてくれたようですね」
とフューエルが言うと、すまなさそうに、
「その、なんじゃ、すまんかったのう、わしのせいで」
「いいのですよ、あなたも従者になったのでしょう。であるなら、これぐらいは織り込み済みというものです」
「しかしのう」
「それよりも、すごい妖精の群れですね。あれをあなたが束ねているのですか?」
「そうじゃ、なんやしらんが、わしが女王になってもうたからな」
「では、今はその責務を果たさなければ」
「そうじゃのう、じゃあ、いってくるわい」
そう言って、パロンは再び飛び去った。
「それよりもあなた」
「はい」
「何をかしこまってるんです」
「いや、何か怒られるのかなあ、と」
「そういうのは、家に帰ってからです。まだ他にも新しい従者がいるのでしょう。私もアンも、声をかけたくて待っているのですが」
「じゃあ、中に入るか」
アンとフューエルを連れて内なる館に入ると、スィーダ達が待っていた。
「あ、ご主人様、おわったの?」
と駆け寄るスィーダは、隣りにいたフューエルに気がついて、
「あ、その、おく……さま」
「スィーダ、よく無事で。エメオも」
「はい」
と頷くエメオ。
そのエメオの影に隠れていたメーナに気がつくと、フューエルが腰をかがめて声をかける。
「はじめまして、私はクリュウの妻、フューエルです」
「メーナ、です、あの、わたし」
「あなたも、あの人の従者になってくれたんですね」
「はい」
「あの人のそばにいると、苦労も多いですが、それ以上に良いことに恵まれると思います。これからよろしくお願いしますね」
「は、はい、おくさま」
にっこり笑って、自己紹介が終わった。
「それにしてもご主人様」
アンが、妖精の森を見ながら呆れた声で、
「あれを妖精達が作ったのですか」
「そうなんだよ、そりゃあもう、あっというまに」
「大丈夫なのですか? ここから見ていても、精霊の力が溢れそうですが」
「まあ、パロンが仕切ってるから、大丈夫だろ」
「そうですか、ではそういうことで」
みんなを連れて外に出て、メーナを撫子たちに紹介すると、喜んですぐに仲良くなった。
メーナもこれからはうちで楽しくやってもらいたいものだ。
一通り、用事を済ませたので、あとはしっぽりとご奉仕でも、と思ったが、まだやることがあった。
まずは影の功労者であるアウリアーノ姫に礼を言わんと。
避難の必要がなくなったので、今は兵を率いて街中に残る魔物を掃討中だ。
バッツ殿下の名は近隣諸国でも有名らしく、その殿下自らが後始末に乗り出しているということで、他国も争うようにあとに続いているらしい。
柱でたいした成果が得られなかったので、名誉だけでも稼ごうという魂胆だろうか。
駐屯地の外れで指揮を出すアウリアーノ姫を見つけると、声をかける。
「姫、面倒な仕事を押し付けて申し訳ない」
「何をおっしゃいます。先程はさすがの私も死を覚悟しましたが、よもや紳士様があれ程の魔力をお持ちだったとは」
「ははは、まあ、ごくたまーに本気をだすんだよ、俺というやつは。しかし、約束した土産は何もなかったな」
「この命を拾っていただいただけで、十分ですよ」
「しおらしいことを言うじゃないか。そういうタイプだったっけ?」
「まあ、紳士様は私のことを誤解なさっているのでは?」
と妖しく笑う。
「はは、俺の不見識だったようだな」
「偉大な紳士様の前では、私ごとき小心者はひれ伏すばかり。市民たちも、紳士様の魔力に当てられてか、しきりに感謝の言葉を述べていました」
「まじか、ちゃんとバレないようにしないと、拝まれるのは勘弁だぜ」
指輪を外した直後に比べるとかなり光は弱まっているが、近くに来ると一般人とは違う力を感じさせてしまうようだ。
ポケットから指輪を取り出して指にはめるが、何故か後光が完全に消えない。
あら、っと思って指輪を見ると、真っ黒だった指輪が真っ白になっている。
「なんだこりゃ?」
「まあ、それは確か、もともと黒の精霊石だったのでは?」
「そうなんだ、いつの間にか真っ白に」
「まさか白化……しかし」
と珍しそうに指輪を眺めている。
「何か珍しい現象なのかい?」
「黒の精霊石は、魔力を放出し尽くした精霊石の成れの果てともいわれているのですが、普通に使うだけでは崩れて塵と化すだけなのです」
「ほほう」
「それ故、錬金術に於いても、古くから否定された説なのですが、もし黒の精霊石が何らかの原因で、例えば紳士様の魔力の影響などで白化して白の精霊性に転じたのであれば、逆に今言った説の信憑性も」
「上がるというわけか」
アウリアーノは実に興味深そうに指輪を眺める。
俺は指輪を外すと、彼女に手渡した。
「じゃあ、こいつはささやかなお礼として、姫に進呈するよ」
「よろしいのですか? このような貴重なものを」
「ああ、なにかわかったら、教えてくれよ」
「かしこまりました。では、ありがたく頂戴いたしましょう」
アウリアーノは懐からハンカチを取り出し、慎重に指輪をくるんだ。
「じゃあ、俺はさっさと戻って拝まれないように引きこもっとくよ」
「それが良いでしょう。まるで神か何かの再臨だと言わんばかりの興奮状態でしたから」
「こわいねえ。それで、街の様子はどうだい?」
「魔物の掃討は、ほぼ終わりましたが、街は酷い有様です」
「だろうな。大丈夫なんかね?」
「難しいですね。このあたりは、それほど裕福というわけでもありませんし」
「ふむ」
「それでもあとは、この地に住む者たちが解決する問題です」
「そうだなあ、人は人の責任の及ぶ範囲でのみ、その義務を果たすべきなんだよな」
そう口にしてから俺はデジャブを感じたが、それが何だったのかは思い出せなかった。
「ええ、そのとおりです。それが王であれ、庶民であれ……」
「まったくだ。俺もそろそろ平凡な一商人に戻るとするよ」
ひとまず、姫と分かれて仲間の所に戻る。
柱のあとに、何やら巨大なものが積み上げられつつあるのが、否が応でも目に入る
あれはなにをつくってるんだろうな。
あとでパロンに聞いてみよう。
混乱の跡地を歩いていると、あちこちから、いい匂いがしてきた。
どうやら炊き出しが始まったらしい。
そう言えば俺も、腹ペコだった。
何か食わんと、もうだめだ。
慌てて戻ると、我が家の料理人モアノアが出迎える。
「んだ、待ってただよ、ご飯にするだ」
と言って、彼女の絶品料理が並ぶ。
ご飯に味噌汁も良かったが、それ以上に彼女の手料理こそが我が家の味だよな。
俺はひたすら家の味を堪能した。
腹が膨れたところで、俺はメイフルに相談を持ちかける。
「なんや大将、もう銭金の相談ですかいな」
「まあね、どうにかならんか」
「というても、これだけの街をどうこうするには、ちと規模がでかすぎますわな」
「俺個人の話としても、このあたりと貿易したいんだよ」
「例の米やら味噌ですな。せやけど、デラーボン経由にしても、経路がほそうおますわなあ。さっきエレンはんにも聞きましたけど、ここまでの道中は大変らしいでっせ」
「そうなあ」
「逆にうちらのきたカルボス方面も、大きな商隊組むにはいささか不便ですわな。東西には大きな道もあるんですけど、こっちはちょっと。地上の方も船便が細おますし」
「なるほど」
そう言って空を見上げると、天井の一部から青空が見えた。
すっかり貫通したらしい。
「あそこから通れればいいのにな」
「そうですな、この上はアッシャの森でっしゃろ。海岸沿いまで道を作れば、アルサまですぐでっせ」
「うーん、よし、だれかパロンを呼んできてくれ」
と言うと、クロックロンがぴょんと飛び出していった。
「まさか大将、上まで道を通す気でっか?」
「いやあ、もしできるならそれもありかなあ、と」
「妖精って、そないなことができますのん?」
「わからんけど、なんか色々できるからな」
そう話すうちにパロンが来てくれたので、相談してみる。
「上まで通すんかい。そりゃあ、できんこともないじゃろが」
「頼むよ、うまくいったら、俺も米や味噌を買い放題、町の人も商売繁盛ってね」
「わからんけど、やったるわい。何にせよ三日三晩はかかるもんじゃ、根気ようまっちょれ」
「おう、みんなにもよろしくな」
パロンを見送りながら、うまくいくといいなあと、のんきに考える。
次はカプルだな。
「この瓦礫の山がお宝ですの?」
内なる館に積み上げた、魔界の戦利品をカプルに見せる。
「たぶんな。こっちのやつは、精霊石を使ったエンジン、つまり動力らしいし、こっちは勝手に食いもんとかを作ってくれる機械だな」
「このエンジンは、以前シャミが作っていた蒸気機関の類ですわね。アレは行き詰まってましたから、良い参考になりますわ。そちらのステンレスの箱は何が何やらわかりませんが」
「ふむ、まあそうかもしれん」
「たしかに、興味深いものも多いですわ。しばらくシャミと閉じこもっていますから、何かあったら呼んでくださいませ」
すぐにのめり込んだ二人をおいて、外に出る。
アンが目についたので、指輪の予備がないか尋ねてみたところ、ちゃんと用意してくれていたので、正体は無事に隠せた。
あとはおとなしく引きこもっておこう。
落ち着いたところで子どもたちと遊んでやろうかなと探すと、焚き火の側にフルン達がいた。
フルンとシルビーが並んで、セスと何か話している。
見たところ反省会だろうか。
その後ろでは、エットがそわそわしていて、久しぶりの再開でフルンに飛びつきたいのに、真面目な話をしているので遠慮している感じだな。
こう言うときは俺がフォローしてやるべきかな。
「おう、ここにいたのか。どうした、深刻な顔して」
と言うとフルンが、
「うん、今回、あんまりうまく戦えなかったから、セスに聞いてもらってたの」
「ふむ」
「あのね、最初、私より強いと思って、攻めきれなかったんだけど、セスの見立てだと、一対一なら、そこまで実力差はないだろうって、それでなんでかなーと思ったんだけど、たぶん、ご主人様とかを守る分の、えーと、コスト? それを考えて、たぶん自分の全力を出せてなかったのかなあ、って」
「なるほど、しかしあのときはスィーダのことも頼んでたし、がむしゃらに当たる訳にはいかないだろう」
「そうなんだけど、場合によっては、全力で当たって早めに敵を倒したほうが、自由度が増えるからいい場合もあるって。それで、セスが言うには、私はいつでも一歩引いたところから考えすぎだって。前衛に立つときは特に、目の前の敵一体だけにすべてを集中することも必要、みたいな話をしてた」
「そうかそうか、難しい話だな」
「うん!」
「で、話は終わったのか?」
「今終わった所」
「じゃあ、みんなで遊ぶか」
と言って、エットを呼んでやると、喜んで飛んできた。
「フルン、怪我してない? 大丈夫だった?」
「うん、エットは?」
「あたしは大丈夫。みんなも! ここ来るまでも、大丈夫」
「そっかー、心配かけてごめんね」
「ううん、平気」
「そうだ、スィーダも従者になったんだよ! 家に帰っても、もうずっと一緒」
「うん、さっき聞いた、よかった」
「あとパロンやエメオも! メーナって新しい子もいるよ」
「うんうん、さっきナデシコたちと一緒にいたから話した」
「そっかー」
「シルビーは? シルビーも従者になった?」
と隣りにいたシルビーにエットが質問すると、シルビーは驚いて、
「私は、べつに……」
「そっか、残念。シルビーも仲間なのに、従者じゃないのな。人間だから?」
「ん……、それは、その、そうだな」
「でも、ウクレは人間だけど従者だよ?」
「うむ、そういうものも、いるかもな」
「ここに来る途中、みんなで賭けをして、ご主人様に会うまでに、何人従者が増えてるかって、アンや奥様は三人って言ってて、レーンが四人で当たってた! 私は百人って言ってたけど外れた。妖精はいっぱいいるけど、別に従者ってわけじゃないって」
「はは、エットは欲張りだな」
「でも、従者が増えると嬉しい。だって、従者だと、たまにしか話さない人でも、一緒にいて楽しいもん」
「そうなのかもしれないな」
そんなことを話すエットたちとしばらく遊んでたら、ラケーラがやってきた。
「紳士殿、仲間と合流できたのだな」
「ラケーラ、随分と手柄を立てたそうだな。あちこちでお前のことが噂になってるぞ」
「ふむ、しかしいくら名を上げようと、今の世ではあまり意味などないのかも知れんな」
「そうかい?」
「ここに会した諸侯とその軍を見て回ったが、平時の軍隊とはこのようなものであろうか、いささか私の思うものではなかった。良き王がいれば、騎士として仕えるのも悪くはないかと思ったのだがな」
「ふむ。だが地上にも強い騎士は大勢いる。もちろん魔界でもそうだろうし、それを従える王も居る。バッツ殿下にはあったか? 全身黒い甲冑の豪腕の戦士だが」
「いや、まだだな」
「じゃあ、あとで紹介しよう。それよりも、まずはうちのオーレに会ってやってくれ」
とオーレを呼び寄せる。
「呼んだか、ご主人」
「おう、彼女がお前と同じドラゴン族のラケーラだ」
「ドラゴン?」
と言って首を傾げるオーレを見たラケーラは、おお、と感嘆の声を上げる。
「まごうことなき我が眷属の波動。よくぞ、よくぞこうして我が前に……」
感極まったラケーラは、思わずオーレを抱きしめた。
「わぷ、くるしい、お前、オーレと同じか? 見た目、だいぶ違う」
「おお、すまぬ、つい興奮してな。そうだ、同じドラゴンの血統よ。お前も大人になれば、私と同じく尻尾が生え、角が伸び、背には大いなる羽を抱くであろう。そうだ、私も確かに、そうだったのだ」
「ほんとか、すごい、かっこいい! オーレ、楽しみ」
「うむ、お前も立派な竜に育つに違いあるまい」
「やった!」
オーレはすっかりラケーラが気に入ったようで、ベタベタとくっついて話しかけると、ラケーラも嬉しそうにそれに答える。
その様子を見守っていたら、デュースがやってきた。
「彼女が例のドラゴン族ですかー、まだいたんですねー」
「カーネが何処かから見つけ出して、蘇らせたらしいぞ」
「そうですかー。そのカーネはどうしてるんでしょー」
「何やら人型の巨大ガーディアンに連れられて、どっかに行っちまったよ」
「人型?」
とデュースは首を傾げる。
「うーん、昔何処かでみたようなー」
「みたのか?」
「どーも、物忘れが激しくて困りますねー」
「しっかりしてくれよ、おばあちゃん」
「キスぐらいで漏らすようなお子様に言われるとは心外ですねー」
「ははは、俺ぐらいピュアだと、三十過ぎても少年の心を忘れないんだよ」
「物は言いようですねー。まあカーネにはそのうち会えるでしょー。それよりも帰りの相談をしておこうかとー」
「そうだな、そうするか」
アンとフューエルを交えて、相談する。
「パロンの話では、柱の後始末に三日はかかると言ってたから、最低それだけはここにいないとな」
「そうですね、急ぎの道中で、疲れている子もいますし」
とアン。
「苦労をかけたなあ」
「それは良いのですが、食料などもいささか不安ですね。強行軍でしたので、荷物もだいぶ削ったのです。しかし、街があの様子では」
「俺の中に、米とか味噌の買い置きがあるし、猪肉もあるぞ」
「では、あとで確認しておきましょう。場合によっては隣町まで移動して待機することも考えなければ」
「そうだな」
つぎにフューエルが、
「家の方ですが、店はイミアの実家から、人が来てくれています。あとはミラーがいますし、メイフルの話では当面大きな商いはないので、一、二週間程度であれば大丈夫とのことでした」
「ふむ」
「せっかくなので、家族全員でのキャンプの練習もしておきたいですし」
「そうなあ、前の旅の経験者も半分ぐらいだし」
「そういうつもりで、色々と計画を立てましょう」
というわけで、しばし相談して疲れ切ったところでやっと開放された。
涙の対面のはずが、なんだかすぐに以前の日常に戻ってる感じで、まあそんなもんかな、と思ったら、妙に落ち込んだ二人組を見つけた。
学者コンビのエンテルとペイルーンだ。
「二人共、残念だったな」
と声をかけるとエンテルが、
「いえ、ご主人様が無事だったことですし、多くを望んでも仕方がないのですが」
「まあ、中は空っぽだったんだけどな」
「そうなんですか、まったく何も?」
「いや、そういえば一番奥の部屋には、見たことのない生物の死骸が、人形の入ってるようなガラスポッドに入って並んでたな」
「そこが大事なんじゃありませんか」
「ふむ」
「他には何か?」
「あ、そういえば、柱の管理人みたいな女の子が」
「居たんですか?」
「居たんだけど、歩いてどっか行っちまった」
「何故、身柄を確保しておかないんです!」
「だって、その後柱が崩れてだな」
「まだそれほど遠くには行っていないでしょう。急いで探しましょう!」
「それもそうだな、俺も話が聞きたいし」
何人かを引き連れてあたりを探してみたが、結局見つからなかった。
仕方がないので暇そうなクロックロンに探索を頼んで引き上げる。
途中、街の様子を見て回ったが、街は酷い有様だし、落ち込んでる人もいるにはいたが、大半は炊き出しを食いながら瓦礫を撤去したり、火に当たって歌ったりしている。
いつも思うけど、この世界の人は異様にタフだな。
あるいは地球に住む人も、そうだったんだろうか。
会社に引きこもってた期間が長くて忘れてたけど、そうだったのかもしれないなあ。
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