第184話 実践訓練 後編

 テナ達のパーティと別れ、スィーダのための手頃な魔物を探し始める。


「心の準備は良いですか?」


 とクメトスがスィーダに尋ねると、


「だ、大丈夫、いける! いや、いけます!」


 どもりがちに答えて剣を構える。

 あまり大丈夫じゃなさそうだな。

 緊張気味なスィーダが構えたのは刃渡り四十センチ程度の短い剣だ。

 例の大剣はしばらくお預け、ということには納得したスィーダだったが、流石にこのナイフの親戚みたいな剣には不満があったようだ。


「それで良いのです。剣は戦場に応じて替えるもの、万能の武器などありません。我ら騎士は平原では馬にまたがり巨大な盾とランスを構えますが、屋内では棍棒や小さなナイフ一本で戦うこともあります。その小剣であれば、敵に致命傷を与えるのに十分な威力があります。あなたの力なら、肉を裂き骨を断つこともできるでしょう。まずはそれを使いこなせるようになりなさい」


 クメトスは剣を手渡しながらそういった。

 それを聞いて、スィーダも覚悟を決めたらしい。

 クメトスのスパルタ教育で、ひとまず構えは及第点になったスィーダだが、落ち着きは足りない。

 まだ敵も出ていないダンジョンで、剣を構えてキョロキョロしている。


「大丈夫、後ろは私がいるから任せて!」


 励ますフルンの声も耳に届いていないようだ。

 スィーダのことについて、俺の剣の師でもあるセスに以前聞いてみたが、彼女が言うには、


「完全に初心者のようですし、現時点では特に何も言うことはないでしょう」

「そう言わずに、なにかアドバイスとか」

「そうですね。気陰流に入門したのであればともかく、あの娘はクメトスに弟子入りしたのでしょう。であれば、クメトス流のやり方があるはずです。そもそも基礎とは一つの大きな拠り所。いくつも根を下ろそうとしてもうまくいくものではありません。クメトスがやるのであれば、我らは口を挟まぬほうが良いのです」

「そんなもんかね?」

「はい。例えばホブロブ道場の入門者であれば、私やコルスに師範が務まります。打ち込みの相手であればフルンでも十分やれるでしょう。これは同じ流派だからです」

「ふむ」

「また、シルビー程になれば、うちに来てエーメスやオルエンとトレーニングすることも出来ます。これは互いに己の基礎が確立できているからこそ、可能なのです。ですがエットでは、素振りやちょっと打ち合う程度ならともかく、他流から何かの技を学び取るというのはまだ早いでしょう。新人の教育というものは同じ流派のものでなければ、かえって害があるものです」

「しかし、フルンはわりと最初からオルエンが盾の使い方を教えてたじゃないか」


 というと、セスは少し困った顔をしてから、こう言った。


「これは……フルンには内緒ですが、あの子は特別なのですよ」

「うん?」

「天才などと安易に言うものではないでしょうが、あの子は私一人では持て余す才能だったので、オルエンにも頼んだのです。オルエンには私にはない剛の剣がありますし、盾の技術も見事なものです。弓もまたしかり。それらを教えても十分やり遂げるだけの才能がフルンにはあると、私は考えています」

「そんなに凄いか」

「ええ、すさまじい才能と成長です。シルビーには気の毒ですが、やはり常人がいくら頑張ってもあとからフルンに追いつくのは難しいでしょうね。種族故か、彼女が特別なのかはわかりませんが。我が師も言っておりました、極稀にそういう剣に愛されているとでも言うしか無い才能の持ち主がいると」

「なるほどねえ」

「話を戻しますが、それゆえに、あのスィーダと言う娘は、クメトスに任せておけば安心ですよ」

「ふむ。それはそれとして、あの小さな娘が、あんな巨大な武器を扱えるものかな?」

「そうですね、それに関しては私も考えてみたのですが」

「うん」

「きっとクメトスには腹積もりがあるのでしょう」

「というと?」

「内緒です」

「けち!」

「はは、ご主人様も考えてみると、よい修行となるでしょう。いずれ数年後には、結果が見られるのではないですか? それまでのお楽しみ、というやつですよ」


 そんなわけで、いずれにせよ俺としては見守るしか無いのだが、スィーダちゃんには頑張ってもらいたいね。

 とか考えていたら敵がいた。

 扉の影から様子をうかがうと、ギアントが二匹だ。

 二メートルを越す巨大な人型の化け物で、知性は低く、鈍重だが怪力だ。

 脱初心者の一つの目安で、練習には手頃な相手といえる。

 スィーダはまだ、一度も戦ったことがないらしい。

 それでいて先日はより強敵であるノズに殺されかけてたんだから、どれだけ無謀かって話だよな。


 自分より大きな人型の魔物は、独特の威圧感がある。

 しかも、戦い方も人に似ていて、場合によっては技も使うし駆け引きもある。

 コロのように丸くて跳びはねるだけの魔物とはわけが違う。

 そういう意味でも、冒険者にとって一つの試金石となる相手だった。


 ギアントは通路の出口で斜めに並んで様子をうかがっている。

 こちらはクメトスとスィーダのツーマンセルが前衛で、カプルが俺を、フルンがミラーをフォローしている。

 ミラーは俺と一緒に荷物持ちなんかのサポート役だ。

 最後にオルエンが反対側の入口を抑えている。

 このパーティには魔導師がいないので、決め手にかけるが、基本的にはこの辺りはクメトス一人でどうとでもなる魔物しか出ないはずだ。

 それにプラスしてオルエンやカプルもいる。

 要はスィーダに経験を積ませるための、構成となっている。


「よいですか、スィーダ。私が左の相手をします。あなたは右を」


 クメトスの指示に、スィーダは緊張しながら答える。


「わ、私が一人で?」

「そうです、自分の左半身を私に預けるように斜めに構えなさい。決して正面からあの棍棒を受けてはいけません、剣ごと砕かれます」

「は、はい」

「さあ、行きますよ」


 クメトスの合図で、ギアントのいる部屋に踊り込む。

 雄叫びを上げて殴りかかるギアントの一撃を、二人は横っ飛びに交わし、それぞれが自分の受け持ちの相手と向き合う。

 クメトスの方は気合だけで相手を威圧しており、相対する左のギアントは動けない。

 右のギアントもその影響を受けて萎縮しているようだ。

 一方のスィーダは緊張のせいか、未熟ゆえか、状況が把握できていない。

 それでも、かろうじて剣を構える姿は様になっていた。

 これだけでもずいぶんな成長だ。


 そのままの状態で膠着状態が続く。

 クメトスはその気迫で場を支配したまま動かない。

 おそらくはスィーダにきっかけを作らせようとしているのだろう。

 スィーダは小刻みに剣をふるいながらギアントに斬りかかるが、さしたるダメージは与えられていない。

 日本刀と違い、西洋の剣は鎧の上から殴る鈍器のようなものだという話を聞いたことがあるが、それの真偽はともかく、こちらの剣はちゃんとよく切れる刃が付いているし、まめに研いで手入れもする。

 なぜなら、魔物はめったに甲冑などまとっていないからだ。

 ただ、皮が人間より硬かったり、ウロコがあったりもするので、人間ほど簡単には切れないんだけど、それでも一応、刀は斬る武器だ。

 今もスィーダが何度かギアントに斬りつけた箇所に、薄っすらと傷跡が残り、わずかに血がにじみ出ている。

 たとえ致命傷でなくても、ああして出血が激しくなれば魔物とて動揺するし、そうすれば隙ができる。

 そこからが勝負なのだが、スィーダはそこまで現状を理解できているのかどうか。

 後ろで見守る俺も、思わず生唾を飲む。


 その時突然、背後から雄叫びが響く。

 振り返ると、入り口から突進してきた巨大な猪のような魔物をオルエンが盾で塞いでいた。


「ボアンダ! 凶暴な魔獣ですわ、突進をまともに喰らえば、骨が砕けますわ」


 パーティに状況を解説するかのようにカプルが叫ぶ。

 見た目は猪だが、体長は三メートルを越えるだろう、牛よりでかく見える。

 オルエンはよくあの突進を止められるな。


「ま、まてっ!」


 スィーダの叫び声にもう一度前を見ると、スィーダと対峙する右のギアントが雄叫びを上げて向きを変え逃げ出すところだった。

 それを見たスィーダがつられて後を追いかけようと飛び出した。


「いけません! 戻りなさい!」


 クメトスの叫びは耳に届いていないようで、スィーダは叫びながら通路に飛び込んでいった。

 慌ててクメトスも後を追おうとするが、もう一匹のギアントが破れかぶれに突っ込んでくる。

 スィーダに意識を取られたクメトスは、一瞬反応が遅れ、真向から組み合う形になった。


「誰か、スィーダを!」


 クメトスが叫ぶよりも早く、フルンが飛び出した。

 と思ったらもう通路に消えていた。

 速い。


 破れかぶれのギアントはクメトスの攻撃をいくつも受けていたが止まらない。

 これがダンジョンの近接戦の怖いところだ。

 力量差が大きくても、狭くて暗いダンジョンではなかなか致命傷を与えることが出来ない。

 クメトスがやられる気配は微塵もないが、それでも果敢に攻める相手を一撃で沈めるとは行かないようだ。

 ギアントはあちこちに傷を追いながらも棍棒を振り回し続けている。

 そもそも、騎士の戦い方と言うのは正面からぶつかり合ってじわじわ削ることが多い。

 クメトスならばこんなギアントは一ダースでも叩きのめすだろうが、隙を突くのでなければそれなりに時間がかかるのだ。


「ここは大丈夫です。皆、スィーダを追ってください」


 とクメトス。

 背後のオルエンも俺を見て頷く。

 クメトスの言うとおり、ここは任せて俺達も追ったほうが良さそうだ。

 そのまま走りだし、後を追う。


 二つ先の部屋で追いつくと、何故かギアントが三匹に増えて部屋の隅にスィーダとフルンが追い詰められていた。

 跪くスィーダをかばうようにフルンが素手で仁王立ちしている。


「フルン、大丈夫か! 今、行くぞ!」


 俺が叫ぶと、フルンが落ち着いて答える。


「大丈夫! 全部倒す!」


 フルンが言い終えるより早く、一番巨体のギアントが棍棒を振り下ろすが、その腕は付け根から切り飛ばされてまっすぐ壁に激突した。

 と同時に頸動脈から血を吹き出す。

 俺には何が起きたのかわからなかった。


「次!」


 そこで初めてフルンが腰の刀を抜くところが見える。

 愛刀のスイベルが一閃したかと思うと、隣のギアントの目と胸元から血が吹き出す。

 だが、すでにフルンはそこにはいない。


「たぁっ!」


 掛け声のした方向を見ると、少し離れたところにいた三匹目のギアントの首がもげていた。

 そしてその時にはすでにフルンの刀は鞘に収めるところだった。


「ふーっ」


 と呼吸を整えるフルンは、返り血一つ浴びていなかった。

 なにこれ、めっちゃかっこいいんですけど。


「どうだった、私の居合!」


 いつものようにコロコロした笑顔で寄ってくるフルン。


「お、おう。お前、凄いな」

「うん、最近ずっと、居合の練習してたの。ダンジョンの接近戦ではすっごい役に立つってセスが言うから」

「たしかに、すげー強かったな」

「そうかな?」

「ああ、凄いぞ、フルン」

「やった! ほめられた! あ、そうだ、スィーダ、怪我してない?」


 テケテケとスィーダの方に走っていく。

 当のスィーダは俺以上にフルンの技に呆気にとられていたようだ。


「フ、フルン……おまえ、あんなに強いのか」

「うーん、でもセスもオルエンも、もちろんクメトスももっと強いよ!」

「もっと……そんなの、どうやれば……」

「どうって、練習するの! スィーダ始めたばっかりだもん。できる方がおかしいんだから、気にしちゃダメ」

「でも……」

「んーとねえ、剣術は殺し合いなんだよ。負けたら死ぬの。死んだらご主人様が守れないから、私は必死に強くなるの。だから毎日練習してるんだもん。練習楽しいけど」

「練習……」

「スィーダも目標あるんでしょ! だから、ちゃんとやらなきゃダメだよ。ほら、立てる?」


 そう言って手を差し伸ばすフルン。

 その手を掴んだスィーダちゃんの体が、突然輝いた。


「あはは、スィーダ光ってる!」

「なに、これ?」

「私、主人じゃないのに! あ、消えた」


 スィーダの体は一瞬だけ光り、すぐに収まってしまった。

 フルン、それは俺の役目だぞ、と突っ込みたい気持ちを抑えて、二人の側に寄る。


「二人の相性が良かったのかな? 従者の従者ってあるもんなんだろうか」


 それを聞いたフルンが、


「じゃあ、ご主人様とも相性いいかも!」


 と俺の手を掴んでスィーダと握手させるが、特に光らなかった。


「うーん、残念。スィーダも従者になればよかったのに」


 残念がるフルンに、ワタワタと慌てて否定するスィーダ。


「わ、私、そんなこと、考えたこと無い」

「そっかー、私は従者になるの、全然悩まなかったけど、そういうのは自分で決めないとね。アンが言ってたけど、主人は自分がこれだって思った人を選ぶの! そこは自分で決めて、後は全部ご主人様のために生きるんだって。あんまり考えたことなかったけど、私も自然にそうしてたから、たぶんそう!」

「う、うん」


 混乱気味のスィーダに改めて手を差し伸べるフルン。


「ほら、クメトスも心配してるよ。勝手に先走っちゃ、ダメだよね」


 混乱気味のスィーダを引き起こし、立たせたフルンは、妙に男前でかっこいい。

 そんなフルンを見るスィーダも、わずかに頬が紅潮していた。

 そこにクメトスとオルエンが慌てて走ってきた。


「スィーダ、無事ですか!」

「おう、こっちだ。大丈夫、みんな無事だぞ」

「そ、そうですか、良かった……」


 胸をなでおろすクメトス。


「ご、ごめんなさい、師匠」


 申し訳無さそうなスィーダの手をとって、


「良いのです。私の方こそ、フォローが行き届きませんでした。申し訳ありません」

「そんな……こと」

「さあ、そんな顔をするものではありません。涙を拭きなさい」


 涙ぐむスィーダの顔を拭ってやるクメトス。


「それにしても、三匹もいたとは」


 周りに転がるギアントの死体を見回しながら、クメトスはフルンに話しかける。


「この太刀筋は、すべてフルンが?」

「うん! でもねえ、二匹目は二の太刀がいったから、セスに踏み込みが甘いって怒られそう」

「これは、居合というやつですか? 相手と斬り合った痕跡がありませんね」

「そう! こうね、どんな状態で襲われても、どこからでも返り討ちにする技! でも、騎士の戦いかたとは正反対だよね」

「ええ、そうですね。しかし見事なものです。このギアントなどは……まるで切られたことに気づかぬまま絶命しています」


 と感心するクメトス。

 確かに凄いよな。

 最近のセスも人間離れしてきたと思ったが、そのセスが太鼓判を押すだけあって、フルンもすごい才能だ。

 それはいいんだけど、スィーダに経験と自信をつけさせるつもりが、逆効果になってしまったな。

 失敗したことと、フルンの強さを目の当たりにしたことの、どちらがよりショックだったのかは分からないが、今の彼女はだいぶ落ち込んでいるのではないだろうか。

 さて、どうしたものかと改めてスィーダをみると、目をキラキラさせながらフルンを見ていた。

 それはそれでどうかと思うが、あんまり落ち込んでないようだし、まあいいか。

 その後は、一層上に戻って、コロコロなどの無難そうな魔物相手に数をこなした。

 戦闘の合間にスィーダはフルンに一生懸命どうやって上手くなったのかを聞いていたが、フルンはというと、


「やってることは変わらないよ? 私も最初は重い木刀を毎日毎日、手の豆が潰れるまで振ってたもん」


 確かにそうだったな。

 俺が三百回のノルマをひぃひぃいいながらこなしてた横で、その何倍もの数を振りぬいていたし。


「それだけ? それだけでそうなれるの?」

「それはわかんない。だって、私とスィーダじゃ流派が違うし」

「え、じゃあ、フルンの流派ならフルンみたいになれる?」


 子供ゆえの無邪気な質問なのだろうが、側で聞き耳をたてていたクメトスの表情には微妙にショックの色が見える。

 そりゃまあ、そうだろうなあ。


「それもわかんない」

「どうして?」

「うーん、でもね、スィーダは力持ちだし、騎士の戦い方が向いてると思う」

「そうなの?」

「うん。技はあると便利っていうか、強さに上乗せしてくれるんだけど、結局、強さってのは力だったり速さだったり、正確さだったりするから。スィーダは力を根っこにすべきだと思うし、そうなると騎士っぽい戦い方に成ると思う。あとね、スィーダはお爺ちゃんの剣を継ぎたいんでしょ?」

「う……うん」

「だったらなおさら、クメトスに習わないと」

「なんで?」

「だって、お爺ちゃんの剣を知ってるのは、クメトスだけだもん」

「そっか、そうだよね」


 フルンの言葉に、スィーダはなんとなく頷いていたが、クメトスの方はハッとなったようだ。

 そうなんだよな、スィーダを効率よく強くするだけなら、指導歴の長いセスのほうが向いているのかもしれない。

 だが、スィーダの祖父の剣を伝えられるのは、クメトスだけなのだ。

 クメトスはそのことに改めて思い至ったのだろう。

 表情を引き締めて、スィーダに話しかける。


「スィーダ、私も指導者としては未熟かもしれませんが、あなたの祖父の剣は、この目に焼き付いています。それをすべてあなたに伝えるまで、私の指導に、ついて来てくれますか?」

「し、師匠……ごめんなさい、私……ちっともうまく行かなくて、不安で……どうしようかと思って……わけわかんなくて……」

「武の道を選べば、その迷いは生涯つきまとうもの。それは天下第一の達人となっても、そうであろうと思います」

「師匠も、ずっと悩んでるの?」

「そうです。私にも大きな挫折と敗北がありました。戦いの場において敗北とはすなわち死。幸いにも私は一度の敗北で命を拾うことができましたが、次は無きものとの覚悟で、常に戦いの場に立っています。私には技術を教えることはできますが、そうした心構えまでは、残念ながら伝えることができないでしょう。勇猛であれ、臆病であれ、剣をとって生き延びるものは、己に相応しい心構えをわきまえたものだからです」

「心構え?」

「そうです。それは信念とはまた異なるもの。信念とは、わかりやすく言えば剣を取る理由です。理由は人それぞれあるでしょうし、時にはそれに縛られるもの。ですがそうしたものとは別の拠り所として、自分にふさわしい心構えというものがあるのです」

「自分にふさわしい……」

「我が師でもある先々代の騎士団長はよく申していました。信念と心構え、その二つを手綱のように釣り合いを取らねば、馬はまっすぐに進まぬもの。あなたには信念があるのでしょう。後は己の心構えを見つけなければなりません。私にはそれを直接与えることはできませんが、日々の鍛錬の中に、自ずからそれを見出すすべを得られると、私は信じています」

「師匠の言うことは難しくて、あんまり分かった気がしないけど、つまり、私に相応しい剣術ってのは師匠ともお爺ちゃんとも違うってこと?」

「今はそういう解釈でも良いと思います。早急に答えを求めてはいけません。やはり我が師は言っておりました。象の鼻のように歩め、と。象という生き物は魔物を除けば地上でもっとも大きく強い動物の一つです。それ故に獅子や狼も、象を狙うことはありません。泰然自若に歩み続けるのです。その歩みは孤独かもしれませんが、きっと確かなものとなるはずです」


 クメトスのあまりわかりやすいとは言えないお説教を、それでも必死に聞くスィーダちゃん。

 まあ、分かるというプロセスには色々あるもんだ。

 いずれスィーダもクメトスの言うことがわかる日が来るだろう。

 俺は上っ面しかわからなかったけど。

 俺としては二人が修行しやすい環境を整えてやるだけだなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る