第251話 地下道 後編

 スィーダとともに薄暗いトンネルを進む。

 幸い、スィーダの傷は軽そうだ。

 角は折れてしまったが、そのおかげで頭部を守れたのかもしれない。


 暫く進むと剣戟の響きが大きくなってくる。

 クメトスたちはまだ激しくやりあっていた。

 俺達は、ギリギリの距離で隠れて様子をうかがう。


 敵は二体で、特に一体は体も大きく動きも素早い。

 攻撃もトリッキーで、クメトスは攻めあぐねているように見えた。

 命を大事にする路線だからか、あるいはアンブラールの件で余計に慎重になっているのか。

 それとも、あえてここで足止めする作戦なんだろうか。

 そういう戦闘の駆け引きは、俺にはさっぱりわからんからなあ。

 とにかく、足を引っ張らないように援護しよう。

 となるとやっぱり、こっそり銃撃だよな。


「よし、こっからまた撃つぞ」

「撃ツカ」

「撃ちまくるぜ。紅に話がつくか? どれを狙うのがいいか、確認してくれ」

「……シタゾ、ターゲットヲキメタ、構エロ」

「よし」


 また適当に構えると、勝手に照準が定まる。

 どうやら小さい方を狙うようだ。

 白くのっぺりした敵の体が、地下道の照明に照らし出されてぬめりと光ると、かなり気持ち悪い。


「ファイヤ」


 クロックロンの掛け声とともに、また勝手に銃が連射する。

 これ、俺が構えてる意味ないよなあ。

 などと思ってる間に、端にいた一体がバタリと倒れる。


「大当タリー」

「やったぜ」

「ア、隠レロ、ボス」


 クロックロンが言うと同時に、今倒れたはずの白い剣士風魔物がこちらに飛びかかってきた。


「ぎゃあ」


 とっさに転がって避ける俺とスィーダ。

 慌てて銃を構えて連射するが、全て叩き落とされる。


「アタリドコロガ悪イナ、効キガ遅イ」

「くそ、くそっ!」


 やけになって撃ってると、弾が切れてしまった。


「おい、弾切れだぞ」

「打テバ切レル、切レレバ充填スル」

「よし、弾をくれ」

「ココニハナイナ」

「ないのかよ! じゃあ、予備の銃は?」

「ココノ個体ニハナイナ、チョット待ッテロ、今呼ビ寄セル」

「そんな暇は、うわああっ」


 のんきに喋ってる間に魔物が切りかかってきた。

 とっさに剣で受けるが、俺でもかろうじて受けきれたのは、麻痺が効いてきてるからだろう。

 このままどうにか凌げば……、とクメトスの方を見るが、もう一体のでかい魔物が間に立ちふさがるように陣取っている。

 この状況だと、クメトスと紅は俺を助けようと焦るだろうし、結果的に足を引っ張っちまってるじゃないか。

 とにかく、相手は弱ってる、どうにか時間を稼いで……。

 と思った瞬間、激しい突きを受け損ねて、左肩にざっくりと剣が突き刺さった。


「ぐっ!」


 焼けるような感触と、背筋がしびれるような緊張感。

 痛みが襲ってくるよりも早く、スィーダが雄叫びを上げる。


「うぁあああああっ!」


 自分の身長より遥かに長いガルペイオンを手槍のように構え、持ち前の怪力で一気に敵に突き刺した。

 元々動きが鈍くなっていた所に、俺の体に剣を取られていたせいもあったのだろう。

 魔物はスィーダの小さな体から繰り出された突きをまともに喰らい、ガルペイオンに貫かれた。


「ぁああああああっ!」


 スィーダはその勢いのまま、敵を突き飛ばす。

 白い魔物は腹にガルペイオンを突き立てたまま、吹っ飛んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「よ、よくやったな、スィーダ」

「ご、ご主人様、しんじゃだめ、しんじゃだめ」

「ははは、俺はこれぐらいじゃ死なん」

「ほんとう?」

「ああ、ほんと……いてて」


 まずい、めっちゃ痛い。

 左半身がしびれて動けず、俺はその場にうずくまる。

 俺もだんだん怪我の度合いがひどくなっていく気がするな。

 良い保険があったら、紹介してもらいたいぜ。


「あ、く、くるな、くるな!」


 スィーダの声に顔を上げると、今土手っ腹を貫かれた魔物が、ゆらりと立ち上がる。

 不死身かよ!

 まずい、俺は問題外として、スィーダもすでに限界っぽい。

 なにより、敵の体にガルペイオンを取られて、スィーダも武器がない。

 クロックロンが立ち向かうが、スイスイとかわされる。

 どれだけ強いんだよ。

 アヌマールみたいなわけの分からなさはない代わりに、ひたすら物理的に強い。


「ご主人様、どうしよう、どうしよう」

「お、おまえは……にげろ」


 喋るだけでもしんどい。

 ちょっとまずいかも。

 スィーダを中に取り込んで……、そういえば俺が死んだら、内なる館はどうなるんだろうなあ。

 あ、まずい、もう敵の間合いに……。

 かろうじて動く右手で泣きじゃくるスィーダを抱きかかえる。

 そうして覚悟を決めた瞬間……、ポンっと魔物の首が飛んだ。

 ついで俺の体がふわっとひかり、痛みが和らいでいく。


「動かないでください。まったく、ほんの数日会わないだけで、どうしてそこまでボロボロになれるのでしょうか。我が主人ながら、手がかかって仕方がありませんね」


 久しぶりに聞く説教臭いセリフは、もちろんレーンのものだった。


「レーン、おまえ……どうして……」

「お姉さまの受けた啓示は正しかったようですね。早馬を飛ばしたかいがあったというもの。セスさん、剣を抜けますか?」

「やってみよう」


 そう答えたのはセスだった。


「お前も……、来てくれたのか」

「どうにも、紙一重だったようですね。少し、じっとしてください」


 そういうと、セスは肩に刺さった剣の柄を握ると、まるで豆腐から包丁を抜くかのように、するりと抜き取った。


「急所は外していますが、傷は深いようです。レーン、治療を」

「もう始めています。血が止まるまで、傷を押さえてください」


 言葉通り、俺の痛みはみるみる和らいできた。


「他の連中がまだ……」

「大丈夫、もう終わりました。みんな無事ですよ」

「そうか、よかった……」


 それで安心したのか、俺は気を失ってしまった。




 白いもやの中。

 すでに痛みはない。

 目覚ましのようなサイレンの音に、ほんの少し、意識が目覚める。

 曖昧なままの俺に囁くような声が聞こえる。


「さて、正念場じゃのう……などとエネアルなら言うところでしょうね」

「何だ、判子ちゃんじゃないか」

「じゃないかとは随分ですね、これからが本番ですよ」

「まじかよ、俺はもう満身創痍で、あとは美女にちやほや介抱されるだけじゃないのかよ」

「まったく、それでは私の苦労も知れるというもの」

「それで、何しに来たんだ?」

「べつに。ただ、そうですね、説教に来た、と言ったところでしょうか。あなたの大好きなお説教を、ね」

「そりゃあ、ぜひとも拝聴したいね」


 一瞬の間の後に、判子ちゃんはこう言った。


「あなたは正義の味方ではないのだから、皆を救おうとしなくても良いのですよ」

「うん?」

「神ならぬ身で行う正義は、常にエゴです。人は人の責任の及ぶ範囲でのみ、その義務を果たすべき。世界の理を変えるような行いは、人のあるべき姿からは程遠い」

「わざわざ、心配しに来てくれたわけだ」

「本当にあなたは、心配しがいのない子ですね。昔からずっと……」

「はは、そうだなあ……」


 どこかで、サイレンが鳴り響く。

 もう少し、判子ちゃんの声を聞いていたかったが、どうやら目覚めのときのようだ。




 まだ、サイレンが鳴っている。

 嫌な音だ。

 あの時のことを思い出す。

 俺を残して、両親が死んでしまったあの時のことを。

 それを思い出すのが嫌で、俺は無理矢理に自分を叩き起こした。


 目を覚ますと、クメトスの膝枕で眠っていたようだ。


「おはよう、クメトス。今日も美人だな」

「髪を櫛る暇もありませんが、幸い、私は怪我一つありませんでした」

「そりゃあよかった。みんなは無事か?」

「紅が腕を負傷しましたが、本人の話では、大丈夫なようです。また、フルンがかすり傷を負っていましたので、レーンの治療を受けています」

「スィーダは?」

「ここに」


 そう言ってすぐ後ろにいたスィーダを呼ぶ。


「傷は痛むか、スィーダ」

「ちょっと、角が。でも大丈夫」


 そう答えたスィーダはあまり大丈夫そうには見えない。

 やはりショックだったか。


「ご主人様、この子を従者にしてくださったのですね」


 とクメトス。


「うん、今日から弟子であり、妹分だ、今まで以上にかわいがってやれよ」

「はい。この子も、誰かを守れる存在になりました。ご主人様のおかげです」


 そう言って頷くクメトスは、満足そうだ。


「それで、セスとレーン以外にも来てるのか?」

「オルエンとレルルが二人を乗せて早馬で。どうやらアンがお告げを聞いて、四人を先行させたそうです」

「おかげで、命拾いしたな」

「私も助かりました。今度の敵は、かなり手強いものでした」

「だよなあ」


 俺達は今、当初の予定地である街外れの駐屯地にいた。

 周りには避難民や怪我をした兵士で溢れているが、全体的には魔物を圧倒しているらしい。

 武勇を競う冒険者連中も、派手に活躍しているそうで、中でもラケーラが群を抜いて魔物を狩りまくっているとか。


「気がついたか」


 そこにカリスミュウルがやってきた。


「貴様にしては、よくやり遂げたものだ。負傷者はいるものの、これだけの人数が欠けること無くここまでこれたのだ」

「半分はお前のおかげだよ」

「では、そういうことにしておこう。すでに事態は収束に向かっている。あの耳障りな音が気になるが、すでに夜も開けた。あとは時間の問題だろう」

「音か」


 あたりには警報音のようなサイレンが鳴り響いている。

 発生源は女神の柱だ。


「あの音……どっかで聞いたような」

「うん?」

「なんだったっけなあ、こう、音が響いて羊が……あっ!」


 思い出した。


「柱だ、柱が崩れるぞ!」

「本当か?」

「いや、たぶん」

「たぶんとは何だ」

「そういう夢をだな」

「ゆめ?」

「俺の夢は当たるんだよ、たまに、というか、都合の悪そうな夢は」

「柱が崩れてどうなる」

「わからん。ただ、あとにはポッカリと穴が空いて青空が」

「……天井に空いた穴を、この柱と同様に女神の柱と呼ぶのは、かつてそこに柱がそびえていたからではないか、という説もある。であるならば、そこにあった柱が消滅したこともあったのだろう。それが今、目の前で起きようとしているというのか」

「そうかもしれん。とにかく、あのサイズの柱が消えて、上の土砂が崩れてきたら大ピンチだぞ」

「しかし皆、満身創痍だ。魔物の大半は退治したとはいえ、おいそれとは避難させることもできぬ」

「それもそうか、参ったな」

「柱の崩壊を防ぐ手立てはないのか?」

「そりゃあ、柱に行ってみないとわからんな」

「ふむ、では潜るしかあるまい」


 そう言って顎をしゃくるカリスミュウルは、貫禄がある。

 やっぱり、生まれついての王族ってやつなのかなあ。


「しかし、あとどれ位保つかわからんぞ。俺はともかく、お前は次期国王候補のお姫様なんだろう、逃げたほうがいいぞ」

「ばかめ、欲に目がくらんで危険を冒すのは無謀だが、人々の安寧のために危険を冒すのは勇気と呼ぶのだ。王の資質とは勇を持って和をなすことと知れ」

「王の資質なんて俺には縁のない話だが、街には従者の両親が眠っている。危険を犯す価値はあると思うね」

「慎ましいことだ。まあよい、私は行く。座して待つのは性に合わん」

「じゃあ、俺も行くか」

「その傷では無理だろう」

「俺はこう見えても、遺跡にはちょっと詳しいんだよ」

「では、支度を整えよ。十五分後に出発する」

「ちょっと男前に仕上げてくるから、待ってろよ」

「ふん」


 カリスミュウルはニヒルな笑いを浮かべると、仲間の所に戻っていった。

 俺は手近な仲間を集めて、作戦を立てる。


「その体では無理、と言いたいところですが、どうやら事態は一刻を争うようですね」


 とレーン。


「うん、行ってどうなるかわからんが、崩壊を止められるとしたら、中にはいってみるしかないだろう」

「クロックロンさんに運んでもらいながら私が術をかけつつ行くとしましょう」

「頼むよ」

「では編成を考えましょう。クメトスさんは連戦の疲れが出ているようですので、待機してください」

「うむ」


 と頷くクメトス。

 こう言う自己分析のできるところは、ベテラン軍人って感じだよな。


「私とセスさんが前衛に、ご主人様の護衛にオルエンさんでいきましょうか」


 レーンの言葉に、皆が頷く。


「エレンさんはまだ戻りませんか?」


 と紅に訪ねると、


「あと五分で合流できます」


 と答える。

 その紅は、切れた腕をつなぎ直して、布で固定していた。


「どうだ、紅。腕の具合は」

「ひとまず仮止めしています。神経回路の再接続に二十四時間かかりますので、それまでは左手は使えません」

「ふむ、しかしお前がいないとどうにもならんかも知れん。いけるか?」

「内部施設の調査のみであれば、大丈夫です」

「だったら、頼む。お前のサポートはコルスに頼むか」


 と言うとコルスはうなずき、レーンも了承した。


「残りの皆さんは、ここで待機してもらいましょう。戻る場所を敵に荒らされては困りますからね。では、エレンさんが戻り次第、彼女を加えて、出発しましょう」


 とのレーンの言葉で会議は終了だ。

 出発までの僅かな間に、まだやることがある。

 レーンがクメトスを外したのは、疲労もあるがスィーダの面倒を見させるためだろう。

 傷は浅いが、大事にしていた角が片方、欠けてしまったことが、ショックのようだ。

 俺はスィーダとクメトスを伴い、内なる館に入った。

 しばらくはここで落ち着かせよう。


 中に入ると、心配そうな顔でパロンが飛んでくる。


「おう、どうなんじゃ、ってわりゃあ怪我しとるやんけ」

「うん、俺の方は大丈夫だ。もう傷は塞がってるよ」


 実際、ゆっくり動けば痛みもない。

 レーンの治療スキルも、かなり向上してるっぽいなあ。


「無茶しおって、なんじゃい、スィーダも、ああ、角がそないになって……ってわれも従者になったんかい」


 というと、スィーダははにかみながら、こう答える。


「うん、なった。ちゃんとご主人様守れたから、だから大丈夫」

「そうかそうか、ようやったのう」


 泣き笑いするような顔で頷くスィーダ。

 それを見ていたパン屋のエメオが、スィーダの手を取ってこう言う。


「痛かったでしょう、ガモスの角は誇りだもの」

「うん……」

「欠けた角だと、みっともないと思う?」

「……ちょっと。ご主人様、偉大な紳士様らしいから、こんな角じゃ、恥をかかせるかもって」


 そんなことを気にしていたのか。

 だけど、人間誰しも自分だけの大切のものってのがある。

 それに興味がないからといって、軽んじていいものではない。


「そうだね、やっぱり角がないのは恥ずかしいよね。私もね、角、ないんだ」


 そう言って、エメオは一度も脱いだことのない帽子を脱ぎとった。

 彼女のかわいい額の両端には、丸い台座のような跡がある。

 スィーダよりも一回り大きな、それは角を切り落とした跡だった。


「おまえ、それ、なんで……」

「あのね、角があると帽子がかぶれないからパン屋じゃ雇えないって言われて、切っちゃったの」

「自分で、切ったのか? それ、そんな立派な角」

「うん、角よりね、パン屋のほうが大事だと思って」

「痛かったろ、そんなの……」


 そう行ってスィーダはエメオの角に触れる。

 綺麗に切り落とされた断面は、金色の膜ができて、ピカピカと光っていた。


「結局ね、そこでは雇ってもらえなかったけど、それでも角も無くなったら、なんだかいろんなことが吹っ切れて、アルサに出てこれたの。そこでパン屋にもなれたし、サワクロさんにも、スィーダにも会えたし、だから私はこれでよかったの」

「ほんとに?」

「うん。角より大事なものが手に入ったから」

「うん、そうだ、エメオは立派、角より大事なもの持ってる!」

「そうかな。でも、やっぱり人に見られるのは、ちょっと恥ずかしいな」

「それでか? それで従者にしてもらわなかったのか? エメオ、ご主人様のこと好きなのに、なんでしてもらわないのか不思議だって、フルンたちとよく話してた」

「うん、やっぱり、紳士様には釣り合わないかなー、とおもって」

「でも大丈夫、ご主人様、そういうの気にしない人だった。私も折れた角とか気にしない! だからエメオもなるといい、なったほうがいい」

「そうだね、じゃあ、お願いしてみようか」


 と行って、エメオは俺の方を向き、こう言った。


「私も、従者にしてください」

「うん、いいよ」

「ふふ、そんなにあっけなくOKされちゃうんですね」

「まあね、重々しいのは、俺には似合わない」


 そう言って、彼女にも血を与えて、契約する。


「ありがとう、ございます。親方に雇ってもらったときもそうだったけど、世の中って、悩んでる時のほうがうまく行かなかったり、うまくいってる時ほど、なんでもいいように動いていくんですね」

「そういうものさ。大事なのはチャンスにチャンスと気がつくことってね。さて、せっかく従者になってくれたんだから、たっぷり従者らしいことをしてもらいたいところだが、まだ取り込み中でね。そこでおとなしく待っててくれよ」

「はい、ご主人様」


 そう言ってにっこり笑うエメオ。

 ちょっと離れたところで様子を見ていたメーナにも手を振り、出ようとすると、妖精のパロンが俺の腕をつかむ。


「またんかい、わしも連れてけ、われはちっとも目が離せん」

「いいけど、足引っ張るなよ」

「そりゃこっちの台詞じゃい」


 そう言ってついてくるパロンに、エメオがこういった。


「パロン、ご主人様をお願いね」

「おう、まかしとかんかい、わしらの主人じゃからのう」

「うん、いってらっしゃい」


 そうして俺はスィーダやエメオを残して、内なる館をあとにした。

 しかしエメオは思ったより、重い子だったなあ。

 焼き餅もコンプレックスの裏返しだったんだろうか。

 まあ、俺の能天気さと中和されて、ちょうどいいかも知れん。


 外に出ると、エレンが戻っていた。


「やあ旦那、僕のいない間に、また怪我してたって?」

「美人に引っかかれてね」

「モテる主人を持つと、つらいねえ。それよりも、アウリアーノ姫が来てるよ」


 と後ろにいた姫を指し示す。


「紳士様、お怪我の具合は?」

「おかげさまで、どうにか」

「あまり無理をなさらずに。それよりも、柱が崩れるとは、まことですか?」

「たぶんね」

「それで、柱に潜られるとか」

「うん、確かめてみないと」

「あそこの中は、何やら異形の魔物の死骸が詰まった巨大な瓶と、壁から析出した精霊石がありました。精霊石の方は、瞬く間に持ち去られてしまいましたが、あとには大したものは……」

「まあ、金目のものはいいのさ。問題は、柱が消えれば天井が落ちてくるかも知れん。そうしたらここにいる連中は揃ってお陀仏だぞ」

「たしかに……、では私は安全を確保しつつ。住民を少しでもここから後退させましょう」

「よろしく頼む。何かいいものを見つけたら、君にプレゼントするよ」

「楽しみにしておきます。どうぞご無事で」


 そう言ってアウリアーノは出ていった。

 入れ違いに、カリスミュウルがやってくる。

 アンブラール姐さんはいないが、今一人の人形はいる。


「よう、待たせたな。ぼちぼち、行くとするか」

「うむ、そうするとしよう」


 頷くカリスミュウルとともに、俺達は柱に向かった。

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