第163話 同期
「お取り込み中、失礼致します」
ローンたちと別れ、作戦も決まり、荷物をまとめて出発の準備をしていると突然話しかけられた。
振り返ると、ダンジョンに似つかわしくないスーツの女が立っていた。
耳が長く、銀髪なので古代種のプリモァ族かな?
「なんだい、お嬢さん」
「私、冒険者ギルド・アルサ出張所課長サリュウロと申します」
「ああ、ギルドの人」
課長とかあるのか、まあ、あるかもなあ。
「先程、赤竜騎士団の天幕から出てきた所を拝見しまして、冒険者の方とお見受けしますが、騎士団ともご交流が?」
「ちょっとね」
俺が紳士だとは気づいていないようだな。
いつもの癖で指輪はしているが、ここの連中はだいたい俺の顔を知ってしまってるからな。
まあ、冒険者はあまり街には住まないので問題ないけど。
「実はこの度、冒険者様の利便性を図るべく、このキャンプ地に換金所を設けて迅速なコアの換金を承ろうと考えておりまして。それでまずは上級冒険者様にご利用頂きたく、ご挨拶させていただいております。つきましては少々ご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
何かと思えば、キャッチセールスかよ。
話を聞いてみると、現地でコアを金に変えてくれるらしい。
騎士団から水や食料を買うこともあるので、現金は必要だしな、案外ニーズはあるのかも。
「ダンジョンまで出張とは珍しいですねー、塔に来ることはたまにありますけどー」
隣で話を聞いていたデュース。
「仰るとおり、ですが今後はギルドといたしましてもより快適な換金サービスをモットウと致しまして、積極的にやらせていただこうと考えている次第でありまして」
すごい胡散臭いけど、こういう現代的な言い回しのノリって俺の脳内翻訳の影響もあったりするんだろうか。
「ところでー、アルサのギルドはかなり小さかったと思うのですがー、よくそれだけの余裕がありましたねー」
「いや、それが仰るとおりでございまして、見ての通り私単身でお受けさせていただいております。現金のご用意が足りない分につきましては、為替の方で対応させていただきますので、合わせてよろしくお願いいたします」
「それは大変そうですねー、せめて護衛ぐらいつけたほうが良いのではー」
「それもごもっともなのですが、何分予算が……はっ、いえ、これはこちらの都合でして。実は騎士団にもお願いしたのですが、こちらの隊長様は危ないから帰れの一点張りでして」
「ゴブオン隊長ですかー、まあそれももっともな意見だと思いますよー」
今は特に用事もないので、その場でギルドの娘と別れた。
「ご利用お待ちしておりまーす」
手を振る娘に見送られながら出発する。
「冒険者ギルドは国の役人ですから、あまりああいう営業はしないものだと思っていました」
とレーン。
「そうなのか」
「はい、役職につくのは官吏の身分のものだけだったはずです。そもそも冒険者ギルドがダンジョンに関わること自体が珍しいのです。彼らは主に塔とそのコアの管理が仕事ですので」
「ほう」
「もちろん、名前の通り冒険者にまつわるサポートもするのですが、それはコアの買い取りの延長として始まった仕事でして、むしろ探索上のサポートなどは騎士団のほうが多く受け持っていますね。赤竜などはその代表です」
「ほほう」
「昨今の冒険者ブームを受けて、改善に乗り出したということでしょうか、そういう話は聞いていませんが」
「ふぬ」
「コアはかさばりますので少人数だと持ち歩くのも面倒ですし、需要はあると思います。ただ、一人でやるのは流石に無理があるでしょうね」
「つまり、無理を承知でやらなきゃならない立場ってわけか」
「ここアルサの街は近郊に塔がありませんので、ギルドの支部も換金と地図の販売を中心にした小さなものです。そこの課長、たぶんトップかナンバーツーでしょうが、おそらくは何かしでかして左遷されてきたので、焦って実績を作りたいとかそういうところでしょうね!」
「そんな悲惨な想像してやるなよ、可愛いお嬢さんだったじゃないか」
「もちろん、ご主人様が個人的にサポートしてあげたいというのであれば、我々も協力を惜しみませんよ」
「まあ、相性が良ければ考えるよ」
ホロアと違って古代種の場合は、相性が良くても必ずしも体が光るわけじゃないようだからな。
それでもなんとなく脈のあるなしはわかると思うが、今の子はどうかなあ?
「気になるのでしたら、今日の稼ぎを換金してやればよいでしょう」
「そうだな。しかし塔とダンジョンでサポートをわける理由ってあるのか?」
「先程も申しましたとおり、冒険者組合、いわゆるギルドは塔のコアのメンテナンスのために作られた組織です。一方、赤竜騎士団などはダンジョンの封印、その延長としての管理が仕事です。元々異なる組織がそれぞれに管理していた場所に、同じ冒険者が世話になっているというだけにすぎないのです。同じ乗り物でも船と馬車がまったく別なのと同じですね」
「なるほど、そう考えるとしっくり来るな」
「ところが近年の冒険者ブームで、必然的にギルドのカバーする範囲も増えているのですが、なかなかうまく行っていないのが実情のようですね。特に初心者対策に手を焼いているとか」
「そういえば、エディも自分たちに押し付けられてどうこうとぼやいてたな」
「我々僧兵や騎士、それに盗賊を除けば、まともに探索を学べる場というのはありませんから。古くはエツレヤアンが勇者の意志を継ぐとの名目で養成していたのですが、そのあたりは随分前に廃れてしまっていますね」
「ふぬ、冒険者の養成なあ」
冒険者に必要な能力ってなんだろうな。
ダンジョンを歩きまわったりサバイバルする能力は、登山なんかのそれに近いものがあるので、ちょっとだけかじってた俺には馴染みやすいところもあった。
剣や魔法に関してはさっぱりだったが、剣は最低限身を守れるレベルにはなってきたかなあ。
あとはなんだろうな。
実在の冒険者がゲームなんかと一番違うのは、やっぱりパラメータかな。
レベルも経験値もないと、なんかRPGって感じがしないよな。
もっとも、何を持って経験値と呼ぶのかはよくわからんけど。
そもそも、こんなふうに拠点を作って補給しながら進むってのは冒険じゃなくて戦争とか狩猟とか、そういうイメージのほうが近いんじゃないだろうか。
「うほー、これまた大きな地割れでありますな!」
突然、レルルが叫ぶ。
目の前にはここのオアシスを横断する巨大な地割れが広がっていた。
恐る恐る覗いてみると、底の方は真っ暗で何も見えない。
「完全に分断されてるんだな」
左右を見渡しながらそう言うと、デュースが応えて、
「そのようですねー、あそこの橋以外ではちょっと渡れそうにありませんねー」
「この地割れは最近出来たもんだろうか?」
「そうではなさそうですがー」
「とすると、ヘンボスの爺さんは、この先には行ってないのかな?」
「少なくともー、この道は通ってないでしょうねー。このオアシスにしても相当古そうですしー、ここを通っていれば覚えているでしょうからー」
たしかに彼にもらった地図にはそれらしいところはなかった。
そんなことを話しながら、出来立ての橋を渡る。
地割れが三メートル近くまで狭まった場所にしっかりと組み上げられた橋は、団体でわたってもびくともしない。
それでもどことなく不安ではあるので、さっさと渡りきってしまう。
橋の先は、徐々に天井が低くなり、その先で二つの道に分かれている。
左側が下に続く道だ。
道というより、ここも地割れのようなもので、下に向かって大きく切れ込んでいる。
他の冒険者もこちらに進むようだ。
俺達も後に続く。
ゴツゴツとした岩の隙間を縫うように伸びる洞窟は急な斜面となっていて、落石させないように慎重に下っていく。
こっちの世界じゃ、落石させた時の掛け声はなんだろうと思って聞いてみたら、そんな決まりはないと言われた。
登山の時は「ラクッ」って叫ぶんだよな。
小さな石ころでも、直撃すれば下手すりゃ致命傷だし、重要だと思うんだけどなあ。
斜面には所々にロープも張られているが、とりあえずなしでも降りられそうだ。
一気に五十メートルは下っただろうか。
すこし空気が変わる。
なんというか、ちょっとカビ臭い。
下りきったところは二十畳ほどの広間になっていて、篝火が焚かれ、騎士が二人歩哨に立っていた。
獣人のようだが種族まではわからない。
たぶん、噂の十一小隊だろう。
此処から先は細い道が四方にわかれている。
騎士に尋ねると、北向きの道が現在もっとも人が多いようだ。
なるべくそちらに行け、とのことだった。
あまり冒険者に分散されても困るのだろう、俺達は素直に北に向かう。
「何やらあやしい気配がビンビンしますね、気を引き締めていきましょう」
レーンが言うと、クロにまたがるレルルが強がってみせる。
「だだだ、大丈夫であります。今の自分であれば、魔物相手に遅れを取ることは無いであああ、あります!」
残念ながらすでにビビっているようだな。
大丈夫かいな。
それでも確かにちょっとずつマシになってるんだよな。
この調子で徐々に良くなってくれるといいけど。
ちょっと雑談でもして、緊張をほぐしておいてやるか。
「そういえばレルル、今の十一小隊の隊長は、お前の同期らしいな」
「む、そうでありますかな、そうでありますかもしれませんな」
あからさまにむくれる。
「どうした、仲が悪かったのか?」
レルルはわりと全方位に敵を作ってるからな。
「そんなことはないであります。そもそも、どうせあちらは自分のことなど覚えていないであります」
「そうなのか?」
「自分やモアーナ、それにあのハウオウルは同期の見習いでありましたが、彼女はそれはもうずば抜けた剣の腕前で馬術も巧み、更に伝統ある家柄で教養もあって兵術にも通じており、古今の戦についてローン殿と談笑するような間柄でありまして」
「ほほう、モアーナも同期の誉だと言っていたしな」
「それはまったくもってそのとおりでありますが、それでも、そこは同期でありますから、共に馬を駆ろう、槍を交えて学ぼう、と誘っても彼女はうんともすんとも言わずに自分を無視していたであります! 自分など弱すぎて相手にならんというわけであります!」
とプンプン怒っている。
まあ、そりゃあ怒るかもしれんが、モアーナは彼女のことをちょっと無口だと言っていたし、単に人付き合いが下手な可能性もあるよな。
それにはっきり言ってレルルもかなり人付き合いは下手だと思うので、そんな二人では接点がなかったのかもしれない。
そこの所をモアーナに聞いてみたいところだが、あいにくと彼女の第八小隊は街に戻っているそうだ。
なんにせよ、その隊長さんと会うのが楽しみになってきた。
ひとまずレルルは怒ったことで緊張がほぐれたようだ。
当初の予定は果たせたかな。
途中、黄緑色のノズの変種と遭遇してこれを倒し、更に進むと、あたりの様子が変わった。
綺麗な円筒状の通路に出たのだ。
だが、よく見るステンレス、つまり謎の金属の壁ではない。
薄暗くて見づらいが、これはたぶんコンクリートかな。
一部カビなどが生えて、腐食しているようにも見える。
明かりで照らして、ヒビ割れた断面などを確認するが、やはりコンクリートだな。
カプルを呼んで、壁を示しながら話しかける。
「以前、セメントってやつを話しただろう。水で練ったら石になるやつ」
「ええ。石灰を取り寄せようと手配していたのですけれども、なかなか……」
「これがたぶん、そのセメント、っていうかコンクリートなんだよな」
ちなみに、セメントに砂利とかを混ぜたのがコンクリートらしいな、どう違うのかよく知らないけど。
「まあ、これがそうでしたの。鉄の層の遺跡をあさると、この石の中に鉄が埋まっている事が多いので、砕いて鉄を取り出しているそうですわ」
「ああ、コンクリートだけじゃ強度が足りないから、芯に鉄柱をいれてるんだろうな。鉄筋コンクリートといって俺の故郷では建築素材の定番だよ」
「なるほど、実に興味深いですわ」
「しかし、鉄の層とステンレスの層は、だいぶ技術レベルが違いそうだな」
「そうですねー。ステンレスのものよりはだいぶ新しい時代のものだと言われてますねー」
とデュース。
「ほほう」
「私も詳しくは知りませんけどー。帰ったらエンテル達に聞いてみましょー」
古ぼけたコンクリートの通路を歩いてると、なんかゾンビでも出てきそうな気がしてくるな。
しばらく行くとコンクリートの通路は終わり、再び岩をくりぬいた洞窟に出る。
どうも例のなんとかって魔物が岩盤を食い歩くうちにこのコンクリートのスペースを通り抜けていった感じか。
この辺りをもう少し調べたいところだが、何やら前方が賑やかだ。
戦っているのではなく、大勢の人間が騒いでいる感じだな。
「この先にキャンプはないはずです。むやみに騒ぐのはおかしいですね、用心していってみましょう」
とのレーンの言葉に従い、俺達は慎重に先に進む。
しばらくすると広いスペースに出た。
騎士と冒険者が、ざっと二、三十人ほどだろうか、固まって騒いでいる。
隣りにいたエレンが俺の顔を見ながら、
「揉めてるっぽいね」
「そうだな」
「旦那も加わらないのかい?」
「揉め事は少し離れたところから見るに限る」
「そう言う割には、いつも突っ込んでいってる気がするけど」
「向こうから寄ってくるんだよ」
「旦那はモテるからねえ」
などと話しながら、しばらく観察していると、だいたい様子がわかってきた。
どうやら赤竜の新設部隊である十一小隊が手長の群れを根こそぎやっつけてしまい、冒険者が狩る相手がいなくなったと絡んでいるようだった。
例の赤マスクの隊長さんが、冒険者達に詰め寄られて無言で立ち尽くしている。
「ハウオウルはいつもああであります。何も言わずに勝手に全部やってしまって、こちらが聞いてもなんの釈明もなしであります。振り回される身にもなって欲しいであります」
彼女と因縁があるらしいレルル。
そこに、別の騎士の集団が通路の向こうからやってきた。
同じく十一小隊のようだが、そちらを率いていた髭面の大男が割って入ると、大声で笑い出した。
「がはは、これはみなさま申し訳ない。しかし考えてもみなされ、都合よく半分だけ敵を倒して残りは皆様にお分けするなどできますまい。ここで揉めているよりも先に進まれる方が得策ではありませんかな」
「しかしだな、あれほどの群れを倒したあとでは、奴らも警戒してここまで上がってこんだろう」
「いやいや、この先には再び鉄の層が。さらにはステンレスの層も期待できますぞ。となればうまく入り口を見つければガーディアンなども見込めるというもの。何よりキングノズの集団が出るようなダンジョンともなれば、いずれ結界が張られるのは必然、そうなる前に先に進まれたほうがよろしいかと、がはは」
誰かさんをもう少し丸くしたような強引な話術と笑い声で冒険者たちを丸め込む。
彼がさっきゴブオンが言ってたやつかな?
「あれは元第四小隊のギロッツォ殿であります。ゴブオン殿の縮小版みたいな男でありますよ」
とレルル。
「なるほど、見たまんまだな」
髭は毛深いが、髪は禿げてない。
まだ若そうだ。
甲冑を着ていると、体がでかいというだけで人間とかわらなく見えるが、やはり彼も古代種なのかな?
もっとも、獣人のフルンやエットだって、耳や毛深い所を隠していれば見分けがつかないが。
「自分は第八のあとは第五小隊でありましたから、同じ第一機動部隊所属である第四とは合同で作戦に出ていたでありますが、自分とはあまり馬が合わなかったでありますな」
誰か仲良くしてた奴は居ないのかと聞きたい気持ちをぐっと抑える。
レルルも辛かっただろうなあ、俺がその分かわいがってやらないと。
結局、ギロッツォの説得に応じて冒険者達は先に進んだ。
その間、マスクの隊長は一言も喋らなかった。
さて、どうしようかと悩んでいると、向こうからこちらにやってきた。
話しかけてきたのはギロッツォという髭の男だ。
「これはこれは紳士様。先の竜退治や飛び首退治ではお世話になりましたな、がはは」
そう言って握手を求めてくる。
向こうは俺を知ってるようだが、ごつい体格の割に、印象に残ってないのは、あんがい影の薄い男なのかもしれない。
挨拶をして握手をかわし、ついでお待ちかねの隊長殿と対面する。
俺の前にじっと立ち、何も言わない。
顔を覆う赤いマスクは、顔の八割ほどを覆い尽くし、かろうじて下唇から顎の先までが露出している。
色ガラスの瞳の部分からは表情は読み取れない。
そのかわり露出した口元が微妙に動いたような気がしたが、特に声は聞こえない。
「はじめまして、クリュウと申します」
そう言って手を差し出すと、マスクの隊長は俺の手を見て、ついで自分の手を見てから、おずおずと手を差し出す。
その手は半分差し出されたところで止まったので、俺が更に手を伸ばして握手しようとすると、ぴくっと僅かに下る。
ははぁ、この子はあれか、極度の人見知りか男性恐怖症か、そのへんだな。
「失礼」
と断ってから、そっと彼女の手をとり、柔らかく握手する。
手へのくちづけはやめておいた。
「みなさんの活躍は伺っております。我々冒険者もみなさんが居てくれるからこそ、安心して探索に勤しめるというもの。トラブルもお有りでしょうが、よろしくおねがいしますよ」
となるべくやさしく話しかけると、マスクの隊長は、わずかにほんの五ミリ程顎を引いて頷く。
うん、大体ノリはわかった。
そこに全然わかっていないっぽいレルルがしゃしゃり出てくる。
「これはこれはハウオウル殿、いやハウオウル隊長、お久しぶりで御座いますな。この度のご栄達、同期といたしましては誠に喜ばしく思いますでありますよ」
レルルにしてみれば目一杯嫌味っぽく言ったつもりかもしれないが、元がそういうキャラじゃないのであまり変わってない。
一方の隊長さんの方は、わずかに口元がほころぶ。
レルルを見て喜んだように見える。
ついで俺の時よりもしっかりと手を出して握手しようとするが、それより先にレルルが、
「おや、やはり自分のことなど覚えておらんですかな、これは失礼を。おお、ギロッツォ殿、副長に就任なされたとか、おめでとうございます」
レルルは側に居たギロッツォの方に歩いて行ってしまった。
まったく、レルルもしょうがねえな。
今の一瞬のやり取りだけで、この隊長さんがレルルに好意を持ってるのはまるわかりだろうに。
レルルはレルルでコンプレックスをこじらせてるんだろうが、どうしたもんかなあ。
やり場を失った手をじっと見つめていたマスクの隊長ハウオウルに、改めて声をかける。
「見習い時代にレルルが随分とお世話になったそうで。主人としてお礼申し上げます。今後もかわらぬ友情を感じてやっていただければ、あれも喜ぶことでしょう」
俺がそう言うと、ハウオウルちゃんは僅かに口を開いて驚いたようだが、すぐに二ミリほど口角を引き上げて微笑する。
そこに別の騎士が走ってきた。
どうやらまた、魔物が出たらしい。
「隊長、次はもう少し控えめにおねがいいたしますぞ、冒険者の諸君も、生活がかかっているのでありますからな、がはは」
とギロッツォ副隊長。
「それでは紳士様、我らは任務がありますのでこれにて、がはは」
彼が仕切るように隊をまとめると、十一小隊は去っていった。
「ふふん、ハウオウルは完全にギロッツォ殿に丸投げでありますな。団長も何故に彼女に命じられたのか」
鼻息を荒くしているレルルの額を、軽く小突く。
「あいた、な、なんでありますか!? 自分は悪く無いであります」
悪く無いと言ってる時点で、悪いという自覚はあるんだよな。
ついでオルエンもコツンとやる。
「あいた、なんでありますか、オルエン殿まで! じ、自分にだって言い分は……おわっと」
さらにコツンと行こうとしたエーメスからオーバーなゼスチャーで逃れるレルル。
「エーメス殿にまではやられんでありますよ! これは自分の個人的な問題であります!」
そう言ってレルルはクロに乗ったまま、ひょこひょこと先に行ってしまった。
まあなんだ、レルルは騎士でありながらあれだけ頑張っても芽が出ないという現実と日々向き合ってるわけだ。
相当なストレスにもなっているだろう。
それでいて投げ出さない根性は立派なものだが、更に人格者であれというのも酷だよな。
普段なら何も言わずに見守るだけだったんだけど、アンにあまり気苦労をかけないためにも、俺がちゃんと見ないとなあ、という気持ちもある。
それにレルルのためにも、もうちょっと素直になってもいいんじゃないかなあ、というのが正直なところだ。
うーん、難しいもんだな。
「オルエン、あの隊長さんのことは何も知らないのか?」
と尋ねると、あの隊長ほどではないがそれなりに口下手なオルエンは、言葉を選びながらこう言った。
「直接の……面識は……無いのですが、キリレ家の……者は、地上に出ることと……引き換えに……その身に呪いを受けたと……聞きます」
「呪い?」
「はい……どんなものかは……知りませんが」
呪いなあ。
そういえばプールも女神の呪いで石にされてたよな。
案外女神様も容赦無いな、やはり侵略者だからだろうか。
徐々にこの星の秘密を知るにつけ、世の中の見方が変わりつつあるようなないような、なんとも言えないところだ。
少し離れたところでこちらを見ていたフューエルが話しかけてきた。
「紳士様が女性の扱いで苦労なさっている姿を見ると、なんだか不思議な気分ですね」
「素直に喜んでるって言ってもいいけどな」
「まさか、そんな失礼なことを」
そういう顔は随分嬉しそうだ。
「ご主人様が困っててフューエル嬉しそう。ヤキモチ?」
フルンが余計なことを言うと、
「違います!」
フューエルはピシャリとたしなめた。
女主人の貫禄あるよなあ。
彼女がいれば、アンの仕事も少しは楽になるだろうにと思わず考えてから、慌ててそのアイデアを打ち消す。
そんな恐ろしい考えは、暇を持て余して酔っ払ってる時にするもんだ。
気を取り直して、俺達は探索を再開することにした。
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