第159話 256

 燕の話では、うちの地下まで基地か何かの跡が広がっているという。

 何が出るかはわからんが、放っておく手はないだろう。

 幸い、今日は雨でお休みだ。

 まさに絶好の穴掘り日和と言えよう。


 まずは慎重に掘る場所を決める。

 紅がソナーで確認すると、確かに五メートル程地下の部分で不可視の部分があるという。


「ここが遺跡同様のステンレスの層だとしてもおかしくありません。先ほど取得した地図情報と照らしあわせると、ちょうど地下施設の末端部が真下にかかっているように思えます」

「ふぬ、で、どこから掘ればいけそうだ?」

「うちの真下であれば、どこでも大丈夫だと思われます。ただし、裏庭の下には下水路があるので、そこは避けるべきです」


 というので、地下倉庫の部分から掘ることにした。

 ここなら床を剥がさなくてもいいし、二メートルほど深さも稼げるしな。


 土木工事といえばオルエン達騎士の出番だ。

 ぞろぞろとうちの力自慢が道具を抱えて地下倉庫に降りる。

 ここは少し天井が低い石造りの部屋で、所狭しと並べられた木棚には野菜やら酒瓶が並んでおり、一角には特製の氷室が置かれてオーレの作った氷が入っている。

 その一部を運びだして場所を作り、倉庫の床に敷き詰められた石を剥がして、ツルハシで掘り始める。

 地盤は固いが、オルエン達にかかればどんどん床が掘り進められていく。

 人手もたくさんあるので掘り出した土は裏庭に運んで積み上げる。

 巨人のメルビエがいればもうちょっと捗っただろうが、居ないものは仕方あるまい。

 途中水がにじみ出てくるところがあったが、オーレの魔法で周りを凍らせて掘り進む。


「あとでレンガで固めますわ。今はこのまま掘り進めましょう」


 とカプル。

 夕方には三メートル分掘り進み、目当ての地下基地が出てきた。

 出てきたのはいいんだが、ステンレスの外装にぶち当たる。

 まあ、そりゃそうだわな。

 ステンレスの壁はデュースの呪文でも破壊できないという。

 どうしよう?

 途方に暮れていると、燕もやってきた。


「どうしたの?」

「いや、ステンレスの壁がな」

「ステンレス? ああ、こっちのステンレスね」


 そう言って露出した地面に手を触れる。

 長らく埋もれていたのだろうが、傷一つなくツルツルだ。


「これは何かしら、知らない合金ね。地球にないやつだと、わからないわねえ」


 燕は床を軽く叩きながら首を傾げる。


「どうやって壊そうかしら」

「いけるか?」

「うーん、本体無しじゃ東風でも無理かなあ? 私の魔力も少ないからねえ。なんか他に武器ないの?」

「そう言われても」

「うちで一番強い武器って何よ」

「さあ、セスの剣とかか?」

「あれは普通の鉄の刀でしょう。セスが使うから強いんであって、刀としては名刀なんだろうけど、なんというか普通でしょ」

「エンベロウブがあるよ!」


 上から覗いていたフルンが叫ぶ。


「エンベロウブ? なあに、それ」


 首を傾げる燕に、俺が説明する。


「あー、そういやそういうのあったな。ウルが使ってたとかいう伝説の刀」

「あらそうなの? いいのあるんじゃない。ちょっと持ってきてよ」


 フルンが持ってきたエンベロウブを受け取ると、燕はしばらく眺めていたが、


「へー、なんか知ってる気がするわね。これフォトンブレードよね。バッテリーあるの?」

「バッテリー? 精霊石を入れて使うっぽいが」

「ああ、それでいいかも。ある?」

「ペイルーンが試作してくれたのがあるぞ。火の精霊石のやつ」


 いくつか作っておいた、精霊石のカプセルをセットすると、エンベロウブの刃の部分から赤い光がにじみ出る。


「さて、切れるかしら」


 切っ先を押し当てるとジュジュっと音がするが、傷一つ付かない。


「うーん、出力が足りないわね。どこで制御するのかしら……こう?」


 燕が柄に力を込めて握ると、剣の縁から出る光が十倍ぐらいに激しくなった。

 と同時に、剣がまるで豆腐にでも突き立てたかのように、するりと柄まで突き刺さる。


「行けたみたい。切るわよ」


 燕はそう言うと、五十センチ四方の四角い穴を切り抜く。

 ただし数秒で精霊石を使いきってしまうようで、切り抜くまでにカプセルを十個ぐらい消費してしまった。

 そうして切り終わると床はするりと抜け落ちた。


「ふう、どう? これで入れるんじゃない? バッテリーは使いきっちゃったけど。燃費悪いわねえ」

「おお、ばっちりじゃないか、すごいぞ燕!」

「ふふん、私にかかればこんなものよ!」

「何も覚えてないようなことを言ってたけど、案外色々知ってるじゃないか」

「そういえばそうね。具体的に物を出されると、知ってるものなら知識がふわっと出てくるのよ。だから漠然と聞かれてもだめなのよ」

「ほほう」


 俺が感心していると、上から見ていたエンテルが叫ぶ。


「すばらしい! ステンレスの壁がこんなにたやすく……ああでも、これでは遺跡を壊してしまうのでは」

「壁ぐらいいいじゃない。斬った部分をあとで保存しとけばいいのよ」


 と燕は意に介さない。

 まあいい、とにかく探検だ。

 明かりを用意して中を覗く。

 ここはどうやら、部屋のようだ。

 十メートル四方の広さで天井は五メートルほどあり、かなり広い。


「魔物なんかの気配も感じないね。出入口は一つで、外は通路のようだよ」


 試しにロープを垂らして降りてみたエレンが言う。


「よし、支度して探索してみよう」


 何が出るかはわからないので精鋭を中心にパーティを組む。

 あとクロも連れて行くことにした。

 この手の遺跡につきもののガーディアンが出た時に、戦闘を回避できる可能性を考慮したからだ。


 はしごを下ろし、部屋の入口に簡易のバリケードを組む。

 そして騎士のオルエンとエーメスが槍を構えて警護することになった。

 まかり間違って魔物がうようよ出てきても困るしな。

 戦闘組の半数は残すので留守番は大丈夫だろう。


「たのんだぞ、オルエン、エーメス」

「留守はお任せください」


 力強く頷く二人に見送られて、俺達は我が家の地下ダンジョンに乗り込む。

 部屋の外は南北に続く通路があり、両側に同じような部屋が並んでいる。

 中は全て空だ。


「倉庫か何かでしょうか?」

「前のやつみたいに机とか椅子とかでてくるのかな?」


 見た限り、例のごとくランプで照らしだされた壁も床もフラットでなんの情報も与えてくれない。

 燕や紅も見ただけではわからないようだ。

 個別に部屋を調べるのはあとにして、まずはエンテルの提案で北に向かう。


「なぜ北なんだ?」

「南にはアウル神殿があります。つまり地下ダンジョンに通じている可能性があります。その内の封印された通路の一つがここなのかもしれません。であるなら、反対側のこちらに向かうほうがなにか発見できる可能性があるでしょう」

「なるほど、しかし封印された通路だとすると、危険な可能性もあるな」

「はい。ですから、一層の注意を払うべきですね」

「そうしよう」


 エレンが先頭に立ち、紅がフォローしながら一本道を進む。


「燕、透視してなんか見えないか?」

「うーん、ダメっぽいわねえ。よく見えないわ。この壁は見えたり見えなかったりするわね。セキュリティ的な対策がしてあるのかしら」


 紅も以前見つけた丸い飛行機が、視覚以外では見えない、と言ってたしな。

 しばらく進むと、下に降りる階段に出るが、そのすぐ先は隔壁で封鎖されていた。


「この辺って湖の下あたりだよな」

「位置的にはそうです、調べてみます」


 紅のソナーではよくわからなかったが、移動距離から言って、湖の下に伸びているらしい。


「またエンベロウブで切ってみるか?」

「その先が湖に通じている可能性が高いと思われます。そうなると、水没している可能性もあります」

「なるほど」

「一度、湖側から潜ってみるほうが良いかもしれません。その上で判断すべきです」


 と紅は言う。


「となると、こっちは行き止まりか。反対に行ってみるか」


 反対側は、すぐに行き止まりになっていた。

 結局、百メートルほどの通路を挟んで、両側に十メートル四方の部屋が八ずつ、計十六部屋あっただけだった。

 ちょっと拍子抜けだな。


「紅、更にこの下に通路とかはないのか?」

「この壁の向こうは見えません、マスター」

「そうだったか」

「昼間入手した地図によれば、先ほどの隔壁の先には下に続く通路があるようですが、ここは断絶しているように思えます」

「それじゃあ、部屋を調べるか」


 最初に入ってきた部屋に戻り、改めて調べる。


「壁面は何も見えませんが、床には他の施設同様、なにか埋まっているようです」


 と紅。


「というと?」

「それが何かはわかりません」

「とりあえずまた斬ってみればわかるんじゃない?」


 と燕は言うが、机とかの設備が埋まってるなら切ると壊れるよな。

 どうしたもんか。


「とにかく、どっかに前みたいにアクセスできる端末がないか、調べよう」

「どう、私はわからないけど、ある?」


 と燕が聞くと、紅が即答する。


「ありました」

「あったのか」

「クロが認証できたようです」

「ツナガッタ、起動スル、ボス」


 とクロ。


「おう、頼むぞ」


 いきなり天井に明かりがつき、床から円柱のカプセルが何本も突き出してくる。

 四本ずつ四列のカプセルが格子状に並んでいる。

 中には燕の時同様、素っ裸の人形が眠っていた。

 十六本の柱の中に十六体の人形。

 抜けるような白い肌に、薄くピンクがかった白い髪が液体中にふわりと漂っている。

 すべて同じ外見だ。

 早速目を輝かせてエンテルが飛びつく。


「大発見、のはずなんですけど、最近色々とあっけなさ過ぎて素直に驚けなくなってしまいました」


 と言うが、言葉とは裏腹にカプセルの周りをベタベタといじりまわしている。


「これはー、全てコアも入っているようですねー、すごいですねー」


 横で見ていたデュースがそう言う。


「起動できるかな?」

「起コス、エンテル、離レロ」


 クロが足を一本伸ばしてエンテルを引き剥がすと、カプセルを作動させる。

 静かな作動音が響いたかと思うと、カプセル内の水が排出され、蓋が開く。

 ついで十六体の人形が全て同時に目を開き、ゾロゾロと台座からおりて、直立不動で整列した。

 あまりにも揃いすぎててちょっと怖い。

 動くときの胸の揺れ方まで同期がとれている。

 その内の一体が前に出ると、なにか喋り始めた。

 だが、言葉がわからない。


「言葉が通じないのか?」

「***……言語選択、デンパー・タイプBをベースに補正、通じますか?」


 抑揚のない声で人形が話す。


「お、通じたぞ」

「言語選択完了。おはようございます、あなたがオーナーであればユーザー登録をお願いします。メンテナンスであれば、キーの提示をお願いします。ペレラQ型はあなたのお役に立つことを保証します」

「登録ってどうするんだ?」

「生体認証を行ってください。DNAサンプルの提示をお願いします」

「サンプルって」

「爪で口の内壁を数回こそぎとってください、深く傷つけないように気をつけて」

「こうか?」


 と言われたとおりにやってみる。


「けっこうです。それを私の口に含ませてください」

「だ、大胆だな。いいのか?」

「どうぞ」


 指を加えさすと、人形はペロペロと舐め始める。


「ユーザー登録完了。ベースネームをお願いします」

「また名前か! うーん、同じのがいっぱいいるから鏡……ミラーにしよう」

「ミラー…で登録しました。私のIDは0になります。ミラー0から255まで起動します。起動シーケンスの終了まで十二秒お待ちください」

「お、おう」


 再び全員一斉に目を閉じる。

 待つこと十二秒後、再び目を開くと、急に姿勢もどこか柔らかく、人間っぽい仕草でゆっくりと頭を下げた。


「おはようございます、オーナー。ペレラQ型の導入をご決断いただきありがとうございます。我々一同、オーナーのお役に立つべく、精進いたします。末永くご愛顧いただけますようよろしくお願いいたします」


 立ち並ぶ人形たちが一斉にハモって挨拶する。

 どうやら他の部屋にもいたようで、外からも気配がする。

 様子を見に行ったエレンが、


「いるいる、全部の部屋に同じぐらい並んでる」

「まじか、どうしよう」

「どうって、自分が動かしたんじゃないか、責任持ちなよ」

「そりゃあもちろんいいんだけど、いきなり数が……0から二百五十五までってことは二百五十六人か?」

「はい、オーナー」


 とさっきの人形が答える。


「えっとミラー、だったな」

「私はミラー0号です」

「お、おう、じゃあ、0号。えーと、俺はクリュウ、回りにいるのはお前の先輩だ、仲良くやってくれ」

「かしこまりました」

「で、お前たちはどういうアレなんだ?」

「私達は汎用型オートメイド、ペレラQ型です。同ロット二万体のうち残ったのはこの二百五十六体のようです。すべてがオーナーの所有物であり、ご命令のままに行動いたします。お役に立ちます」

「そ、そうか、よろしく頼むよ」

「我々は思考、感覚をすべて共有しています。どれか一体にご命令いただければ、分散して問題の解決に当たります。適宜ご利用ください、お役に立ちます」


 そんなに役に立つアピールしなくても大丈夫だけど、役に立ちたいのかな?

 まあ、つまりなんだ、外見が同じとはいえ一気に二百五十六人も従者が増えたってわけか。

 そうか、そんなにか。

 すごいぞ俺。


 ひと通り部屋を回って全員を確認する。

 と言っても完全に同じだな。

 どれぐらい同じかというと、一人に話しかけて、その続きを隣の部屋の別のミラーに話しかけても会話が続くぐらい同じなのだ。


 とにかく、二百五十六人も連れて上がるわけにはいかないので、とりあえず0号を選んで上に連れて上がる。

 何をするかといえば、まあナニなんだけど、従者にしたらやっぱやっとかないとね。

 でまあ、感触としては紅と同じ感じだった。

 つまりとてもいい。

 俺の体が一つしか無いのが悔やまれるぜ。

 しかし、どうしたものか。

 二百五十六人だぞ、二百五十六人。

 一日一人相手にしても半年以上かかるんだぞ!

 まあ外見も同じで感覚も共有してるって言うから個別に相手しなくてもいいんだろうけど。


「お役に立てましたでしょうか?」


 ことを終えてぎこちなく尋ねる0号に、


「ああ、ばっちりだ。最高にいい塩梅だったぜ」


 と頭をなでてやると、柔らかく微笑んだ。


「ありがとうございます、かならず、お役に立ちますので」


 落ち着いたところで、ミラー0号に色々訪ねてみる。

 彼女の話によると、推定で十万年ぐらい前に作られた汎用の家政婦ロボ、ということらしい。

 人形じゃなくてとうとうロボットとか言い出しちゃったよ。

 で、当時のことを聞こうと思ったら、やはりほとんど何も知らないらしい。

 知っているのは、子育てや掃除、夜のお供や老人介護など、まさに理想の家政婦ロボって感じだった。

 そろそろ、まとめてドカっと、この星の秘密を説明してくれてもいいのに。


「一度失われた歴史というのは、二度と元の通りには取り戻せないものです。その断片を丁寧に拾い上げていくのが、考古学者の仕事というものですから」


 とエンテルなどは言うが、まあ、そのとおりなんだろう。

 二百五十六体のミラー達、ミラーズの面々は、早速うちのあちこちに散らばって家事を手伝っている。

 ざっと見ただけでも台所に六人、二階で洗濯物を干しているのが三人、フルンたちの相手をしているのが二人、あと五人ほど家の掃除をしている。

 それとは別に、カプルの指示で地下に降りる階段を作っているものも十人ほどいる。


「従者が増えることは喜ばしいのですが、さすがに今度ばかりは想像の範囲を超えています」


 とアン。


「俺もそう思うよ」

「せめて服だけでも用意しないと」


 当然のことながら二百五十六人分もの服がないので、上にいる数人分をのぞいて素っ裸のままで地下に待機している。

 あれをどうにかしてやらんとなあ。


「雨が上がったら、古着を買いに行ってきます。当面はそれでしのぎましょう。彼女たちが裁縫もできると助かるのですが」

「家事は万能っぽいから大丈夫じゃないか?」

「ともかく、まずはうちの仕事を覚えてもらいましょう」


 そう言ってアンはミラーズを数人連れて台所に戻っていった。

 入れ違いにやってきたコルスが一言、


「やはり、あっという間に家が溢れてしまったでござるな」

「まったくだ」

「彼女たちは、戦の方はどうでござろうか」

「どうだろう、家政婦って言ってるぐらいだから無理なんじゃ?」


 そばに控えていたミラー0号に尋ねると、


「銃火器の使用は護身用に限られます。家庭の警護や護衛程度ならお任せください、お役に立ちます」


 ってことは俺よりも強そうな気もするな。


「当時は銃火器とかあったんだ」

「小銃および短針銃の使用方法は学習済みです。現在はないのですか?」

「今は剣と魔法で、魔物と戦うんだよ」

「魔物とは?」

「ギアントとかノズとか……知らないか」

「その……存じません」

「なんというか獣と人の間の子というか、そういう連中が地下から湧き出してくるから、それと戦うんだよ」

「合成生物でしょうか?」

「よくわからんけど、そういうのがいるんだ」

「地下、ということはペレラールの民でしょうか」

「ペレラールの民?」

「当時の社会情勢はほとんど入力されていないのですが、地上に住む上流階級のアージアルと、地下に住む下級階級ペレラール、二つの階級にわかれていたとあります。私どもはアージアル向けに製造されていたようですが、この情報は認証されておりません、曖昧な返答で申し訳ありません」

「ほほう」

「オーナーのファミリーのうち、エクとウクレのみがアージアルのようですが、共に奴隷階級であるということは、革命が起きてペレラールが支配権を取ったということでしょうか」

「いや、あの二人が奴隷なのは上辺だけというか成り行きの話であって、今地上でもっとも栄えているのはあの二人の種族の方だぞ」

「そうですか、ところでオーナーはどちらでもないと思われますが」

「ああ、俺は別の地球という星から来たからな」


 そこで0号は少し悩む素振りを見せる。


「情報を検索してみましたが、該当する星の知識はないようです。最終的なデータによると、当時のペレラはゲートから断絶して他星系との交流は絶たれていたようです」

「ゲート? ってあのゲートか?」

「あの、とは具体的にはどれでしょうか」

「街同士とかを結ぶ、真っ白い光の塊というか」

「それはショートゲートだと思われます。当時は限定的にしか確認されていなかったようですが」

「じゃあ、昔はショートじゃないゲートってのもあったのか」

「はい。他の星系との移動に使われていました」

「なるほど、じゃあ大昔は宇宙を行き来してたのか」

「はい。アージアルの民は外宇宙よりの渡来民であったと記録されています。約二十万年前に来訪し、原住民であるペレラールを支配したと記録されています」

「まじか、じゃあ、やっぱり女神も宇宙人なのか?」

「女神、とは宗教的なものでしょうか?」

「いや、そうじゃなくて、まあ宗教でもあるけど、こいつとか」


 とそばに居た燕を指さす。


「彼女は私のような民生品と異なるタイプの……おそらくは高級タイプの素体では? エミュレーションブレインのタイプが異なるようです。自己修復機能もあるようです。私どもは大幅な故障時にはここでのメンテナンスが必要です」

「ふぬ、体はそうだけど、中身は別なんだよ……ってややこしいな。じゃあ十万年前には女神は居なかったのか? そのアージアルの民とやらを連れてこの星にやってきたんだと思うが」

「……不明です、申し訳ありません。マザーフレームが稼働していればより詳細な情報を得られたのですが、私に登録されているホストはすべて応答がありません。現在私が話している内容は、マザーの認証のないゴシップ程度の信頼度と考えてください」

「マザーフレーム?」

「管理AIです。我々ロボット、及び人間の思考と記憶を補助する分散システムの呼称です」

「コンピュータのサーバみたいなもんかな」

「サーバ……集中管理システムのことでしょうか。それよりももっと補助的なものですが、ネットワークを構築するという点では、そうです」

「なるほど」


 まあ、ロボットを運用するならそういうシステムもいるわな。

 スマホだってインターネットがなければ価値は半減だし。


「あの、お役に立てていないでしょうか?」


 微妙に心配そうな顔になる0号。

 ロボットという割には割りと感情が豊かだな。

 よっぽど役に立つことに思い入れがあるんだろうか。


「なに、お前が知らないって情報にも意味はある。大丈夫だ」


 しかし、なんかかえってわからなくなってきたぞ。

 女神ってなんなんだ?


「女神はいつからここにいたんだよ」


 と燕に尋ねると、


「知らないわよ。そもそも別に私達は神様じゃないってば。えーとねえ、アジャールって星があって、そこに住んでて……私はシーサと戦って、木星に体を隠して……で、最近復活したのよ」

「シーサってのがあくどい連中らしいのはわかったし、理由はわからんがそこと戦ったってのはいいけど、なんでそれがこの星で女神になってるのかを聞いてるんじゃないか」

「知らないわよ、勝手にこの星の連中が崇めてるだけじゃないの? ほら、地球でもインカ人が攻めてきたスペイン人を神の使いと間違ったとかあるじゃない」

「あー、まあそうだなあ」

「それで都合がいいから神様のフリしてるだけでしょ。アウルあたりのやりそうなことよ」

「お前、そういうことはアンに言わないほうがいいぞ」

「それもそうね」


 納得できるような出来無いような。

 しかしミラーも何も知らないと言いつつ、結構色々知ってるな。

 要は質問の仕方か。

 俺だって地球のことを話せとかいきなり言われても困るしな。

 落ち着いたら時間をかけて色々聞いてみよう。

 ほっといてもエンテルあたりが質問攻めにするだろうが、俺が地球の知識に基づいて聞けば、また違った答えが得られるかもしれないし。


 まあいいや、ちょっとまとめてみようかな。

 うちの地下に古代遺跡があって、そこから二百五十六人分のメイドロボが出てきた。

 それを従者にしてウハウハ。

 あと色々使い道の有りそうな地下室もいっぱい確保と。

 ふむ、なにも問題になるようなことはないな。

 昼間の善行のご褒美としては十二分だ。

 そうとなったら、地下で待っている裸の美女軍団のところに行かなければ。

 まってろよ、俺のミラーズよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る