第199話 商店街拡張計画

 コーヒーから立ち上る湯気を鼻から吸い込みながら、俺は早朝の表通りを見下ろしている。

 我が家の半分は屋根まで吹き抜けだが、お店のある一角は二階が倉庫になっている。

 そこには小売り分のチェスなどがうず高く積まれているのだが、表を見下ろせる窓もついていて、俺は今、そこから雪と泥が入り混じった商店街を眺めていた。

 冬の太陽は、まだ地面を照らすほどには登っておらず、まばらに行き交う人々も襟を立てて足早に過ぎ去っていく。

 先月までなら寮から通学する学生たちの姿も見られる時間帯なのだが、今は冬休みだ。

 向かいのメイドであるエヌが店を開け、商品のワゴンを引っ張りだしている。

 そこに開店を待っていた冒険者が一組、店内に入っていった。

 エブンツの果物屋は、まだ開いていないようだ。

 その隣のパン屋はすでに開いている。

 エメオちゃんの姿は見えないが、あそこは夜明け前からパンを焼いているからな。

 隣の喫茶店も今丁度戸板が開いたようだ。

 店主のルチアが出てきて、表にテーブルを並べ始めた。


 そうこうするうちに、アンが出てきて、水たまりに砂をまいている。

 道の真中は石畳なのだが、全てではない。

 土のところはぬかるんでしまうと、徐々にくぼんでくる。

 そこで、ああして砂を足すのが大事らしい。

 そういえば、子供の頃に住んでた田舎では、あぜ道を時々近所の爺さんが直したりしてたな。

 町中に住んでると、自分で道路を直すという発想が出てこないものだが。


 アルサの街の中央に続く通りの東側は、少し行ったところで丁字路になり、その先は住宅街が続いている。

 反対の西側はしばらく空き家と空き倉庫が続くだけで、その先は街の外へと通じている。

 要はここが街の北西の端っこなんだよな。

 同じ端っこでも北東の方は湖の東港があり、手前には高級住宅街などもあり賑わっているのだが、こちら側は森と僅かな畑、あとは王立学院の寮があるぐらいだ。

 この西側の空き家を上手く使って商店街を拡張し、学生客や地元民を上手く取り込めればいいんだけど、うちで全部商売するわけにもいかんしなあ。

 学生以外にも、例えば俺達が発見した森のダンジョンは魔界に通じているということもあって、冒険者が定着したそうだ。

 ただ、入り口が森の中で、うちからでも急いで三十分、通常は一時間はかかる距離というのがネックになっている。

 冒険者向けの商人なども、大掃除の終わった地下神殿からそちらに鞍替えした連中もいるそうだが、宿の数さえ足りないと聞く。

 そういうのも上手く誘致できれば、商店街が大きくなると思うんだけどな。

 そんなことを考えながら表を眺めていると、うちの前に荷馬車が止まった。

 すぐにメイフルが出てきて、ミラー達を使って荷を下ろす。

 どうやらうちの商品らしい。

 しばらくすると、今運んできた荷物を持って、俺のいる倉庫に上がってきた。


「なんや大将、朝からそないなところで黄昏れてましたんかいな」


 とメイフル。


「たまには一人の時間が欲しくなるんだよ」

「マリッジブルーっちゅうやつですかな」

「違うんじゃないか?」

「まあ、よろしゅうおま。ちょいと場所開けてもらいまっせ」

「それはなんだ? また随分あるな」

「東通りのとある高級ホテルから、客室用にチェスを一揃えご注文いただきましてな。納品は年明けなもんで、しばらく置いときますねん」

「そういうのもあるのか」

「むしろ、そういうお客のほうが多おますで」


 まあ、たまに来る客にゲームのボードをチマチマ売るだけじゃ、この大所帯は賄えないよな。

 新たに積み上がった商品に押し出されて、俺はその場をあとにした。




 午後。

 果物屋のエブンツが何やら相談があるというので隣のルチアの店に行く。

 六つに増えたテーブルの半分は埋まっていて、俺達は一番奥に腰を下ろす。


「真っ昼間から男二人でそんな隅っこに座って、辛気臭いわね」


 ルチアの容赦無いツッコミはスルーしてお茶を頼む。


「で、相談ってなんだ?」


 俺が切りだすと、エブンツがめんどくさそうな顔でこう言った。


「実はよう、うちの義弟のハッブが仕事を辞めるらしくて」


 ハッブはエブンツの妹エイーラの亭主で、腕のたつ料理人だ。


「ハッブが? どうしたんだ、職場のストレスか?」

「そういうのじゃなくて、そろそろ独立したいって」

「ははあ、まあ料理人としても腕は良いし、妹さんと二人で、こじんまりとした料理屋でもはじめようって寸法か」

「よくわかるな」

「よくある話だろう」


 よくあるとはいえ、つい先日、独立を焦ったハブオブが大変なことになったばかりだが。


「一応、金もためてたそうで、空き家を買って年明けには始めたいって言ってるんだけどよ」

「そりゃまた急だな」

「そうなんだけど、俺が聞いたのがつい最近ってだけで、前から準備はしてたそうなんだよ」

「そりゃそうか。で、どこに出すんだ?」

「それを相談に来たんだが、目抜き通りや東通りみたいな大通りは当然無理として、あまり辺鄙なところでも困るだろ。あと妹が言うには、店を出すならそっちにつきっきりになるが、俺一人じゃ果物屋が不安だから近くがいいとかなんとか」

「兄思いの良い妹だな」

「でよう、ほら、ここの西っかわに何軒か空いてるだろ、そのへんはどうかって言うんだけど」

「ふむ」

「だけど、ここで飯屋を出して、果たして客が来るのかってのがなあ」

「そうだなあ、ここって学生と、湖を西回りで来る連中ぐらいしか通らないもんな。せめて東の住宅街から引っ張ってこれないと辛いよな」

「だろ、俺はそういう商売の事がわかんねえからよ、お前に相談してこいって妹が言うもんだからよ」

「妹の頼みか」

「俺だって困ってるんだよ、やっと商売が軌道に乗ってきたのに、妹が出て行っちまうとどうなることやら」

「そりゃあ、不安だわな」


 商店街を発展させたいとは個人的にも思ってるけど、難しいよな。

 腕を組んで熟考していると、ルチアがお茶を持ってきた。


「ハッブさん、店出すんだ」

「らしいな。そういや、ルチアもあの店で働いてたんだっけ」


 あの店とは行きつけの大食堂、双子の満月亭のことだ。

 彼女もそこで修行した後に、独立したという。


「私はホールから初めて、厨房に入ったんだけど、その頃にはすでにハッブさんってメインを任されるほどだったから、腕は確かなのよね」

「そうなのか」

「彼が店を出しても、うちとはかぶらないだろうし、私としては大歓迎だけど」


 ルチアが言うと、エブンツが尋ねる。


「けど、やっぱり売り上げ落ちるんじゃないのか? それも気になってんだけど」

「逆よ逆、食べる店は固まってるほうが人が来やすいんだから」

「そんなもんなのか」

「そうよ、でも、今のままの客層じゃ、たしかにちょっと不安よね。うちは学生と近所の主婦連中とか、隠居したご老人だけでも十分だけど、彼がやるんなら、きっとそれなりにちゃんとした料理を出すんでしょう」

「さあ、そこはよくわからんのだけど、どうなんだろ」


 お茶を飲みながらしばらく話していたが、埒が明かないのでエブンツと二人で空き家を見に行くことにした。

 パン屋の隣には細い路地があり、それを挟んでうちと同じぐらい大きな倉庫がある。

 更にかつて事務所だったと思しき小さめの空き家が数軒。

 ついで、荷運び人足が寝泊まりしていたという安宿の跡がある。

 その先も空き家や更地がまばらに続き、真っ直ぐ行くと森に抜け、南に折れると西大通りから海沿いの街道に出る。

 建物は管理されているようで、どれもまだしっかりしているが、このまま借り手がつかず放っておくと、遠からず廃墟になるかもなあ。

 住宅でも店でもなんでもいいから、入ってもらいたいところだ。

 反対側の湖側は、かつてパンテーが住んでいた家より西側には平屋の倉庫がずらりと並ぶが、こちらはすでに朽ちかけている。

 いっそ更地にしたほうが湖が開けて見えていいかもしれないな。


「で、どこを買うって?」

「たしかそこの小さいやつだ。元は事務所だけど空き家になる前は改造してバーにしてたんだと。手前にカウンターと奥に炊事場があってほぼ居抜きで店にできるんじゃないかって話だったな」

「へえ、そりゃいいな」


 などと言いながら、窓から中を覗いてみる。

 暗くてよくわからないが、二人で切り盛りするなら調度良いサイズにも見えるな。


「もし、サワクロ様では?」


 突然声をかけられて振り返ると、スーツの美人が立っていた。

 えーとビール腹みたいな名前の……そうそう、ビールボールだ、銀行マンのねーちゃんだったな。

 うちも取引していて面識がある。


「こんにちは、ご無沙汰しておりますわ」

「こりゃどうも。こんなところで何を?」

「フフ、それはこちらがお聞きしたいところですね。サワクロ様は事務所をお探しで?」

「俺じゃないんだが、ちょっと料理屋に向いた空き家をね」

「それでしたら、東通りに一軒、掘り出し物がございますけど」

「あそこじゃ相当高いんだろう」

「それはまあ、一等地ですから」

「もう少し庶民的な場所をね」

「そうですわねえ、お値段だけでしたら、この並びは相当お安いのですけど、料理屋としては……」


 と首を傾げるビールボール。


「アルサの商工会でも、この辺りは再開発の計画から外れていて、地主の方から相談を受けていたんです。サワクロ様がこの一帯を手掛けるのでしたら、当行としましても、融資のご相談に乗りますわ」

「ありがたい話だが、今考えてるのは、腕の良い料理人が独立する小さな店が一軒だけなんだよな」

「そうでしたか。ここですと客層が学生ぐらいしか見込めないのでは?」

「そうなんだよ。せめて最近増えてる森のダンジョン目当ての冒険者が来てくれればなあ」

「でしたら、あそこの宿を、冒険者向けに空けるというのはどうでしょう」


 並びの元宿屋を指差す。


「うちは、宿までやるほど手が空いてないなあ」


 人手はいっぱいあるんだけどな。


「オーナーということで経営だけなさればよいのですわ。もちろんご融資の方も私どもで」


 このねーちゃんはとにかく融資したがるな。

 バブルの頃の銀行屋はこんな風だったと、社長に聞いた覚えがある。


「オーナーはともかく、宿はいいかもな、考えとくよ」

「是非ともご用命は私ビールボールに、お連れ様もお見知り置きを」


 バンカーのビールボール嬢は頭を下げて去っていった。


「おい、サワクロ、今の美人誰だよ」


 俺の後ろで隠れていたエブンツが尋ねる。


「銀行屋だよ、うちの商売で取引があるんだ」

「銀行なんて俺達にゃ金なんて貸してくれなかったぞ。今の店を出すときにも、親戚中を駆けずり回ってどうにか工面したのに」

「うちはほら、メイフルが大店のバンドンで修行してたからコネが色いろあるんだよ」

「いいよなあ、コネ」

「世の中コネだよな」


 などとごまかしておいたが、そもそもうちは資本金がたっぷりあるので、その時点で庶民じゃないのだ。

 それ以外に紳士というチートじみた肩書もあるし、最近は貴族の奥さんもできたしな。

 フューエルの実家や親戚筋はそれなりの地主なので、むしろ金や土地を貸す方だと言える。

 あんまり自覚はないんだけど。

 エブンツと別れて家に戻ると、ちょうどメイフルが昼休み中だったので相談してみる。


「うーん、そのままじゃ難しいでんな」

「難しいか」

「ここは新興商店街とはいえ、すでに店が並んでましたからな。そこの路地から先は完全に空き家でっしゃろ。なかなか人がとおりまへんねん」

「そりゃそうだよな」

「せやから、やるんなら、あと三軒ぐらい一気にオープンさせて、ここシルクロード商店街とひとつながりにしてまわなあきまへんな」

「そんな都合よく誘致できるか?」

「そうでんなあ。一応、誘致に関しては色々考えてましてん」

「ほほう」

「もう少し煮詰まってから話そ、おもてましてんけどな……」


 メイフルが言うにはこうだ。

 馴染みのガラス工房であるシロハマ工房が、自分たちの商品を売る小さな店、いわばショールームのようなものを作りたいが、ノウハウがないのでどうしたものかと相談を受けていたそうだ。

 また、以前漁船を燃やした漁師のホム夫婦が、船を買って漁を再開するめどが立たないので、いっそ街で魚屋をやりたいと言っているらしい。

 土木ギルドと組んでクロックロンたちに荷運びをさせるための窓口となる事務所を作る計画もあるという。


「あと、一、二軒まとまったところでまとめて考えようと思っとったんですけどな。そういうことならさっさと建物だけでも押さえといたほうがよろしゅうおますわな」

「そんな簡単に行くのか?」

「一応、あのへんの地主に話は通してありますねん。女将のご生母はんのご実家であるコーデル家はこの街でも結構な地主ですからな。そちらを通して押さえとけば、うちで直接買うより角が立ちまへんやろ」

「いろいろ考えるんだな。そういえば、ビールボールのねーちゃんも、地主から相談を受けてるとか言ってたな」

「ほんまでっか、あの御仁も結構やり手ですからな。ほな、急いだほうが良さそうですな。あんまあれこれ手を出されると面倒ですしな」

「ふむ、とにかくまかせるよ」

「そうと決まれば善は急げや、ちょいと女将と相談してきますわ」


 バタバタと地下に降りていった。

 フューエルは今、地下でウクレの修行中らしい。

 そっちは任せておけばいいだろう。

 俺はのんびり酒でも、と思ったら、部屋の隅で待機していたミラーが数人、動き出した。

 そのうちの一人が俺のところにやってくる。


「オーナー、冒険者ギルドに出向している78号から連絡がありました。人手がたりずに限界なので、追加の人員を要請しています」

「限界って大丈夫なのか?」

「ひとまず、80号と81号を向かわせますが、よろしいでしょうか」

「それは構わんが、人を増やすだけで大丈夫か、あそこはちゃんと機能してないんじゃないのか?」

「そう思われます。現在、他のパートも二人増えたのですが、何よりあの事務所は手狭で、人員を増やしてもお役に立てるかどうかは保証できかねます」

「ふむ、事務所か……」


 冒険者ギルドの事務所……いいな。

 そんなものがあれば、さぞ冒険者が集まってくるに違いあるまい。

 そもそも、あそこはコアを換金するだけの小さな窓口に過ぎなかったんだよな。

 今やってる冒険倶楽部のような大掛かりな仕組みを回すには事務所が小さすぎるわけだ。

 例えばさっき見た大きな倉庫、ああいうところにデーンと構えて、初心者講習なんかもその中でできれば申し分ないんじゃなかろうか。

 よし、早速メイフルと相談だ。

 とその前に、


「ミラー、とりあえず何人か向かわせてくれ。俺もあとから様子を見に行く」

「かしこまりました、オーナー」


 ミラーに指示を出して地下に降りると、ちょうどメイフルとフューエルが上がってくるところだった。


「あなた、調度よいところに。いま相談しようと」


 とフューエル。


「俺もだよ」


 と今思いついたばかりのアイデアを話す。

 話を聞いていたメイフルはポンと手を打って、


「それですわ、それ! あのでかい倉庫は商売やるには広すぎる、思てましてん。それにあの並びに古い木賃宿の跡があったんですけど、あれをどうにか使われへんか悩んでましてん。ギルドが来れば冒険者もようけ来ますし、その側の宿は一等地でっせ。綺麗に改装して宿にしまひょ」

「うちで宿をやるのか?」

「ホテル業は大変でっからな、どっかからスカウトしてきますわ。そういうのはどうとでもなりますねん」

「なるのか」

「ほな、今からギルド行きまひょか。大将も支度しなはれ」

「俺も行くのか、まあそのつもりだったけど」

「あの課長はん、大将に偉い恩義感じてますからな、大将がやれ言う張ったら即やりますで」

「そういうのもいかがなものかと思うが」

「細かいことはよろしゅおます、さあ行きまっせ」


 何でも即決してしまうスピード感は悪く無い。

 日本に居た頃は、あんな小さな会社でもなかなか物事が決まらなかったからなあ。


 メイフルに引っ張られてギルドまで出向く。

 目抜き通りから少し外れた場所にある冒険者ギルドの事務所は、この糞寒い中でも外まであふれるほど人が集まっていた。

 ひでえ有様だな。

 人混みを避けて裏口に回ると、ちょうど赤竜騎士団第八小隊の騎士にして、どこにでも現れると俺の中で評判のモアーナがいた。


「あら、サワクロさん。ギルドにご用事で?」

「君こそどうしたんだ?」

「今日は憎まれ役で」

「と言うと?」

「表はご覧になられたでしょう。連日この有様で、近所から苦情が出ておりまして、それをここの課長さんに伝えたところなんですよ」

「そりゃあ、ご苦労なこった。それに関してはいい話ができるといいんだがな」

「今、お聞きしてもよろしいことなんです?」

「いや、また今度にしとこう。そういえば、レルルを誘う件はどうなってる?」

「ええ、彼女もしぶしぶ了承してくれたようで。来週辺りに都合をつけようかと」

「そりゃ良かった。ぜひ楽しんでくれ」

「ありがとうございます。それでは……」


 モアーナと入れ違いに中に入ると、てんやわんやしていた。

 ひでえな。

 どうにか課長のサリューロを捕まえる。

 目の下にくまを作ってヘロヘロの彼女に優しく話を持ちかけると、サリューロは泣きながら俺の手をとって頭を下げた。


「ううぅ、ありがどうございますありがどうございまず、紳士ざまだけでずわだしのみかたは、いつもいつもほんとうに、上に掛けあっても何もしてくれないし、騎士団はいいようにごぎ使って来るだけだじ、ご近所に騒音をどうにかしろと言われてもどうにもならないし、人は足りないし場所もないし、さがじにいぐ余裕もないしでもうわだじは、わだじわぁああ」

「ほらほら、涙と鼻水を拭いて、じゃあ、移転の方は俺の方で進めておくから、君は上に話を通しとくんだよ。詳しいことは後で人をよこすから」

「おねがいしまふ、おねがいしまふ」


 これ以上刺激すると興奮でぶっ倒れそうなので、後のことをミラーやその他のスタッフに任せて、俺はギルドを後にした。


「大将にかかると、ちょろいもんですなあ」

「人聞きの悪い事を。しかし、もうちょっとサポートしてやらんとなあ。どうも気の毒で」


 たぶん、会社員時代の自分を思い出すんだろうな。

 あそこまでひどくはなかったと思うが。


「事務所が越してくれば、なんぼでもサポートできますがな」

「だといいけどな」

「次は宿ですな、このまま行きまひょ。ちょいとアテがありますねん」


 というメイフルに連れられて海沿いの通りに出る。

 この辺りにバンドンの商館があり、メイフルはそこに入っていったが、あいにくと目当ての相手は居なかったようだ。


「しょうがおまへんな、ま、こっちはおいおいすすめまひょ。今日のところはひきあげまひょか」


 最後がちょっと頼りなかったが、それでも商店街の拡張計画は動き出したようだ。

 メイフルの話では、年内に契約を済ませて、年明けの早いうちに建物に手を入れ、二月か三月には店が開くようにしたいとのことだ。

 かなりの突貫作業になるだろうなあ。


「幸い、建物の方はまだしっかりしてますんでな。あの倉庫なんかもここを買うときに悩んだんですけど、店を出すのにこっちが都合よかったんと、湖に面してるんが気にいりましてな」


 とメイフルは言う。

 実際、うちはこっちでよかったと思う。

 最初はオープンすぎて大変だったけど。

 それはそれとして、ここまで決まってしまうと、後は俺が手を出す余地が無いんだよな。

 メイフルに任せて、のんびり待つとしよう。

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