第242話 妖精の里
「なんじゃこりゃあっ!」
内なる館に飛び込んだ俺は、目の前に広がる摩訶不思議な光景に思わず叫ぶ。
俺の声に反応したパロンが、一目散に飛んできた。
「おお、わりゃ、やっときたんかい。外は片付いたんか?」
「お、おう、あっちはな。つかこりゃ何事だ?」
「それが、みんながここを気に入ってもうて、勝手に里にし始めたんじゃ」
「里って」
みると、妖精たちがピュンピュン飛び交いながら、光を吐き出して、きのこっぽい何かをにょきにょきと生やしている。
すでに見える範囲はほとんどが、妖精の里のような不思議空間になっていた。
「あー、ボスきたー。ねえ、あれがボスでしょ?」
「ソウダ、ボスダ」
「ボスー、里できたよー」
「デキタゾ」
妖精と一緒に寄ってきたのは、さっき一緒にしまいこんだらしい、クロックロンだ。
「お前ら、なにやってんだ?」
「ここねー、精霊さんがいっぱいだからー、ここがいいー」
「ここを里にするのー」
「クロックロンも一緒に遊ぶってー」
「遊ブゾ」
「あそぼー」
それだけ言うと、妖精とクロックロンは飛んでいってしまった。
「内なる館というのが、このようなところだとは」
と驚くカーネ。
「いや、さっきまではただの草原だったんですけど」
「これはすごいものですね、精霊の力にあふれています。紳士が女神の盟友と呼ばれるのもうなずけます。確かにこれほど妖精の住むにふさわしい場所はないでしょう」
「そうなんですか?」
「あなたさえ良ければ、このまま妖精を引き取っていただけると、私も安心できるのですが」
「どこかいい場所があったのでは?」
「条件を満たす場所があると言うだけで、そこでなければだめというわけではないのです。むしろここなら妖精を攫うような外敵の心配も不要でしょう」
「そこまで言うなら、別に俺は構いませんが、ここって外とつながってないから、不便ですよ?」
「むしろそのほうが妖精には良いのです」
「そういうことなら、別にいいかなあ。なあパロン、どう思う?」
パロンに話を振ると、
「わしに言われてもわかるかいな、そりゃ確かに、ここならわしらが住むにはぴったりじゃが」
「それなら別にいいだろう、あとは任せたぞ」
「あん? なんでわしが」
「だって俺、妖精のことはよくわからんし。勝手に使ってくれていいから、よきにはからってくれ」
「わしかて、そげなもんわからんわい、妖精は自由なんじゃ。そげなこと、女王でもないとできるかい!」
そこでカーネが、こう言った。
「では、あなたが女王となるのです。妖精たちの中でもっとも知恵に長け、情愛の道を知るあなたが」
「な、なんでわしが」
「わーい、パロンが女王さまだー」
どこからともなく妖精たちが寄ってきて、パロンを持ち上げる。
「女王さまばんざーい」
「ばんざーい、ばんざーい、新しい里と女王だー」
所構わずくるくると飛び回る妖精たちが、女王万歳と合唱する。
俺もつられて、
「女王ばんざーい」
と叫ぶと、
「どあほう、なんでわれまで、ああ、やめんかわりゃあ、ぬぉお」
と逃げ惑うパロン。
「あれ、大丈夫ですかね?」
カーネに尋ねると、
「ええ、大丈夫ですよ」
とにっこり微笑む。
「さて、思ったより早く力も回復しました。まだ用事があるので、出していただけるでしょうか」
「わかりました、ちょっと待って下さい、他の連中も出してやらないと」
先に取り込んでいたエメオやフルンに声をかけると、エメオは腰が抜けたのでもうしばらくここがいいと言うし、フルンは妖精たちと遊ぶから、出発する時に出して、とのことだったので、結局、カーネと二人で外に出る。
外は外で、クロックロンたちがワイワイと遊んでいた。
「ラケーラ、事情がかわりました、妖精たちは紳士様に引き取っていただくことになりました」
とカーネが言うと、ラケーラは驚くが、説明を聞いて納得する。
「導師殿が良いというのであれば、それが一番良いのであろう。では、旅の予定も変更、というわけか」
「そのことですが、私は一旦、この聖剣を届けに行かねばなりません」
「ふむ、迎えが来ておるしな」
そう言ってラケーラは空で待機する人型ガーディアンを睨みつける。
「そこであなたには、紳士様の護衛をお願いしたいのです」
「しかし、それでは導師が」
「あれも取って食ったりはしないでしょう」
「ふむ、では承った」
「用事が済み次第、私も取って返しますが」
「案ずることはない、引き受けた以上は、必ず完遂する。なにより、紳士殿の従者は、今も見たとおり歴戦の勇士揃い。心配めさるな」
「ではそのように」
「うむ、導師の目的が果たされることを、祈っておる」
「ありがとう、ラケーラ」
会話を終えたカーネは、改めて俺のところに来る。
「心苦しいのですが、私はここで別れなければなりません。妖精の件が片付いたので、この聖剣をしかるべきところに収めねばならないのです」
「事情はわかりませんが、大丈夫。まさか先程のような強敵が、立て続けに現れることもないでしょう」
「そうともいいかねるのですが、紳士様の従者たちをみれば、問題ないでしょう」
そう言って、カーネは大きなショルダーバッグから、書類をとりだす。
「ペンドルヒンの国章入りの手形です。この先の道中は、魔物と魔族の住む領域がまだらに点在しているのですが、魔族の領地をスムースに抜けるには、これがあったほうが良いでしょう。ラケーラにはまだ仕事を教え始めたばかりなので、心もとないですが、私の使いとして、商品を仕入れに地上に戻るとでも言えばよいかと」
その他にも色々と道中のアドバイスを貰う。
それが終わると、カーネは杖を手に取り、別れを告げた。
「デュースによろしくお伝えください。人の従者となったからには、遠からず会えるでしょう。それでは皆さん、いずれまた、お会いしましょう」
気がつけばいつの間にか、俺達の背後に巨大な人型ガーディアンが立っていた。
物音ひとつ立てずに、ここまで降りてきてたのか。
ガーディアンが下ろした手に乗ると、カーネはこちらに手を振る。
そうしてガーディアンとカーネは、東の空に飛び去っていった。
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