第164話 取引

 ここからの道は一本道であり、結果的に俺達は赤竜十一小隊の後をついていく形で先に進む。

 暫く行くと、岩盤の間からコンクリートが露出した箇所に出る。

 ドーム状の通路の天井部のようで、崩れた部分から中を覗くと、直径三メートル程の土管のような通路だった。

 ただ、開いた穴の部分から土砂が流れ込み、完全に埋まっていた。


「方角的には、基地の方に伸びていると思われます」


 紅も言うので気になるが、見た限りこれを掘り返して進むのは困難だろう。


「今すれ違った冒険者の話では、この先は迷路のように入り組んでいて大変なようです」


 洞窟沿いに少し先行していたセス達が戻ってきてそう言う。


「ふぬ、じゃあそっちに行く前に休憩するか」


 少し開けたところに腰を下ろし、小休止を取る。

 うちは二十人からの大所帯なので、休憩も一苦労なんだよな。

 メンバーをざっくり四つに分けて小さく固まって腰を下ろす。

 そこまで腹は減っていないが、こういう時の行動食は小分けにしてちょっとずつ食べるのが基本だ。


「ご主人様、わたしねー、うさぎのビスケット持ってきた。リプルが作ってくれたやつ!」


 フルンが鞄から小さな包を取り出し見せてくれた。

 長い耳をかたどったビスケットは可愛いんだけど、幾つかは耳が折れてる。

 持ち歩くには不向きな形だなあなどと考えながらもぐもぐと食べつつ、紅に現在地について聞いてみる。


「例の地下基地はこの辺にも伸びてるのか?」

「もう少し、東に進めば行き当たると思います」

「このコンクリートの、いわゆる鉄の層の部分の情報はあそこの下水場にはなかったんだな」

「はい」

「ふぬ、想像するに、あの基地のまわりに後付でコンクリートの構造部を付け足したと考えるのが妥当かなあ」


 ビスケットを食べ終わったので、今度は干し肉をかじりながらデュースに聞いてみる。


「鉄の層とステンレスの層ってつながってたりするものなのか?」

「どうでしょうかー、私の知る限りではー、魔界寄りの最下層がステンレスでその上が鉄というのがおおくてー、ここのように混じってるものは珍しいと思うのですけどー、そもそも遺跡そのものを探索することは少なくてー、魔界との通路ぐらいの認識だったのでー」

「なるほど」


 話しているうちに味のなくなった干し肉を飲み下して、周りを見る。

 俺達が休んでいるせいか、後続の冒険者も何組かここで休み始めた。

 そうなると、元々対して広いスペースではないので人が詰まってくる。

 しかも、やかましい。

 酒盛りまでし始めるものもいるしまつだ。

 ここは最前線じゃないのかよ、と突っ込みたくなるが、元々殺し合いを生業にしてるような連中だ、こんなものかもしれん。


「なんだか、気が抜けてしまいましたね」


 少し離れたところで休憩していたレーンがやってきてそう言う。


「そうだなあ、今、何時ぐらいだ?」

「えーとですねえ」


 レーンは懐から小さなカプセルを取り出す。

 中には細い棒状の精霊石が何本も入っており、そのうちの一本が半分ほどになっている。

 一種の火時計みたいなものだ。

 機械式の時計は大きな振り子時計しか無いので、ダンジョン内ではこういうもので経過時間を図っている。

 スマホは故障を恐れて持ち歩かないようにしてるので、こういうこちらのスタイルでやってるわけだ。


「そろそろお昼ですね」

「ふぬ、まあ食うもんは食ったが、どうしたもんかなあ」

「困りましたね。戻るにはいささか早いですが」

「ふぬ。進むならなるべくステンレスの層を目指して進みたいよな。ヘンボスの爺さんの話もあるし」


 彼は当時、ステンレスの層を通ったと言っていた。

 方針としては、そちらを優先したい。

 湖の下辺りに基地が広がってるのは確かなのだ。

 であるなら、どこかからそちらの領域に侵入できれば、例のゴーストの墓場とやらに到達できる可能性が高くなる。

 上で掘ってもらってるA地点も有力候補ではあるが、あちらも別に確証があるわけじゃないしな。


 休憩を終えて、再び出発する。

 此処から先は、確かにアリの巣のように入り組んだ天然の洞窟で、ステンレスの層はおろか、鉄の層にも出くわさない。

 ウロウロしながら、何度かノズなどと戦闘しただけで時間が過ぎてしまった。

 諦めて引き上げていると、同じく引き上げ中の十一小隊と出会った。


「おや紳士殿、なにか収穫はありましたかな?」


 副隊長のギロッツオ。

 彼らもここの迷路を丹念に歩きまわって地図を作っていたらしい。


「魔物もいましたのでな、おそらくは地下に通じる抜け道もあるのでしょうが、今日のところはわかりませんでしたわ、がはは」


 道中、ギロッツオの笑い声を常に聞きながら十二号キャンプについた時には、だいぶ疲れてしまった。

 こんな時はメリーの純真な笑顔で癒されたいと思ったが、あいにくと不在だった。

 どうやら赤竜参謀のローンとともに探索に出たらしい。

 さっき話してたノウハウの伝授だろうか。

 年下だと判明したクメトスのお嬢さんもいないし、これ以上ここにいる理由もない。

 冒険者ギルドの課長さんも居なかった。

 まあ、ろくに戦闘してないので剥ぎとったコアもほとんどないんだけど。

 そんなわけで、俺達はさっさとダンジョンを抜けることにした。




 日の短い時期のことだけあって、うちにつくとすでに真っ暗だ。

 雪のせいか、祭りの客もほとんどいない。

 祭りはあと三日ぐらいだったっけ?

 流石にこれだけ期間が長いと、ずっと盛り上がり続けてるわけでも無いんだな。


「それではまた明日、ごきげんよう」


 出迎えに来ていた馬車に乗って、フューエルは帰っていった。

 見送ってうちにはいろうとすると、隣の店からルチアが出てくる。


「おかえりなさい、ダンジョンに潜ってるんですって?」

「まあね、興味あるのかい?」

「いいえ、そっちは全然。それよりも、さっき御者の人と立ち話したんだけど、あのフューエルさんって、領主のお嬢様だったのね」

「ああ、らしいな」

「らしいって人事みたいに。なんで貴族のお嬢様がこんなところに。私、結構失礼なことしちゃってたかも」

「あんまり気にしなくても大丈夫だろ、俺もそういうのを気にしたこと無いぞ」

「またそんないい加減な。だいたいサワクロさんは女性にアバウトすぎるんじゃない? 少しはハンコのことも気を使ってあげてよ、同郷なんでしょ?」

「なんかあったのか?」

「最近、ちょっと塞ぎこんでるじゃない」

「ああ、それはまあ大丈夫だよ、ちょっと故郷のことでいろいろあっただけで、そのうち立ち直るさ」

「そうなの? まあ、仕事には支障ないけど、気になるもんだから」

「気をかけてくれてありがとう。彼女は俺にとってもご近所の妹分みたいなもんだったからな、礼を言うよ」

「それよりも、サワクロさんがどうして貴族様とねんごろなのかのほうが気になるわ。エディさんも、ただの見習いって言うけど、あんな美人で気品もあって、ホントは彼女も貴族だったりするんじゃ」


 鋭いなあ。

 あまり嘘で繕いすぎると、後で面倒になるので、嘘をつかずに説明しとこう。


「エディは……なんというか、見たままだよ。フューエルの方もあれだ、彼女が小さい頃に、うちのデュースの弟子だったから、今でも師として慕っているだけだし、そのデュースの主人だからということで、俺にも敬意を払ってくれてるだけさ。ありがたい話じゃないか」

「そうなの? まあ、そうなんだろうけど……どうみたってサワクロさんは貴族とかには見えないものねえ」


 イマイチ納得してないようなので、話題をそらすか。


「そういえば、ネトックは帰ってるか?」

「ああ、そうだった。昼過ぎに騎士が連れてきてびっくりしたわ。彼女、森で倒れてたんですって?」

「そうなんだよ、ちょうど現地で出くわして俺もびっくりしたけど。それで、どうしてる?」

「さっき見に行ったけど、寝込んでるみたい。今、粥を作ったからハンコに持って行ってもらって……」


 とそこまで言った瞬間、本屋の木戸が開いて、ネトックが転がり出てきた。


「いやー、おたすけー、まだ帰りたくないー!」


 素足で薄っすらと雪の残る表通りを走り回るネトック。

 後から出てきたハンコちゃんは、あっけにとられた顔で様子を見ている。


「ど、どうしたの!」


 ルチアが慌てて判子ちゃんに駆け寄るが、判子ちゃんは首を傾げるだけだ。

 まあ、そうなるわな。

 判子ちゃんが自分を監視してるシーサのエージェントだと思ってるネトックにしてみれば、いきなり目の前に現れれば錯乱してもおかしくない。


「おい、誰か彼女を抑えてくれ」


 俺が叫ぶと、エレンがさっと飛び出して逃げまわるネトックを捕まえる。

 エレンは小柄で怪我も完治してなかったはずだが、素人の小娘一人押さえつけるのはわけもないようだ。

 簡単に取り押さえられた。

 俺はネトックのそばに駆け寄ると、耳元で囁く。


「落ち着け、あれは別の判子ちゃんだ。お前を見張ってる方じゃない」

「え!? じゃあ、インスタンス? リンクしてないの?」

「そう、そういうやつだ。だからまだバレてないんだ、おとなしくしとけ」

「わ、わかった」


 理性を取り戻したネトックは起き上がると、愛想笑いで判子ちゃんとルチアに話しかける。


「ごめんなさい。ちょっと怖い夢見て、錯乱しちゃったみたいです、あはは」

「そ……そう。森で何があったの? 大丈夫?」

「うん、そっちは大丈夫です。心配かけてごめんなさい」


 そう言ってルチアに頭を下げると、俺に小声で話しかける。


「後で行くから、裏口空けといてください」

「お、おう」


 ネトックはそう言って自分の家に戻っていった。

 なんというか、人騒がせなお嬢さんだなあ。


 その後、晩飯を食ってまったりしていると、裏口からネトックがやってきた。

 さて、なんの相談だろう。


「あ、ネトックいらっしゃい。すごろくする?」


 フルンが飛んで来る。

 犬耳のフルンと牛娘のリプルは、よく彼女の本屋におじゃましているらしい。

 本好きのリプルの話では変わった本があるとか。


「ごめんね、今日は大事な用事があるの」

「そっかー、じゃあお茶いれてくるね」


 といってバタバタと台所に走っていった。

 店の客間は冷えるので、暖炉前のソファにネトックを案内して腰を下ろす。

 用意されたお茶を一口飲んでから、こう切り出した。


「さて、俺も君には聞きたいことがたくさんあったんだが、まずは君の要件から聞こうか」

「単刀直入に言いますね、私の船を探してほしいのです」

「船?」

「そうです、次元航行船パリー・ファベリン号」

「そいつは、君がこの世界に来るのに使ったやつか」

「ええ、そのとおりです」

「それが大雨のせいでなくなったと」

「大雨よりも、あのエージェントのせいですね」

「というと?」

「私の船は、あの森のなかで重畳空間にアンカーで止めておいたのです。それをあの女がアンカーをデリートしたから、完全に物質化してあそこに転がってたみたいなのです。そこにあの大雨で……」

「流されたと」

「そうです。リモートでもスキャンでも見つからず、最後の手段として丸一日あそこに張り付いてビーコンを探したのですが、うまく拾えなくて……それがさきほど彼女が…あのインスタンスが来る直前に一回だけ検知したのです」

「ほほう」

「どこだと思います?」

「流されたんなら、海のほうか?」

「私もそう思ったのですが、違いました。ここの地下五キロほどの地点なのです」

「地下?」

「そうです。ここの下ってダンジョンとかがあるんでしょう? だからそこに流れ落ちたのかもしれません」

「いやいや、そもそも船ってどれぐらいの大きさだよ」

「大きさは三メートルぐらいの楕円形で、ベッドをカプセルで覆ってる感じですね」

「結構小さいんだな。だとしても、そのサイズが流れるぐらい、地下に水が流れ込んでたらもっと話題になってるはずだが、そういう話は聞いてないぞ」

「そうなのですか? でも……ビーコンは確かに地下から」

「うーん」


 そこに近くで話を聞いていたエンテルが言葉を挟む。


「もしかして、魔物が持ち去ったのではありませんか?」

「魔物が?」

「はい。遺跡などでもよくあるのですが、我々が地上から潜るように、魔界の住民も地下からダンジョンに登ります。そうして見つけたものは下に持ち帰るわけです。地下五キロだとすでにダンジョンを抜けて魔界の領域である可能性が高いですし、あそこは地上でも何度も魔物が目撃されています。そういう珍しい形状のものを発見した魔物が、地下まで持ち去った可能性は十分にあります」

「しかし、魔界となると大変だな。探してやるのは構わんが、簡単に行く話じゃないぞ」


 俺がそう言うと、デュースがこう答える。


「そうですねー、やはり魔界を探索するとなるとー、それなりの規模が必要になりますねー。そもそもここの真下がどの国かもわかりませんしー、どこかと国交のある国なら穏便に入国できるかもしれませんがー、辺境であればダンジョン以上に過酷な探索になるでしょうねー」

「ふぬ、ところで君のその船なんだが」


 とネトックに尋ねる。


「自動運転とかでここまで運んだりはできないのか?」

「無理ですね。マテリアルプレーン……ようはこの物質界を航行する能力はありませんから。一度上位次元にライズしてから、再度突入ポイントを決めないと」

「よくわからんが、とにかく無理なのか」

「そういうことですね」

「となると、今日明日行ってくるというのは難しそうだ。じっくり時間をかけて検討と準備をするという前提であれば、改めて相談に乗ろう」

「それでかまいません。私もちょっと取り乱してしまいましたが、別に今すぐ帰りたいわけでもありません。そこで、私からの報酬ですが……」

「うん」

「私の知識を提供します。あなた、未開人だから次元航行のこととか何も知らないんでしょう」

「そうそれ、そういうのが知りたかったんだ。それじゃあ、早速……」

「いきなりはダメですよ。進展がある度に一つずつ」

「えー、ケチ」

「ケチとは何ですかっ! 私は他に手駒がないんだから仕方ないでしょう! 対価として妥当な情報は、きちんとお支払します!」

「じゃあ手付にちょっとだけ」

「それもそうですね、何が知りたいのです?」

「えーと……なんだろう?」

「何ですかそれは」

「いや、わからないことが多すぎて、何から聞けばいいのかさっぱりで……」

「不甲斐ないですねえ、あなた大丈夫なのですか? 放浪者なんでしょう?」

「ああ、それ。その放浪者ってのについて教えてくれ」

「わかりました。と言っても大したことは知らないのですけど。放浪者というのは生身で次元を超えられる存在のことです。どこの世界にも属さず、それ自身が一つの世界として、あらゆる平行世界を放浪する存在、それが放浪者ですね」

「へえ、孤高の旅人っぽくてかっこいいな。しかし俺が世界ってどういう意味だ?」

「世界というのは言い換えれば宇宙のこと。物理法則、定数、時間、そういったものが一式揃った閉じた系のこと。当然私も、私の故郷である宇宙の一部なのです」

「それを言うなら、俺だって地球……俺の生まれた星だが、そこの宇宙の一部じゃないのか?」

「そうじゃないから、特別なんでしょう」

「俺ってそんなに特別か? ちょっとモテるなあ、とは思うけど」

「そこは関係ないのでは? 特別なところは、自分自身が独立した世界だから、相互干渉もまた内包できるというところです」

「相互干渉?」

「たとえば、この世界で生まれて死んでいく人は、すべての存在がこの世界の中で始まって終わるわけです。つまり全部ひっくるめて作用が閉じてるとも言えますね。この世界のものだけで出来てるということです」

「まあ、そりゃそうだな」

「だけど私などは完全に別の宇宙の物質でできた存在でしょう。この世界になかったもので出来てるのです」

「ふぬ」

「でも、今はここにあるから、こうして直接触ったりして干渉できますが、この宇宙から出て行けば、その干渉はなかったことになるのです」

「なかった、とは?」

「文字通り、時間も遡ってなかったことになるのです。私の干渉というのは、例えるなら水面のさざなみに浮かぶ葉っぱみたいなもの。それが浮いてる間はまわりに波を起こしますが、取り払えば元通り、その影響は消えてしまうのです」

「ふむ、消えるのはわかるが、時間も遡るってのがよくわからんな」

「それはあなたの時間の概念が一元的だからでしょう」

「というと?」

「この世界で今感じてる時間は、この世界のものですが、私が内包している時間は私の生まれた世界のものです。それが今、一時的に重なることで、ようは線形に合成されてるのです」

「うーん、わかるようなわからんような」


 つまり、以前判子ちゃんのことを皆が忘れてたのはそういう理屈だったのかな。


「だから、この世界から私がいなくなれば、私の世界とこの世界のつながりはなくなってしまうのですが、あなたはあなた自身が世界ですから、逆にこの世界から干渉を受けることもできるわけです」

「ふぬ」

「そうしてあなたが相互干渉を保持し続ける限り、結果は永遠に残りますから、放浪者というのは世界の間に干渉し続けられるのです」

「ほほう、じゃあ君たちには無理なのか」

「そうですね。普通は無理です。シーサを除けば」

「じゃあ、シーサの連中ってのはできるのか?」

「そこですよ、それが問題なのです。ディスクリート化といって、なんでも次元干渉をプランク時間以下で離散化することで、世界の分解能以下にまで分割して書き換えるような、そういう技術らしいですね。それによって影響を永続化するとか」

「なるほど、わからん」

「わかりなさい! まあ、私もわからないのですが……。とにかく、その技術でシーサはあらゆる平行世界に干渉して支配してるらしいのです。たぶん」

「たぶんなのか」

「だって、実際のところはだれも知らないんですもの」

「まあいいけど、じゃあ仕組みは違っても、それと同じようなことが俺にもできるのか」

「たぶん」

「また、たぶんか」

「しょうが無いでしょう! そもそも放浪者なんておとぎ話の存在だと思ってましたし、今説明した内容もあくまで辞書的な定義だから、本当は違うのかもしれません」

「ふぬ」

「でも、たしかにこうして見る限り、あなたってただの人間ですよね。どこが違うのかしら?」

「さあ、俺もわからん」

「なんの力も検知できないし。どうやって次元障壁を越えるんでしょう」

「ああ、力といえば、指輪を外すとどうかな」


 魔力をかき消す黒の精霊石の指輪を外す。


「あら、フォス波の照射がありますね。エルミクルムが活性化してきたようです。へえ、凄いエネルギーですね。でもそれなら程度の差はあれ、この世界の人は結構持っていますよね」

「持ってるって?」

「エルミクルムです」

「エルミクルムってなんだ?」

「それはただのアンテナ……って質問は一つですよ! 続きはまた今度話します!」

「ケチ!」

「ケチじゃないです!」

「まあいいや、ありがとう、いろいろ勉強になったよ。船の方は調べてみるからのんびり待っててくれ」

「ええ、お願いしますね。お互いのために」


 それだけ話すとネトックは帰っていった。

 帰りしなにフルンがおみやげのおやつをいっぱい渡していたようだ。

 よしよし、そうやって食い物でも懐柔しておいてくれよ。

 フルンの天然口説きスキルと、俺の紳士モテパワーが合わされば、落ちない女は居ないのだ。

 たぶん。


「今の説明って、つまりどういうこと?」


 放浪者とやらについて研究しているペイルーンは食い入るように話を聞いていたが、今はひたすら首を傾げている。

 俺もよくわからなかったが、聞いた説明を改めて思い返しながら、一緒に考えてやるとしよう。

 そもそも、この世界に伝わってる放浪者の伝説みたいなものと、ネトックが言ってるものが同じである保証もないんだけど。


 まあそれはそれとして、ネトックと仲直りできたっぽいところは良かった。

 異世界から来たなんていう、俺同様にイレギュラーな存在が敵か味方かわからない状況のほうが不安だ、という建前もあるんだけど、それ以上に女の子から嫌われてるかもしれないという現実はちょっとつらいものがあるよな。

 人間、一度モテるようになると、どこまでも贅沢になるもんだよなあ。

 そんなわけで、なるべく頑張って彼女の船とやらを探してやることにしよう。

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